三重県南東沖で起きた地震は人工地震?【ファクトチェック】

三重県南東沖で起きた地震は人工地震?【ファクトチェック】

2022年11月14日に発生した三重県南東沖を震源とする地震は「人工地震」という情報が拡散しましたが、これは誤りです。専門家によれば、波形は自然由来の地震と同じでした。

検証対象

2022年11月14日の三重県南東沖を震源とする地震について、「三重県の地震は人工地震ですね」といった情報が拡散し、「人工地震」が一時Twitterでトレンド入りすることもあった。

画像

2022年12月27日時点で2300を超えるいいねがついている。「やはり、そんな気がしています」というコメントがある一方、デマ情報だという指摘もある。また、「やっぱりおかしいですよね 三重が震源地でなぜ、東北で震度4」など、震源地から離れた場所で強い揺れが観測されたことで、人工地震ではないかと考える人もいるようだ。

検証過程 

人工地震とは、自然に発生する地震ではなく、爆発物などによって発生させる人為的な地震を意味する。日本ファクトチェックセンター(JFC)は、ネットで拡散する人工地震の言説について、これまでにも検証している東京大学地震研究所の古村孝志教授に取材した。

波形は通常の地震

「三重県の地震は人工地震」と指摘するツイートは、地震の波形データを示している。この波形データが、自然地震のものではなく人工地震の動きだという主張だ。

検証対象のツイートは下の2枚を添付している。

自然な地震の波形データでは、最初に「P波」と呼ばれる小さな波が観測され、大きな「S波」が続く。しかし、検証対象のツイートで示された11月の三重県の地震では、下図の一番下のグラフにみられるように、初めから大きな波形があらわれ、P波とS波にはっきりした違いがない。このことが人工地震の特徴と一致していると、ツイートは指摘している模様だ。

画像
今回の三重県の地震の波形データ
画像
自然地震と人工地震の波形データ

しかし、古村さんによると、今回の三重県の地震波形は、通常の地震と同じだという。

検証対象のツイートと同様に、防災科学技術研究所の「平塚ST1観測点」の波形データを、南北、東西、上下動という3方向の揺れごとに示したのが下図だ。上下動のグラフ(左下)では、P波が初めから大きかったように見える。

だがこれは、3方向ごとに異なる最大振幅を、グラフ上では同じ大きさで見えるように描いたためだ。上下方向の揺れは水平方向の動きの10分の1程度しかないが、これを水平方向の揺れと同じ大きさに見えるように拡大して描いたために、実際は小さかったP波が大きく見えていると、古村さんは指摘する。上下方向の揺れを拡大せず、右図のようにそのままのスケールで描くと、実際にはP波は小さかったことがわかるという。

画像
(出典)防災科学技術研究所K-NET強震観測網のデータをもとに古村孝志教授が作図

地下360キロの深さに爆発物を埋めることは不可能

三重県南東沖では深発地震が数年毎に繰り返し起きていて、今回の地震の震源は地下360キロの深さにある。そもそも、地下深くに爆発物を埋め込んで地震を起こすのは簡単なことではないと、古村さんは指摘する。

「この深さにMw(モーメント・マグニチュード)6.1規模の地震を起こすような爆発物を埋めることは不可能。地球深部探査船『ちきゅう』を使っても、地底下7.5キロまで掘削するのが限界です」

遠方での強い揺れは異常震域か

また、今回の地震は震源から離れた場所で強い揺れを観測したことも特徴で、これがデマを呼ぶ一因になったとみられる。ただ、同じような現象はこれまでに何度も観測されており、「異常震域」と呼ばれている(気象庁の資料参照)。

気象庁の説明によると、地震の波は通常、震源から遠ざかるほど弱まるが、「海洋プレート」と呼ばれる固い岩盤を通ると、あまり減衰しないまま、遠いところに届く。このため、震源に近いところでの揺れは小さいのに、遠く離れた場所が大きく揺れることがある。 これが異常震域だ。

画像
出典:気象庁の資料より

判定

「三重県南東沖を震源とする地震は人工地震である」は誤り。

あとがき

人工地震のような陰謀論はインターネット上で繰り返し拡散されています。古村さんは人工地震について、「人工地震は、揺れを用いて地下を透視する技術で、活断層調査や資源探査の目的に広く使われています。最近では『制御震源』と呼ぶようになったためか、人工地震は『地震兵器』のようなあやしげなイメージを与えるのかもしれない」と指摘します。

非科学的な言説に対しては、「科学的な根拠で反論しても、なかなか納得してもらえません。人工地震か自然地震か議論を通じて、多くの方に深発地震と異常震域の発生原因、地震の揺れと地震防災に関心を持ってもらう良い機会になればいい」と話しています。

