性別変更「男ですと言ったら男になれる。女ですと言ったら女になれる」?【ファクトチェック】
岡山家裁津山支部が性別適合手術を望まない申立人の性別変更を認めたことについて、「男ですと言ったら男になれる。女ですと言ったら女になれる」との言説が拡散しましたが、誤りです。性別変更には複数の条件が必要で、性自認のみで性別の変更はできません。
検証対象
2024年2月7日、「男ですと言ったら男になれる。女ですと言ったら女になれる」という投稿が拡散した。
この投稿は2024年2月15日時点で3300回リポストされ、表示回数は140万回を超える。
返信欄には「言ったもん勝ち」「これで困るのは、女性」との声の一方で、「手術受ける時って、受けたいから受けれるでもなく、専門医師の審査何度もあって、心折れるぐらいの難関審査くぐってやっと受けれるのです。それと同等審査を経ての申立てであれば、おいそれクリアできません」などの指摘もある。
検証過程
言説の背景
この投稿は、KSB瀬戸内海放送の2024年2月7日の記事を引用し、「男ですと言ったら男になれる。女ですと言ったら女になれる」と、性自認のみで性別変更が認められていると主張している。引用元の記事は、トランスジェンダーの申立人が戸籍上の性別を女性から男性に変更することを求め、岡山家裁津山支部が性別変更を認めたことを伝えるものだ。
最高裁は2023年10月、別の申立人(戸籍上は男性)の審判で、性別変更には生殖機能をなくすことを必要とする法律の要件は「違憲」だと判断した。これを受けて、今回の申立人は2023年12月に2度目の申し立てをしていた。
性別変更の要件とは
現在、戸籍上の性別を変更するには「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律(特例法)」が掲げる要件を満たさなければいけない(下表参照)。ただし、「生殖不能要件」は2023年10月25日の最高裁決定で違憲無効になった。
最高裁決定後も外観要件は残っている。この要件については、トランスジェンダー男性(戸籍上は女性)がトランスジェンダー女性(戸籍上は男性)よりも満たしやすいとされている(朝日新聞)。
最高裁決定に先立つ2023年10月の静岡家裁浜松支部の決定では、生殖不能要件を違憲無効としたうえで、トランスジェンダー男性の申立人が乳腺摘出手術を受けホルモン療法などによって外観要件を満たしているとして、戸籍上の性別の変更を認めた。
戸籍上の性別を男性から女性に変更する場合、外観要件を満たすには陰茎等を切除する手術は事実上避けられない。2023年の最高裁決定では申立人(戸籍上は男性)の性別変更が認められず、外観要件についての審理が高裁に差し戻されている(NHK)。
判定
二人以上の医師から医学的知見に基づく一致した診断を受けることや外観要件など、性別変更には複数の条件が法で定められており、性自認のみで性別は変更できない。したがって「男ですと言ったら男になれる。女ですと言ったら女になれる」は誤り。
あとがき
今回の投稿やYahoo!ニュースのコメントには「心は女だと言えば女湯を利用できる」という内容の投稿が多数あります。しかし、厚生労働省の見解は異なります。
2023年4月28日の衆議院内閣委員会では厚労省の佐々木昌弘審議官が公衆浴場などについて「トランスジェンダーの方も含め、身体的な特徴の性をもって判断するものであり、公衆浴場等の営業者は、体は男性、心は女性の方が女湯に入らないようにする必要がある」と答弁しています。
さらに厚労省は6月、公衆浴場における男女の区別について「風紀の観点から混浴禁止を定めている趣旨から、身体的な特徴をもって判断する」との通知を出しました。
日本ファクトチェックセンター(JFC)は、トランスジェンダーが戸籍上の性別を変更することに関連した言説を過去にも検証しています(検証1、検証2)。またJFCは、「トランスジェンダー」の表現を用いることについての見解も公表しています。
検証:住友千花、高橋篤史
編集:野上英文、宮本聖二、藤森かもめ、古田大輔
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