AI、処理水、陰謀論...、JFCが検証した2023年10大フェイクニュース 史上最大の選挙の年に備えを

AI、処理水、陰謀論...、JFCが検証した2023年10大フェイクニュース 史上最大の選挙の年に備えを

2023年も大量のフェイクニュース(誤情報/偽情報)が拡散し、日本ファクトチェックセンター(JFC)は1年間で173件の検証記事や動画を公開しました。中でも影響が大きく、注目を集めた「10大フェイクニュース」をまとめました。

選考基準は読まれた回数だけでなく、SNSやnoteでの反応、社会的な影響の大きさなども加味しました。誤った情報は繰り返し拡散します。間違いだと知りつつ故意に発信する人もいれば、正しいと信じて拡散する人もいます。まとめ記事で傾向を知ることは、2024年に同様のフェイクニュースが拡散することを防ぐことにも役立ちます。良いお年を!

2023年の10大フェイクニュース

福島第一原発からの処理水の放出

世界で注目を集めたのが福島第一原発の処理水の海洋放出でした。JFCは誤解を生みやすい「処理水」とは何かについて、国際原子力機関(IAEA)の報告書など国内外の資料に基づいて解説し、「放射性物質の6割が除去されない」「魚が大量死している」(いずれも誤りと判定)など個別に拡散した情報も検証しました。

福島第一原発の処理水と汚染水の違いは何?海洋放出は危険?【ファクトチェックまとめ】
日本政府が夏ごろに始める方針を示している福島第一原発の処理水の海洋放出に関して、国内外で不確かな情報が拡散しています。処理水とは何か。環境への影響は。ファクトチェックのポイントをまとめました。 ※新たな誤情報の検証を更新していきます(最終更新2023年12月13日)。 参照資料は、各省庁や東京電力から、また、2023年7月4日に公開された国際原子力機関(IAEA)の「福島第一原子力発電所ALPS処理水の安全審査に関する包括的報告書(以下、IAEA報告書)」などです。 処理水か汚染水か 2011年3月11日の東日本大震災による津波で、福島第一原発ではウラン燃料を冷やすことができなくなる事故が起きました。燃料は格納容器内で溶け、今も温度を下げるための冷却水をかけ続けています。使用された水は放射性物質で汚染され、雨水などと混ざって毎日約90トンずつ増えています。これを「汚染水」と呼びます。 汚染水は原発の施設内に並ぶ1000基を超える巨大タンクに貯められますが、2024年の前半にはタンク容量に限界が来る見込みです。日本政府は、トリチウムを除く62種類の放射性物

処理水に関する誤情報や偽情報は、中国語で拡散した後に、日本語や英語などに翻訳される事例が目立ちます。偽情報対策に取り組む英テック企業Logicallyは「中国の組織的なキャンペーンが日本の原発から排出される処理水を狙う」と題したレポートで、中国の国営メディアや中国のSNSが処理水に関するネガティブな言説を拡散させている状況を指摘しました。

JFCは中国語での誤/偽情報対策に優れた台湾ファクトチェックセンター(TFC)台湾情報環境研究センター(IORG)などの協力を得て検証に取り組んでいます。

関東大震災から100年

地震などの災害は誤/偽情報が拡散しやすいテーマです。今年は関東大震災から100年で、これまでに何度も拡散してきた誤/偽情報が再拡散しました。JFCでは内閣府が2009年に公表した専門調査会報告書などに基づいて「朝鮮人の大規模な暴動があった」「虐殺はなかった」(いずれも誤りと判定)などのファクトチェック記事を配信しました。

関東大震災をめぐる「朝鮮人が暴動を起こした」「虐殺はなかった」などの言説を検証 【ファクトチェックまとめ】
1923年の関東大震災では「朝鮮人が暴動を起こした」「井戸に毒を入れた」などの噂が拡散し、軍隊や警察や自警団などが多数の朝鮮人らを殺害しました。現在も「虐殺はなかった」などの言説が繰り返し拡散します。関東大震災をめぐる主な誤情報を改めて検証しました。 ※過去資料に差別的な表現が出てきますが、そのままにしています。 ※新たな誤情報の検証を更新していきます(最終更新2023年9月11日)。 震災をめぐり、繰り返し拡散する誤情報 現在も、地震が起きるたびに誤情報 / 偽情報が拡散する。「#井戸に毒」などは、関東大震災での朝鮮人殺傷を想起させる悪質なデマだ。また、毎年9月1日に東京都墨田区の都立公園で開かれる朝鮮人犠牲者追悼式典では「6000人虐殺はなかった」などのプラカードを掲げる行為もある。 関東大震災をめぐっては、内閣府が2009年3月に詳細な報告書を公表した。総理大臣を会長に閣僚や学識経験者などで構成する中央防災会議による「災害教訓の継承に関する専門調査会 報告書」(以下、専門調査会報告書)」だ。過去の大災害の経験を継承する目的でまとめられた。 日本フ