検証:落合俊
編集:藤森かもめ、古田大輔


判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。

毎週、ファクトチェック情報をまとめて届けるニュースレター登録(無料)は、上のボタンから。また、QRコード(またはこのリンク)からLINEでJFCをフォローし、気になる情報を質問すると、AIが関連性の高いJFC記事をお届けします。詳しくはこちら

もっと見る

新型コロナのレプリコンワクチンは死亡率がファイザー製の75倍? 元資料の誤読【ファクトチェック】

新型コロナのレプリコンワクチンは死亡率がファイザー製の75倍? 元資料の誤読【ファクトチェック】

新型コロナのワクチンについて、レプリコンはファイザー製に比べて死亡率が75倍だという情報が拡散しましたが、誤りです。厚労省の資料をもとに主張していますが、これは副反応疑いの件数で因果関係が立証されたものではなく、また、死亡報告2件は、のちに製造元が「ワクチンとの因果関係を医師が否定した」という理由で報告を取り下げています。 検証対象 2025年4月17日、「レプリコンはファイザー製の75倍の死亡率」という投稿が拡散した。投稿には表も添付され、製薬会社ごとに接種者の「重篤」と「死亡」の報告数の比率を比べている。 4月21日現在、8万2000を超える閲覧と1200のリポストがついている。「こんなもん国民に打たせるな」「ワクチンじゃない、殺人兵器だ!!」などの他「真面目に副作用報告を収集しているから副作用発現率が高く見えてる可能性がありますね」という指摘もある。 検証過程 レプリコンワクチンとは レプリコンワクチンは、日本の製薬企業Meiji Seikaファルマが開発製造しているmRNAワクチン。mRNAが体内で複製されて増えるため、従来のmRNAワクチ

By 宮本聖二
佐藤正久・参院議員「JAL123便は自衛隊が訓練中に誤って撃墜」と発言? 恣意的な切り取り【ファクトチェック】

佐藤正久・参院議員「JAL123便は自衛隊が訓練中に誤って撃墜」と発言? 恣意的な切り取り【ファクトチェック】

参院議員・佐藤正久氏(自民)が「1985年のJAL123便墜落事故は、自衛隊が訓練中に誤って撃墜したために起きた」と主張しているとの情報が拡散しましたが、誤りです。検証対象の添付動画で佐藤氏が読み上げているのは、事故に関する書籍で、佐藤氏自身の見解と正反対の内容です。 検証対象 2025年4月16日、「1985年のJAL123便墜落事故は、自衛隊が訓練中に誤って撃墜したために起きた」「証拠を隠滅した疑惑がある」という趣旨の投稿がXで拡散した。 投稿には「ついに国会で元自衛隊幹部が重い口を開きました」という文言とともに、佐藤氏が「自衛隊の標的機がJAL123便を撃墜してしまった」などと話す英訳つきの動画が添付されている。 2025年4月21日現在、投稿は1300回以上リポストされ、表示回数は46.5万回を超える。投稿には、「聞き覚えのある話やな」「初期に言われていたことだよ」などのコメントのほか「極めて悪質な切り抜き加工動画ですね」という指摘も寄せられている。 検証過程 日航機(JAL123便)墜落事故とは 日航機墜落事故とは、1985年8月12日

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
エジプト・ルクソール神殿近くで発見された謎の部屋の動画? 生成AIによるディープフェイク【ファクトチェック】

エジプト・ルクソール神殿近くで発見された謎の部屋の動画? 生成AIによるディープフェイク【ファクトチェック】

「(エジプトの)ルクソール神殿の近くで発見された謎の部屋」という動画が拡散しましたが、生成AIで作った「ディープフェイク」です。AIによく見られる特徴が複数あり、投稿者もAIで作ったと書いています。 検証対象 2025年4月17日、「ルクソール神殿の近くで発見された謎の部屋」という動画つきの投稿が拡散した。 2025年4月21日現在、この投稿は700回以上リポストされ、表示回数は320万件を超える。投稿について、「AIすぎる」「カメラに写っている映像が背景と一致していない」という指摘や、AIによる動画生成を危惧するコメントが多数を占めていた。 検証過程 拡散した動画を日本ファクトチェックセンター(JFC)が確認したところ、光の当たり方やカメラに映る映像と背景の不一致など生成AIによる動画に見られる特徴がある。 上の画像は、動画の24秒付近だが、松明の燃え方が不自然だ。また、手前の人物のカメラの映像と背景が一致していない上にカメラを持つ手が不自然だ。 日本ファクトチェックセンター(JFC)は、拡散した動画の一部のスクリーンショットをGoogle画像検

