2024年8月14日に南海トラフ地震が発生? 6年前の根拠不明の投稿が拡散【ファクトチェック】

2024年8月14日に南海トラフ地震が発生? 6年前の根拠不明の投稿が拡散【ファクトチェック】

2024年8月8日に宮崎県で最大震度6弱の地震が発生し、「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」が発表されました。関連して「2024年8月14日に南海トラフはおこります」と具体的な日時を明記した投稿が拡散しましたが、根拠不明です。6年前の投稿が再拡散しました。気象庁は「日時と場所を特定した地震を予知する情報はデマと考えられます」と説明しています。

検証対象

2024年8月8日に発生した日向灘を震源とする地震を受けて「このタイミングで地震くると、6年前のこのツイート思い出す 南海トラフ、8月14日にくるのかな」という投稿がX(旧Twitter)で拡散した。

投稿は8月13日時点で2.4万件以上のリポストと3000万件以上のインプレッションを獲得している。

「なんの根拠もないけど、 こういうのって状況が揃うと本当に怖い」「8月14日に備えて水を備蓄してます🏋️念のためにしておくことはご時世的にも必要かなって思うので!」などのコメントの一方、「不安心理を煽るのは辞めましょう」「こんなデタラメなツイートしてる人の情報より 気象庁公式見て」などの指摘もある。

投稿に添付された画像には「2024年8月14日に南海トラフはおこります」などと投稿するXのスクリーンショットが写っている。アカウント名は隠されているが、投稿内容から検索すると2018年1月4日の投稿がヒットした。こちらの投稿も、8月13日時点で1万件以上のリポストを獲得している。

検証過程

「2052年から来た」という投稿者の根拠のない言説

日本ファクトチェックセンター(JFC)は「2024年8月14日に南海トラフはおこります」という検証対象の言説を投稿した根拠を確認した。

投稿者は「僕は2052年から来ました」「タイムマシンで実験台でこの時代へ飛ばされました」などと述べた上で、「2024年8月14日に南海トラフはおこります」と投稿している。

2024年8月14日に南海トラフが発生する科学的・客観的な根拠は示されていない。

地震予知や今回の地震に対する気象庁の見解

8月8日の地震を受けて気象庁は「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」を発表している。「新たな大規模地震が発生する可能性は平常時と比べると高まっていますが、特定の期間中に大規模地震が必ず発生するということをお知らせするものではありません」という内容だ。

さらに、気象庁は公式サイト内の「地震予知について」で地震の予知や南海トラフ地震発生の予測について見解を示している。現在の科学的知見からは時・場所・大きさを限定した地震の予測は難しいと指摘し、「日時と場所を特定した地震を予知する情報はデマと考えられます」と解説している。

また、8月12日に気象庁が発表した「南海トラフ地震関連解説情報(第4号)」でも、「8日の地震の発生後、南海トラフ地震の想定震源域ではプレート境界の固着状況に特段の変化を示すような地震活動や地殻変動は観測されていません」と説明している。

判定

「2024年8月14日に南海トラフはおこります」との言説は根拠不明。気象庁は現在の科学的知見からは地震の予知は困難で、検証対象のような日時や場所を特定した地震を予知する情報はデマであるとしている。

あとがき

災害時にはデマやフェイクニュースが飛び交います。NHK日本経済新聞読売新聞が今回の地震に関連して拡散したデマについて報じているほか、JFCでも災害時に広がる偽情報の類型をまとめています。

災害時に広がる偽情報5つの類型 地震や津波に関するデマはどう拡散するのか
地震や津波、洪水など大きな災害が発生すると、偽情報や根拠のない情報が拡散します。事実と異なる投稿や不確かな救助要請は、本当に助けを必要としている人たちへの支援を遅らせたり、妨げたりする恐れがあります。拡散しがちな偽情報・誤情報のパターンを知って、支援を妨げないようにしましょう。 災害時の偽情報の5類型 実際と異なる被害投稿 災害時に最も多く見られるのが、偽の被害報告だ。2024年1月1日の能登半島地震では、2011年の東日本大震災の津波の映像を使って、まるで能登半島地震の被害のように投稿する事例が相次いだ(例1、例2、例3、例4、例5 、例6)。 例2と例3を投稿した2つのアカウントは添付動画は異なるが、投稿文言は同じで「津波到達になった瞬間NHKのアナウンサーがすごい怒鳴ってる!危機感の伝わってくるアナウンスなので北陸新潟能登半島の方逃げてください」と書かれている。投稿内容をコピーしたと見られる。 例5の投稿は「石川県能登に大津波警報逃げろ」という文言に「#東日本大震災」というハッシュタグもついている。映像は東日本大震災のものだと示唆しているように読

