毎年拡散する関東大震災めぐる偽・誤情報「朝鮮人が暴動を起こした」「虐殺はなかった」 【ファクトチェックまとめ】

毎年拡散する関東大震災めぐる偽・誤情報「朝鮮人が暴動を起こした」「虐殺はなかった」 【ファクトチェックまとめ】

1923年の関東大震災では「朝鮮人が暴動を起こした」「井戸に毒を入れた」などの噂が拡散し、軍隊や警察、自警団などによって多数の朝鮮人らが殺傷されました。震災から101年となる現在でも「虐殺はなかった」「実際に朝鮮人による暴動や犯罪があった」などという言説が繰り返し拡散します。公的資料などをもとに、関東大震災をめぐる主な誤情報を改めて検証しました。

※過去資料の引用のなかに差別的な表現が出てきますが、そのままにしています。

震災をめぐり、繰り返し拡散する誤情報

地震が起きるたびに誤情報や偽情報が拡散する。「#井戸に毒」などは、関東大震災での朝鮮人殺傷を想起させる悪質なデマだ。最近も「虐殺はデマ」、「朝鮮人による放火強姦略奪があったから自警団が制圧した」などの言説が拡散している(例1例2)。

関東大震災をめぐっては、内閣府が2009年3月に詳細な報告書を公表している。総理大臣を会長に閣僚や学識経験者などで構成し、防災基本計画の作成や防災に関する重要事項の審議等をする中央防災会議による「災害教訓の継承に関する専門調査会 報告書」(以下、専門調査会報告書)」だ。過去の大災害の経験を継承し、将来に備える目的でまとめられた。

日本ファクトチェックセンター(JFC)はこの専門調査会報告書や当時の警視庁、陸軍戒厳司令部の報告書などを参考に、関東大震災をめぐる偽・誤情報に関するファクトチェックまとめを震災100年だった2023年夏に公開した

101年となる9月1日に改めて、検証をまとめる。

関東大震災とは

1923年9月1日 午前11時58分に発生した相模湾北西部を震源とするマグニチュード7.9(推定)の巨大地震。神奈川県、東京府(当時)、千葉県、茨城県、静岡県と広範囲を最大震度7の揺れが襲った。家屋倒壊、火災、津波などで死者10万5000人余り、全半壊21万棟以上、焼失21万2000棟以上、200万人以上が家を失った。

上野駅前に避難した人々 右下:皇居前(「関東大震災写真帖」より)

噂の拡散

地震当日の夕方から「朝鮮人や社会主義者が放火している」という根拠のない噂が出始め、翌2日に「昨夜の火災は不逞鮮人による放火もしくは爆弾の投擲による」「横浜方面から朝鮮人の集団が殺傷、略奪、放火しながら東京方面に襲来」「朝鮮人が井戸に毒を投入」などの情報が拡散した(警視庁編 大正大震火災誌)。

「専門調査会報告書」より

噂の正確な出元はわかっていないが、警察から通達があったという記録が残る。9月2日夜、内務省警保局長が「不逞鮮人取締」を全国に打電、翌3日には郡市町村に通達が出た。神奈川県三崎町(現三浦市)の「震災関係書類」に「不逞鮮人が罹災者に暴行を加えるだけでなく、井戸に毒を投げるから自衛を講じるよう」に求めた文書がある。(「神奈川県史 通史編5」 241ページ)

当時の新聞記事で見ると、発災直後は、多くの新聞が噂を真に受けて記事を書いている。例えば、以下のような内容だ。

「不逞鮮人各所に放火」「200名抜刀して集合」(1923年9月3日朝刊、東京日日新聞=現・毎日新聞)

1923年9月3日 東京日日新聞(現 毎日新聞)朝刊

「不逞鮮人1千名と横浜で戦闘開始 歩兵1個小隊全滅か」(1923年9月3日新聞『新愛知』号外) 

