トルコ地震は人工地震?【ファクトチェック】

トルコ地震は人工地震?【ファクトチェック】

トルコ南部で発生した大地震について「人工地震だ」とする言説が拡散されていますが誤りです。根拠とされている波形データはそもそもトルコ地震のものではなく、実際のデータは自然由来の地震であることを示しています。

検証対象

2023年2月6日にトルコ南部で大地震が発生し、2万3000人以上の死者が確認されたと報じられている(2月11日現在)。この地震について、「トルコ地震波形  p波がなく核実験とほぼ同じ」と、人工地震を示唆する内容の画像付きのツイートが拡散。2月11日時点で2700件以上のリツイート、62万件以上の表示がある。

画像

リプライには「阪神も東日本震災も 全て人工」「日本の省庁にもスパイがいっぱいなんだろうねー。。」など、人工地震だと信じている様子のコメントや、陰謀論に結びつける動きもあった。一方で、「初期微動もきちんと記録されています」などのコメントも見られた。

検証過程

検証対象の図は何を示しているか

大きな地震が発生するたびに「人工地震だ」という言説が拡散する。日本ファクトチェックセンター(JFC)は昨年発生した三重県南東沖地震についても検証記事を出しており、今回も、東京大学地震研究所の古村孝志教授の協力を得て検証した。

古村教授によると、検証対象のツイートで示されている地震波形は、図に書かれた地震発生時刻から、トルコ大地震のものではなく、東に2800キロ離れたカザフスタンでの地震(M4.6)を震源から約300キロ離れたカザフスタンのバトケン観測点で記録したものだという。

Google map上でバトケンを青色のピン、トルコ大地震(M7.8)の震源地を青色の星、古村教授が指摘したM4.6の地震の震源地を赤色の星で示すと以下のようになる。

画像
Google Mapを用いてJFC作成

また、拡散したツイートでは「p波がなく核実験とほぼ同じ」と書かれているが、これは「S波がない」の誤記と考えられる。P波はPrimary Wave(第一の波)、S波はSecondary Wave(第二の波)の頭文字から名づけられており、「人工地震=爆破震源ではP波が強く、S波が小さいのが特徴」(古村教授)だからだ。

古村教授は「Twitterの図は時間軸が詰まっていて見づらいのですが、時間軸を拡大すると、P波(黄色)、S波(青)が確認できます」と話す。以下は、米国大学間地震学研究連合(IRIS)のウェブサイトで公開されているバトケンのデータだ。

画像
IRISより

波形データは自然由来の地震であることを示す

では、トルコ大地震(M7.8)の波形データはどうか。こちらもIRISのページで公開されている。古村教授は次のように解説する。

「例えば、トルコのアンカラ地点(ANTO観測点、震源距離475 km)の揺れを見ると、最初にP波(赤)が到着し、50秒後にS波(青)が到着する、自然由来の普通の地震波形の様子がわかります」

画像
IRISより

さらに、古村教授は断層のデータも例にあげて人工地震説を否定する。

「米国地質調査所(USGS)のページには、トルコの地震観測データに基づき震度分布が示されており、地震を起こした東アナトリア断層に沿って300キロにわたって震度VIII(日本の震度に換算して6弱以上)の激しい揺れが広がっており、断層がずれ動いたことと整合的です」

判定

以上の点から、トルコ大地震が人工地震という情報は誤りと判定した。

あとがき

大きな地震がおきると人工地震説だけでなく、様々な誤情報/偽情報が拡散します。今回、JFCでは「原発事故が発生という情報は誤り」「津波が発生したという情報は誤り」というファクトチェックも実施しています。

検証:本橋瑞紀
編集:古田大輔

検証手法や判定基準などに関する解説は、JFCサイトのファクトチェック指針をご参照ください。

「ファクトチェックが役に立った」という方は、シェアやいいねなどで拡散にご協力ください。誤った情報よりも、検証した情報が広がるには、みなさんの力が必要です。

X(Twitter)FacebookYouTubeInstagramなどのフォローもよろしくお願いします。またこちらのQRコード(またはこのリンク)からLINEでJFCをフォローし、真偽が気になる情報について質問すると、AIが関連性の高い過去のJFC記事をお届けします。詳しくはこちらの記事を

もっと見る

トランプ大統領、就任が2ヵ月早まった? パーティーでの「提案」【ファクトチェック】

トランプ大統領、就任が2ヵ月早まった? パーティーでの「提案」【ファクトチェック】

アメリカのトランプ次期大統領が就任を2カ月早めるとする投稿が拡散しましたが、誤りです。自身の別荘でのパーティーでの発言で、実現する見通しはありません。 検証対象 2024年11月16日、アメリカのトランプ次期大統領が就任を2ヵ月早めるという投稿がXで拡散した。「もう就任しちゃうんですって」「トランプ大統領は、先日のマーアーラゴでのパーティーで、大統領就任を2カ月早めるという斬新な計画を発表🎉🎉🎉」と述べている。 投稿には、イギリスのMail Onlineの画像を日本語化したような画像がついており、「トランプ大統領が筋肉隆々のケネディ・ジュニアに5語の警告を発し、マール・ア・ラゴでのパーティーで任期を早めることを提案」という不自然な日本語がついている。 2024年11月18日現在、この投稿は500件以上リポストされ、表示回数は11万件を超える。投稿について「アメリカでの出来事は日本にも影響する…。」「前倒し✨だって、待てないんだもの。」というコメントが付いている。 検証過程 2024年の米大統領選挙で勝利したトランプ氏の大統領就任式は、2025年

