JFCファクトチェック講座3:検証の4ステップ 「横読み」で効率的に

JFCファクトチェック講座3:検証の4ステップ 「横読み」で効率的に

今回は、情報の検証をする上で必要な行動を4段階に分けてお伝えします。これだけ情報が氾濫する中で、全てについて4つを実践するのは不可能だ、と感じる人もいるでしょう。ステップ1だけで十分なこともありますし、効率的に実践するための「ラテラル・リーディング(横読み)」も紹介します。

では、「検証の4ステップ」の解説から始めます。まずはこちらを御覧ください。

画像

1.発信元を見る

「その発信元は信頼がおけるか」。あらゆる情報について発信元を確認しましょう。匿名でも信頼のおける情報源は存在しますが、まったく知らない匿名の情報源を信頼するのは危険です。

「その情報を知りうる立場か」というのは、一つの目安になります。事件や災害について、直接的な関係がない人、調査や取材に携わらない人が重要な情報を知っている可能性は低いでしょう。情報を知りうる立場でも、利害関係者の場合は自分に都合が良いように発信している可能性があります(客観的な情報発信をしている場合もあります)。

2.疑義の指摘を確認する

「リプライやコメント欄を確認」しましょう。改変された画像や動画などは、何度も拡散します。そういうときはリプライやコメント欄を見ると、元画像やファクトチェック記事をつけて「もう検証されている」などのコメントがついていることがあります。

「この記事は間違っている」というコメントがついている場合に、コメントのほうが間違えていることもあるので注意しましょう。論争になっている話題の場合、否定コメントがつきやすくなります。

Fact Check Explorerを確認」することも有効です。Googleが提供している検索ツールで、Googleが収集している世界中のファクトチェック記事が収録されています。残念ながら、2023年5月現在、日本からはBuzzFeed Japanの記事のみですが、偽情報/誤情報は各国の言語に翻訳され、国境を超えて拡散するため、日本語のものでも、英語で検索すれば検証済みの情報がたくさん見つかります。

3.メディア・公的機関・当事者は?

「他メディアは発信しているか」も重要な目安となります。ワクチンをめぐっては「ビル・ゲイツが予防接種は間違いと認めた(ファクトチェック済み)」「ファイザー社長が2023年までに人口を50%削減すると発言知った(同)」などの言説が拡散しましたが、事実なら世界中のメディアが一斉に報じるはずです。

「マスゴミは事実を報じない」などの批判もあり、ジャニーズ関連の報道のような事例もあります。しかし、その場合でも文春が率先して記事を出したように、すべての大手メディアが重要な事実をまったく報じないということは、ほぼないと言って良いですし、もし報じていないなら、事実ではないからという可能性が高いです。

「公的機関や当事者が発信しているか」も調べましょう。デジタル時代になり、メディアを待たずとも、公的機関や当事者が自ら発信することも増えています。メディアの記事にはないデータや1次情報がウェブサイトやソーシャルアカウントで公開されていることもあります。逆に重大な話題のはずなのに、公的機関も当事者も全く触れていない場合、偽情報である確率は高くなります。

4.ソースを探す

「改変やミスリードされてないか」の確認は必須です。記事のリンクを付けて、さもその記事の中身であるかのように間違ったコメントをつけることや、英語の動画に偽の日本語訳をつける例はこれまで何度もJFCで検証してきました。画像を改変することも簡単です。オリジナルの記事や画像/動画の確認は必須です。

「一次資料や関連データとの矛盾がないか」まで調べられたら、ファクトチェックの最初のステップとしては十分なレベルと言えるでしょう。信頼できる資料やデータを公開しているウェブサイトなどを普段からチェックしておきましょう。

「検証の4ステップ」を解説しました。次に効率的に実践するための「ラテラル・リーディング(横読み)」を紹介します。

ラテラル・リーディング(横読み)をしよう

世の中には無数の情報が溢れています。それらの全てについてこの4つのステップを実践することは時間的に無理があります。少しでも効率的にするために、多くの機関が推奨しているのが「ラテラル・リーディング(横読み)」です。

画像
The Stanford History Education Groupより

ブラウザのタブを複数開いて、当該の情報について検索したり、関連する公的機関や主要メディアの発信と比較したり、検証ツールを活用したりしましょう。効率的に4ステップを実践できます。

関連する情報を調べたり、検証ツールを活用したりする具体的な方法は、次回のファクトチェック講座から解説していきます。

講座目次

  1. 意見や推測ではなく事実を検証する
  2. 検証は効果あり 検索やAIにも反映される
  3. 検証の4ステップ 「横読み」で効率的に
  4. 実践的な検索技術 効率的にソースを探す
  5. 画像の検証 GoogleレンズとTinEye
  6. 動画の検証 InVIDとYouTube検索
  7. AIコンテンツの検証 細部を見る
  8. 公開情報こそ重要 OSINT技術を使いこなす
  9. 国際的な標準ルール 透明性を確保する
JFC ファクトチェック講座 - 日本ファクトチェックセンター (JFC)
ファクトチェックの考え方や技術、便利なツールの活用方法を実践的に学ぶ連載です。