1923年9月3日新聞「新愛知」号外

 当時はラジオ放送の開始前で、新聞は日々の出来事を最も早く伝えるマスメディアだった。根拠のない噂だった朝鮮人暴動を、新聞が事実であるかのように広める結果となった。

被災地の市史には当時の日記が引用され、警察からの指示で武装した自警団が組織されたこともわかる。

「この日、午後、警察より『京浜方面の(朝)鮮人暴動に備うる為出動せよ』との達しあり。在郷軍人・青年団・消防団等、村内血気の男子は各々武器を携え集合し、市之坪境まで進軍す」(神奈川県中原村(現・川崎市)青年団員・在郷軍人会員 小林英夫の日記 1923年9月2日・川崎市史303ページ)

朝鮮人による暴動・犯罪はあったのか

当時の司法省が1923年11月に作成した「震災後に於ける刑事事犯及之に関連する事項調査書」は、次のように記す。「朝鮮人による殺傷事件は殺人2件、傷害3件が記録されているが、すべて被疑者不詳であり、殺人に関しては被害者も不詳」。

つまり、大規模な暴動などは確認されず、殺人2件についても詳細はわかっていない。蜂起、放火、投毒等については「一定の計画の下に脈絡ある非行を為したる事跡を認め難し」と否定している。

発災当初、朝鮮人への警戒を呼びかけた警察は、実態がわかってくると「朝鮮人の暴動などはデマ」と注意喚起するビラを配布した。9月7日に警視庁が出したビラには「(朝鮮人の暴動など)ありもせぬことを言いふらすと罰されます」と書いている。

9月7日に警視庁が配布したビラ 警視庁「大正大震火災誌」より

当時の警視庁が発行し、国立国会図書館デジタルコレクションで公開されている「大正大震火災誌」(1925年7月発行)を見ると、第5章「治安保持」にこう書いている。

「震火災によりて、多大の不安に襲われたる民衆は、ほとんど同時にまた流言蜚語によりて戦慄すべき恐怖を感じたり。大震の再来、海嘯の来襲、鮮人の暴動などいへるもの即それなり」

地震とそれにともなう火災で不安に陥った民衆は、大地震の再来や津波、朝鮮人の暴動などの誤った情報、デマに恐怖した、という意味だ。

また、東京南部の警戒にあたった第一師団は「品川、目黒、池尻、渋谷各方面より不逞鮮人多摩川を渡河して来襲するの報」を受けて斥候(せっこう。監視のために部隊から出す隊員)や小隊を派遣したが、「総て虚報」だったと報告している(東京市役所編・刊「東京震災録」)。

朝鮮人の殺害はあったのか

「専門調査会報告書」で取り上げられた資料の一つ「関東戒厳司令部詳報」の「震災警備ノ為兵器ヲ使用セル事件調査表(東京都公文書館所蔵)」(以下「兵器使用事件調査表」)によると、軍や警察による朝鮮人殺傷が確認できる。 

戒厳司令部が陸軍各部隊からの報告に基づいて作成したこの「兵器使用事件調査表」では、軍によって11件53名の朝鮮人が殺害されたと記録されている。警察関係者による朝鮮人殺傷についても、次のように書かれている。

「3日午後に野戦重砲兵第一連隊の兵卒3名が洲崎警察署の要請で巡査5名とともに朝鮮人約30名を移送中、永代橋付近で彼らが逃亡した。隅田川に飛び込んだ17名を巡査の依頼で兵卒が射殺したが、この際飛び込まずに逃亡しようとした他の朝鮮人は多数の避難民及び警官の為めに打殺せられたり」

つまり、警官と民間人が共同で朝鮮人を殺傷したという記録だ。しかし、警察側の記録ではこの重大な事案は確認できない。

犠牲者数ははっきりとわかるのか

殺害の犠牲者数は、調査によって異なる。記録が残っていなかったり、殺傷を警察が隠匿したと見られる事例があったりするためだ。

専門調査会報告書」第4章「混乱による被害の拡大」には、「殺傷事件による犠牲者の正確な数は掴めないが、震災による全死者数の1〜数%」と記述されている。つまり、1000人以上が人間によって殺されたということだ。

