今年の花粉は2011年の約10万倍?急増していないし、ケムトレイルの影響でもない【ファクトチェック】

今年の花粉は2011年の約10万倍?急増していないし、ケムトレイルの影響でもない【ファクトチェック】

「今年の花粉は2011年の約10万倍」との言説が拡散していますが誤りです。環境省が実施している「春におけるスギ・ヒノキ花粉の実測総飛散量(数)」や東京都アレルギー情報navi.大阪府/保健所花粉情報で計測データを確認しても、花粉の飛散量が急増したというデータはありません。

検証対象

「2023年の花粉は2011年102,035.7倍ですよ!」という投稿がFacebookで広がった。

画像

この投稿のスクリーンショットがTwitterにも転載され、「杉の木、10万倍も増えました?(笑)」という文言でさらに拡散した。元投稿の画像を引用する形でのツイートは複数見られる(例1例2)。

花粉が急増したという言説はこれまでにも拡散しており、2019年には毎日新聞によって検証され、取材に対して気象予報会社ウェザーニューズ広報担当が「思い当たる数字はない」と答えている。

検証過程

実際に花粉の飛散データを見ていくと、飛散量はここしばらくの間一定の水準で推移していることがわかる。

例えば、環境省が公表している「春におけるスギ・ヒノキ花粉の実測総飛散量(数)」では、全国24か所の観測地点でのシーズン中の花粉総飛散量(数)を公表している。各地点において2017年から2022年までの春のスギ・ヒノキ花粉総飛散量(数)を日本ファクトチェックセンター(JFC)がグラフ化したものが以下になる。

画像
画像
画像
画像
画像
画像

以上、環境省「令和4年春(2月から4月)におけるスギ・ヒノキ花粉の実測総飛散数」(2022年版はこちら)などから作成した。グラフからは地域差があるものの、一定の範囲内で推移していることがわかる。

次に、地域を絞ってより長期的な変遷を見ていく。東京都アレルギー情報navi.や、大阪府/保健所花粉情報で実際の計測データを確認し、グラフ化したのが以下である。

画像
東京都アレルギー情報navi.よりJFC作成
画像
大阪府/保健所花粉情報よりJFC作成

このように、毎年一定の範囲内を上下していることがわかり、「2011年の約10万倍」とはなっていない。

判定

花粉の飛散量は爆発的に増えているわけではないことから、誤り。

あとがき

東京都アレルギー情報navi.大阪府/保健所花粉情報を基にすると、2018年は東京都においてその前の年の4倍以上となっており、2019年は大阪府において特にスギ花粉がその前の年の3倍近くになっています。ただし、これは地域を限定した話であり、また、その翌年には花粉量が急減しており、拡散した言説のように右肩上がりで増えているわけではありません。

花粉量の急増を信じる人の中には「花粉量が増えているのは飛行機からの散布によるもので、飛行機雲のように見せて化学物質をばらまく『ケムトレイル』と関係している」といういわゆる「陰謀論」的な主張も存在します。ケムトレイルについては、以前JFCで検証した通り、国内外で何度も否定されており、科学的根拠はありません。

検証:本橋瑞紀
編集:古田大輔、宮本聖二、藤森かもめ

検証手法や判定基準などに関する解説は、JFCサイトのファクトチェック指針をご参照ください。

「ファクトチェックが役に立った」という方は、シェアやいいねなどで拡散にご協力ください。誤った情報よりも、検証した情報が広がるには、みなさんの力が必要です。

X(Twitter)FacebookYouTubeInstagramなどのフォローもよろしくお願いします。またこちらのQRコード(またはこのリンク)からLINEでJFCをフォローし、真偽が気になる情報について質問すると、AIが関連性の高い過去のJFC記事をお届けします。詳しくはこちらの記事を

もっと見る

Metaのファクトチェックとコンテンツ規制に関する方針転換に対する公開書簡

Metaのファクトチェックとコンテンツ規制に関する方針転換に対する公開書簡

Facebook、Instagram、Threadsを運営するMetaが現状のファクトチェック・プログラムを廃止し、コンテンツ規制を緩める方針を発表しました。マーク・ザッカバーグCEOは「検閲が過剰だ」とその理由を述べ、これまでパートナーシップを結んできたファクトチェック団体を「政治的に偏り、信頼を生むよりも壊してきた」と説明しました。 世界中のファクトチェック団体を認証している国際ファクトチェックネットワーク(IFCN)は、この決定と発言に対して公開書簡を出しました。日本ファクトチェックセンター(JFC)を含む多数のファクトチェック団体も署名しています。JFCとして日本語訳し、こちらに掲載します。 IFCNの公開書簡(2025年1月9日) 拝啓 ザッカーバーグ様、 9年前、私たちはFacebook上の虚偽情報によって引き起こされる現実世界での被害についてあなたに公開書簡を書きました。それに応じて、Metaはファクトチェックプログラムを立ち上げ、数百万人のユーザーをデマや陰謀論から保護しました。今週、あなたは「検閲が過剰である」との懸念から、アメリカ国内で

