ウクライナに支援してもゼレンスキーの別荘になるだけ? 再拡散【ファクトチェック】

ウクライナに支援してもゼレンスキーの別荘になるだけ? 再拡散【ファクトチェック】

ゼレンスキー大統領が英国王室の別荘を購入したとする言説が拡散しましたが、誤りです。この言説は以前にも検証し、誤りだと判定しています。

検証対象

2024年5月15日、「ウクライナに支援してもゼレンスキーの別荘になるだけ」という文言と邸宅の空撮画像をのせたポスト①が拡散した。「ゼレンスキー夫人の名義で英国王室から邸宅を購入した」と主張するポスト②のスクリーンショットもポスト③されている。

5月23日時点で、ポスト①は75万回以上の表示回数と2300件以上のリポストを獲得。同様に、ポスト②は67万回以上の表示回数と4200件以上のリポストを獲得し、ポスト③は1.4万回以上の表示回数を獲得している。

検証過程

日本ファクトチェックセンター(JFC)は今回拡散した言説と類似する言説を過去にも検証し、「誤り」と判定している。再度の拡散に合わせて再び検証した。

英国王邸、売却の形跡なし

邸宅の空撮画像をGoogle画像検索したところ、英国南西部のグロスターシャー州にあるチャールズ国王所有のハイグローブ邸(Highgrove House)という結果が出た。

ポスト①の画像、Highgrove Houseという検索結果が出た

今回拡散しているポスト①が根拠にしているポスト②ポスト③でも、購入された邸宅はイギリスのHighgrove Houseだとしている。

英国王室の公式サイトや英国政府の公式サイトでは5月23日時点で、国王や王室がゼレンスキー大統領にハイグローブ邸を売却したという発表はない。

ハイグローブ邸の公式サイトにも売却したとは書かれていない。同サイトによると、この邸宅は英国王チャールズ3世とカミラ王妃の私邸(the private residence)だ。毎年3月から10月にかけて一般公開されており、2024年5月23日現在も見学の予約ができる。

「邸宅購入」の誤った言説は過去にも拡散した

ウクライナ国営通信社UKRINFORMの報道は、「ロシアのプロパガンダで誤り」と伝えている。「Snopes」も英語圏で拡散している同様の言説をファクトチェックし、「False(誤り)」と判定している。

France24が運営するThe Observersは4月9日、今回と同様の言説をファクトチェックして「誤り」と判定。ドイツの国際放送ドイチェ・ベレ(DW)も2024年4月10日、「ゼレンスキーはチャールズ国王のハイグローブ・ハウスを購入したのか?」というファクトチェック記事を配信。「Fake(偽物)」だと判定している。

判定

「ウクライナに支援してもゼレンスキーの別荘になるだけ」は誤り。英国政府は邸宅の売却について発表していないうえ、購入したとされる邸宅はこれまで通り一般公開されている。

検証:リサーチチーム
編集:古田大輔


判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。

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