「ロシアはナチスと戦っているとCNNが結論」は不正確【ファクトチェック】

「ロシアはナチスと戦っているとCNNが結論」は不正確【ファクトチェック】

「ロシアがナチスと戦っているというプーチンの発言は正しいとCNNが結論」という内容のツイートが拡散しています。CNNの報道に基づくものですが、不正確です。ウクライナの義勇兵と著名なネオナチ関係者との繋がりに言及していますが、ロシアがナチスと戦っていると結論づけているわけではありません。

検証対象

「ロシアはネオナチと戦っているとCNNが認めた」という情報が拡散している(例1例2)。リツイート・引用リツイート数1400、表示回数17万1000件を超えているものもある(4月4日現在)。

画像

ロシアのプーチン大統領がウクライナ侵攻について「ナチズムのイデオロギーが現代的な形になり、再びロシアの安全を直接脅かしている」などと主張していることを肯定する内容だ。

このツイートのリプライ欄には、「アメリカではいろんなことが始まっているからな〜。日本でも遅かれ早かれそうなるよ」「あらら逃げに入ったのね…」といったコメントが寄せられている。

検証過程

検証対象のツイートに添付されている動画では、欧州を中心に活動する調査報道機関べリングキャットに所属するジャーナリストのツイートを紹介しつつ、以下の内容が述べられている。

  • ウクライナを支援するロシア系義勇軍が、極右活動家として有名なデニス・カプースチン氏に率いられている。
  • カプースチン氏はドイツに住んでいたこともあるロシア系のネオナチとされ、ドイツやウクライナのネオナチ勢力との関わりがある。

この動画はCNNの番組の一部を切り取ったものだ。内容をもとにYouTubeで検索すると元動画「 Military analyst says this is Ukraine's best course of action now 」が見つかる。

CNNの番組内では、検証対象のツイートに添付された動画の内容に続いて、キャスターが「プーチンの発言には事実も含まれているが、ウクライナ軍は無関係かもしれない。これは大きな問題ではないか」と問いかけている。

コメンテーターである軍事アナリストのセドリック・レイトン(Cedric Leighton)氏は「確かにその通り。彼はNPD党(ドイツの極右政党)の青年部のメンバーを訓練している」と認めつつ、「この戦争は、できるだけクリーンで民主的なイメージを見せることが重要です。ウクライナの大義にとって非常に不利になりかねない」と答えている。

つまりレイトン氏は、カプースチン氏の過去を認めつつ、ウクライナとネオナチが協力し合っているかどうかについては判断していない。その上で、このようなイメージが広がれば、ウクライナにとって不利だと述べている。

その後、ウクライナの戦況の話が続き、ウクライナが撤退したバフムートでの戦闘について、レイトン氏はロシアが局地的に勝利したとしても「あまりに注力しすぎており、結果として大きな損失になる可能性がある」とロシア側の厳しさを指摘している。

以上がCNNの元動画の内容だ。カプースチン氏は反プーチンとされているが、ウクライナ軍が組織する部隊には参加していないとの報道もあり、実態は不明だ。

判定

CNNの番組で、ウクライナとネオナチの関係性について触れたことは事実だが、出演したコメンテーターは、そのような情報が広まれば「ウクライナの大義にとって大きな問題だ」と指摘しただけで、「ロシアがネオナチと戦っている」とは発言していない。以上のことから「ロシアはネオナチと戦っているというプーチンの発言が正しいとCNNが結論」とするのは不正確。

あとがき

ウクライナにおけるネオナチについての情報は真実も含まれており、すべてが誤りではありません。ロシアはその点を指摘してウクライナ侵攻への正当性の根拠の一つとしてきました。

しかし、議論は事実に基づいてなされなければなりません。SNSで流れてくる動画や画像を拡散する際には、編集される前の動画を確認することをお勧めします。

検証:リサーチチーム
編集:古田大輔

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