災害時に広がる偽情報5つの類型 地震や津波に関するデマはどう拡散するのか

災害時に広がる偽情報5つの類型 地震や津波に関するデマはどう拡散するのか

地震や津波、洪水など大きな災害が発生すると、偽情報や根拠のない情報が拡散します。事実と異なる投稿や不確かな救助要請は、本当に助けを必要としている人たちへの支援を遅らせたり、妨げたりする恐れがあります。拡散しがちな偽情報・誤情報のパターンを知って、支援を妨げないようにしましょう。

災害時の偽情報の5類型

実際と異なる被害投稿

災害時に最も多く見られるのが、偽の被害報告だ。2024年1月1日の能登半島地震では、2011年の東日本大震災の津波の映像を使って、まるで能登半島地震の被害のように投稿する事例が相次いだ(例1例2例3例4例5 、例6)。

例2と例3を投稿した2つのアカウントは添付動画は異なるが、投稿文言は同じで「津波到達になった瞬間NHKのアナウンサーがすごい怒鳴ってる!危機感の伝わってくるアナウンスなので北陸新潟能登半島の方逃げてください」と書かれている。投稿内容をコピーしたと見られる。

例5の投稿は「石川県能登に大津波警報逃げろ」という文言に「#東日本大震災」というハッシュタグもついている。映像は東日本大震災のものだと示唆しているように読めるが、見た人を勘違いさせる可能性もある。過去の映像を使って避難を呼びかける場合は、より丁寧な説明が必要だ。

例6の投稿は「石川県のライブカメラのものとされる映像」と説明している。しかし画像検索をすると、東日本大震災で釜石市役所付近に押し寄せる津波のYouTube動画であることがわかる。

東日本大震災などの過去の映像を、現在の映像のように見せる事例は、これまでも繰り返されてきた。例6の画像のように「3.11」と入っていたり、放送局のロゴ入り(FNN)なのに知らないアカウントが発信したりしている場合は、虚偽の可能性があるので拡散を控えた方が良い。

不確かな救助要請

「地震で車に閉じ込められました」「親友が家のドアが壊れて外に出られません」などの救助要請が、真偽不明のまま拡散する事例も見られる(例7)。本当に救助を求めている場合もあるが、被災地の住所をコピペして、まるで自分が被害にあっているかのように誤解させる偽の救助要請もあるため注意が必要だ。

SNSのユーザーは「#SOS」「#拡散希望」などのハッシュタグつきで投稿される救助要請を「人助けになる」と考えて拡散しがちだ。リポストによる拡散以外にも、救助要請を見た第三者が「(住所)の人を助けてください」と投稿するケースもある。

しかし善意の拡散でも、事実と異なる投稿や、すでに救助が終わっている情報が時間差で拡散することによって、緊急性の高い要請が見つけにくくなったり、警察や消防が偽情報の現場を確認せざるを得なくなったりするなど、被災地に与える影響は大きい。

偽の救助要請を投稿しているアカウントは、直前まで被災地とは全く関係のない投稿をしていたり、日本在住では無い例もある。#SOSという言葉だけで拡散すると、被災者の迷惑になる可能性があるため、注意が必要だ。

虚偽の寄付募集

個人宛に寄付を呼びかける例もあった(例8例9例10)。「今後のための資金を寄付していただけると幸いです」とX(旧Twitter)で呼びかけた例8のアカウント(@rouniNGOAt)は、例7で「助けてください 挟まれて逃げられません 消防にも連絡つきません」と救助を呼びかけたアカウントと同一だ。

救助されたとした後にPayPay経由での寄付を呼びかけていたが、投稿内にあった住所はGoogleマップなどで確認できない。このアカウントは現在は存在せず、救助要請も寄付の募集も虚偽だった可能性がある。

画像

能登半島地震では石川県Yahoo!ネット募金などが災害義援金を受け付けている。個人への経済的な支援は直接知っている相手でない限り、詐欺の危険もある。

根拠のない犯罪情報

「全国から能登半島に盗賊団が大集結中」などと根拠不明の情報が拡散する例もあった(例11)。この投稿には「#人工地震」という科学的に否定されているハッシュタグもついていた。

