ゼレンスキー大統領がチャールズ3世の邸宅を購入したと英国が発表?【ファクトチェック】

ゼレンスキー大統領がチャールズ3世の邸宅を購入したと英国が発表?【ファクトチェック】

ウクライナのゼレンスキー大統領が英国のチャールズ国王から邸宅を購入したとの言説が広まりましたが、誤りです。英国政府や王室の発表はありません。

検証対象

2024年4月4日、「英国はゼレンスキー氏がチャールズ3世の邸宅を購入したと発表した」というポストが、邸宅の写真付きで拡散した。拡散したポストは、4月16日現在で15.1万回以上の表示回数と320件以上のリポストを獲得している。

引用元は「ロンドン・クライヤー」(The London Crier)と名乗る英文のウェブサイトで、ゼレンスキー大統領とチャールズ国王が握手する様子や邸宅の写真も掲載している。

検証過程

英国はハイグローブ邸が売却されたと発表していない

ロンドン・クライヤーの記事によると、ゼレンスキー大統領に売却したとされるのは英国南西部のグロスターシャー州にあるチャールズ国王所有のハイグローブ邸(Highgrove House)だ。

英国王室の公式サイトや英国政府の公式サイトでは4月15日時点で、国王や王室がゼレンスキー大統領にハイグローブ邸を売却したという発表はない。

ハイグローブ邸の公式サイトにも売却したとは書かれていない。同サイトによると、この邸宅は英国王チャールズ3世とカミラ王妃の私邸(the private residence)だ。毎年3月から10月にかけて一般公開されており、2024年4月15日現在も見学の予約ができる。

引用元は信ぴょう性の低い「ロンドン・クライヤー」

拡散したポストは、ロンドン・クライヤー(The London Crier)というサイトの記事を日本語へ翻訳して引用しているが、サイト内に媒体の説明がない。

引用元の記事の執筆者は匿名で、記事内で引用されている動画(元動画は現在視聴不可)もチャンネル登録者が310人という個人チャンネルだ。

ロンドン・クライヤーのサイトの一部に「Create your beautiful website with Zeen now(今すぐZeenで美しいWebサイトを作りましょう)」といったWebサイト制作用のテンプレートがそのまま残されている箇所があることから、codetipi社の「Zeen」というサービスで制作されたサイトであることがわかる。

また、米国のファクトチェック団体Snopesによると英国のサイトであるにも関わらずロシア語で書かれた記事もある。サイトの下部には「1863-2023」と、1863年創刊で2023年もサイトが存在していたとも読める箇所があるが、サイトのドメイン情報を「ViewDNS.info」で検索すると、2024年3月26日にドメイン登録されたことがわかった。このように、ロンドン・クライヤーは英国のメディアとして非常に信ぴょう性が低いサイトであるといえる。

Webページのテンプレートがそのままになっている(左)、「1863‐2023」とあるがドメイン登録されたのは2024年3月26日(右)

このサイトの記事に対して、ウクライナ国家安全保障・国防会議の偽情報対策センター(Center for Countering Disinformation)のポストやウクライナ国営通信社UKRINFORMの報道は、「ロシアのプロパガンダで誤り」と伝えている。「Snopes」も英語圏で拡散している同様の言説をファクトチェックし、「False(誤り)」と判定している。

ドイツの国際放送ドイチェ・ベレ(DW)も2024年4月10日、「ゼレンスキーはチャールズ国王のハイグローブ・ハウスを購入したのか?」というファクトチェック記事を配信。「Fake(偽物)」だと判定している。

なお、日本ファクトチェックセンター(JFC)は英国大使館に真偽を取材したが、2024年4月15日までに返信は無かった。

判定

「英国は、ゼレンスキー氏がチャールズ3世の邸宅を購入したと発表した」は誤り。英国政府は発表していない上、購入したとされる邸宅はこれまで通り一般公開をしている。さらに、言説が情報源だとするサイトは信ぴょう性が低いため、誤りであると判定した。

検証:鈴木優、高橋篤史
編集:宮本聖二、野上英文、藤森かもめ

判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。検証記事を広げるため、XFacebookYouTubeInstagramでのフォロー・拡散をよろしくお願いします。毎週、ファクトチェック情報をまとめて届けるニュースレター登録(無料)は、上のボタンからどうぞ。

また、QRコード(またはこのリンク)からLINEでJFCをフォローし、気になる情報について質問すると、AIが関連性の高い過去のJFC記事をお届けします。詳しくはこちらの記事を