筆者略歴

画像

判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。

毎週、ファクトチェック情報をまとめて届けるニュースレター登録(無料)は、上のボタンから。また、QRコード(またはこのリンク)からLINEでJFCをフォローし、気になる情報を質問すると、AIが関連性の高いJFC記事をお届けします。詳しくはこちら

もっと見る

日本人の93.5%が台湾有事をめぐる高市首相の発言を「問題なし。野党や中国が悪い」と回答? 統計的な信頼性が低いデータ【ファクトチェック】

日本人の93.5%が台湾有事をめぐる高市首相の発言を「問題なし。野党や中国が悪い」と回答? 統計的な信頼性が低いデータ【ファクトチェック】

高市早苗首相の台湾有事に関する国会答弁に中国が反発している問題で、日本人の93.5%が、高市首相の発言を「問題なし」と考えているという投稿がXで拡散しましたが、ミスリードで不正確です。拡散した投稿が引用しているデータは、「産経ニュースの1コーナー」という週刊フジが、Xで実施したアンケート結果で、統計的に正確な調査とは言えません。同じ質問ではないですが、この話題に関する世論調査では、賛否が分かれています。 検証対象 拡散した言説 2025年11月19日、「【朗報】日本人の93.5%『高市発言は問題なし。野党や中国が悪い』」という投稿がXで拡散した。 検証する理由 11月21日現在、投稿は2.2万回以上リポストされ、表示は392.2万件を超える。 投稿には「日本人の93%ってどこから?」「この数字でハッキリしました。この手のプロパガンダ世論調査はデタラメってね」という指摘もあるが「要するに高市やめろとか発言撤回しろとか言っている日本人の左翼は6.5%しかいないという事ですね」や「そりゃそうだ。ヤクザの要求飲み続けたら、終わりなくエスカレートする。それを

By 根津 綾子(Ayako Nezu)
新型コロナワクチンは人類に対する犯罪? 米トランプ政権がその被害を認めた? 接種の推奨範囲を縮小【ファクトチェック】

新型コロナワクチンは人類に対する犯罪? 米トランプ政権がその被害を認めた? 接種の推奨範囲を縮小【ファクトチェック】

新型コロナウィルスについて、ワクチン接種が「人類に対する犯罪」で、米トランプ政権がその被害を認めたという趣旨の投稿が拡散しましたが、ミスリードで不正確です。米疾病対策センターが、2025年10月6日付でウェブサイトに「接種は個別判断に切り替えた」と掲載したことは事実ですが、米政府がワクチン被害を犯罪だと認めたわけではありません。またトランプ大統領は、10月に新型コロナウィルスワクチンの追加接種を受けています。 検証対象 拡散した言説 2025年11月7日、「コロナワクチン接種は、人類に対する犯罪。米国もトランプ政権がその被害を認めている」などという投稿がXで拡散した。 検証する理由 2025年11月17日現在、投稿は530回リポストされ、表示は30.8万件を超える。 投稿には「つい先日、トランプ大統領はファイザーを讃えて、自身もブースターを接種したばかりですよ」「デマはやめましょう」などの指摘もあるが、「あれだけの甚大な薬害が生じているにも関わらず、それを認めず、未だ接種を中止しないというのは、高市さんが所詮グローバリストだということを如実に表して

By 根津 綾子(Ayako Nezu)
東京都はムスリム園児の給食に月9000円を支給?対象や用途は限定されず 【ファクトチェック】

東京都はムスリム園児の給食に月9000円を支給?対象や用途は限定されず 【ファクトチェック】

「東京都がムスリムの園児1人につき毎月9000円を給食のために支給している」という趣旨の投稿が多数拡散していますが、ミスリードで不正確です。東京都が外国人児童を受け入れる施設に対して、園児1人につき毎月9000円を助成しているのは確かですが、対象はムスリム(イスラム教信者)に限りません。また、補助は給食に限らず、言語コミュニケーションや宗教、文化などへの配慮に対して交付されます。 検証対象 拡散した言説 「東京都がムスリム園児の給食に毎月9,000円を支給している」という趣旨の投稿がX、YouTube、TikTok、Instagramなど複数のプラットフォームで拡散している(例1、例2、例3、例4)。 例1は2025年9月22日にXへ投稿され、11月14日現在、表示は110万件を超え、1.3万回リポストされている。例2は例1を引用投稿し、表示は25.7万件、リポストは5900回以上。例3、例4の動画では「イスラム教の園児に毎月9000円あげるとは憲法違反」「都民の税金から出すとはありえない」「日本人の家庭は給食費を自分で払っている」などと主張している。

