JFCファクトチェック講座9:国際的な標準ルール 信頼性を確保する

JFCファクトチェック講座9:国際的な標準ルール 信頼性を確保する

「ファクトチェック」を名乗りながら相手の意見をチェックしたり、自論の正当性を補強するための道具にしたりする例もあります。信頼されるファクトチェックとはどうあるべきか。国際ファクトチェックネットワーク(IFCN)は守るべき原則を公開しています。

IFCNが公開するの5つの原則

アメリカに本拠を置くIFCNは、世界中のファクトチェック組織のハブになっている組織です。ファクトチェックを実践する上で守るべき原則(Code of Principles)を公開し、遵守している組織が加盟できます。

IFCNに加盟しているかどうかが、国際的に認められる団体かどうかの試金石ともなっています。認証は毎年更新する必要があり、2023年5月21日現在、114の加盟団体が活動中です。

画像

欧米だけでなく、アジア、アフリカなど世界中の団体が加盟していますが、残念ながら、日本からはいまだゼロです。半年以上の活動実績がある団体が申し込み可能で、日本ファクトチェックセンター(JFC)は現在、審査を受けているところです。

それでは、加盟団体が遵守を求められるIFCN5原則を一つずつ見ていきましょう。

非党派性と公正性

加盟団体は、すべてのファクトチェックを分け隔てなく、同じ基準で実践することが求められます。特定の立場に偏ったり、特定の政策を支持したりすることなく、公正なファクトチェックを実施します。

情報源の基準と透明性

加盟団体は、情報源の安全性が損なわれるような場合を除いて、検証に必要な情報源を開示し、読者も検証を再現できるようにします。

資金源と組織の透明性

加盟団体は、資金源を明らかにし、かつ、ファクトチェックに関して資金源から影響を受けないことを確約します。組織体制を説明し、連絡先も開示します。

検証方法の基準と透明性

加盟団体は、検証対象の選択から取材や公開、訂正に至るまでファクトチェックの方法論を説明し、ユーザーにも検証対象の提供を奨励します。

オープンで誠実な訂正方法

訂正指針を公開し、明確かつ透明性をもって訂正します。また、訂正が可能な限りユーザーの目に触れるように努めます。

以上のIFCN5原則は、世界中のファクトチェッカーの議論に基づいて作られたものです。公正性と透明性を強調するこのルールについて、IFCNは「非党派的で、透明性の高いファクトチェックが、説明責任を果たすジャーナリズムの強力な手段になりうる」と述べています

JFCはこれらの5原則に基づいてJFCファクトチェック指針を公開し、また、より詳細なガイドラインも設置しています。

JFCファクトチェック指針
日本ファクトチェックセンター(JFC)は、ファクトチェックガイドラインを定めて、公正な事実の検証に努めています。詳細はこちらのリンクから確認できますが、このページではその概要や実際の検証の方法論・判定基準を説明します。 そもそもの「ファクトチェックとは何か」についてはこちらをご覧ください。 ファクトチェックとは何かファクトチェックとは「事実の検証」を意味します。根拠のないデマや陰謀論、不確かな情報などが広がる中で、事実を客観的・科学的な根拠に基づいて確認し、拡散している言説が正確かどうかを判定します。 ファクトチェックに対しては「意見は人それぞれ」「事実の確認なんてできるのか」「何が事実かを誰かが決めて良いのか」などの批判があります。 ここではファクトチェックとは何かについて、国際ファクトチェックネットワーク( International Fact-checking Network, IFCN)などの規定も参考にしつつ解説します。 ファクトチェックの基本的なルール IFCNの5原則 2024年1月7日現在、IFCNの認証を得ているファクトチェック団体やメディアは世界に172存在しま

判定基準の公開も、説明責任を果たすための取り組みの一つです。

画像

非党派性と公正性が基本

講座2でも解説したように、ファクトチェックには「効果があるのか」という疑問が常に投げかけられます。誤情報/偽情報ではなく、そのファクトチェックの方を信頼してもらうためには、非党派性や公正性は基本中の基本となります。そのため、資金源や運営体制の開示は必須です。

