新型コロナワクチンによって「献血で使えない血」が急増した?【ファクトチェック】

新型コロナワクチンによって「献血で使えない血」が急増した?【ファクトチェック】

新型コロナウイルスのワクチン接種によって「献血で使えない血」が急増したという言説が拡散していますが、誤りです。輸血に使われる血液製剤の自主回収が急増しているのは事実ですが、これは献血者の新型コロナ感染が献血後に発覚するケースが増えているからであり、ワクチンによって「輸血に使えない血」が急増しているわけではありません。

検証対象

血液製剤の自主回収件数を示したグラフを引用して「コロナワクチンが始まった2021年から献血に使えない血が急増した」という内容のツイートが拡散した。引用を含むリツイート数は890回、表示回数は58万回を超えた。

画像

画像

リプライ欄には「非接種者は1800万人しかいないんだ。私も0だけど逆に今後強制的に血を抜かれたりしないか不安w」「その血液は管理できているのだろうか。区分できているのだろうか」といったコメントが寄せられている。

一方で、血液製剤が回収されている原因は、献血者の新型コロナウイルスの感染が後から発覚するケースが増えたためだと指摘するコメントもあった。

検証過程

検証対象のツイート内で示されているグラフは、血液製剤の自主回収の数を表したグラフだ。自主回収とは、医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器、再生医療等製品の使用によって保健衛生上の危害が発生・拡大するおそれがある場合に、製造販売業者が自主的に製品を回収することだ。

血液製剤とは、人の血液を成分とする医薬品だ。輸血用血液製剤と血漿分画製剤の2種類があり、輸血用血液製剤は病気の治療や手術での輸血に、血漿分画製剤は難病などの治療に使われる。

独立行政法人・医薬品医療機器総合機構は、医薬品の回収情報を公開している。「クラスI・その製品の使用等が、重篤な健康被害又は死亡の原因となり得る状況」として、献血による血液製剤の回収情報も記録している。この資料を確認すると、血液製剤の自主回収は2020年度に71件、2021年度に251件、2022年度に593件と、2021年度以降は大幅に増えている。

この自主回収の増加は、新型コロナワクチン接種によるものなのか。

朝日新聞は2022年2月10日付の記事で、献血による血液製剤の自主回収が増えた理由に「献血者の新型コロナウイルスへの感染が事後にわかるケースが増えているため」と報じ、「輸血による新型コロナウイルスの感染については、理論的な可能性はあるものの、臨床的には問題にならない」としている。

厚生労働省の血液製剤の自主回収原因をまとめた資料を見ると、2021年度の自主回収251件のうち、9割を超える234件が献血後に病原体の感染、感染疑い、感染症検査での陽性反応が発覚したことによるものだとわかる。自主回収の原因に「ワクチン接種」は挙げられていない。

日本ファクトチェックセンター(JFC)は厚労省に対し、以下の2点を取材した。

・血液製剤の自主回収が増えている原因はなにか
・血液製剤の自主回収の原因と新型コロナワクチン接種は関係あるか

厚労省医薬・生活衛生局血液対策課の担当者は、血液製剤の自主回収が増えている理由について、次のように説明する。

「2020年から増えているのは、新型コロナウイルスの流行によるものです。輸血用血液製剤の安全対策として、日本赤十字社は、献血後に新型コロナウイルス感染症を発症、または疑われる症状が認められた場合は血液センターへのご連絡をお願いしています。該当する献血血液から製造された輸血用血液製剤は同社より供給を停止し、既に医療機関に供給されていた場合は使用停止をお願いし、回収が実施されております。主にはこれによる回収と見られます」

血液製剤の自主回収と新型コロナワクチン接種の関係については、「ワクチン接種が原因で輸血に使用できない血液が増加したという事実は確認されておりません」と否定した。

日本赤十字社のウェブサイトでは、新型コロナワクチンの接種をした場合、ワクチンの種類によって1日〜6週間の期間は献血を控えるようにと呼びかけている。日本赤十字社血液事業本部の広報担当者は、新型コロナワクチン接種と献血の安全性についてJFCに以下のように説明した。

「2021 年以降、ワクチン接種を理由とする回収事例はございません。新型コロナワクチンを接種した方の献血延期期間については、国の審議会等において、血液製剤の安全性、献血者の安全確保及び血液製剤の安定供給等を総合的に勘案して検討され、定められています。献血にご協力いただく際の問診で、ワクチン接種について確認しておりますが、献血後に献血延期期間内であったことが判明し、血液センターにご連絡いただく場合が想定されます。その場合、当該献血血液は医療機関に供給された輸血用血液製剤を含めて回収対象となりますが、前述のとおり、2021 年以降、ワクチン接種を理由とする回収事例はございません」

判定

ワクチン接種後の献血延期期間があること以外で、新型コロナワクチン接種が献血に影響を与えることはない。「新型コロナワクチンの接種が始まった2021年から『使えない血』が急増している」という情報は誤り。

