気象庁が人工地震の存在を暴露? 北朝鮮の核実験時の動画が再拡散【ファクトチェック】

気象庁が人工地震の存在を暴露?  北朝鮮の核実験時の動画が再拡散【ファクトチェック】

2024年8月8日に宮崎県で最大震度6弱の地震が発生し、「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」が初めて発表されました。これに関して「気象庁が人工地震の存在を暴露」との言説が拡散しましたが、誤りです。添付された動画は、気象庁が2016年1月、北朝鮮の核実験に伴う地震について会見した動画で、今回の地震とは関係ありません。

検証対象

2024年8月8日午後4時43分、宮崎県沖を震源とするマグニチュード7.1の地震が発生し、最大震度6弱を観測した(気象庁)。この地震で気象庁は2017年の運用開始以来初めて「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」を発表した。

地震発生後、X(旧Twitter)で「気象庁が人工地震の存在を暴露」という言説が多数投稿され、拡散した(例1例2例3例4)。「気象庁発表より また人工地震でしたね?」と今回の地震と関連づけるコメントもある。

検証過程

記者会見は2016年1月6日のもの

日本ファクトチェックセンター(JFC)が、拡散した動画の元動画を検索すると、共同通信公式YouTubeが2016年1月6日に配信した動画「『自然地震でない』 気象庁が観測」が見つかった。北朝鮮付近を震源とする地震に関する気象庁会見だ。

地震津波監視課長は過去の自然地震の波形を比較・分析したところ、自然地震はいわゆる「初期微動」を引き起こす「P波」による波形が観測できるが、2016年の地震は波形が異なるので「自然の地震ではない」と述べている。

北朝鮮は「共和国の最初の水爆実験が2016年1月6日午前10時に成功裏に終わった」と発表。水爆ではない核実験だったの見解もある(BBCCNN)。

動画は大きな地震のたびに拡散

2016年1月6日の記者会見の動画は、過去に大きな地震が起こるたびに拡散され、ファクトチェックされている(リトマスNHK)。

JFCも2023年3月に拡散した人工地震の言説を検証した際、今回の南海トラフ沿いの地震評価検討委員会のメンバーでもある東京大学地震研究所の古村孝志教授に、人工地震説について取材している。

地震は人工的な兵器?専門家が人工地震説を解説【ファクトチェック】
大きな地震が発生したり、震災からの節目の日を迎えたりするたびに「地震は人工的な兵器」というような人工地震説が拡散します。専門家は震災級の地震を人工的に起こすのは「非現実的」と否定しています。 検証対象 東日本大震災の発生した3月11日の節目に、1995年のニュース23の映像とともに「地震は地震兵器によるものだ」という情報(例1,例2)が拡散した。 映像ではオウム真理教元幹部で、1995年に刺殺された村井秀夫氏が「高度な製造能力を持った団体が毒ガスを散布した」「阪神大震災は大国による地震兵器で起きた」などと主張している。この映像は「ディープステート(闇の政府)が世界を操っている」などという陰謀論と関連付けて、何度も拡散している。中には70万件以上表示されたものもある。 リツイートやリプライでは「すごい。分かってたんだ・・・。」「これは、本当に有る事です」「コレで殺された?」などと同調する一方で、「人工地震は不可能」などと否定するコメントもある。 「ディープステートの存在をメディアで暴露してこの幹部が殺された」などと陰謀論を支持するコメントもある。 この

今回の地震に対する気象庁の見解

今回の地震のメカニズムについて、気象庁は「南海トラフ巨大地震臨時情報(巨大地震注意)」に関する報道発表資料で「陸のプレートとフィリピン海プレートの境界で発生した、逆断層型の地震」と説明している。

判定

「気象庁が人工地震の存在を暴露」は誤り。根拠とされる動画は2016年に北朝鮮付近を震源とする大きな揺れに「自然地震でない」と気象庁が会見した過去の動画だ。

検証:リサーチチーム
編集:宮本聖二、藤森かもめ、野上英文、古田大輔

判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。検証記事を広げるため、XFacebookYouTubeInstagramでのフォロー・拡散をよろしくお願いします。毎週、ファクトチェック情報をまとめて届けるニュースレター登録(無料)は、上のボタンからどうぞ。

また、QRコード(またはこのリンク)からLINEでJFCをフォローし、気になる情報について質問すると、AIが関連性の高い過去のJFC記事をお届けします。詳しくはこちらの記事を