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
ロバート・ケネディ・ジュニア氏が全製薬会社に最高裁で勝訴?繰り返し拡散する偽情報【ファクトチェック】

ロバート・ケネディ・ジュニア氏が全製薬会社に最高裁で勝訴?繰り返し拡散する偽情報【ファクトチェック】

ロバート・ケネディ・ジュニア氏が「全製薬会社を相手に勝訴」と主張する英文の画像つきの日本語投稿が拡散しましたが誤りです。2022年10月に投稿された偽情報で、これまでに何度も拡散して検証されています。 検証対象 2025年1月3日、「ロバート・ケネディ・ジュニア氏が全ての製薬会社ロビイストを相手に勝訴した」という情報が拡散した。日本語の投稿だが英文の画像付き投稿を引用している。 画像の見出しはBreaking(速報)。「ロバート・F・ケネディ・ジュニアが全ての製薬会社ロビイストに勝訴した。この判決で最高裁は、新型コロナウイルスのmRNAワクチンによる損害が回復不能であることを確認した」と英文で書かれている。 この投稿は21万を超える閲覧と1100以上のリポストを獲得している。「新年早々素晴らしいニュースですね」「素晴らしい情報をありがとうございます」という書き込みの一方で、「デマ情報ポストして良いのか」などの反応も多い。 検証過程 アメリカ最高裁の判決文は  米国最高裁アーカイブで検索できるが、ワクチンの安全性をめぐってロバート・ケネディ・ジュニア氏

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
中国の新年のドローンと花火? 2つの動画を組み合わせたもの【ファクトチェック】

中国の新年のドローンと花火? 2つの動画を組み合わせたもの【ファクトチェック】

中国の新年を祝う「ドローンと花火」という映像が拡散しましたが、誤りです。別々の映像を合成して作ったものです。 検証対象 2025年1月1日、「中国の新年のドローンと花火の融合が本気で凄」「都庁のプロジェクションマッピングの数万倍クオリティ高い」という文言と共に動画が拡散した。 動画にはドローンで再現された龍と、龍の真上から花火のような火花や煙が舞い落ちている様子が映っている。 2025年1月7日現在、この投稿は900件以上リポストされ、表示回数は126万回を超える。この投稿について「花火とドローン一緒は危なくない?」「もう到底追いつけない」というコメントの一方で「これ本物じゃないでしょ?」という指摘もある。 検証過程 拡散した動画(計11秒)を確認すると、10秒時点で龍の上を回り花火を落としていたドローンと思われる光が煙と共に消えている。ドローンは光を消せば見えなくなるが、煙まで消えるのは不自然だ。 Googleレンズは検索する範囲を自分で選択することができる。花火を落とすドローンと、龍を再現するドローンをそれぞれ検索すると、別々のドローンショーの

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
菅義偉元首相が「外国では移民が増えても犯罪がない」と発言? インバウンド観光の発言を改変【ファクトチェック】

菅義偉元首相が「外国では移民が増えても犯罪がない」と発言? インバウンド観光の発言を改変【ファクトチェック】

自民党の菅義偉元首相が「外国では移民が増えても犯罪がない、だから10分で決めて観光立国化してどんどん外国人を入国させた」と発言したとする動画が拡散しましたが誤りです。日本へのインバウンド外国人観光客についての発言を改変したものです。 検証対象 2025年1月4日、菅氏が「外国では移民が増えても犯罪がない、だから10分で決めて観光立国化してどんどん外国人を入国させた」と発言したという情報がXで拡散した。 2025年1月7日現在、この投稿は5900件以上リポストされ、表示回数は32万件を超える。投稿について「日本を崩壊させる」「嘘つき」というコメントがついている。 検証過程 検証対象のリンクは、まとめサイト「JAPAN NEWS NAVI」の記事を引用している。まとめサイトは、Xユーザーが2024年8月24日に投稿した菅氏と実業家の堀江貴文氏が対談している動画を引用している。 菅氏と堀江氏の対談をGoogleで検索すると、2022年3月に堀江氏のYouTubeチャンネルに投稿された動画「総理時代はやりたいことをやった!菅前総理の功績と今後の展望とは?【菅

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)