朝鮮人の虐殺については、松野博一官房長官(当時)が2023年8月30日、「政府内において事実関係を把握する記録は見当たらない」と発言。この発言に関しても、多数の記録が存在していることなどを根拠に、ミスリードで不正確だと判定する記事を出しました。

イスラエル・パレスチナでの武力衝突

戦争や紛争では、双方の陣営が大量の「フェイクニュース」を発信します。自分の陣営を有利にし、相手を貶めようとする情報戦です。2023年10月にイスラム組織ハマスによる奇襲で始まり、イスラエルが苛烈に反撃している今回の武力衝突では、一般市民の犠牲が増え続けています。戦闘開始から3ヶ月が経とうとする現在も、誤/偽情報は拡散しています。JFCはアラブ地域で検証に取り組むアラブ・ファクトチェッカーズ・ネットワークの協力も得て、ファクトチェックを続けています。

イスラエル・パレスチナ情勢をめぐり大量の誤情報/偽情報 検証方法を解説【ファクトチェックまとめ】
イスラエル・パレスチナの武力衝突に関連し、大量の誤情報/偽情報が世界的に拡散しています。互いの憎悪を煽るような投稿もあり、混乱に拍車をかけています。日本ファクトチェックセンター(JFC)がこれまでに検証した事例とともに、対応策をまとめました。 ※新たな検証があれば記事を更新します(最終更新2023年11月17日)。 対立煽る誤情報/偽情報 間違った情報に関して、一般的には「フェイクニュース」や「デマ」という言葉が使われることが多いですが、その内実は複雑です。 真偽が不確かな情報で社会が混乱する「情報汚染」を情報の意図と正誤で3つに分類すると、図のようになります。「誤情報:意図的ではないが誤っている」「悪意ある情報:意図的だが誤っていない」「偽情報:意図的に誤っている」の3つです。 ロシアとウクライナの戦争がそうであるように、イスラエル・パレスチナをめぐっても、大量の誤情報/偽情報/悪意ある情報が拡散しています。情報汚染は対立を煽り、混乱を悪化させます。発信元の確認や他の情報源との比較をするようにしましょう。 誤情報/偽情報の検証方法 大量に流れる情

フェイクニュースの種類は様々で、画像を改変して事実を捻じ曲げたり、撮影された日時や場所が違う映像を使ったり、リアルなゲームの映像を本物の戦闘のように偽ったり、AIを使って画像を捏造するなどの手法があります。手口を知れば騙されにくくなります。ぜひ、まとめ記事を読んでください。

SNSの偽広告

SNS上で増えているのが、著名人の名前や映像を使った偽広告です。「日銀、柳井正を提訴 生放送の発言で」(誤りと判定)などセンセーショナルな見出しとネット上の画像の流用で偽記事を作り、SNSの広告機能を使って拡散させる手口が蔓延しています。

「日銀、柳井正を提訴 生放送の発言で」は誤り SNSで拡散した偽広告【ファクトチェック】
日本銀行が、ファーストリテイリング代表取締役会長兼社長の柳井正氏を提訴したという言説が拡散しましたが誤りです。ネットニュースの記事を装った投稿で、読者を投資サイトへ誘導するための偽広告です。 検証対象 2023年12月20日、「日銀、柳井正を提訴 生放送の発言で」という投稿がX(旧Twitter)の広告機能で拡散した。2023年12月21日現在、表示回数は19万件を超える。 投稿について「こんなのわざとやっている」「マジか」「ツイッターちゃんと広告審査しろよ」などのコメントがついている。 検証過程 投稿に添付されたリンクをクリックすると「日本銀行が生放送での発言で柳井正さんを提訴」という記事が出てくる。 柳井正氏と政治評論家の寺島実郎氏が対談する写真が添えられており、「このスキャンダルは、生放送中に柳井正さんが誤って番組で秘密を暴露したことから勃発した」という書き出しで始まっている。 サイトにはNTTドコモが運営する「gooニュース」のロゴがあり、記事には提供元として「読売新聞オンライン」のロゴもあるが、報道記事の見出しや書き出しとしては不自然だ。