もっと見る

「(斎藤知事の)パワハラはなかった」と百条委の委員長が発言? 前後の文脈を無視した切り取り動画【ファクトチェック】

「(斎藤知事の)パワハラはなかった」と百条委の委員長が発言? 前後の文脈を無視した切り取り動画【ファクトチェック】

兵庫県知事選で再選した斎藤元彦知事をめぐって、百条委員会(調査特別委員会)の奥谷謙一委員長が「パワハラはなかった」と発言したという動画付きの言説が拡散しましたが、不正確です。拡散した動画は発言の一部を切り取ったもの。奥谷委員長は拡散した動画の発言後、「厳しい叱責を受けたという人はいたか?」と問われて「整理できていないが、『厳しい叱責を受けたことがある』と答えた人は結構おられたと思う」と説明。パワハラに当たるかどうか評価したいと答えています。 検証対象 2024年11月19日、「奥谷委員長が発言してます。パワハラはなかったと」という言説が拡散した。 添付された25秒間の動画では、奥谷委員長が記者から、この日の証人尋問に呼ばれた6人について「パワハラを受けたという人は何人いるのか」という質問を受け、「私の認識では明確に知事の方からパワハラを受けたという方はいらっしゃらなかった」と答えている。 2024年11月20日現在、この投稿は180件以上リポストされ、表示回数は32万回を超える。投稿について「これが正解」「まだ言うかね」というコメントがつく一方で、「そんな

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
アメリカでは帰化して三世代おかないと政治家になれない? 大統領や連邦議会議員に親の国籍は関係ない【ファクトチェック】

アメリカでは帰化して三世代おかないと政治家になれない? 大統領や連邦議会議員に親の国籍は関係ない【ファクトチェック】

「アメリカでは帰化して三代、間におかないと政治家になれない」という言説が拡散しましたが、誤りです。大統領や連邦議会上下院議員になるために、年齢や在住期間の規定はありますが、親の国籍は関係ありません。また、添付画像は日本に関する「帰化した国会議員」のリストですが、実際に帰化した人物はわずかで、ほとんどが誤ったものです。 検証対象 2024年11月3日、X(旧Twitter)で「米国では帰化してから3代間にないと選挙に出られない、つまり政治家になれない」という言説が拡散した。11月19日現在、230万以上の閲覧と1万件を超えるコメントがついている。 コメントには「日本も規制した方がいいですね」「日本も帰化3世までは立候補出ないようにする必要がある」などと同調する意見が続く一方で、「米国で、流石に三世代はないです。」という指摘もある。 検証過程 大統領と連邦議会上下院議員の資格要件を調べると、合衆国憲法に規定がある。 米国大統領の資格要件 合衆国憲法では、大統領は年齢35歳以上であること、生まれながらのアメリカ国民であること、最低14年間アメリカに居住

By 宮本聖二
潜在的な国民負担率は62.9%? 過去のデータで現在は改善【ファクトチェック】

潜在的な国民負担率は62.9%? 過去のデータで現在は改善【ファクトチェック】

「財務省『潜在的国民負担率、62.9%に達しちゃった』」という言説が拡散しましたが、ミスリードで不正確です。2020年にはそのレベルに達していますが、現在は改善傾向で50%台です。 検証対象 2024年11月12日、「財務省『潜在的国民負担率、62.9%に達しちゃった』」「1日8時間働いて5時間分は国に取られる。五公五民どころじゃねーな」という言説が拡散した。投稿にはまとめサイトのリンクが添付されている。 2024年11月12日現在、この投稿は1.1万件以上リポストされ、表示回数は185万回を超える。投稿について「財務省が全国民の敵」「働くの馬鹿みたい」というコメントが付く一方で「公式の報道機関やニュースサイトではありません」というコミュニティノートも付いている。 検証過程 国民負担率と潜在的国民負担率 国民負担率とは、国民の所得に占める税金や年金、社会保険料などの負担の割合だ。租税負担率と社会保障負担率を合計したものを国民負担率、これに財政赤字を加えたものを潜在的な国民負担率という(財務省)。 2023年投稿のまとめサイト記事を引用 検証対

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
トランプ大統領、就任が2ヵ月早まった? パーティーでの「提案」【ファクトチェック】

トランプ大統領、就任が2ヵ月早まった? パーティーでの「提案」【ファクトチェック】

アメリカのトランプ次期大統領が就任を2カ月早めるとする投稿が拡散しましたが、誤りです。自身の別荘でのパーティーでの発言で、実現する見通しはありません。 検証対象 2024年11月16日、アメリカのトランプ次期大統領が就任を2ヵ月早めるという投稿がXで拡散した。「もう就任しちゃうんですって」「トランプ大統領は、先日のマーアーラゴでのパーティーで、大統領就任を2カ月早めるという斬新な計画を発表🎉🎉🎉」と述べている。 投稿には、イギリスのMail Onlineの画像を日本語化したような画像がついており、「トランプ大統領が筋肉隆々のケネディ・ジュニアに5語の警告を発し、マール・ア・ラゴでのパーティーで任期を早めることを提案」という不自然な日本語がついている。 2024年11月18日現在、この投稿は500件以上リポストされ、表示回数は11万件を超える。投稿について「アメリカでの出来事は日本にも影響する…。」「前倒し✨だって、待てないんだもの。」というコメントが付いている。 検証過程 2024年の米大統領選挙で勝利したトランプ氏の大統領就任式は、2025年

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)