「埼玉県、男女共用トイレを義務化へ」は誤り【ファクトチェック】

「埼玉県、男女共用トイレを義務化へ」は誤り【ファクトチェック】

「埼玉県がLGBT推進条例でトイレ・更衣室・公衆浴場などの男女共用化を義務化へ」という言説が拡散されましたが、誤りです。義務化ではなく、対象も限られています。

検証対象

4月27日、埼玉県のホームページの画像と共に「LGBT推進条例でトイレ・更衣室・公衆浴場などが男女共用化を義務化へ、異論は認めない方針」という言説が拡散(例1例2)された。

画像

1800回以上リツイートされ、1900以上のいいねを獲得したツイートもある。「区別を差別と取り違えた末の誤った結論を法制化する愚行」「埼玉には行きません」などといったリプライが見られる。一方で、埼玉県のHPを示し「全然書いてあることちゃうやんけ」などと指摘する内容もあった。

この言説について、朝日新聞は5月9日に「『女性トイレ廃止』ネットで誤情報 埼玉県知事『全く事実ではない』」との記事を配信。「ネット上に『女性トイレを廃止・減少させる』との誤った情報が流れているとして、県が打ち消しに動いている」と報じている。

検証過程

拡散された言説は、埼玉県のLGBT推進条例で「トイレ・更衣室・公衆浴場などの男女共用化を義務化へ」と見出しにし、「異論は認めない方針」とまで強調している。

LGBT推進条例とは「埼玉県性の多様性を尊重した社会づくり条例」を指す。埼玉県は第10条の規定に基づき、「埼玉県が実施する事務事業における性の多様性への合理的な配慮に関する指針」を定めている。以下のような内容だ。

施設・設備の整備 
(1)既存のもの 
ア 可能な限り性別に関わらず利用できるエリア(トイレ、更衣室など)を設け、その旨表示を行うものとする。 (例:性別区分のないトイレについて、「誰でもトイレ」「オールジェンダートイレ」「どなたでもご自由にお使いください」などと表示する)   なお、性別に関わらず利用できるエリアの利用については、必ずしも全ての当事者が希望するものではないことに留意する。
 イ 当事者のニーズに応じ個別対応が可能か検討するものとする。 (例:当事者だけが使用できる時間帯の設定) 
ウ 性別に関わらず利用できるエリアを設けている場合は、その旨をホームページによる周知、案内板等による表示を行うものとする。
(2)新設・改修の予定があるもの  
 性別に関わらず使用できるトイレや更衣室などの設置を検討するものとする。 

日本ファクトチェックセンター(JFC)が、埼玉県に問い合わせたところ、この指針は「県が、女性トイレを廃止・減少させ、オールジェンダートイレに置き換えることを県内の施設に義務付けるものではありません。また、県有施設以外のトイレに関係するものではなく、県有施設においても、今ある女性トイレを廃止したり、減らしたりすることを前提とするものでありません」と述べた。

つまり、「男女共用の義務化」ではない。

また、条例の指針は、県有施設を対象としたものであり、現時点では市町村や民間の施設へ対象を拡大する予定はなく、議論もされていないという。

今回拡散された言説について、大野元裕知事は5月2日の定例会見で「(女性トイレを廃止・減少させるという言説は)全く事実ではない」と否定した。埼玉県は「性の多様性への合理的な配慮に係るトイレ設置の考え方」と題してウェブサイトでも説明しており、「一部ネット上において誤った情報が流布していますが事実ではありません」と発信している。

判定

「埼玉県性の多様性を尊重した社会づくり条例」では、女性専用施設の男女共用を義務付けていない。また、オールジェンダートイレを増やす方針についても対象は県有施設に限っている。「LGBT推進条例で、トイレなどの男女共有化の義務化へ」は誤り。

検証:住友千花
編集:藤森かもめ、古田大輔

検証手法や判定基準などに関する解説は、JFCサイトのファクトチェック指針をご参照ください。

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