イワシやクジラの漂着は地震の影響?関連づける根拠やデータはない【ファクトチェック】
イワシが大量に海岸に漂着しているニュースとともに「地震の影響」といった言説が拡散していますが、根拠不明です。イワシやクジラ、イルカの海岸の漂着と地震を結びつけるデータはありません。
検証対象
北海道函館市の海岸に大量のイワシの群れが漂着した過去のニュース映像とともに「地震とかにお気をつけて下さい」「人工地震発生装置」「地震の前に打ち上げられる」などという投稿がXで拡散した(例1、例2、例3)。
検証過程
投稿に添付されていたのは、2023年12月7日に北海道函館市の海岸に大量のイワシの群れが漂着したことを伝えたANNニュースだ。
日本ファクトチェックセンター(JFC)は、大きな地震と魚やイルカ、クジラの海岸への漂着と関連性があるのかを調べた。
イワシの漂着と地震との関連
JFCは、この投稿にも使われている2023年12月のイワシ漂着に関して、福島第一原発事故の処理水放出を関連づけて拡散した言説を検証したことがある。
その際にJFCが取材した道立総合研究機構 函館水産試験場調査研究部の鈴木祐太郎主査はイワシが大量に漂着する事例は「北海道や青森県で頻繁に起きている」と指摘した。
前提として、マイワシの漁獲高はこの10年ほど、北海道東部の太平洋側で増えている(国立研究開発法人水産研究・教育機構)。
大量のマイワシの漂着について鈴木さんはこう解説した。
「昨年の夏から秋にかけて大量のマイワシが北海道の太平洋側にいたことがわかっていた。昨年12月に漂着したものを確認したところ多くがマイワシだった。12月頃はマイワシの群れが南下する時期にあたるが、近年の黒潮続流の北上により、水温の高い東北沖へ直接南下しにくい」
(参考:読売新聞「マイワシが北海道の東沖で豊漁、水揚げ高は32年ぶりに100億円突破…飼料・肥料の国際市場高騰も追い風」)。
その上で漂着の理由をこう語っていた。
「マイワシの大きな群れが、荒天や急激に水温が下がったり、イルカやマグロなどの捕食者が現れたりすると一気に海岸に押し寄せることがある」
今回改めて鈴木さんに取材したところ、昨年12月の事象についてこう付け加えた。
「津軽海峡の北海道側でもマイワシと思われる魚群が函館水試の調査船金星丸によって確認されていた」
つまり、以下のようにまとめられる。
・そもそも大量のイワシが北海道近海にいた。
・海岸への漂着はこれまでにも頻繁 に起きている。
・荒天や水温の急激な変化、イルカ・マグロなどの捕食者が理由と考えられる。
イルカやクジラの漂着と地震との関連
拡散した言説は「地震の影響でイルカやクジラも打ち上げられている」と主張している。
イルカやクジラなど海に棲む哺乳類が、海岸に漂着したケースは国立科学博物館がデータベースで公開している(国立科学博物館・海棲哺乳類ストランディングデータベース)。
このデータベースで、能登半島地震(2024年1月1日発生)の前後で、イルカやクジラが日本の海岸のどこに漂着したのかを見てみる。
地震発生前の1年間では、2023年3月に石川県輪島市でカマイルカ1頭の漂着が記録されている。しかし、石川県内での2023年のイルカの漂着はこれだけで、北陸では他に富山県で1件が報告されている。日本全国では2023年1年間で68件報告されており、多いのは北海道の36件だ。
クジラの漂着は2023年に全国で26件。日本海側は山口県の2件のみだった。
次に地震後のイルカとクジラの漂着を見る。最新のデータがある5月17日までで、全国のイルカの漂着は9件。北陸3県では報告がない。同じく今年に入ってから5月17日までのクジラの漂着は、全国で7件、日本海側ではゼロだ。
つまり、地震前後で全国各地でイルカやクジラの漂着は起きており、地震と関連があるデータとは言えない。
NHKもイルカやクジラの漂着と地震との関連について分析記事を書いている(NHK「イルカやクジラ漂着は地震の前兆ではありません…関係性を大調査」)。
動物は地震を予知できるのか
気象庁は、動植物は地震の予知ができるのかについて、ウェブサイトで以下のように解説している(気象庁・地震予知について)。
「動植物には、音、電気、電磁波、匂いなどに対する感知力が人間などに比べ格段に優れているものがあることは知られています。(中略)動植物は地震以外の理由によって通常と異なる行動・反応をすることがあり、また、動植物自体についてまだわかっていないことも多く、ましてや地震の前兆現象も解明できていない部分が多いことから、地震の前にそうした異常行動・反応をする理由について科学的に説明できていない状況です」
判定
イワシが大量に海岸に漂着しているニュースとともに地震の前兆だ、あるいは地震の影響だは、根拠不明。イワシやクジラ、イルカの漂着と地震を結びつけるデータや根拠はない。
検証:宮本聖二
編集:古田大輔、野上英文、藤森かもめ
判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。
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