この偽広告にはgooニュースや読売新聞オンラインのロゴが使われていました。イスラエルとパレスチナをめぐる偽動画でもBBCのロゴが使われました。実在するニュースサイトを装って偽情報を拡散させるのは常套手段です。記事本文を見ると、日本語の使い方や内容に不自然さが目立ちます。注意しましょう。

著名人の訃報デマ

「著名人が亡くなった」という投稿も世界中で繰り返されるフェイクニュースの一つです。海外のメディアでは著名人の訃報デマに関する特集があるほどです(ロサンゼルス・タイムズSnopes)。JFCは12月に研ナオコさんが亡くなったという偽情報をファクトチェックしました。

「研ナオコさんが70歳で自宅死去 葬儀では数千人が涙」は誤り【ファクトチェック】
歌手の研ナオコさんが自宅で死去という言説が拡散しましたが誤りです。拡散元のYouTubeアカウントは著名人の訃報に関する偽情報を多数配信しています。 検証対象 2023年12月11日、「研ナオコさんが70歳で自宅死去 葬儀では数千人が涙」という動画がYouTubeに投稿され、X(旧Twitter)などで拡散した。動画では、研ナオコさんの画像が流れ、「帰省中に交通事故にあった」と音声が流れる。 2023年12月27日現在、動画は144万回以上再生されている。Xでは歌手のASKA氏も「研ナオコさんのこと、嘘だよね?」と投稿し、リポスト300件以上、表示回数は87万件を超える。投稿について「知らなかった」「亡くなったんだ」などのコメントの一方で「悪質なデマだ」との指摘もある。 検証過程 研ナオコさんは、動画が投稿された9日後の2023年12月20日、公式Instagramで食事する様子を動画で投稿している。 また、公式HPによると、2023年12月23日に福島県富岡町での公演に出演している。日本ファクトチェックセンター(JFC)が会場の「富岡町文化交流セン

この情報を流したYouTubeアカウントは、研ナオコさん以外にも多数の著名人の訃報を捏造していました。驚いたファンたちが思わずクリックすることでビュー数を稼ぐことを狙ったのでしょう。

こういった情報は、SNSでのシェアや大手プラットフォームのレコメンドによって広がることがあります。著名人の訃報であれば、大手メディアも一斉に報じるはずです。怪しいと思ったら、シェアせずに他メディアの情報と比べてみましょう。

反ワクチン言説

医療・健康は昔から誤/偽情報が多いテーマとして知られています。特に新型コロナウイルスとワクチンをめぐっては、2020年から大量の誤った情報が拡散し、多くの医療専門家や公的機関、メディアが検証や正確な情報の発信に取り組みました。2022年10月発足のJFCも、当初はワクチン関連の検証が重要テーマの一つでした。

新型コロナが下火となり、日常生活が戻るにつれて公的機関やメディアの発信は減りました。その一方で、誤/偽情報の発信は続いており、JFCは2023年にも新型コロナやワクチン関連の記事を16本配信しました。

ワクチン - 日本ファクトチェックセンター (JFC)

JFCはワクチンを推進するためにファクトチェックをしている訳ではありません。ワクチン接種後には発熱や倦怠感などの副反応が出る可能性があることが知られています(厚労省)。また、非常に稀ですが、愛知県で発生したように強いアレルギー反応であるアナフィラキシーを発症して死亡した可能性が高いと見られる事例も存在します(愛西市医療事故調査委員会 )。

ワクチンのリスクに関する正確な情報発信が重要なことは明白です。一方で、今も拡散する誤/偽情報の中には「安倍元首相はワクチンを否定してイベルメクチンの利用を推進したから殺された」(誤りと判定)などのような陰謀論も存在します。

ワクチンの功罪を評価するためには、科学的な事実の確認が不可欠です。世界保健機構(WHO)は2021年だけで新型コロナワクチンによって世界で推計1440万人の命が助かったと評価しています。また、緊急事態を脱した現在においても、重症化の防止や新たな亜種の出現可能性を減らすために、ワクチンを打つようにアドバイスしています(WHO, 2023年12月5日)。

