(能登半島地震)前日の“変電所で爆発音”の記事削除は「人工地震工作の隠蔽」?【ファクトチェック】

(能登半島地震)前日の“変電所で爆発音”の記事削除は「人工地震工作の隠蔽」?【ファクトチェック】

2024年1月1日の能登半島地震をめぐって、前日に石川県・北陸放送がネットに公開した「変電所で爆発音」という記事がすぐに削除されたのは「人工地震の隠蔽だ」という言説が拡散しました。これは誤りです。実際には爆発などのトラブルがなかったことを北陸放送が確認し、自ら削除しました。

検証対象

能登半島地震発生の前日、北陸放送が「『3回爆発音』変電所でトラブルか石川・能登町で160世帯が停電」という記事をJNN 系列のTBS NEWS DIGやYahoo!ニュースで配信し、約3時間半後に削除した。

1月1日に地震が発生すると、変電所の記事が削除されていることが話題となり、「人工地震の工作」「隠蔽」などと主張する投稿が拡散した(例1例2)。1月4日午後3時現在多いものはX(旧Twitter)上で190万を超える閲覧数になっている。

画像

検証過程

「変電所 爆発音」で検索すると「『3回爆発音』変電所でトラブルか石川・能登町で160世帯が停電」という記事が複数見つかる。しかし、クリックすると記事はすでに削除されている。

爆発はあったのか

日本ファクトチェックセンター(JFC)が、変電所の爆発について北陸電力送配電株式会社に取材したところ下記の回答を得た。

「特に変電所でトラブルがあったという事実はありませんし、爆発音というのが何を指しているのかも把握できていません。ただ、停電は、12月31日に2ヶ所で起きています。能登町字宇出津で午後2時12分に250戸で停電が起き、午後4時8分に復旧。輪島市大沢町で午後8時34分に80戸で停電が起き、午後11時34分に復旧しています。

いずれも変電所のトラブルは関係なく、樹木の接触か倒木によるものです」

放送局は記事を削除したのか

JFCは記事を配信した北陸放送にも取材した。

「住民から能登町の変電所で爆発音が3回聞こえたという通報があったという消防からの一報をもとに、停電もあったので記事を出した。TBS NEWS DIGを始め、Yahoo!ニュースなど各ニュースプラットフォームのサイトに午後2時43分に配信した。

その後、北陸電力の発表で、樹木の接触か倒木で停電が起きたということと、変電所にトラブルがなかったことがわかり、当該記事を午後6時7分に全てのサイトから削除した」

判定

能登半島地震前日の「変電所で爆発音」の記事は、北陸電力の発表で爆発の事実がなかったことを配信元の北陸放送が確認して削除した。人工地震工作の隠蔽ではなく、誤りと判定した。

あとがき

JFCが何度も検証しているように、人工的に今回のような大規模な揺れを起こすことは不可能です。拡散に注意しましょう。

ソーシャルメディアだけではなく、ネット掲示板などのサービスにも注意が必要です。ユーザー同士で疑問や回答を寄せあう「Yahoo!知恵袋」では、「石川県能登町の変電所で31日に大きな爆発音が3回あった記事についてヤフーニュースとかTBS?とかの記事が削除されていますがなぜでしょうか」という質問に5万7200回の閲覧がありました。

ベストアンサーとして表示されたのは「爆発音のニュースが表沙汰になると困る原因があると推測されます。陰謀論でも、嘘や噂でもなく本当に起こった出来事です。むやみにテレビの情報を信じる前に、自分の頭で考えてみてはいかがでしょうか」という回答でした。

「自分の頭で考えてみる」という言葉はそれだけ見ると正論ですが、自分がよく知らないことを、ネット上の根拠のない書き込みを元に考えると、陰謀論に陥る危険性もあります。

検証:宮本聖二
編集:古田大輔

災害で拡散する偽情報の5類型

(能登半島地震)災害時に広がる偽情報5つの類型 地震や津波に関するデマはどう拡散するのか
地震や津波、洪水など大きな災害が発生すると、偽情報や根拠のない情報が拡散します。事実と異なる投稿や不確かな救助要請は、本当に助けを必要としている人たちへの支援を遅らせたり、妨げたりする恐れがあります。拡散しがちな偽情報・誤情報のパターンを知って、支援を妨げないようにしましょう。 災害時の偽情報の5類型 実際と異なる被害投稿 災害時に最も多く見られるのが、偽の被害報告だ。2024年1月1日の能登半島地震では、2011年の東日本大震災の津波の映像を使って、まるで能登半島地震の被害のように投稿する事例が相次いだ(例1、例2、例3、例4、例5 、例6)。 例2と例3を投稿した2つのアカウントは添付動画は異なるが、投稿文言は同じで「津波到達になった瞬間NHKのアナウンサーがすごい怒鳴ってる!危機感の伝わってくるアナウンスなので北陸新潟能登半島の方逃げてください」と書かれている。投稿内容をコピーしたと見られる。 例5の投稿は「石川県能登に大津波警報逃げろ」という文言に「#東日本大震災」というハッシュタグもついている。映像は東日本大震災のものだと示唆しているように読

判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。

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高市氏を「褒める」偽・誤情報、今後どう変わるか/JFC検証など7本【今週のファクトチェック】

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政治に関する偽・誤情報には、対象となっている政党や政治家にとってプラスになるものもあれば、マイナスになるものもあります。単純に言えば、「褒める」か「貶す」のどちらかです。 自民党の高市早苗新総裁は、ネット上でも人気が高かった安倍晋三元首相の路線の継承者を自認し、高市氏自身もネットで人気の高い保守系政治家です。総裁に選ばれて注目度がさらに上がったことで、当然、偽・誤情報が流れています。 現在のところ、「褒める」傾向の拡散が多いのが特徴です。日本ファクトチェックセンター(JFC)が検証したまとめサイトからの偽・誤情報の見出しの冒頭に「朗報」とついているところが象徴的です。「貶す」方向性であれば、これが「悲報」になりがちです。 公明党が連立離脱を発表し、高市氏はいきなり厳しい立場に立たされています。少数与党で政権運営に苦労すれば、支持率が伸び悩み、批判も増えてくるでしょう。そうすると、偽・誤情報は「貶す」方向に転じていきます。その方が拡散するからです。 褒める内容であれ、貶す内容であれ、間違っているものは間違っています。まずは、事実関係の確認が不可欠です。(古田大輔)

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総理大臣が高市氏に代わるからトランプ政権が態度を変えた? 軽減措置など総裁選前から報道【ファクトチェック】

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