あとがき

「ワクチンを接種すると献血ができなくなる」という言説はこれまでも高い頻度で拡散されています。「Fact Check Explorer」で「Blood donation」「Vaccine」といった単語を組み合わせて検索すると海外のファクトチェック機関のファクトチェック記事を確認できます。

以前にも見たことがある真偽不明の情報が目に入った際は、このようなツールを活用して、情報の真偽を確かめることが有効です。この方法は、「JFCファクトチェック講座3:検証の4ステップ 『横読み』で効率的に」の記事内の「2.疑義の指摘を確認する」でも紹介しています。

検証:リサーチチーム
編集:古田大輔


判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。

毎週、ファクトチェック情報をまとめて届けるニュースレター登録(無料)は、上のボタンから。また、QRコード(またはこのリンク)からLINEでJFCをフォローし、気になる情報を質問すると、AIが関連性の高いJFC記事をお届けします。詳しくはこちら

もっと見る

トランプ関税延期は農林中金が米国債を売却したから? 売却は2024年度【ファクトチェック】

トランプ関税延期は農林中金が米国債を売却したから? 売却は2024年度【ファクトチェック】

トランプ大統領が「相互関税」を90日間延期したのは、日本の農林中央金庫による米国債の売却が影響したという情報が拡散しましたが、誤りです。農林中金が米国債を売却したのは関税に関する発表前の2024年度です。 検証対象 2025年4月11日、トランプ大統領が「相互関税」を延期したのは、日本の農林中央金庫が米国債を売り、米国債の価格低下と金利上昇を招いたからだという趣旨の投稿がXが拡散した。 投稿には、米国債の下落や金利上昇、株・ドル・債券のトリプル安を報じるテレビニュースの画像が添付され、「トランプ『相互関税発動!』→農林中金『バーゼル規制に引っかかって米国債強制決済…』→トランプ『え、米国債売られまくってる…!?ヤバい!関税90日延期で。日本め、報復しないとか言いながら、とんでもないことしやがる』→石破『なんか知らんけど助かった』→世界『日本ありがとう!』」などと書かれている。 4月18日現在この投稿は840万を超える閲覧、リポスト4900を超える。「日本が神風を起こし世界を救う」「相手はともあれ、やっぱり日本は神の国」といったコメントのほかに、「関税発動直

By 宮本聖二
中国大使館「大地震の可能性が高い」と日本への渡航や留学中止を呼びかけ? 地震への一般的な注意喚起【ファクトチェック】

中国大使館「大地震の可能性が高い」と日本への渡航や留学中止を呼びかけ? 地震への一般的な注意喚起【ファクトチェック】

駐日中国大使館が、大地震が発生する可能性が高いことを理由に、日本への渡航や留学の中止、帰国を呼びかけたという情報が拡散しましたが、誤りです。大使館は、日本への旅行や留学については慎重に計画し、不動産の購入は慎重に選択することを勧めていますが、渡航中止や帰国を求めてはいません。 検証対象 2025年4月15日、「在日本中国大使館よりお知らせ『日本では大地震が発生する可能性が高いと想定し、中国国民は日本への渡航や留学を中止するよう勧告します。すでに日本にいる中国国民は直ちに帰国してください!』」という投稿が拡散した。 投稿は中国語の投稿を引用している。引用元の投稿をXの機能で翻訳すると拡散した言説と同じ文言になる。 2025年4月17日現在、この投稿は4300件以上リポストされ、表示回数は307万回を超える。投稿について「えっみんな帰るの!」「これでほんとにあったら人工地震」というコメントの一方で「帰国しろとか、留学するなとかは書いてない」という指摘もある。 検証過程 日本ファクトチェックセンター(JFC)は駐日中国大使館のウェブサイトを確認した。 大

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
兵庫県知事選から考える選挙とファクトチェック 「情報の空白」をいかに埋めるか【情報インテグリティ】

兵庫県知事選から考える選挙とファクトチェック 「情報の空白」をいかに埋めるか【情報インテグリティ】

4月2日の国際ファクトチェックデーに合わせ、一般社団法人セーファーインターネット協会(SIA)/日本ファクトチェックセンター(JFC)が開催した情報インテグリティシンポジウム。この記事ではパネル討論1「選挙と情報インテグリティ」の内容をお届けします。 モデレーター:古田大輔(日本ファクトチェックセンター 編集長) パネリスト: ・澁谷遊野 氏(東京大学大学院情報学環・学際情報学府准教授) ・永田憲亮 氏(神戸新聞社編集局報道部次長) ・西村 健吾氏(TikTok Japan 公共政策本部 公共政策部長) 選挙と情報インテグリティ【パネル討論1】 登壇者の自己紹介 古田:モデレーターを務めます古田です。よろしくお願いいたします。まず最初に、登壇者の皆さまにご自身がどのように情報インテグリティの分野に関わっているか、自己紹介をお願いしたいと思います。 澁谷:澁谷と申します。東京大学大学院情報学環で准教授をしております。私は偽情報やデジタル空間の情報データに関しまして、主にデータ解析の観点から研究に取り組んでおります。 2つの観点から取り組んでおりまして