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
「斎藤氏の支持者がデマを熱狂的に信じた」という言説の落とし穴 兵庫県知事選・後編【解説】

「斎藤氏の支持者がデマを熱狂的に信じた」という言説の落とし穴 兵庫県知事選・後編【解説】

兵庫県知事選をめぐる偽・誤情報の拡散に関する解説の後半です。背景にはマスメディアの影響力低下とソーシャルメディアにおける選挙情報の拡大という世界で共通する大きな潮流があります。その中で、信頼性の高い情報に基づいた民主主義を成立させるためには、どうすればよいか。 SNS・動画が選挙情報の中心に 偽・誤情報だけでは語れない兵庫県知事選・前編【解説】兵庫県知事選でパワハラ問題などで失職した前知事の斎藤元彦氏が再選しました。「SNSの勝利」「マスメディアの敗北」などとも言われる中、何が起きていたのか。都知事選の石丸現象や総選挙の国民民主党の躍進、アメリカ大統領選などと比較し、アルゴリズムやバイアスなどの観点から解説します。 SNS動画を投票の参考に 新聞テレビを上回る SNSでの支持の広がりが斎藤氏の再選を後押ししたと言われる今回の選挙。データがそれを裏打ちしています。NHKが投票所で実施した出口調査を見てみます。 何を投票の参考にしたかという質問への答えで1位が「SNSや動画サイト」で30%、新聞24%、テレビ24%、知人・家族5%を上回りました。また、「SNSや動画サイト」と

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
斎藤氏再選の裏にSNS・動画 投票の参考情報で新聞テレビ上回る 偽・誤情報だけでは語れない兵庫県知事選・前編【解説】

斎藤氏再選の裏にSNS・動画 投票の参考情報で新聞テレビ上回る 偽・誤情報だけでは語れない兵庫県知事選・前編【解説】

兵庫県知事選でパワハラ問題などで失職した前知事の斎藤元彦氏が再選しました。「SNSの勝利」「マスメディアの敗北」などとも言われる中、何が起きていたのか。都知事選の石丸現象や総選挙の国民民主党の躍進、アメリカ大統領選などと比較し、アルゴリズムやバイアスなどの観点から解説します。 「斎藤氏の支持者がデマを熱狂的に信じた」という言説の落とし穴 兵庫県知事選・後編【解説】兵庫県知事選をめぐる偽・誤情報の拡散に関する解説の後半です。背景にはマスメディアの影響力低下とソーシャルメディアにおける選挙情報の拡大という世界で共通する大きな潮流があります。その中で、信頼性の高い情報に基づいた民主主義を成立させるためには、どうすればよいか。 SNS・動画が選挙情報の中心に 偽・誤情報だけでは語れない兵庫県知事選・前編【解説】兵庫県知事選でパワハラ問題などで失職した前知事の斎藤元彦氏が再選しました。「SNSの勝利」「マスメディアの敗北」などとも言われる中、何が起きていたのか。都知事選の石丸現象や総選挙の国民民主党の躍進、アメリカ大統領選などと比較し、アルゴリズムやバイアスなどの観点から解説します

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
兵庫県知事選で溢れた偽・誤情報/鳥取県が偽情報監視チーム【今週のファクトチェック】

兵庫県知事選で溢れた偽・誤情報/鳥取県が偽情報監視チーム【今週のファクトチェック】

11月17日投開票の兵庫県知事選挙をめぐって立候補者についての偽・誤情報や根拠のない言説が急増しました。東京都知事選、総選挙とネットで選挙情報を見ることが一般的になった上に、パワハラなどを理由とした失職出直し選という特殊環境が拍車をかけています。 ✉️日本ファクトチェックセンター(JFC)がこの1週間に出した記事を中心に、その他のメディアも含めて、ファクトチェックや偽情報関連の情報をまとめました。同じ内容をニュースレターでも配信しています。登録はこちら。 JFCからのニュース JFCファクトチェック講師養成講座 11月の申込はこちら 日本ファクトチェックセンター(JFC)は、ファクトチェックやメディア情報リテラシーに関する講師養成講座を月に1度開催しています。講座はオンラインで90分間。修了者には認定バッジと教室や職場などで利用可能な教材を提供します。 次回の開講は11月30日で、お申し込みはこちら。 受講条件はファクトチェッカー認定試験に合格していること。講師養成講座は1回の受講で修了となります。 JFCファクトチェック講師養成講座 11月の申込

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)