また、講座8で紹介したオープンソース・インテリジェンス(OSINT)の手法を用いて、読者も検証を再現できる透明性の高さも必要となります。講座7で紹介したIFCNの年1回のイベントGlobal Factでは、より効果的なファクトチェックのあり方について、検証方法や表現方法、配信方法に至るまで、テクノロジーの活用も含めて議論しています。

それでも、ファクトチェックが偽情報や誤情報を上回る成果を挙げているとは言えません。日本でも最近、誤情報を信じた人の4割はファクトチェックの記事を避ける傾向があるという研究が話題になりました。

AIによってさらに数が増える誤情報/偽情報を、いかに効果的に検知し、検証し、必要とする人たちのもとに届けるか。さらなる研究と改善が必要です。

リテラシー教育も不可欠

そもそも、偽情報/誤情報対策は、ファクトチェックだけでは不十分です。偽情報や誤情報とは何か。なぜ広がるのか。私達は情報にどのように接触し、理解しているのか。より広い知識が必要です。

ニュース・リテラシー、情報リテラシー、メディアリテラシーなど、様々な分野が存在しますが、デジタル時代のメディア環境にふさわしいリテラシー(適切に理解・解釈・分析し、活用する能力)が必要とされているのは間違いありません。

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、ファクトチェックの能力も現代に必要とされるリテラシーの一つだと考えています。さらに、より広範な意味でのリテラシーを学ぶための連載を6月に公開する予定です。

海外では、ファクトチェックやリテラシーについて、自習できる教材の公開が広がっています。

Checkology | The News Literacy Project
Can you tell the difference between fact and fiction? Checkology® can help.

JFCも日本語で学べるインタラクティブな教材を開発していく予定です。年内には順次公開していく計画ですので、こちらもぜひご活用ください。

講座目次

  1. 意見や推測ではなく事実を検証する
  2. 検証は効果あり 検索やAIにも反映される
  3. 検証の4ステップ 「横読み」で効率的に
  4. 実践的な検索技術 効率的にソースを探す
  5. 画像の検証 GoogleレンズとTinEye
  6. 動画の検証 InVIDとYouTube検索
  7. AIコンテンツの検証 細部を見る
  8. 公開情報こそ重要 OSINT技術を使いこなす
  9. 国際的な標準ルール 信頼性を確保する
JFC ファクトチェック講座 - 日本ファクトチェックセンター (JFC)
ファクトチェックの考え方や技術、便利なツールの活用方法を実践的に学ぶ連載です。

筆者略歴

画像

検証手法や判定基準などに関する解説は、JFCサイトのファクトチェック指針をご参照ください。

「ファクトチェックが役に立った」という方は、シェアやいいねなどで拡散にご協力ください。誤った情報よりも、検証した情報が広がるには、みなさんの力が必要です。

X(Twitter)FacebookYouTubeInstagramなどのフォローもよろしくお願いします。またこちらのQRコード(またはこのリンク)からLINEでJFCをフォローし、真偽が気になる情報について質問すると、AIが関連性の高い過去のJFC記事をお届けします。詳しくはこちらの記事を

もっと見る

大阪で10万人のデモ隊が韓国の尹大統領の拘束など要求?参加者は数十人規模【ファクトチェック】

大阪で10万人のデモ隊が韓国の尹大統領の拘束など要求?参加者は数十人規模【ファクトチェック】

大阪で10万人のデモ隊が韓国の尹錫悦大統領の罷免と拘束や、日本と断交し北朝鮮やロシアと国交を回復することを要求したという情報が拡散しましたが、誤りです。実際の参加者は数十人規模で、日本との断交などは要求していません。 検証対象 2024年12月8日、「大阪、10万人のデモ隊が韓国の尹錫悦大統領の罷免と拘束、日本と断交し北朝鮮やロシアと国交回復を要求」という投稿が街中でのデモのような画像とともに拡散した。 2024年12月11日時点で、1900のリポストと38万回の閲覧がある。返信には、「おかしな人達。日本に住んでて親日反対のデモ。」や「コリャお家芸だな。」という書き込みも付けられている。 検証過程 検証対象のポストには、Tweeter BreakingNews-ツイッ速!の記事「大阪、10万人のデモ隊が韓国の尹錫悦大統領の罷免と拘束、日本と断交し北朝鮮やロシアと国交回復を要求」が添付してある。 記事中には、尹大統領の弾劾訴追案に関するYahoo!ニュース エキスパートの記事とともに、サムネイル画像になっている動画のURLが見つかる。12月7日投稿のも

