能登半島地震「二次避難をすると仮設住宅の抽選から漏れる」?【ファクトチェック】

能登半島地震「二次避難をすると仮設住宅の抽選から漏れる」?【ファクトチェック】

能登半島地震で被災した珠洲市で「二次避難をすると仮設住宅の抽選から漏れる」という情報が拡散しましたが、誤りです。市は仮設住宅への入居について「抽選は予定していない」と話しています。

検証対象

2024年1月25日、Facebook上の珠洲市の災害情報を共有するグループに「二次避難などして、今いるところを出てしまうと仮設住宅の抽選から漏れる。この話は本当ですか?」との投稿があった。グループには3800人以上が参加しており、この言説は避難者の間で話題になっているという。

コメントには、「大ウソです」「市のhpを見る限り『申込書の記載内容をもとに入居地区や順序を決定します。』とあり『この条件では抽選から漏れる』というような記載は見当たりません」と、この言説の信憑性の低さを指摘するコメントが複数ある。

検証過程

珠洲市のウェブサイトでは、仮設住宅への入居者について以下の要件を公開している。

応急仮設住宅:今回の地震で居住していた家が全壊等の被害を受けて自らの力で住宅を確保できない方。

みなし仮設住宅:

  1. 住宅が全壊、全焼または流失し、居住する住宅がない者
  2. 半壊(「中規模半壊」、「大規模半壊」を含む。)であっても、住宅として再利用できず、やむを得ず解体を行う者
  3. 二次災害等により住宅が被害を受ける恐れがある、ライフライン(水道、電気、ガス、道路等)が途絶している、地滑り等により避難指示等を受けているなど、長期にわたり自らの住宅に居住できないと市町長が認める者
  4. 災害救助法に基づく住宅の応急修理制度を利用する者のうち、修理に要する期間が1か月を超えると見込まれる者(半壊以上の被害を受け、他の住まいの確保が困難な者に限る。)
  5. その他、国と県の協議により、やむを得ず入居すべきと認められた者

日本ファクトチェックセンター(JFC)が珠洲市に取材したところ、担当者は以下のように説明した。

「抽選は行いません。入居する被災者の方の優先度は、家族構成などを考慮する予定ですが、現時点では条件自体を検討中です。抽選は予定しておらず、そのような発信もしていません」

「1月25日に建設型仮設住宅の入居申し込みは締め切りましたが、今後、建設が進めば申し込みを受け付ける予定です。空室や空き借家などのみなし仮設住宅については問い合わせを受ければ、不動産団体に繋いでいます」

判定

市は仮設住宅への入居について「抽選は予定していない」としている。よって誤り。

あとがき

能登半島地震は規模が大きく、多くの人が長期にわたる避難生活を余儀なくされています。被災して住宅を失った方は、大きな不安を抱えています。避難所や仮設住宅についての誤った情報はそうした不安を一層高めてしまいます。誤った情報を拡散、共有しないよう注意してください。

正確な情報を被災者に届ける手段について、珠洲市の担当者は以下のように話していました。

「二次避難所にいる被災者がどこに避難しているかは、石川県のコールセンターを通じて珠洲市で把握しているはずです。ただ、親戚などに身を寄せているなどの理由で把握できていない人も一部にはいます。そうした市民は、こまめに珠洲市のウェブサイトをチェックするか、連絡が届くように珠洲市LINE公式アカウントを登録してほしい」

検証:住友千花、宮本聖二
編集:野上英文、藤森かもめ、古田大輔

判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。検証記事を広げるため、XFacebookYouTubeInstagramでのフォロー・拡散をよろしくお願いします。毎週、ファクトチェック情報をまとめて届けるニュースレター登録は、上のボタンからどうぞ。

また、こちらのQRコード(またはこのリンク)からLINEでJFCをフォローし、真偽が気になる情報について質問すると、AIが関連性の高い過去のJFC記事をお届けします。詳しくはこちらの記事を

もっと見る

「斎藤氏の支持者がデマを熱狂的に信じた」という言説の落とし穴 兵庫県知事選・後編【解説】

「斎藤氏の支持者がデマを熱狂的に信じた」という言説の落とし穴 兵庫県知事選・後編【解説】

兵庫県知事選をめぐる偽・誤情報の拡散に関する解説の後半です。背景にはマスメディアの影響力低下とソーシャルメディアにおける選挙情報の拡大という世界で共通する大きな潮流があります。その中で、信頼性の高い情報に基づいた民主主義を成立させるためには、どうすればよいか。 SNS・動画が選挙情報の中心に 偽・誤情報だけでは語れない兵庫県知事選・前編【解説】兵庫県知事選でパワハラ問題などで失職した前知事の斎藤元彦氏が再選しました。「SNSの勝利」「マスメディアの敗北」などとも言われる中、何が起きていたのか。都知事選の石丸現象や総選挙の国民民主党の躍進、アメリカ大統領選などと比較し、アルゴリズムやバイアスなどの観点から解説します。 SNS動画を投票の参考に 新聞テレビを上回る SNSでの支持の広がりが斎藤氏の再選を後押ししたと言われる今回の選挙。データがそれを裏打ちしています。NHKが投票所で実施した出口調査を見てみます。 何を投票の参考にしたかという質問への答えで1位が「SNSや動画サイト」で30%、新聞24%、テレビ24%、知人・家族5%を上回りました。また、「SNSや動画サイト」と