当時の司法省と軍がまとめた官庁記録では、殺傷事件の死者数は朝鮮人、日本人、中国人で合計「約577人」(1923年11月30日時点)となっている。

植民地の統治にあたる「朝鮮総督府」も職員を派遣して犠牲者数を調査した。朝鮮人の死者・行方不明者を832人と把握し、一人200円の弔慰金を遺族に支給している(1924年12月朝鮮総督府警務局、「関東地方震災の朝鮮ニ及ホシタル影響」)。

一方、在日留学生を中心に組織された「在日本関東地方罹災朝鮮同胞慰問班」(以下「慰問班」)による調査では6661人だ。内訳は東京府で1781人、神奈川県で3999人、千葉県で329人、茨城県で5人、埼玉県で488人、群馬県で34人、栃木県で8人となっている。

6661人のうち3240人は「屍体さえも探せなかった同胞」(独立新聞1923年12月5日付)と記録されている。また、1923年11月6日付で「天道教徒其の他の鮮人遺骨引き取りの件」という件名の官憲への報告書には警視総監が「彼等(慰問班)の遺骨引き取りの申出に対してはこれを拒絶した」とも記されている。

遺体隠匿の規模が大きいのが「亀戸事件」だ。東京府亀戸警察署において、9月4日から5日にかけて、社会主義者、労働運動活動家が陸軍の将兵によって殺害され、同時に朝鮮人多数が殺害された。

遺族や支援者が追求した結果、10月10日になって警察が殺害を認めた。しかし、遺体を隠したり、火葬したりして遺体を確認できなかった。(「報知新聞」1923年10月14日夕刊)。

同新聞によれば、遺族などの遺体引き取りの要求に対して警察側は「荒川放水路堤防に於て焼死溺死者や〇〇(鮮人)死体百余名とともに火葬しているから、どれが誰の骨ともわからぬ」と言った、と伝えている。

当時の様々な数字の記録がある中で、2009年の専門調査報告書はそれらを踏まえた上で「正確な数字は掴めないが、震災による全死者数の1〜数%」、つまりは1000人以上だと記している。

朝鮮人以外の犠牲者は

東京府南葛飾郡大島町(現江東区)では、中国・浙江省出身の人々が多数殺されている。

戒厳司令部の「兵器使用事件調査表」はこう述べている。「9月3日午後、大島町で警察官40〜50人が連行する朝鮮人約200名と群衆で争闘となり、朝鮮人は全員殺害された」

ここでは朝鮮人とあるが、9月16日に警視庁は、殺されたのは中国人労働者だったと外務省に報告している(外務省亜細亜局「支那人王希天行衛不明ノ件」)。

各地で組織された自警団が、聞き慣れない言葉を話す日本人を朝鮮人と誤認して殺傷する事態も起きた。司法省が作成した「震災後に於ける刑事事犯及之に関連する事項調査書」(以下「刑事事犯等調査書」)では、民間人が日本人を殺傷した事件として、9月2~7日に8府県46件を挙げている。

千葉県福田村(現野田市)では6日、自警団が香川県からの薬の行商人たちの言葉が聞き慣れないからと朝鮮人と思い込み、幼児・妊婦を含む9人を殺害した。この事件を題材に、作家の森達也さんが映画「福田村事件」を制作、2023年9月に公開された。

警視庁の「大正大震火災誌」によると、東京では、朝鮮人をかくまったとして日本人を日本人と認識しながら殺害した事件があった。

また、官憲が労働運動家や社会主義者の日本人を殺害する例もあった。甘粕憲兵大尉らによる無政府主義者大杉栄らの殺害は「大杉事件」として知られている。甘粕大尉は、軍法会議で有罪判決を受けた。

新たな記録の発掘も

朝鮮人らに対する大規模な殺傷事件が発生したことは、多くの記録から明らかになっている。さらなる資料の発見もある。関東大震災から100年の昨年には新たに2つの資料が発掘されたと報じられた(朝日新聞)。

一つは、埼玉県の熊谷連隊区司令部が作成した「関東地方震災関係業務詳報」。震災3日後の9月4日夜に朝鮮人40数人が現在の熊谷市内で殺されたという記録で「鮮人虐殺事件」「不法行為」などと表現しているという。