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
男女共同参画事業の予算は9兆円? 繰り返し拡散する情報【ファクトチェック】

男女共同参画事業の予算は9兆円? 繰り返し拡散する情報【ファクトチェック】

男女共同参画事業の予算が9兆円だという情報が拡散しましたが、ミスリードで不正確です。2024年度の「男女共同参画参画基本計画関係予算」は全体で10兆円を超える規模ですが、男女共同参画に直接関係する事業にだけ使われるわけではありません。社会保障や教育支援など、少しでも男女共同参画に効果がある施策・事業に関する全省庁の予算をまとめて計上したものです。 検証対象 2024年11月20日、「財源がーーって言うけどさ、多分われわれ国民は男女共同参画のレク?イベント?がなくなってもなんも困らん。これで9兆円が浮くなら万々歳じゃん???」との投稿が拡散した。 添付された画像には「男女共同参画事業イベント一覧」と大きく書かれ、ダンスや健康法などの講座や語学教室など多くのイベントが示されている。 投稿は12月11日時点で約8000件のリポストと約90万件のインプレッションを獲得している。「無駄や中抜きや天下り組織やら潰したら財源なんてありそうなもんだけどな」「どこが男女共同参画なのか理解できませんね。税金を無駄遣いするための中抜きイベントをやめたらいいよ」などのコメントがつ

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
「トランプを攻撃するために新ウイルスを設計」とビル・ゲイツが認めた? 発言の改変と誤引用【ファクトチェック】

「トランプを攻撃するために新ウイルスを設計」とビル・ゲイツが認めた? 発言の改変と誤引用【ファクトチェック】

「トランプ氏を攻撃するために新ウイルスを設計していた」とビル・ゲイツ氏が認めたという情報が拡散しましたが、誤りです。情報の元となった発言はゲイツ氏のものではなく、しかも、改変されています。 検証対象 2024年12月7日、「ビルゲイツ、トランプ大統領を弱体化させる為にエリートが致死的な新ウイルスを設計していた事を認める」というポストが拡散した。 ポストは「世界のエリート等は、政治的な出来事を混乱させ、トランプ政権を機能不全に陥れる為に戦略的にタイミングを計り、新たな致命的なウイルスの波を解き放つ計画を立てていると報じられている」などと続く。 2024年12月11日現在、このポストは1600件以上リポストされ、表示回数は38万回を超える。投稿について「何だコイツは💢」「えっまだ野放しですの⁉️」というコメントの一方で、「じゃあなぜ捕まえない?」などの意見もある。 検証過程 検証対象のテキストの最後に「Source:@tpvsean」という情報源が書かれている。日本ファクトチェックセンター(JFC)は、この情報ソースを調べた。 @tpvseanは英語

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
朝日新聞入社式にハングル文字や韓国・中国の国旗?改変された画像【ファクトチェック】

朝日新聞入社式にハングル文字や韓国・中国の国旗?改変された画像【ファクトチェック】

「朝日新聞の入社式の写真」として、朝日新聞社旗の両脇に韓国と中国の国旗を並べ、ハングル文字を掲げた画像が拡散しましたが、誤りです。実際の入社式の画像を改変したものです。 検証対象 2024年12月8日、「朝日新聞社の2014年度入社式」だとして、社旗の横に韓国と中国の国旗を並べ、式典タイトルをハングル文字にした画像が拡散した。「マスゴミなんて皆同じ」というコメントが付けられている。画像には「これが、日本の式典でしょうか?こんな新聞を信じられる訳ない!」という書き込みも付けられている。 60万を超える閲覧と600以上のリポストがあり、「日本の主要マスコミは韓国と中国が抑えています」「日本のマスメディアは日本破壊工作機関」などのコメントのほか、「さすがに合成した写真でしょうか?」という指摘もある。 検証過程 拡散した画像をGoogleレンズで検索すると、人物の並びがまったく同じ構図の写真が見つかる。2014年11月6日付の宝島社のネット記事に掲載された写真だ。 記事タイトルは「溶けていく文系エリート!朝日が、『メディアの東大』『朝日人』と呼ばれた理由」で

By 宮本聖二