By リサーチ チーム
広がり続けるディープフェイク/JFC検証など5本/ファクトチェック選手権、参加者募集【今週のファクトチェック】

広がり続けるディープフェイク/JFC検証など5本/ファクトチェック選手権、参加者募集【今週のファクトチェック】

今週のファクトチェック動画でも紹介していますが、クマの被害が広がるに連れて、生成AIで作ったクマに関する偽動画=ディープフェイクが増えています。 誰でも簡単に動画を作れるようになった上に、質も向上しています。スマホでパッと見ただけだと、本物の映像と区別がつきにくくなっています。クマによる被害が注目を集めている中で、車を壊したり、スーパーに侵入したりする映像には思わず見入ってしまいます。 いまのソーシャルメディアのアルゴリズムだと、シェアやいいねのボタンを押さなかったとしても動画を視聴するだけで、その動画は人気の動画だと判断され、リーチが伸びていきます。 こういったアルゴリズムの特性を知ったうえで、以下を心がけてください。 ・動画や画像や音声が本物とは限らないのですぐに信じない。 ・生成AIで作ったことを知らせるマークが入っていないか確認する。 ・発信源・根拠・関連情報を確認する。 そして、発信する側は、たとえそれが冗談で作ったものだとしても、誤解や混乱を社会に広げる危険性があることを理解しましょう。 今週からは「用語解説」もつけています。こちらも活用してください

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)

ファクトチェック講座

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、ファクトチェックやメディア情報リテラシーに関する講師養成講座を月に1度開催しています。講座はオンラインで90分間。修了者には認定バッジと教室や職場などで利用可能な教材を提供します。 次回の開講は11月28日(土)午後5時~6時30分で、お申し込みはこちら。 https://jfcyousei1128.peatix.com/view 受講条件はファクトチェッカー認定試験に合格していること。講師養成講座は1回の受講で修了となります。 受講生には教材を提供 デマや不確かな情報が蔓延する中で、自衛策が求められています。「気をつけて」というだけでは、対策になりません。最初から騙されたい人はいません。誰だって気をつけているのに、誤った情報を信じてしまうところに問題があります。 JFCが国際大学グロコムと協力して実施した「2万人調査」では実に51.5%の人が誤った情報を「正しい」と答えました。一般に思われているよりも、人は騙されやすいという事実は、様々な調査で裏打ちされています。 JFCではこれらの調査をもとに、具体的にど

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、YouTubeで学ぶ「JFCファクトチェック講座」を公開しました。誰でも無料で視聴可能で、広がる偽・誤情報に対して自分で実践できるファクトチェックやメディアリテラシーの知識を学ぶことができます。 理論編と実践編の中身 理論編では、偽・誤情報の日本での影響を調べた2万人調査の紹介や、間違った情報を信じてしまう背景にある人間のバイアス、大規模に拡散するSNSアルゴリズムなどを解説しています。 実践編では、画像や動画や生成AIなど、偽・誤情報をどのように検証したら良いかをJFCが検証してきた事例から具体的に学びます。 JFCファクトチェッカー認定試験を開始 2024年7月29日から、これらの内容について習熟度を確認するJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。誰でもいつでも受験可能です(2024年度中は受験料1000円、2025年度から2000円)。 合格者には様々な技能をデジタル証明するオープンバッジ・ネットワークを活用して、JFCファクトチェッカーの認定証を発行します。 JFCファクトチェッカー認定試験

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
JFCファクトチェッカー認定試験

JFCファクトチェッカー認定試験

日本ファクトチェックセンター(JFC)はJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。YouTubeで公開しているファクトチェック講座から出題し、合格者に認定証を授与します。 拡散する偽・誤情報から身を守るために 偽・誤情報の拡散は増える一方で、皆さんが日常的に使用しているSNSや動画プラットフォームに蔓延しています。偽広告や偽サイトへのリンクなどによる詐欺被害も広がっています。 JFCが国際大学グロコムと実施した2万人を対象とする調査では、実際に拡散した偽・誤情報を51.5%の割合で「正しいと思う」と答え、「誤っている」と気づけたのは14.5%でした。 自分が目にする情報に大量に間違っているものがある。そして、誰もが持つバイアスによって、それが自分の感覚に近ければ「正しい」と受け取る傾向がある。インターネットはその傾向を増幅する。 だからこそ、ファクトチェックやメディアリテラシーに関する知識が誰にとっても必須です。 JFCファクトチェック講座と認定試験 JFCファクトチェック講座(YouTube, 記事)は、2万人調査を元に偽・誤情報の拡散経路や

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)