生成AIによる捏造の増加

イスラエル・パレスチナでの武力衝突をめぐって拡散した偽情報の中にはAIで作られたものも多数ありました。日本でも生成AIを活用した偽情報が増えつつあり、首相や著名人の発言をAIで捏造する事例もあります。

「(動画)アメリカの人気モデルがイスラエル支持を表明」は誤り AIで改変【ファクトチェック】
イスラエル・パレスチナでの武力衝突に関連し、アメリカのファッションモデルのベラ・ハディッドさんが「イスラエルを支持します」と語る動画付き言説が拡散しましたが、誤りです。この動画は2016年のスピーチ映像を改変したものです。 検証対象 2023年10月29日、X(旧Twitter)上でアメリカのファッションモデルであるベラ・ハディッドさんが「イスラエルを支持します」と語る動画が拡散した。このポストは9000回以上リポストされ、表示回数は3034万件を超える。 投稿について「とても嫌だ」とショックを受けるコメントの一方で、「AIによるフェイクだ」という指摘もある。 検証過程 拡散した動画の背景 父がパレスチナ出身のベラ・ハディッドさんはモデルとして活躍するとともに、姉で同じくモデルのジジ・ハディッドさんとともに、パレスチナの平和を訴える発言でも知られる。 今回の武力衝突が始まった後、ジジさんが「イスラエル政府を非難することは反ユダヤ主義ではないし、パレスチナ人を支持することはハマスを支持することでもない」などとInstagramストーリーに投稿。イス

AIによる偽情報の脅威が本格化するのは2024年でしょう。対抗するにはファクトチェックをしたり、偽情報を規制したりする側もAIを活用するしかありません。JFCではこれまでに発表した約200本のファクトチェック記事データベースとAIツールを繋いで、LINEユーザーからのフェイクニュースに関する質問に、JFCの記事で答えるAIボットを運営しています。LINEユーザーの方はぜひ、下のQRコードかこちらのリンクからJFCアカウントをフォローし、気になる情報について質問してみてください。

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気候変動否定論

国連による気候変動対策の会議「COP28」が開催された2023年は、気候変動に関する誤/偽情報も多く拡散しました。「温暖化ではなく沸騰化の時代」とアントニオ・グテーレス国連事務総長が危機を訴えるほど状況が悪化していく中で「温暖化は嘘」「人間活動が原因ではない」などの言説は今も絶えません。

「気候変動は疑似科学で危機は存在しない」は誤り【ファクトチェック】
「気候変動は疑似科学の結果であり、本当の気候危機は存在しない」という言説が拡散しましたが、誤りです。地球は温暖化しており、主な原因は人間の活動であると大多数の科学者や科学機関が結論づけています。 検証対象 拡散したのは、ネットメディアTotal News Worldの記事「ノーベル物理学賞受賞者含む300人の学者が「気候変動の緊急事態など存在しない。科学の危険な腐敗だ」と宣言/「風力、太陽光は完全な失敗で環境を破壊しているだけだ」」。ソーシャル分析ツールBuzzSumoで調べると、「気候変動」が見出しに入った日本語の記事で主要メディアを超えて過去1年で最も拡散しており、FacebookやTwitterなどのシェアやいいねなど総エンゲージメント数は1万7000を超えている。 記事は海外のネットメディアThe Daily Scepticの英文記事を翻訳・引用して伝えている。主な内容は、2022年ノーベル物理学賞の共同受賞者ジョン・クラウザー博士が「世界経済と何十億もの人々の幸福を脅かす危険な科学の腐敗」「大規模な衝撃ジャーナリズムの疑似科学に転移した」と発言し、

人間活動による地球温暖化については、科学的に決着がついている議論とも言えます。コーネル大学が2021年に発表した報告書によると、8万8125件の気候関連の研究を対象とした調査で、査読を受けた科学論文の99.9%以上が気候変動は主に人間によって引き起こされるという説で同意しています。気象庁の地球温暖化ポータルサイトには、日本語で読める信頼性の高い資料が多数あります。参考にしてみてください。