画像

根拠のない情報は、東日本大震災でも多数拡散し、警察庁は注意を呼びかけた。被災地では自宅が壊れたり、余震に備えたりするために避難所で暮らす多くの人たちがいる。根拠のない情報はさらなる不安と混乱を招く。

1923年の関東大震災では「朝鮮人が暴動を起こした」「井戸に毒を入れた」などの根拠のない噂によって疑われた人たちへの殺傷事件が発生した。2009年に内閣府が公開した「災害教訓の継承に関する専門調査会 報告書」によると、犠牲者は「震災による全死者数の1〜数%」に及んだという。

その他

また、大きな地震があると「人工地震説」も必ず拡散する。「闇の勢力が大規模な爆発などで人工的に地震を引き起こした」などと主張する典型的な「陰謀論」は、今回の能登半島地震でも拡散した(例12例13例14例15例16)。人工地震説について、JFCは繰り返しファクトチェックをしている。今回の能登半島地震でも専門家の解説を再掲して検証した。

「原発事故が発生」などの情報も拡散する傾向がある。能登半島地震では石川県にある北陸電力の志賀原発に関して「志賀原発で放射性物質を含む水が2基で約420リットル漏洩中」「爆発音がして変圧器の配管が破損して3500ℓの油が漏れて火災」などの情報が拡散した(例17例18)。

志賀原発が地震の影響を受けたのは事実だ。北陸電力の発表によると、志賀原発は震度5強の揺れがあり、使用済み燃料の貯蔵プールから水が飛散するなどしたが外部への放射能の影響はないという。

北陸電力によると、主な影響は以下の通りだ(2024年1月5日更新)。

  • 1号機変圧器の絶縁油が推定3600リットル漏れた。
  • 2号機変圧器の絶縁油が19800リットル漏れた。
  • 1号機使用済燃料貯蔵プールの水が約95リットル飛散。
  • 2号機使用済燃料貯蔵プールの水が約326リットル飛散。
  • 物揚場埋立部の舗装コンクリートの沈下。
  • 1号機放水槽及び1号機補機冷却排水連絡槽防潮壁の基礎の沈下。
  • 1号機高圧電源車使用箇所付近の段差。

例17の投稿は「放射性物質を含む水が約420リットル漏洩中」という文言にNHKのロゴがついているが、NHKは「偽投稿」だという記事を出している。例18は鳩山由紀夫元首相の投稿で「3500ℓの油が漏れて火災が起きた」と書いているが、北陸電力は「火災の発生は確認されていない」と発表した。

偽情報を発信・拡散する意図は

こういった情報を発信したり、拡散したりする意図は何か。故意犯・確信犯・愉快犯の3つに分類することができる。

故意犯とは、それが誤っていると知りながら間違った情報を発信・拡散する例だ。例えば、Xではインプレッション数(閲覧数)に応じて収入を得るシステムがあるため、金銭的な目的でシェアされやすい災害関連情報を流す人もいる。

確信犯とは、それが正しいと信じて情報を発信・拡散する人だ。例えば、世界には人工地震で人を殺そうとする闇の勢力がいると信じる人は人工地震説を、原発は危険だから一刻も早く廃止すべきだという人は原発事故の情報を発信・拡散する傾向がある。

愉快犯は、人の注目を得たい、騙される人を見て楽しみたいという理由で間違った情報を発信する。

間違った情報を発信するアカウントを分析すると、多くの場合、この3つの類型に分類できる。同じアカウントが同じような情報を発信・拡散する傾向が強い。

更新

北陸電力が発表した「志賀原子力発電所の影響について(第5報)」に基づいて内容を更新しました(2024年1月5日)。

検証:古田大輔、木山竣策
編集:藤森かもめ、宮本聖二、野上英文


判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。

毎週、ファクトチェック情報をまとめて届けるニュースレター登録(無料)は、上のボタンから。また、QRコード(またはこのリンク)からLINEでJFCをフォローし、気になる情報を質問すると、AIが関連性の高いJFC記事をお届けします。詳しくはこちら