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
日本の消費税は重複課税されている? 累積しない仕組み【ファクトチェック】

日本の消費税は重複課税されている? 累積しない仕組み【ファクトチェック】

日本の消費税は、原料の仕入れや商品の加工など、取引の段階ごとに何重にも課税されているという趣旨の投稿が拡散しましたが、誤りです。事業者が仕入れの際に支払った消費税分は、売上時に納める消費税から差し引ける「仕入税額控除」という制度があり、何重にも課税されているわけではありません。 検証対象 2025年4月11日、「日本の消費税は詐欺?」という投稿が拡散した。 2025年4月21日現在、この投稿は、1100回以上リポストされ、表示は46.8万件を超える。投稿には「中抜きがはびこっている」や「なんで消費税取られるのか」といったコメントや、「簿記を学んでください」「仕入れを控除するから税額同じ」などの指摘もある。 検証過程 検証対象にはイラストが添付されている。「日本の消費税は取引のたびに何度も課税されていて、二重課税のような仕組みである」と主張しているように見える。 消費税とは 消費税は商品の販売やサービスの提供などに広く公平に課税する制度。消費者が負担し、事業者が納付する(国税庁)。 生産、流通などの各取引段階で二重三重に税がかかることのないよう、

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)

ファクトチェック講座

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、ファクトチェックやメディア情報リテラシーに関する講師養成講座を月に1度開催しています。講座はオンラインで90分間。修了者には認定バッジと教室や職場などで利用可能な教材を提供します。 次回の開講は5月28日(日)午後2時~3時半で、お申し込みはこちら。 https://jfcyousei0518.peatix.com/view 受講条件はファクトチェッカー認定試験に合格していること。講師養成講座は1回の受講で修了となります。 受講生には教材を提供 デマや不確かな情報が蔓延する中で、自衛策が求められています。「気をつけて」というだけでは、対策になりません。最初から騙されたい人はいません。誰だって気をつけているのに、誤った情報を信じてしまうところに問題があります。 JFCが国際大学グロコムと協力して実施した「2万人調査」では実に51.5%の人が誤った情報を「正しい」と答えました。一般に思われているよりも、人は騙されやすいという事実は、様々な調査で裏打ちされています。 JFCではこれらの調査をもとに、具体的にどのよう

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、YouTubeで学ぶ「JFCファクトチェック講座」を公開しました。誰でも無料で視聴可能で、広がる偽・誤情報に対して自分で実践できるファクトチェックやメディアリテラシーの知識を学ぶことができます。 理論編と実践編の中身 理論編では、偽・誤情報の日本での影響を調べた2万人調査の紹介や、間違った情報を信じてしまう背景にある人間のバイアス、大規模に拡散するSNSアルゴリズムなどを解説しています。 実践編では、画像や動画や生成AIなど、偽・誤情報をどのように検証したら良いかをJFCが検証してきた事例から具体的に学びます。 JFCファクトチェッカー認定試験を開始 2024年7月29日から、これらの内容について習熟度を確認するJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。誰でもいつでも受験可能です(2024年度中は受験料1000円、2025年度から2000円)。 合格者には様々な技能をデジタル証明するオープンバッジ・ネットワークを活用して、JFCファクトチェッカーの認定証を発行します。 JFCファクトチェッカー認定試験

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
JFCファクトチェッカー認定試験  教材と申し込みはこちら

JFCファクトチェッカー認定試験  教材と申し込みはこちら

日本ファクトチェックセンター(JFC)はJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。YouTubeで公開しているファクトチェック講座から出題し、合格者に認定証を授与します。 拡散する偽・誤情報から身を守るために 偽・誤情報の拡散は増える一方で、皆さんが日常的に使用しているSNSや動画プラットフォームに蔓延しています。偽広告や偽サイトへのリンクなどによる詐欺被害も広がっています。 JFCが国際大学グロコムと実施した2万人を対象とする調査では、実際に拡散した偽・誤情報を51.5%の割合で「正しいと思う」と答え、「誤っている」と気づけたのは14.5%でした。 自分が目にする情報に大量に間違っているものがある。そして、誰もが持つバイアスによって、それが自分の感覚に近ければ「正しい」と受け取る傾向がある。インターネットはその傾向を増幅する。 だからこそ、ファクトチェックやメディアリテラシーに関する知識が誰にとっても必須です。 JFCファクトチェック講座と認定試験 JFCファクトチェック講座(YouTube, 記事)は、2万人調査を元に偽・誤情報の拡散経路や

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)