検証:リサーチチーム
編集:古田大輔、宮本聖二


判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。

毎週、ファクトチェック情報をまとめて届けるニュースレター登録(無料)は、上のボタンから。また、QRコード(またはこのリンク)からLINEでJFCをフォローし、気になる情報を質問すると、AIが関連性の高いJFC記事をお届けします。詳しくはこちら

もっと見る

次々と出現する企業や著名人の偽アカウントに注意 一つの神社だけで100を超える事例も

次々と出現する企業や著名人の偽アカウントに注意 一つの神社だけで100を超える事例も

XやInstagramなどのSNSで、企業や著名人や神社などの公式を装う偽アカウントが続々と出現しています。通報されて削除されても、また新しいものが生まれる状況で、一つの神社だけで100を超える偽アカウントが確認される例もあります。日本ファクトチェックセンターだけでなく、新聞やテレビなどもこの問題を取り上げて来ましたが解決していません。 上野東照宮の偽アカウントが100を超える 東京都台東区にある上野東照宮のX公式アカウントは2025年4月22日、大量の偽アカウントがあると注意喚起の投稿をした。 「Xの上野東照宮偽アカウントが、報告しても報告しても減らず、日に日に増えるばかり、今朝数えたら120ほどありました」 Xでアカウント検索すると、プロフィール欄に「PayPayポイントをプレゼント」と書かれた上野東照宮を騙るアカウントが大量に見つかる。 神社の偽アカウントは他にも確認されている。 東京大神宮(東京都千代田区)のX公式アカウントも4月21日、「偽アカウントの存在が複数確認されました。当宮の写真を使用しておりますが一切関係ございません」と投稿している

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
日本ファクトチェックセンターは「反日左翼」? データだけ見ると「自民党の犬」? 偽情報の標的と検証対象はどう変わっていくのか

日本ファクトチェックセンターは「反日左翼」? データだけ見ると「自民党の犬」? 偽情報の標的と検証対象はどう変わっていくのか

日本ファクトチェックセンター(JFC)への批判で最も多いのは「偏っている」「検証対象を恣意的に選んでいる」というものです。「JFCは偏っていません」と口だけで反論しても説得力がありません。データを見てみましょう。 「反日」「反自民」などの批判の中身 X上での日本ファクトチェックセンターや筆者(古田)あての批判には、例えば、以下の様なものがあります。 「反日的なファクトチェック」「左翼御用達偏向機関」「反日圧力団体」「立憲民主党のサポーター」 これらの批判の多くに共通するのはJFC編集長(古田)が過去に朝日新聞で働いていたことに言及していることです。批判の論理としては「朝日新聞=反日であり、朝日新聞で働いていた古田も反日であり、現在も朝日新聞の影響下にあると見られる」というものです。 ちなみに古田が朝日新聞を辞めたのは10年前の2015年。以降、取材を受けたことやイベントのゲストに呼ばれたことはありますが、給与をもらったことや何らかの契約を交わしたり、指示を受けたりしたことはありません。また、取材を受けた回数では、朝日よりも読売新聞の方が多いです。 JF

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
ヒカキン氏「サリンは撒かれてよかったと思う」と発言? 捏造した画像【ファクトチェック】

ヒカキン氏「サリンは撒かれてよかったと思う」と発言? 捏造した画像【ファクトチェック】

YouTuberのヒカキン氏が「サリンは撒かれてよかったと思う」と発言したという情報が拡散しましたが、誤りです。ヒカキン氏は過去にそのような投稿をしていません。投稿したアカウントは過去にもヒカキン氏の誤情報を拡散しています。 検証対象 2025年4月22日、「麻原大好きなHIKAKINマジでエグい」という文言と共に、ヒカキン氏のXアカウントが「サリンは撒かれて良かったと思う 今の政治は日本の魚介ぐらい終わってるからな みんなも今は亡き真の聖人麻原様に敬意を払おう」と発言しているかのような画像付き投稿が拡散した。 2025年4月24日現在、この投稿は1000件以上リポストされ、表示回数は615万回を超える。投稿について「ヒカキンさんを見る目が変わったわ」「これガチならエグすぎる」というコメントの一方で「HIKAKINの名を使ってこの記事はやり過ぎ」という指摘もある。 検証過程 投稿主は過去にも誤情報を拡散 今回拡散した投稿を発信した「麻原彰晃名言bot」は、オウム真理教の元代表麻原彰晃(本名・松本智津夫)元死刑囚の名言を紹介するbotを名乗っている。