もっと見る

日本は我々のものだと主張するデモの動画? パレスチナの平和を求めるデモ【ファクトチェック】

日本は我々のものだと主張するデモの動画? パレスチナの平和を求めるデモ【ファクトチェック】

パレスチナ国旗を掲げて人が路上に寝転がる動画が「日本は我々のものだと主張する人々」かのように拡散しましたが、誤りです。動画はパレスチナの平和を求めるデモで「日本は我々のものだ」とは主張していません。 検証対象 2025年5月6日、「これから日本のあちこちで増えるぞー『日本は我々のものだ!』って主張してくる外国人がどんどん入ってきてるよね」という動画付き投稿が拡散した。 動画にはパレスチナの国旗と共に大勢が路上で横になる様子が写っている。 2025年5月9日現在、この投稿は4300件以上リポストされ、表示回数は180万回を超える。投稿について「やばすぎ」「恐ろしい」というコメントの一方で「そういう意図で国旗掲げてるわけじゃない」という指摘もある。 検証過程 動画の撮影場所は銀座 動画にはティファニーや100円ショップSeria、PLAZAの看板などが写っている。 GoogleマップでSeriaとPLAZAが入っている商業施設で、向かいにティファニーがある場所を検索すると、銀座の商業施設「Exit Melsa」が見つかる。動画は銀座で撮影されたもの

By 木山竣策
トランプ大統領就任100日 発言に多数の誤り 【ファクトチェック】

トランプ大統領就任100日 発言に多数の誤り 【ファクトチェック】

2025年4月29日、アメリカ大統領就任100日を迎えたトランプ氏は支持者を前に演説し「史上最高の最初の100日」などと成果をアピールしました。この演説を含め、トランプ氏のこれまでの言説には、多くの誤りや根拠不明の主張が含まれています。100日演説を中心にファクトチェックしました。 就任100日演説で成果を強調 発言を検証 トランプ氏は2025年4月29日、中西部ミシガン州で就任100日にあわせて演説。冒頭で「アメリカ史上もっとも成功した政権の最初の100日になった」と述べ、自身の成果を強調した。 しかし、この演説には、誤りや不正確な内容が多数含まれていると、アメリカ国内外の報道やファクトチェック機関が指摘している(Politifact、BBC、アル・ジャジーラ、SkyNews)。 主な誤りや根拠不明の主張をテーマごとにまとめた。 「ガソリン価格 多くの州で1.98ドルに」は誤り 全米平均3.1ドル トランプ氏は、就任100日演説で、自身が大統領に就任してから「ガソリン価格はかなり下がっている」「多くの州で1ガロン1.98ドルになった」と述べた(動画34:32~

By Ayako Nezu
嵐のツアー案内やファンクラブを騙るXのなりすましアカウントが出現

嵐のツアー案内やファンクラブを騙るXのなりすましアカウントが出現

2025年5月6日、アイドルグループ「嵐」が、2026年春ごろに予定するツアーをもって活動を終了すると発表した。これに関して、ツアーの案内アカウントを騙ったり、ファンクラブ公式を自称したりする偽アカウントが多数出現しています。株式会社嵐代表取締役の四宮隆史氏は「これらは全て『なりすまし』です」と注意喚起をしています。 検証対象 2025年5月、嵐が活動を終了する前にツアーを開催することを発表したことをうけ、嵐ファンクラブ公式アカウントを騙るアカウントが出現した(例1、例2、例3)。 そのうちの1つ、「ARASHI Family Club(@ARASHI_FC_2026)」は、5人の写真をトップ画像に使っている。プロフィール欄には「2026年春の特別コンサートに向けた情報や、会員向けコンテンツのお知らせをお届けします」と書かれており、「ARASHI Family Club(@ARASHI_FC_2026)の公式アカウントを開設しました」という投稿もある。フォロワーは5月8日正午の段階で7655人だ。 その他にも、Xで「嵐 2026」と検索すると、多数のアカウ

