LGBT差別禁止法があるのはG7でカナダだけ?カナダ以外の国にもLGBT差別を禁じる法律がある【ファクトチェック】

LGBT差別禁止法があるのはG7でカナダだけ?カナダ以外の国にもLGBT差別を禁じる法律がある【ファクトチェック】

「LGBT差別禁止法があるのはG7でカナダだけ」などの言説が拡散していますが不正確(ミスリード)です。実際には、G7各国に「性的指向」「性自認」に基づく差別を禁止する法律があります。

検証対象

「LGBT差別禁止法があるのはG7でカナダだけ」「日本だけないというのは誤り」などの言説は、複数の国会議員のツイートなどで拡散している(例1,例2)。表示回数が100万件を超えるものもある。

画像

投稿によって、「G7の中でLGBT差別禁止法がないのは日本だけというのは活動家の嘘」などの批判が広がっている。各国の法律を確認する。

検証過程

衆議院法制局は各国の法律を例示

「LGBT差別禁止法があるのはG7でカナダだけ」「日本だけないのは誤り」などの言説の根拠となっているのは、衆議院法制局が2023年4月28日に自民党の会合で示した資料だ。

画像

資料では、G7各国の法制度を憲法レベルと法律レベルで比較している。

憲法:いずれの国にも、憲法で差別禁止・平等原則に係る規定が存在する(成文憲法典のない英国を除く)。
法律:いずれの国にも、性的指向・性自認に特化して差別禁止を定める法律はない一般的な差別禁止・平等原則を定める法律の中で、性的指向・性自認に基づく差別も禁止されている。(資料も太字)

資料上部の「G7各国法制度比較のポイント」では「性的指向・性自認に特化して差別禁止を定める法律はない」という文言に印がつけられ、強調されている。しかし、すぐ下に「一般的な差別禁止・平等原則を定める法律の中で、性的指向・性自認に基づく差別も禁止されている」とも書かれている。

一覧表を見ると、日本・米国・ドイツを除く、英国・フランス・イタリア・カナダにはそれぞれ差別禁止の理由として「性的指向」を明文化した法律がある(カナダは「性自認」も明文化)ことを示す「◯」がつけられている。

具体的に見ていく。

カナダは「カナダ人権法」において、差別禁止の対象として「性的指向」「性自認」が明文化され、「雇用」「物品・サービスの提供」「宿泊施設」などの分野が例として挙げられている。

一方で、「性的指向」は、英国が「2010年平等法」、フランスが「差別との戦いの領域におおける共同体法の適用にかかる諸条項に関する2008年5月27日の法律2008−496号」、イタリアが「2003年7月9日委任立法216号」でカバーしている、と書いてある。

つまり、性的マイノリティに対する差別を禁止する法律が、G7の中でカナダ以外に、英国・フランス・イタリアにもあることを示している。ただし、この資料を見る限りでは「性自認」に◯がついているのはカナダだけ。これではカナダ以外の国では性自認に基づく差別を禁止する法律は無いようにも見える。実際はどうか。

各国の法律を見てみる。

「性的指向」「性自認」が差別禁止の理由に

イギリスの「2010年平等法」では、「性的指向」「gender reassignment(性別適合)」を差別禁止の理由に挙げている

フランスの「法律2008−496号」では、第1条で差別禁止の理由に「性的指向」「性自認」を列挙している

ドイツの「一般均等待遇法」では、労働環境や日常生活での「性別」や「性的指向」による差別を禁止している。「性別」は「全ての性別や性自認」を含んでおり、トランスジェンダーやインターセックスを事例に挙げている

性的マイノリティに関する世界中の法制度や権利をまとめたILGAワールドデータベースによると、イタリアでは、国レベルではないが「性的指向」「性自認」に基づく差別を禁止する法が地方レベルで存在する。

また、欧州では加盟国に対する法的拘束力を持つEU指令があり、2006年の「雇用及び職業における男女の機会均等・均等待遇に関する指令」で、「性別適合」に関連する差別を禁止している。

アメリカでは2019年時点で28州に「性的指向」や「性自認」に基づいた差別を禁止する法律がなかったが、2020年には連邦最高裁が性的マイノリティであることを理由に解雇することは公民権法に反するという判決を下した