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
石破首相「トランプ大統領を怒らせてしまった」と発言? まとめサイトによるもの【ファクトチェック】

石破首相「トランプ大統領を怒らせてしまった」と発言? まとめサイトによるもの【ファクトチェック】

石破首相が「トランプ大統領を怒らせてしまった」と発言したという情報が拡散しましたが、誤りです。投稿の見出しは、掲示板サイトのスレッドタイトルからの引用です。本人の発言は確認できません。 検証対象 2025年4月8日、「【悲報】日米電話会談 石破総理『どうやらトランプ大統領を怒らせてしまったようだ・・・』」という投稿が拡散した。 2025年4月17日現在、この投稿は1700件以上リポストされ、表示回数は50万件を超える。投稿について、「トランプには通用しない」「怒らない方がおかしい」と石破首相を批判するコメントがついている。 検証過程 まとめサイトのタイトルは掲示板から 検証対象のリンクは、まとめサイト「2ちゃんねる」の記事だ。 掲示板サイト5ちゃんねるのスレッド「【日米電話会談】 石破総理『どうやらトランプ大統領を怒らせてしまったようだ…』」で、日テレNEWSが2025年4月7日に配信した記事「トランプ大統領『日本は貿易でアメリカをとてもひどく扱ってきた』」を引用元に挙げている。 日テレ記事は、トランプ大統領が石破首相との電話会談の後、SNSに

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)

ファクトチェック講座

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、ファクトチェックやメディア情報リテラシーに関する講師養成講座を月に1度開催しています。講座はオンラインで90分間。修了者には認定バッジと教室や職場などで利用可能な教材を提供します。 次回の開講は5月28日(日)午後2時~3時半で、お申し込みはこちら。 https://jfcyousei0518.peatix.com/view 受講条件はファクトチェッカー認定試験に合格していること。講師養成講座は1回の受講で修了となります。 受講生には教材を提供 デマや不確かな情報が蔓延する中で、自衛策が求められています。「気をつけて」というだけでは、対策になりません。最初から騙されたい人はいません。誰だって気をつけているのに、誤った情報を信じてしまうところに問題があります。 JFCが国際大学グロコムと協力して実施した「2万人調査」では実に51.5%の人が誤った情報を「正しい」と答えました。一般に思われているよりも、人は騙されやすいという事実は、様々な調査で裏打ちされています。 JFCではこれらの調査をもとに、具体的にどのよう

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、YouTubeで学ぶ「JFCファクトチェック講座」を公開しました。誰でも無料で視聴可能で、広がる偽・誤情報に対して自分で実践できるファクトチェックやメディアリテラシーの知識を学ぶことができます。 理論編と実践編の中身 理論編では、偽・誤情報の日本での影響を調べた2万人調査の紹介や、間違った情報を信じてしまう背景にある人間のバイアス、大規模に拡散するSNSアルゴリズムなどを解説しています。 実践編では、画像や動画や生成AIなど、偽・誤情報をどのように検証したら良いかをJFCが検証してきた事例から具体的に学びます。 JFCファクトチェッカー認定試験を開始 2024年7月29日から、これらの内容について習熟度を確認するJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。誰でもいつでも受験可能です(2024年度中は受験料1000円、2025年度から2000円)。 合格者には様々な技能をデジタル証明するオープンバッジ・ネットワークを活用して、JFCファクトチェッカーの認定証を発行します。 JFCファクトチェッカー認定試験

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
JFCファクトチェッカー認定試験  教材と申し込みはこちら

JFCファクトチェッカー認定試験  教材と申し込みはこちら

日本ファクトチェックセンター(JFC)はJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。YouTubeで公開しているファクトチェック講座から出題し、合格者に認定証を授与します。 拡散する偽・誤情報から身を守るために 偽・誤情報の拡散は増える一方で、皆さんが日常的に使用しているSNSや動画プラットフォームに蔓延しています。偽広告や偽サイトへのリンクなどによる詐欺被害も広がっています。 JFCが国際大学グロコムと実施した2万人を対象とする調査では、実際に拡散した偽・誤情報を51.5%の割合で「正しいと思う」と答え、「誤っている」と気づけたのは14.5%でした。 自分が目にする情報に大量に間違っているものがある。そして、誰もが持つバイアスによって、それが自分の感覚に近ければ「正しい」と受け取る傾向がある。インターネットはその傾向を増幅する。 だからこそ、ファクトチェックやメディアリテラシーに関する知識が誰にとっても必須です。 JFCファクトチェック講座と認定試験 JFCファクトチェック講座(YouTube, 記事)は、2万人調査を元に偽・誤情報の拡散経路や

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)