By 木山竣策
「ファクトチェック後進国」日本に変化の兆し 兵庫県知事選きっかけに全国の新聞社が始めた試み【解説】

「ファクトチェック後進国」日本に変化の兆し 兵庫県知事選きっかけに全国の新聞社が始めた試み【解説】

「日本はファクトチェックの取り組みが遅れている」と何年も言われてきたし、私自身も記事やセミナーで、そう言い続けてきました。しかし、その状況が変わろうとしています。きっかけは2024年の兵庫県知事選。新聞社やテレビ局などの伝統メディアによる検証記事が出てくるようになりました。具体例を挙げながら解説します。 神戸新聞が始めた兵庫県政をめぐる「ファクトチェック」 神戸新聞は2025年4月3日に「斎藤知事が1兆円の道路ルート変更し費用圧縮」は誤り SNS拡散情報、兵庫県『事実無根の陰謀論』」という記事を公開しました。斎藤元彦知事をめぐる「陰謀論」を検証し、事実無根だと判定する「ファクトチェック」形式の記事でした。 拡散した陰謀論とは「整備に1兆円かかる播磨臨海地域道路のルートを変更して5000億円に圧縮した斎藤知事に対して、既得権益を持つ議員たちが『斎藤おろし』を画策した」というものです。 神戸新聞は道路整備の経緯を説明し、県道路企画課への取材から、この「陰謀論」を3点に分けて判定しています。以下の通りです。 ・斎藤知事が1兆円から5000億円になるようにルート

By 古田大輔(Daisuke Furuta)

ファクトチェック講座

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、ファクトチェックやメディア情報リテラシーに関する講師養成講座を月に1度開催しています。講座はオンラインで90分間。修了者には認定バッジと教室や職場などで利用可能な教材を提供します。 次回の開講は5月18日(日)午後2時~3時半で、お申し込みはこちら。 https://jfcyousei0518.peatix.com/view 受講条件はファクトチェッカー認定試験に合格していること。講師養成講座は1回の受講で修了となります。 受講生には教材を提供 デマや不確かな情報が蔓延する中で、自衛策が求められています。「気をつけて」というだけでは、対策になりません。最初から騙されたい人はいません。誰だって気をつけているのに、誤った情報を信じてしまうところに問題があります。 JFCが国際大学グロコムと協力して実施した「2万人調査」では実に51.5%の人が誤った情報を「正しい」と答えました。一般に思われているよりも、人は騙されやすいという事実は、様々な調査で裏打ちされています。 JFCではこれらの調査をもとに、具体的にどのよう

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、YouTubeで学ぶ「JFCファクトチェック講座」を公開しました。誰でも無料で視聴可能で、広がる偽・誤情報に対して自分で実践できるファクトチェックやメディアリテラシーの知識を学ぶことができます。 理論編と実践編の中身 理論編では、偽・誤情報の日本での影響を調べた2万人調査の紹介や、間違った情報を信じてしまう背景にある人間のバイアス、大規模に拡散するSNSアルゴリズムなどを解説しています。 実践編では、画像や動画や生成AIなど、偽・誤情報をどのように検証したら良いかをJFCが検証してきた事例から具体的に学びます。 JFCファクトチェッカー認定試験を開始 2024年7月29日から、これらの内容について習熟度を確認するJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。誰でもいつでも受験可能です(2024年度中は受験料1000円、2025年度から2000円)。 合格者には様々な技能をデジタル証明するオープンバッジ・ネットワークを活用して、JFCファクトチェッカーの認定証を発行します。 JFCファクトチェッカー認定試験

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
JFCファクトチェッカー認定試験  教材と申し込みはこちら

JFCファクトチェッカー認定試験  教材と申し込みはこちら

日本ファクトチェックセンター(JFC)はJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。YouTubeで公開しているファクトチェック講座から出題し、合格者に認定証を授与します。 拡散する偽・誤情報から身を守るために 偽・誤情報の拡散は増える一方で、皆さんが日常的に使用しているSNSや動画プラットフォームに蔓延しています。偽広告や偽サイトへのリンクなどによる詐欺被害も広がっています。 JFCが国際大学グロコムと実施した2万人を対象とする調査では、実際に拡散した偽・誤情報を51.5%の割合で「正しいと思う」と答え、「誤っている」と気づけたのは14.5%でした。 自分が目にする情報に大量に間違っているものがある。そして、誰もが持つバイアスによって、それが自分の感覚に近ければ「正しい」と受け取る傾向がある。インターネットはその傾向を増幅する。 だからこそ、ファクトチェックやメディアリテラシーに関する知識が誰にとっても必須です。 JFCファクトチェック講座と認定試験 JFCファクトチェック講座(YouTube, 記事)は、2万人調査を元に偽・誤情報の拡散経路や

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)