猛毒の高濃度放射能汚染水を来年から放出?【ファクトチェック】

猛毒の高濃度放射能汚染水を来年から放出?【ファクトチェック】

福島第一原発事故の処理水をめぐり、来年(2024年)から海洋放出されるのは「全体の7割を超える猛毒の高濃度放射能汚染水」という言説が拡散しましたが、誤りです。放射線が基準値を超えている場合、放出前に処理を繰り返して基準値以下にする計画です。

検証対象

福島第一原発事故の処理水放出をめぐって「問題なのは来年から放出を始める全体の7割を超える猛毒の高濃度放射能汚染水の話なんだよ!」というポストが拡散している。10月2日現在21万以上の表示、リポストは2100以上になっている。

画像

返信欄では「おっしゃる通り」や「1ヶ月経過も影響ないからってこの先安心ってわけじゃない」などの反応があった。

検証過程

日本ファクトチェックセンター(JFC)では、これまでも福島第一原発の処理水に関するファクトチェックを実施してきた。今回は来年(2024年)から放出を始める処理水が「猛毒の高濃度放射能汚染水」かを検証する。

国や東京電力は、福島第一原発の事故で溶け落ちた核燃料を冷却するために使用され、放射性物質を含む水を「汚染水」、そこから多核種除去設備(ALPS)を使ってトリチウムを除く62種類の放射性物質を国の安全基準まで取り除いた水を「処理水」と表現している(東京電力「『汚染水』『処理水』とは」)。

ただし、処理をされた後にも基準を上回っている例が大量に存在することが判明している。環境省は以下のように説明している。

検証対象の言説は、この7割の基準値超えの貯蔵水が「猛毒の高濃度放射能汚染水」で「来年から放出される」と主張しているようだが、この貯蔵水はそのまま海洋放出されるわけではない。環境省は同じサイトで以下のように説明している。

海洋放出する際には、「敷地内で保管する場合の規制基準」よりもさらに厳しい「環境に放出する場合の規制基準」を満たすように、再度ALPS又は逆浸透膜装置を使った浄化処理(二次処理)が行われます。

つまり、タンク内の水をそのまま放出するのではなく、ALPSなどの装置を用いてトリチウムを除く62種類の核種を安全基準を下回るまで浄化した後、トリチウムも海水で安全基準以下に薄めてから放出する。これは第1回の放出に限ったことでなく、今後の放出(第2回は23年10月5日から)も同様だ。

判定

放射性物質が基準値を超えているタンク内の貯蔵水は、そのまま放出されるのではなく、基準を満たすように再度処理してから放出する計画。よって、言説は誤り。

検証:本橋瑞紀
編集:古田大輔、宮本聖二

福島第一原発の処理水と汚染水の違いは何?海洋放出は危険?【ファクトチェックまとめ】
日本政府が夏ごろに始める方針を示している福島第一原発の処理水の海洋放出に関して、国内外で不確かな情報が拡散しています。処理水とは何か。環境への影響は。ファクトチェックのポイントをまとめました。 ※新たな誤情報の検証を更新していきます(最終更新2023年12月13日)。 参照資料は、各省庁や東京電力から、また、2023年7月4日に公開された国際原子力機関(IAEA)の「福島第一原子力発電所ALPS処理水の安全審査に関する包括的報告書(以下、IAEA報告書)」などです。 処理水か汚染水か 2011年3月11日の東日本大震災による津波で、福島第一原発ではウラン燃料を冷やすことができなくなる事故が起きました。燃料は格納容器内で溶け、今も温度を下げるための冷却水をかけ続けています。使用された水は放射性物質で汚染され、雨水などと混ざって毎日約90トンずつ増えています。これを「汚染水」と呼びます。 汚染水は原発の施設内に並ぶ1000基を超える巨大タンクに貯められますが、2024年の前半にはタンク容量に限界が来る見込みです。日本政府は、トリチウムを除く62種類の放射性物

判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。

毎週、ファクトチェック情報をまとめて届けるニュースレター登録(無料)は、上のボタンから。また、QRコード(またはこのリンク)からLINEでJFCをフォローし、気になる情報を質問すると、AIが関連性の高いJFC記事をお届けします。詳しくはこちら