もう一つは、神奈川県知事の内務省警保局長宛の1923年11月の報告書。県内で起きた朝鮮人の殺人57件を含む59件の殺傷事件の日時や殺された145人のうち14人の名前が書かれているという。

鈴木淳東京大学教授インタビュー

JFCは専門調査会報告書の第4章第2節「殺傷事件の発生」を執筆した鈴木淳教授(東京大文学部日本史学研究室)に取材した。

Q 関東大震災における朝鮮人虐殺を「デマだ」と否定する言説が広がっています。

鈴木:朝鮮人に対する殺傷事件で、抵抗の意思がない非武装の人を多数の武器を持った人が襲撃して殺すという、虐殺としか言いようのないことが起こっています。

公文書で立証できるところでは、埼玉県の本庄警察署など、警察が収容している朝鮮人を集団で襲って殺しました。本人は抵抗してもないし、警察が収容しているにもかかわらず襲っている事件があり、それを虐殺と言わないのは無理ではないかと思います。虐殺があったことは、否定できません。

Q:朝鮮人が放火した、暴動を起こした、井戸に毒を入れたということはあったのでしょうか。

鈴木:例えば、爆弾を投げたなどの流言もありましたが、警察の調査では一件もありません。また、井戸に毒を入れたという目撃例もない上に、震災後に警視庁や軍医学校にかなり検体が持ち込まれましたが、一点も毒は検出されていないのが事実です。

震災では大火災が起きましたが、そこでは飛び火などで、燻っていた火が発火したり、保管されていたガソリンが爆発的な燃焼を起こしたりしたことがあったことでしょう。放火や爆弾の投てきなどの流言を事実かもしれないと受け入れる環境があったのだと思います。

Q:関東大震災における虐殺事件の意味を、どう捉えていますか。

鈴木:司法省の報告書が、犯人がはっきりして起訴された民間人のみによる殺傷事件だけを取り上げていることから、報告書で示した数が被害者の一部に限られることは間違いありません。

また、殺された人が朝鮮人でも中国人でも日本人でも区別すべきではないので、少なくとも1000人規模の人が犠牲になったと思われます。犠牲者がもっと多かったという説も否定する根拠はありません。

関東大震災で土砂崩れと津波で亡くなった人は推計で1066人です。最低でもそれに匹敵する人間が、人間によって殺されたのです。

日本の歴史の中で特異な規模で特定の民族を標的にした迫害が起こり、虐殺としか言いようがない事件が起こったという事実は動かせないと思います。

あとがき

大規模災害時、被災地では不安や恐怖、緊張が高まり、デマや誤情報が拡散しやすくなります。

2011年の東日本大震災でも「津波が再び来る」「放射性物質が黒い雲になって仙台上空に来る」など多くの誤情報が拡散しました。

2016年の熊本地震では「熊本の動物園からライオンが放たれた」というツイートが拡散し、ツイートした男性は偽計業務妨害で逮捕されました。「リツイートされるのが快感だった」と取り調べに答えています。

災害時の誤情報 / 偽情報は、避難や救護活動にも影響を与えます。100年前の関東大震災では、誤った情報が大規模な虐殺まで引き起こしてしまいました。

ソーシャルメディアによって誤情報が草の根で拡散するスピードは増しています。 真偽が不確かな情報に接した際は、拡散する前に吟味しましょう。JFCが提供するファクトチェック講座も参考にしてください。

参考文献

関東大震災 消防・医療・ボランティアから検証する 鈴木淳 著 筑摩書房  2004、講談社学術文庫 2010
数字が語る在日韓国・朝鮮人の歴史 森田芳夫 著 明石書店 1996
関東大震災時の朝鮮人虐殺とその後 虐殺の国家責任と民衆責任 山田昭次 著 2003  創史社
在郷軍人会 藤井忠俊 著 岩波書店 2009  
関東大震災時の朝鮮人迫害ー全国各地での流言と朝鮮人虐待 山田昭次 著 創史社 2014
関東大震災と朝鮮人虐殺  姜徳相  山田昭次ほか 著 論創社  2016
川崎市史 川崎市役所 1968 

検証:宮本聖二
編集:藤森かもめ、古田大輔、野上英文

判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。

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