LGBT理解増進法案と題して、ひろゆき氏が引用した条文は過去の差別解消法案のもので誤り【ファクトチェック】

LGBT理解増進法案と題して、ひろゆき氏が引用した条文は過去の差別解消法案のもので誤り【ファクトチェック】

国会で審議中のLGBT理解増進法案に関連し、ひろゆき氏が法案の条文としてツイートで引用したのは、2016年に当時の民進党などが共同提出した差別解消法案でした。誤った引用です。

検証対象

ひろゆき氏が2023年6月15日に投稿したツイートは「女性を自認する男性器のある人が『温泉旅館の予約がしたい。男湯はありえない。』と言った時に、女湯に入るのはまずいので温泉旅館が予約を断った。これは差別?」という文言とともに、「LGBT理解増進法案」の条文を引用した。

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返信欄では、法案が現在のものとは異なると指摘する声もあったが、「もう少しきちんと考えて法案を決めて欲しいですね…。事件が一層増えそうです」「マジョリティにも配慮が加わったので抵抗はできそうな気はする。今後の判例の数で決まるのでは」など、この法案が現在審議されているものであるかのような反応があった。

検証過程

ひろゆき氏が引用している法案は、2016年に当時の民進党など野党が共同提出した「性的指向又は性自認を理由とする差別の解消等の推進に関する法律案(LGBT差別解消法案)」だ。衆議院のサイトから本文を閲覧することができる。確かに第10条第1項には、ひろゆき氏が引用した条文「事業者は、その事業を行うに当たり、性的指向又は性自認を理由として、不当な差別的取扱いをしてはならない」がある。

しかし、2023年6月15日現在、国会で審議中の法案「性的指向及び性同一性の多様性に関する国民の理解の増進に関する法律案(LGBT理解増進法案)」にこのような記述はない(提出時法案修正案)。

LGBT理解増進法案には「差別」という記述は、基本理念を定めた3条の一箇所しかなく、以下のようなものだ。

第三条 性的指向及び性同一性の多様性に関する国民の理解の増進に関する施策は、全ての国民が、その性的指向又は性同一性にかかわらず、等しく基本的人権を享有するかけがえのない個人として尊重されるものであるとの理念にのっとり、性的指向及び性同一性を理由とする不当な差別はあってはならないものであるとの認識の下に、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に資することを旨として行われなければならない。

また、同時期に立憲民主党などの野党が提出し衆議院で否決された法案においても、ひろゆき氏が引用した条文はない。

判定

ひろゆき氏が引用したツイートは2016年に当時の民進党などが共同提出したLGBT差別解消法案のものであり、2023年6月現在、国会で審議されているLGBT理解増進法案ではない。よって誤り。

あとがき

Google検索で「LGBT理解増進法案 全文」と検索すると、一番上に衆議院のサイトが表示されます。しかし、このリンクから閲覧できる法案は2016年に当時の民進党などが共同提出したLGBT差別解消法案で、最新のLGBT理解増進法案を閲覧するには衆議院のサイト内を検索し直す必要があります。このように、信頼できる引用元であっても情報が古い場合もあるため、資料がいつ作られたものか気をつけましょう。

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検証:本橋瑞紀
編集:古田大輔

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