窃盗犯の多くは女性?「災害時に男性は女性を助けてはいけない」という主張で拡散【ファクトチェック】

窃盗犯の多くは女性?「災害時に男性は女性を助けてはいけない」という主張で拡散【ファクトチェック】

「災害時に男性は女性を助けてはいけない」という主張の根拠として「窃盗犯の多くは女性」という言説が拡散しましたが、誤りです。最新の統計である2022年の窃盗犯検挙人員のうち女性は31.9%です。

検証対象

2024年8月10日、「男性は女性を助けてはいけない」「窃盗犯の多くは女性」という投稿がX(旧Twitter)で拡散した。投稿では「嘘による美人局や冤罪の被害に遭う危険性も非常に高い」「男性の物資が盗まれる危険もあります」などとし、災害時に男性は女性を助けてはいけないと主張している。

投稿は8月14日時点で約1500件のリポストと約250万件のインプレッションを獲得している。

「自分も女は絶対助けないって決めた!!!!!!!!」「救助してたらセクハラの冤罪をかけられて社会的に死亡なんて、最悪に報われないパターンだしな」「あー3.11の時嘘の冤罪掛けてたってケース結構見ましたわ」といったコメントがつく一方で、「統計的にも窃盗犯の多くは男性です」「冤罪のニュースなんて全く見ないのにまるで冤罪が蔓延ってるかのように言う人の方が、よほど冤罪を生み出す性質持ってると思う」などの指摘もある。

検証過程

法務省が公開している「犯罪白書」では、日本の犯罪に関する各種統計が報告されている。

令和5年版 犯罪白書」の「犯罪の動向」第1章第1節にある「刑法犯 検挙人員(罪名別、男女別)」によると、2022年の窃盗罪での検挙人員総数は7万9234人。内訳は男性5万3993人、女性2万5241人で女性の占める割合は31.9%だ。

判定

「窃盗犯の多くは女性」は誤り。犯罪白書の統計によれば、2022年の窃盗罪での検挙人員のうち女性は31.9%だ。

あとがき

内閣府は2024年1月1日に発生した能登半島地震の被災地では混乱に乗じて相当数の犯罪があったとしています(内閣府の防災Q&A「Q:被災地では犯罪はなかったのでしょうか?」)。

ここでは、窃盗や暴行・傷害、詐欺などの犯罪のほかに「女性にとって深刻な問題」として、のぞきや強制わいせつ、強姦といった性犯罪の被害を挙げています。また、NHK東京新聞ABEMA TIMESなども、被災地で女性が男性から性的被害に遭っている問題を報じています。

今回の検証対象の言説が併せて主張していた、男性が女性から「嘘による美人局や冤罪」に遭うような事例がどれだけ存在するのかは、根拠が示されていません。数が多いことを示す公的な統計や報道なども見つからず、根拠不明です。

災害の発生時は自分自身の身の安全(家族を含む)を守る「自助」や、公的機関による救助・援助の「公助」に加えて、地域やコミュニティといった周囲の人々が協力して助け合う「共助」が重要です(総務省消防庁)。

今回の検証対象の言説のような誤った情報をもとに「共助」が機能しなくなると、救助活動や避難生活に大きな支障が出るおそれがあります。災害時に適切な行動を取るためにも、誤情報や根拠不明の情報に惑わされないようにしましょう。

日本ファクトチェックセンター(JFC)では、災害時に広がる偽情報の類型をまとめています。

災害時に広がる偽情報5つの類型 地震や津波に関するデマはどう拡散するのか
地震や津波、洪水など大きな災害が発生すると、偽情報や根拠のない情報が拡散します。事実と異なる投稿や不確かな救助要請は、本当に助けを必要としている人たちへの支援を遅らせたり、妨げたりする恐れがあります。拡散しがちな偽情報・誤情報のパターンを知って、支援を妨げないようにしましょう。 災害時の偽情報の5類型 実際と異なる被害投稿 災害時に最も多く見られるのが、偽の被害報告だ。2024年1月1日の能登半島地震では、2011年の東日本大震災の津波の映像を使って、まるで能登半島地震の被害のように投稿する事例が相次いだ(例1、例2、例3、例4、例5 、例6)。 例2と例3を投稿した2つのアカウントは添付動画は異なるが、投稿文言は同じで「津波到達になった瞬間NHKのアナウンサーがすごい怒鳴ってる!危機感の伝わってくるアナウンスなので北陸新潟能登半島の方逃げてください」と書かれている。投稿内容をコピーしたと見られる。 例5の投稿は「石川県能登に大津波警報逃げろ」という文言に「#東日本大震災」というハッシュタグもついている。映像は東日本大震災のものだと示唆しているように読

検証:リサーチチーム
編集:宮本聖二、古田大輔、藤森かもめ

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