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
斎藤氏再選の裏にSNS・動画 投票の参考情報で新聞テレビ上回る 偽・誤情報だけでは語れない兵庫県知事選・前編【解説】

斎藤氏再選の裏にSNS・動画 投票の参考情報で新聞テレビ上回る 偽・誤情報だけでは語れない兵庫県知事選・前編【解説】

兵庫県知事選でパワハラ問題などで失職した前知事の斎藤元彦氏が再選しました。「SNSの勝利」「マスメディアの敗北」などとも言われる中、何が起きていたのか。都知事選の石丸現象や総選挙の国民民主党の躍進、アメリカ大統領選などと比較し、アルゴリズムやバイアスなどの観点から解説します。 「斎藤氏の支持者がデマを熱狂的に信じた」という言説の落とし穴 兵庫県知事選・後編【解説】兵庫県知事選をめぐる偽・誤情報の拡散に関する解説の後半です。背景にはマスメディアの影響力低下とソーシャルメディアにおける選挙情報の拡大という世界で共通する大きな潮流があります。その中で、信頼性の高い情報に基づいた民主主義を成立させるためには、どうすればよいか。 SNS・動画が選挙情報の中心に 偽・誤情報だけでは語れない兵庫県知事選・前編【解説】兵庫県知事選でパワハラ問題などで失職した前知事の斎藤元彦氏が再選しました。「SNSの勝利」「マスメディアの敗北」などとも言われる中、何が起きていたのか。都知事選の石丸現象や総選挙の国民民主党の躍進、アメリカ大統領選などと比較し、アルゴリズムやバイアスなどの観点から解説します

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
兵庫県知事選で溢れた偽・誤情報/鳥取県が偽情報監視チーム【今週のファクトチェック】

兵庫県知事選で溢れた偽・誤情報/鳥取県が偽情報監視チーム【今週のファクトチェック】

11月17日投開票の兵庫県知事選挙をめぐって立候補者についての偽・誤情報や根拠のない言説が急増しました。東京都知事選、総選挙とネットで選挙情報を見ることが一般的になった上に、パワハラなどを理由とした失職出直し選という特殊環境が拍車をかけています。 ✉️日本ファクトチェックセンター(JFC)がこの1週間に出した記事を中心に、その他のメディアも含めて、ファクトチェックや偽情報関連の情報をまとめました。同じ内容をニュースレターでも配信しています。登録はこちら。 JFCからのニュース JFCファクトチェック講師養成講座 11月の申込はこちら 日本ファクトチェックセンター(JFC)は、ファクトチェックやメディア情報リテラシーに関する講師養成講座を月に1度開催しています。講座はオンラインで90分間。修了者には認定バッジと教室や職場などで利用可能な教材を提供します。 次回の開講は11月30日で、お申し込みはこちら。 受講条件はファクトチェッカー認定試験に合格していること。講師養成講座は1回の受講で修了となります。 JFCファクトチェック講師養成講座 11月の申込

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
斎藤前兵庫県知事はパワハラしていない? 職員の4割が見聞き、本人は厳しい叱責など認めて「必要な指導」【ファクトチェック】

斎藤前兵庫県知事はパワハラしていない? 職員の4割が見聞き、本人は厳しい叱責など認めて「必要な指導」【ファクトチェック】

兵庫県議会に不信任を議決され、失職した斎藤元彦前知事がパワハラをしていなかったとの主張が拡散していますが、根拠不明です。兵庫県職員約9700人へのアンケートでは、斎藤氏のパワハラを見聞きした人が4割を超えました。本人は厳しい叱責をしたことなどを認め、「必要な指導だと思っていたが、不快に思った人がいれば心からお詫びしたい」と謝罪しています。 検証対象 斎藤氏の失職に伴う兵庫県知事選は、2024年11月17日投開票だ。選挙を前に、斎藤氏によるパワハラはなかったという言説が拡散している(例1、例2、例3)。県知事選に立候補している政治団体「NHKから国民を守る党」党首の立花孝志氏は自身のYouTubeで「テレビや大手新聞は知事がパワハラしていたことについて、何の根拠もなく噂話で報じている」と述べている。 これらの言説に対して「パワハラされたのは斎藤さんです」「おねだりもパワハラも全部デマでしょう?」といったコメントのほか「斎藤前知事のパワハラ『目撃、経験』140人『見聞きした』4割超」といった指摘もある。 検証過程 斎藤氏に対する告発と百条委員会 斎藤氏

By 宮本聖二