もっと見る

Metaがファクトチェックプログラムの廃止を発表/トランプ新政権めぐり繰り返される偽情報【今週のファクトチェック】

Metaがファクトチェックプログラムの廃止を発表/トランプ新政権めぐり繰り返される偽情報【今週のファクトチェック】

FacebookやInstagramを運営するMetaがこれまで進めてきたファクトチェック・プログラムを廃止し、コンテンツ規制を緩める方針を発表しました。ザッカーバーグCEOが表明した6つの新施策について詳しく解説しました。その他、韓国の飛行機事故、ワクチンなどのファクトチェック記事を紹介します。 ✉️日本ファクトチェックセンター(JFC)がこの1週間に出した記事を中心に、その他のメディアも含めて、ファクトチェックや偽情報関連の情報をまとめました。同じ内容をニュースレターでも配信しています。登録はこちら。 JFCからのニュース Metaのファクトチェックとコンテンツ規制に関する方針転換に対する公開書簡 Facebook、Instagram、Threadsを運営するMetaが現状のファクトチェック・プログラムを廃止し、コンテンツ規制を緩める方針を発表しました。マーク・ザッカバーグCEOは「検閲が過剰だ」とその理由を述べ、これまでパートナーシップを結んできたファクトチェック団体を「政治的に偏り、信頼を生むよりも壊してきた」と説明しました。 世界中のファクト

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
SNSはフェイクとヘイトの巣になるか Metaの方針転換とXが示すファクトチェックとコンテンツ規制の未来

SNSはフェイクとヘイトの巣になるか Metaの方針転換とXが示すファクトチェックとコンテンツ規制の未来

FacebookやInstagramなどを運営するMetaが「ファクトチェックを廃止する」と話題になっています。公式の発表では「第三者とのファクトチェックプログラムを廃止する」。実際には何がどう変わるのか。より影響の範囲が大きい「コンテンツ調整」の問題とともに解説します。 Metaの偽・誤情報対策は自社によるものと第三者によるものがあった 今回の動きを理解するためには、そもそもMetaがこれまでどのように偽情報やヘイトスピーチなどに対応してきたかを知る必要がある。外部のファクトチェック団体と協力する「第三者ファクトチェックプログラム」とMeta自身による「コンテンツ調整」の2つだ。 Metaの「コンテンツ調整」とその課題 Facebookを利用していて「投稿が削除された」という経験がある人もいるだろう。これを「ファクトチェック」と誤解している人がいるが違う。これはMetaが自社のテクノロジーで実施しているもので「Content Moderation(コンテンツ調整)」と呼ばれる。 コンテンツ調整とは、あるコンテンツを削除したり、拡散量を減らしたり、逆に

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
Metaのファクトチェックとコンテンツ規制に関する方針転換に対する公開書簡

Metaのファクトチェックとコンテンツ規制に関する方針転換に対する公開書簡

Facebook、Instagram、Threadsを運営するMetaが現状のファクトチェック・プログラムを廃止し、コンテンツ規制を緩める方針を発表しました。マーク・ザッカバーグCEOは「検閲が過剰だ」とその理由を述べ、これまでパートナーシップを結んできたファクトチェック団体を「政治的に偏り、信頼を生むよりも壊してきた」と説明しました。 世界中のファクトチェック団体を認証している国際ファクトチェックネットワーク(IFCN)は、この決定と発言に対して公開書簡を出しました。日本ファクトチェックセンター(JFC)を含む多数のファクトチェック団体も署名しています。JFCとして日本語訳し、こちらに掲載します。 IFCNの公開書簡(2025年1月9日) 拝啓 ザッカーバーグ様、 9年前、私たちはFacebook上の虚偽情報によって引き起こされる現実世界での被害についてあなたに公開書簡を書きました。それに応じて、Metaはファクトチェックプログラムを立ち上げ、数百万人のユーザーをデマや陰謀論から保護しました。今週、あなたは「検閲が過剰である」との懸念から、アメリカ国内で

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
ロバート・ケネディ・ジュニア氏が全製薬会社に最高裁で勝訴?繰り返し拡散する偽情報【ファクトチェック】

ロバート・ケネディ・ジュニア氏が全製薬会社に最高裁で勝訴?繰り返し拡散する偽情報【ファクトチェック】

ロバート・ケネディ・ジュニア氏が「全製薬会社を相手に勝訴」と主張する英文の画像つきの日本語投稿が拡散しましたが誤りです。2022年10月に投稿された偽情報で、これまでに何度も拡散して検証されています。 検証対象 2025年1月3日、「ロバート・ケネディ・ジュニア氏が全ての製薬会社ロビイストを相手に勝訴した」という情報が拡散した。日本語の投稿だが英文の画像付き投稿を引用している。 画像の見出しはBreaking(速報)。「ロバート・F・ケネディ・ジュニアが全ての製薬会社ロビイストに勝訴した。この判決で最高裁は、新型コロナウイルスのmRNAワクチンによる損害が回復不能であることを確認した」と英文で書かれている。 この投稿は21万を超える閲覧と1100以上のリポストを獲得している。「新年早々素晴らしいニュースですね」「素晴らしい情報をありがとうございます」という書き込みの一方で、「デマ情報ポストして良いのか」などの反応も多い。 検証過程 アメリカ最高裁の判決文は  米国最高裁アーカイブで検索できるが、ワクチンの安全性をめぐってロバート・ケネディ・ジュニア氏

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)