(能登半島地震)過去の津波映像や人工地震説など【ファクトチェック】

(能登半島地震)過去の津波映像や人工地震説など【ファクトチェック】

2024年1月1日午後4時10分ごろ、石川県能登地方を震源とする最大震度7の地震が発生し、石川県を中心に大きな被害が出ました。この地震について、漁港や街中に津波が押し寄せる様子として過去の動画がアップされたり、人工地震だとの誤った主張が多数拡散したりしました。

検証対象

2024年1月1日に発生した能登半島地震に関して、SNS上で過去の映像や無関係な映像を能登半島地震と結びつける投稿が多数拡散した。

発生から約1時間後の1月1日午後5時には、「石川県で震度5強の地震発生 津波こわい」というコメントと共に漁港に押し寄せる津波の映像がX(旧Twitter)に投稿され、閲覧数は7万3千件を超えた。1月3日時点で、この映像は削除されている。

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この地震発生から約2時間後の午後6時には、「地震による津波の映像 堤防超えてます逃げて」というコメントとともに、街中に津波が押し寄せる映像の投稿があった。

3時間後の午後7時過ぎには、「人工地震動画:能登半島沖地震」というコメントと、海面から衝撃音と共に水が噴き上がる映像が投稿された。閲覧数は1月3日午前10時現在で91万を超えた。

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また、約7時間後には「今回の石川県能登半島震源地震も#人工地震か。」という、気象庁の記者会見の映像を付けた投稿もあった。閲覧数は1月3日午前10時現在で82万を超えた。

検証過程

津波は、東日本大震災時の映像

気象庁によると、今回の地震では、石川県能登半島の輪島港で1.2mを超える津波があった他、日本海側の広い地域で0.4m〜0.9mの津波が観測された(気象庁資料)。

しかし、検証対象の津波の映像は今回のものではない。日本ファクトチェックセンター(JFC)が画像検索をしたところ、いずれも2011年の東日本大震災の映像だとわかった。

「石川県で震度5強の地震発生 津波こわい」という投稿の映像は左上にANNニュースのロゴがついている。Google画像検索で調べると、映像は2011年の東日本大震災時に岩手県宮古市で起きた津波の映像だとわかった。

「地震による津波の映像 堤防超えてます逃げて」という投稿の19秒間の映像も、岩手県釜石市で市民が撮影した東日本大震災の映像で、FNNの東日本大震災アーカイブ「3.11忘れない」がYouTubeで配信している30秒台〜40秒台の映像と同じ内容だ。

水中爆発はアメリカ海軍の試験

「人工地震動画:能登半島沖地震」の動画も、Google画像検索することでアメリカのフロリダ沖で撮影されたものだとわかった。

この映像は、2021年6月、米海軍の空母「ジェラルド・R・フォード」の耐衝撃性能試験(近くで爆発を起こし攻撃を受けた時に対する被害や強度を測る)を撮影したもので、AFPCBSのニュース映像でも確認できる。

各社の映像と、雲の形や爆発で立ち上がる水柱の形、同録された女性によるカウントダウンの声が一致する。

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左は今回拡散した映像 右は2021年の米海軍撮影の耐衝撃性能試験の映像

AFPは、この時4万ポンド(18トン)の爆薬が使用されて、「アメリカ地質調査所がマグニチュード3.9の地震を計測したと発表」と報じている。今回の令和6年能登半島地震のエネルギーはマグニチュード7.6だった。

大きな地震が発生するたびに「人工地震だ」という言説が拡散しており、JFCは、2023年1月「三重県南東沖で起きた地震は人工地震は誤り」、3月には「人工地震説『地震は人工的な兵器』は誤り。専門家による解説」という記事を配信している。人工地震説に関して、東京大学地震研究所の古村孝志教授による解説を再掲する。

(再掲)ーーーーーー

古村教授によると、「人工地震」自体は存在する。

人工地震は、爆発や重りの落下、圧縮空気等を海水中で膨張させるなど、人工的に発生させた地震のことを言います。断層や資源探査など地下構造調査に世界で広く使われる技術です。名称が兵器のようなものを連想させるので、最近は制御震源という呼び名が使われるようになりました。結果、人工地震という用語が隠された陰謀のように聞こえるのかもしれません。1990年代までの新聞を探すと、各地で地下構造調査に実施された人工地震の記事が見つかります。