林外相も「日本以外のG7は」と差別禁止の法令に言及

また、林芳正外相は2023年2月7日、閣議後の記者会見で、性的マイノリティをめぐる対応が遅れているとの指摘について、以下のように話している

「各国の取り組みと我が国の現状については、各国を取り巻く事情が異なることから一概に比較することは困難だ。日本以外のG7は、何らかの形の性的指向、性自認に基づく差別を禁止する法令および、同性婚法またはパートナーシップ制度を有しているものと承知している」

日本はLGBT差別禁止が法律レベルで明文化されていない

一方、日本を見てみる。憲法14条1項「すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」はあるが、「性的指向」「性自認」を差別禁止の理由として明文化した法律は存在しない。

2020年施行の改正労働施策総合推進法(パワハラ防止法)の指針には、パワハラの例として「相手の性的指向・性自認に関する侮辱的な言動を行うこと」「労働者の性的指向・性自認や病歴、不妊治療などの機微な個人情報について、当該労働者の了解を得ずに他の労働者に暴露すること」を挙げている。ただし、これは法律の条文ではなく「指針」だ。

判定

「性的指向・性自認に特化して差別禁止を定める法律はない」が、「一般的な差別禁止・平等原則を定める法律の中」で性的指向・性自認を差別禁止の理由として明示している法律は各国に多数ある。以上のことから、「LGBT差別禁止法があるのはG7でカナダだけ」「日本だけないというのは誤り」というのは不正確(ミスリード)。

あとがき

OECDレインボー白書(2020)によると、性的少数者(LGBTI)の差別からの保護や同性パートナーシップなどの「法的包摂性」において、日本はトルコや韓国と並んで「最も消極的な国」と指摘されています。

「LGBT差別禁止法があるのはG7でカナダだけ」という言説からは、「カナダだけがLGBT差別禁止に熱心で、他の国は日本と変わらない」という印象を受けますが、G7の中で唯一、同性婚の法制化や国レベルの同性パートナーシップ制度がなく、差別禁止の法律もない日本は他のG7諸国とは大きく異なります。

検証:古田大輔
編集:宮本聖二、藤森かもめ

検証手法や判定基準などに関する解説は、JFCサイトのファクトチェック指針をご参照ください。

「ファクトチェックが役に立った」という方は、シェアやいいねなどで拡散にご協力ください。誤った情報よりも、検証した情報が広がるには、みなさんの力が必要です。

X(Twitter)FacebookYouTubeInstagramなどのフォローもよろしくお願いします。またこちらのQRコード(またはこのリンク)からLINEでJFCをフォローし、真偽が気になる情報について質問すると、AIが関連性の高い過去のJFC記事をお届けします。詳しくはこちらの記事を

もっと見る

斎藤知事は「全国知事会議」の出席率36%? 2つの会議を混同【ファクトチェック】

斎藤知事は「全国知事会議」の出席率36%? 2つの会議を混同【ファクトチェック】

兵庫県の斎藤元彦知事が、百条委員会の尋問を欠席して政府主催の全国知事会議に出席すると報じられました。この件について「斎藤知事のこれまでの全国知事会議出席率=36%」という主張が拡散しましたが、誤りです。全国の知事が集まる会議には、斎藤知事が今回出席する政府主催の「全国都道府県知事会議」と、全国知事会が主催する「全国知事会議」があり、拡散した表は全国知事会主催の出欠です。斎藤知事1期目の全国都道府県知事会議への出席率は約7割です。 検証対象 2024年11月19日、「斎藤知事のこれまでの全国知事会議出席率=36%」という投稿が拡散した。投稿には「全国知事会議 知事出席状況」という表が添付され、斎藤知事は1期目の2021年8月30日から2024年8月2日までの11回中4回出席(出席率36%)したことになっている。 投稿は2024年11月22日時点で約6000件のリポストと約230万件のインプレッションを獲得している。 「今まで通り休むべき。百条委員会の方が大切だ」「2期目当選して最初の知事会、最優先に決まってるやろ」と賛否のコメントが付く一方で、「今回は政府主