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
日本は車の安全試験でボンネットにボウリング球を落とす?  過去に否定された誤情報【ファクトチェック】

日本は車の安全試験でボンネットにボウリング球を落とす? 過去に否定された誤情報【ファクトチェック】

アメリカのトランプ大統領が各国との関税交渉に関連して、非関税障壁の一例として日本ではボウリング球を車に落とす安全試験があると主張しましたが、誤りです。過去にも検証された誤情報です。 検証対象 4月20日、トランプ氏は自らが設立したソーシャルメディアTruth Socialで各国の非関税障壁の例を8つ記して投稿した。6番目に「Protective Technical Standards(保護技術基準)」として「Japan’s bowling ball test(日本のボウリング球テスト)」を挙げている。 検証過程 トランプ氏は、大統領1期目の2018年に同様の発言をしていた。ワシントンポストの当時の記事によると、日本では車体の耐久性を確認するために「ボーリング球テスト」があり、「車のボンネットに20フィート(約6メートル)の高さからボウリング球を落としてへこんだら不合格になる」と演説したという。 ボウリングボールを落とすテストはない 国土交通省によると、日本の自動車の製造・販売業者は、国が定める安全や環境の基準について、43項目の審査に合格したうえで

By 宮本聖二

ファクトチェック講座

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、ファクトチェックやメディア情報リテラシーに関する講師養成講座を月に1度開催しています。講座はオンラインで90分間。修了者には認定バッジと教室や職場などで利用可能な教材を提供します。 次回の開講は5月28日(日)午後2時~3時半で、お申し込みはこちら。 https://jfcyousei0518.peatix.com/view 受講条件はファクトチェッカー認定試験に合格していること。講師養成講座は1回の受講で修了となります。 受講生には教材を提供 デマや不確かな情報が蔓延する中で、自衛策が求められています。「気をつけて」というだけでは、対策になりません。最初から騙されたい人はいません。誰だって気をつけているのに、誤った情報を信じてしまうところに問題があります。 JFCが国際大学グロコムと協力して実施した「2万人調査」では実に51.5%の人が誤った情報を「正しい」と答えました。一般に思われているよりも、人は騙されやすいという事実は、様々な調査で裏打ちされています。 JFCではこれらの調査をもとに、具体的にどのよう

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、YouTubeで学ぶ「JFCファクトチェック講座」を公開しました。誰でも無料で視聴可能で、広がる偽・誤情報に対して自分で実践できるファクトチェックやメディアリテラシーの知識を学ぶことができます。 理論編と実践編の中身 理論編では、偽・誤情報の日本での影響を調べた2万人調査の紹介や、間違った情報を信じてしまう背景にある人間のバイアス、大規模に拡散するSNSアルゴリズムなどを解説しています。 実践編では、画像や動画や生成AIなど、偽・誤情報をどのように検証したら良いかをJFCが検証してきた事例から具体的に学びます。 JFCファクトチェッカー認定試験を開始 2024年7月29日から、これらの内容について習熟度を確認するJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。誰でもいつでも受験可能です(2024年度中は受験料1000円、2025年度から2000円)。 合格者には様々な技能をデジタル証明するオープンバッジ・ネットワークを活用して、JFCファクトチェッカーの認定証を発行します。 JFCファクトチェッカー認定試験

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
JFCファクトチェッカー認定試験  教材と申し込みはこちら

JFCファクトチェッカー認定試験  教材と申し込みはこちら

日本ファクトチェックセンター(JFC)はJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。YouTubeで公開しているファクトチェック講座から出題し、合格者に認定証を授与します。 拡散する偽・誤情報から身を守るために 偽・誤情報の拡散は増える一方で、皆さんが日常的に使用しているSNSや動画プラットフォームに蔓延しています。偽広告や偽サイトへのリンクなどによる詐欺被害も広がっています。 JFCが国際大学グロコムと実施した2万人を対象とする調査では、実際に拡散した偽・誤情報を51.5%の割合で「正しいと思う」と答え、「誤っている」と気づけたのは14.5%でした。 自分が目にする情報に大量に間違っているものがある。そして、誰もが持つバイアスによって、それが自分の感覚に近ければ「正しい」と受け取る傾向がある。インターネットはその傾向を増幅する。 だからこそ、ファクトチェックやメディアリテラシーに関する知識が誰にとっても必須です。 JFCファクトチェック講座と認定試験 JFCファクトチェック講座(YouTube, 記事)は、2万人調査を元に偽・誤情報の拡散経路や

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)