ただし、震災級の地震を引き起こしたり、兵器として使うのは「非現実的」という。

史上最大の爆発は1971年アメリカネバダ州で5メガトンの核爆弾を使用した核実験で、この規模はM6.9の地震に相当します(参照)。阪神淡路大震災のM7級の地震を人工的に起こすためには、これだけの核爆弾を必要とし、非現実的です。スマトラ島沖地震や東日本大震災のM9級の地震では、この1000倍の核爆弾が必要です。

それだけの核爆弾を準備すること自体が非現実的だが、さらなる技術的な問題もある。

これらの地震の深さは地表や海底下数十キロであり、世界最大級の地球深部探査線『ちきゅう』を使っても海底下7キロしか掘ることはできません。陸上では、サハリン油田の地下12キロが最深です。

また、データの公開によって透明性も確保されている点を指摘する。ポイントは地震の揺れのうち、最初にくるP波(縦波)と次に来るS波(横波)の大きさだ。

地震波データは世界中の地震観測点で記録され公表されています。爆発による揺れは、P波が強くS波が不明瞭であるため、S波が強い自然地震の揺れと区別がつき、CTBTO(包括的核実験禁止条約機関準備委員会)ではこれらの特徴を用いて核実験の監視が行われています。

(再掲ここまで)-----------

「今回の石川県能登半島震源地震も#人工地震か。」という投稿は、気象庁が2016年1月の北朝鮮による核実験で発生した揺れについて解説しているもので、今回の地震とは関係がない。

会見映像として「地震津波監視課 長谷川洋平課長」の映像が使われているが、能登半島地震については2022年度に初の女性課長として就任した鎌谷紀子課長が会見を開いている。

気象庁は1月1日、今回の地震の原因について「北西ー南東方向に圧力軸を持つ逆断層型によるものだ」と発表した。

判定

検証した能登半島地震の津波だとする映像や人工地震だと主張する動画は、いずれも過去の映像や無関係な映像を使ったもので誤り。

あとがき

大津波警報や津波警報が出ると、過去の映像を使った情報が拡散しますが、誤情報・偽情報は、被災地の救護活動の邪魔になるおそれがあります。

また、大地震のたびに、人工地震や兵器によるものだといった言説が広がりますが、プレート型地震や直下型地震など、地震が起きるメカニズムを知っていれば、誤った情報の拡散を防ぐことができます。

災害時に驚くような映像を見た時は、拡散する前に検索ツールなどで確認しましょう。JFCでは画像検索の手法を解説しています。ご利用ください。

検証:宮本聖二
編集:古田大輔、藤森かもめ、野上英文

災害で拡散する偽情報の5類型

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地震や津波、洪水など大きな災害が発生すると、偽情報や根拠のない情報が拡散します。事実と異なる投稿や不確かな救助要請は、本当に助けを必要としている人たちへの支援を遅らせたり、妨げたりする恐れがあります。拡散しがちな偽情報・誤情報のパターンを知って、支援を妨げないようにしましょう。 災害時の偽情報の5類型 実際と異なる被害投稿 災害時に最も多く見られるのが、偽の被害報告だ。2024年1月1日の能登半島地震では、2011年の東日本大震災の津波の映像を使って、まるで能登半島地震の被害のように投稿する事例が相次いだ(例1、例2、例3、例4、例5 、例6)。 例2と例3を投稿した2つのアカウントは添付動画は異なるが、投稿文言は同じで「津波到達になった瞬間NHKのアナウンサーがすごい怒鳴ってる!危機感の伝わってくるアナウンスなので北陸新潟能登半島の方逃げてください」と書かれている。投稿内容をコピーしたと見られる。 例5の投稿は「石川県能登に大津波警報逃げろ」という文言に「#東日本大震災」というハッシュタグもついている。映像は東日本大震災のものだと示唆しているように読

検証手法や判定基準などに関する解説は、JFCサイトのファクトチェック指針をご参照ください。

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