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
「(斎藤知事の)パワハラはなかった」と百条委の委員長が発言? 前後の文脈を無視した切り取り動画【ファクトチェック】

「(斎藤知事の)パワハラはなかった」と百条委の委員長が発言? 前後の文脈を無視した切り取り動画【ファクトチェック】

兵庫県知事選で再選した斎藤元彦知事をめぐって、百条委員会(調査特別委員会)の奥谷謙一委員長が「パワハラはなかった」と発言したという動画付きの言説が拡散しましたが、不正確です。拡散した動画は発言の一部を切り取ったもの。奥谷委員長は拡散した動画の発言後、「厳しい叱責を受けたという人はいたか?」と問われて「整理できていないが、『厳しい叱責を受けたことがある』と答えた人は結構おられたと思う」と説明。パワハラに当たるかどうか評価したいと答えています。 検証対象 2024年11月19日、「奥谷委員長が発言してます。パワハラはなかったと」という言説が拡散した。 添付された25秒間の動画では、奥谷委員長が記者から、この日の証人尋問に呼ばれた6人について「パワハラを受けたという人は何人いるのか」という質問を受け、「私の認識では明確に知事の方からパワハラを受けたという方はいらっしゃらなかった」と答えている。 2024年11月20日現在、この投稿は180件以上リポストされ、表示回数は32万回を超える。投稿について「これが正解」「まだ言うかね」というコメントがつく一方で、「そんな

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
アメリカでは帰化して三世代おかないと政治家になれない? 大統領や連邦議会議員に親の国籍は関係ない【ファクトチェック】

アメリカでは帰化して三世代おかないと政治家になれない? 大統領や連邦議会議員に親の国籍は関係ない【ファクトチェック】

「アメリカでは帰化して三代、間におかないと政治家になれない」という言説が拡散しましたが、誤りです。大統領や連邦議会上下院議員になるために、年齢や在住期間の規定はありますが、親の国籍は関係ありません。また、添付画像は日本に関する「帰化した国会議員」のリストですが、実際に帰化した人物はわずかで、ほとんどが誤ったものです。 検証対象 2024年11月3日、X(旧Twitter)で「米国では帰化してから3代間にないと選挙に出られない、つまり政治家になれない」という言説が拡散した。11月19日現在、230万以上の閲覧と1万件を超えるコメントがついている。 コメントには「日本も規制した方がいいですね」「日本も帰化3世までは立候補出ないようにする必要がある」などと同調する意見が続く一方で、「米国で、流石に三世代はないです。」という指摘もある。 検証過程 大統領と連邦議会上下院議員の資格要件を調べると、合衆国憲法に規定がある。 米国大統領の資格要件 合衆国憲法では、大統領は年齢35歳以上であること、生まれながらのアメリカ国民であること、最低14年間アメリカに居住

By 宮本聖二
潜在的な国民負担率は62.9%? 過去のデータで現在は改善【ファクトチェック】

潜在的な国民負担率は62.9%? 過去のデータで現在は改善【ファクトチェック】

「財務省『潜在的国民負担率、62.9%に達しちゃった』」という言説が拡散しましたが、ミスリードで不正確です。2020年にはそのレベルに達していますが、現在は改善傾向で50%台です。 検証対象 2024年11月12日、「財務省『潜在的国民負担率、62.9%に達しちゃった』」「1日8時間働いて5時間分は国に取られる。五公五民どころじゃねーな」という言説が拡散した。投稿にはまとめサイトのリンクが添付されている。 2024年11月12日現在、この投稿は1.1万件以上リポストされ、表示回数は185万回を超える。投稿について「財務省が全国民の敵」「働くの馬鹿みたい」というコメントが付く一方で「公式の報道機関やニュースサイトではありません」というコミュニティノートも付いている。 検証過程 国民負担率と潜在的国民負担率 国民負担率とは、国民の所得に占める税金や年金、社会保険料などの負担の割合だ。租税負担率と社会保障負担率を合計したものを国民負担率、これに財政赤字を加えたものを潜在的な国民負担率という(財務省)。 2023年投稿のまとめサイト記事を引用 検証対

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)