もっと見る

北九州市が50万人のインド人を受け入れ? 全国規模の双方向交流【ファクトチェック】

北九州市が50万人のインド人を受け入れ? 全国規模の双方向交流【ファクトチェック】

「北九州市で 50万人のインド人受け入れが進められてる」という言説が拡散しましたが、誤りです。5年間かけて日本とインドが進める全国規模の双方向交流と混同したものです。北九州市にも交流プログラムはありますが「具体的に何人という話ではない」と説明しています。 検証対象 拡散した言説 「北九州市がインド人50万人を受け入れる」という情報は、遅くとも2025年9月ごろから何度も拡散している(例1、例2、例3)。 2025年11月29日の動画付き投稿では「北九州市で50万人のインド人受け入れが進められている」「インド政府と懇談して交流促進を確認した」「10兆円投資する」などと語られている。 検証する理由 2025年12月1日現在、この投稿だけでも3800件以上リポストされ、表示回数は25万回を超える。同様の投稿は遅くとも9月頃から複数のプラットフォームで何度も拡散している。 投稿について「マズい話が進められてますよ」「インド人が50万人も受け入れたらヤバいことに」というコメントの一方で「国の相互交流として50万人」という指摘もある。 検証過程 イン

By 木山竣策
フィルターバブルとは【JFC用語解説】

フィルターバブルとは【JFC用語解説】

フィルターバブルとは、フィルター(膜)がバブル(泡)のように周りをつつみ、そのフィルターを通ってきたコンテンツ(記事や動画など)ばかりを目にする状態を意味します。 ここでフィルターとなっているのが、YouTubeやXなどインターネットの情報プラットフォームのアルゴリズムです。 例えば、あなたが料理動画、それも日本の食べ歩きが好きで、YouTubeでそういった動画をよく見ているとします。 そうすると、YouTubeのアルゴリズムは、あなたがそういった動画チャンネルを登録し、何度も長い時間見ているデータを分析し、同じような食べ歩き動画をどんどん届けるようになります。結果、あなたはそれ以外の動画を見る時間が減る。これがフィルターバブルです。 アルゴリズムとはコンピューターが効率よく仕事を処理するための手順書のようなもので、別途、「アルゴリズム」の用語解説を御覧ください。

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
情報の検証スキル競う「ユースファクトチェック選手権」に昨年上回る194人参加 5チームが世界大会へ

情報の検証スキル競う「ユースファクトチェック選手権」に昨年上回る194人参加 5チームが世界大会へ

中高生から大学生らを対象に、情報検証スキルを競うオンラインイベント「ユースファクトチェック選手権(英語名:GenAisa Challenge Challenge)2025」の国内大会が11月29日、開催されました。 日本ファクトチェックセンター(JFC)と学生スタートアップClassroom Adventureが共催し、全国から昨年を上回る75チーム194人が参加しました。 情報検証のスキルを実践的に学ぶ国際的イベント 選手権は日本、台湾、タイ、モンゴル、インドのファクトチェック団体が共同で企画した国際的な取り組みで、2024年に続き2回目。参加者はネット上の情報を効率的かつ正確に検証する技術を学び、それを実践する課題に挑戦しました。 日本では、まず11月22日にキックオフイベントとして、Classroom Adventureが提供する謎解きゲーム「レイのブログ」を通じて情報の検証スキルを学習。JFC編集長の古田大輔がファクトチェックにとどまらないクリティカルシンキングの重要性を解説しました。 検索やジオロケーションなど駆使して解答 11月29日に国

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
中国からの食料輸入がなくなったら日本の食卓はイモだらけ? 中国からの輸入は一部【ファクトチェック】

中国からの食料輸入がなくなったら日本の食卓はイモだらけ? 中国からの輸入は一部【ファクトチェック】

中国からの食料輸入が途絶えたら、日本の食卓はイモだらけになると示唆した画像が拡散しましたが、ミスリードで不正確です。拡散した画像は、日本が食料を輸入せずに100%自給した場合の食卓です。中国からの食料輸入が途絶えただけで、拡散した画像のような食卓になるわけではありません。 検証対象 拡散した言説 2025年11月17日、「中国が日本への食料を止めたら、日本の食卓はこうなります。」という文言付きの画像がXで拡散した。 検証する理由 12月1日現在、投稿は3300回以上リポストされ、表示は442万件を超える。 投稿には「根拠を教えて下さい」「これは、農林水産省が示した『もし日本が輸入に一切頼らず国内だけでカロリー計算するとどうなるか』という極端なシミュレーションだ」などの指摘もあるが、「ご飯と梅干しに味噌汁があれば十分」「中国が止めてくれたら、その手間が省けていいわ」など、拡散した情報をうのみにしたコメントも多い。 検証過程 元画像は「食料自給率を100%にした場合の日本の食事」 添付画像をGoogleレンズで検索すると、朝日新聞の2022年

By 根津 綾子(Ayako Nezu)

ファクトチェック講座

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、ファクトチェックやメディア情報リテラシーに関する講師養成講座を月に1度開催しています。講座はオンラインで90分間。修了者には認定バッジと教室や職場などで利用可能な教材を提供します。 次回の開講は12月20日(土)午後2時~3時30分で、お申し込みはこちら。 https://jfcyousei1220.peatix.com 受講条件はファクトチェッカー認定試験に合格していること。講師養成講座は1回の受講で修了となります。 受講生には教材を提供 デマや不確かな情報が蔓延する中で、自衛策が求められています。「気をつけて」というだけでは、対策になりません。最初から騙されたい人はいません。誰だって気をつけているのに、誤った情報を信じてしまうところに問題があります。 JFCが国際大学グロコムと協力して実施した「2万人調査」では実に51.5%の人が誤った情報を「正しい」と答えました。一般に思われているよりも、人は騙されやすいという事実は、様々な調査で裏打ちされています。 JFCではこれらの調査をもとに、具体的にどのような知

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、YouTubeで学ぶ「JFCファクトチェック講座」を公開しました。誰でも無料で視聴可能で、広がる偽・誤情報に対して自分で実践できるファクトチェックやメディアリテラシーの知識を学ぶことができます。 理論編と実践編の中身 理論編では、偽・誤情報の日本での影響を調べた2万人調査の紹介や、間違った情報を信じてしまう背景にある人間のバイアス、大規模に拡散するSNSアルゴリズムなどを解説しています。 実践編では、画像や動画や生成AIなど、偽・誤情報をどのように検証したら良いかをJFCが検証してきた事例から具体的に学びます。 JFCファクトチェッカー認定試験を開始 2024年7月29日から、これらの内容について習熟度を確認するJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。誰でもいつでも受験可能です(2024年度中は受験料1000円、2025年度から2000円)。 合格者には様々な技能をデジタル証明するオープンバッジ・ネットワークを活用して、JFCファクトチェッカーの認定証を発行します。 JFCファクトチェッカー認定試験

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
JFCファクトチェッカー認定試験

JFCファクトチェッカー認定試験

日本ファクトチェックセンター(JFC)はJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。YouTubeで公開しているファクトチェック講座から出題し、合格者に認定証を授与します。 拡散する偽・誤情報から身を守るために 偽・誤情報の拡散は増える一方で、皆さんが日常的に使用しているSNSや動画プラットフォームに蔓延しています。偽広告や偽サイトへのリンクなどによる詐欺被害も広がっています。 JFCが国際大学グロコムと実施した2万人を対象とする調査では、実際に拡散した偽・誤情報を51.5%の割合で「正しいと思う」と答え、「誤っている」と気づけたのは14.5%でした。 自分が目にする情報に大量に間違っているものがある。そして、誰もが持つバイアスによって、それが自分の感覚に近ければ「正しい」と受け取る傾向がある。インターネットはその傾向を増幅する。 だからこそ、ファクトチェックやメディアリテラシーに関する知識が誰にとっても必須です。 JFCファクトチェック講座と認定試験 JFCファクトチェック講座(YouTube, 記事)は、2万人調査を元に偽・誤情報の拡散経路や

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)