陰謀論

2023年、Google検索経由で最も読まれたJFCの記事は2022年に公開した「『(ケムトレイル)政府が飛行機雲で有害物質を空から散布している』は誤り」でした。意外に思う人も多いでしょう。「飛行機雲は人口減少を狙う闇の政府が人々を殺そうと空からばら撒いている危険な化学物質である」というケムトレイル論は、昔からある典型的な陰謀論。JFCには「バカバカしい話題をわざわざ検証するな」という批判が寄せられました。

「(ケムトレイル)政府が飛行機雲で有害物質を空から散布している」は誤り【ファクトチェック】
飛行機雲を、政府などがこっそりと危険な化学物質を散布している「ケムトレイル」だと考える人が世界中にいます。実際には航空機の排気ガスによってできた線状の雲で、「健康被害はない」とアメリカの公的機関などが度々否定している根拠のない陰謀論で、誤りです。 検証対象 Twitter上では、飛行機雲の写真に「#ケムトレイル」とタグ付けした投稿が、毎日のようにある。ケムトレイルとは「ケミカル」(化学物質)と「トレイル」(痕跡)をかけ合わせた言葉で、例えば2022年9月13日にあったツイートは「これは飛行機雲などと言った呑気なものではありません。#ケムトレイル」などと訴える。 リプライでは「大阪と、四国の間の海上でも、昨日見かけました」「昨日の長野です」と同調する声が上がるほか、「なに撒いてるのかねー」「喉の調子が今一つ」などと健康への影響を心配する声も。 「国民を駆除する気だ」「勝手に毒を撒くなんて許せない」「なんでこれを政府や国会議員は放置しているのか。お仲間ですか?」と、政府や闇の勢力が人口減少などを狙って化学物質を散布しているという主張も根強い。 検証過程

しかし、実際には多くの人がSNSで「ケムトレイルは危険だ」と主張する飛行機雲の写真つきの投稿を見て、これはなんだろうと検索しています。検索結果にも「ケムトレイルは危ない」と主張するサイトが出てくる中で、ファクトチェック記事がそこにあることが非常に大きな意味を持ちます。

陰謀論はこれに限りません。大地震は殺戮兵器だという「人工地震説」、ワクチン普及はビル・ゲイツなどの策略だという「ワクチン陰謀論」、同時多発テロは捏造だという「911陰謀論」など、何年も前から続いている陰謀論が繰り返し拡散されています。

JFCは時間が経ったものでも、繰り返し拡散することを防ぐために検証します。また、記事のデータベース化だけでなく、メディアリテラシーの教材にも活用しています。2024年は、教育者向けと一般向けのYouTube講座の開講も予定しているので、ぜひご利用ください。

ヘイトスピーチとフェイクニュース

誤/偽情報を広げる人は、政治的な対立や「私たちとは違う誰か」への誤解や反感を煽ることがあります。政権や野党、女性、性的マイノリティなど様々な属性が標的となります。

日本では憲法19条が思想及び良心の自由を、憲法21条が言論や表現の自由を保障しています。だからこそ、他国で事例があるような誤/偽情報の法的規制よりも民間のファクトチェックが重視されています(総務省プラットフォームサービスに関する研究会最終報告書)。

一方で、国連は「言論、文書、行動におけるあらゆる種類のコミュニケーションにおいて、その人が誰であるか、つまり、その人の宗教、民族性、国籍、人種、肌の色、家系、性別、その他のアイデンティティに基づいて、その人や集団を攻撃したり、侮蔑的・差別的な言葉を使ったりするもの」をヘイトスピーチと定義し、「社会平和を脅かす」と警告しています。日本でもヘイトスピーチ対策として「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律」が存在します。

国連は「ヘイトスピーチは偽情報と相まって、人や集団に汚名を着せたり、差別をしたり、そして大規模な暴力に至る危険性を持つ」とも指摘しています。「その情報は正しいのか」と考えると同時に「敵意を煽る情報ではないか」にも注意をする必要があります。

2024年は選挙のビッグイヤー 手口の予習を

2024年は1月の台湾総統選を皮切りに、アメリカやロシアなど世界70カ国以上、合計30億人を越す有権者が国政を決める選挙に臨む「史上最大の選挙イヤー」と言われます(日経新聞)。

台湾総統選の争点の一つは中国への対応で、対中国で強硬的な与党と融和的な野党が競る構図になっています。台湾のファクトチェック組織は中国が野党候補を有利にする情報戦を仕掛けると警戒を強めています。日本でも2021年の自民党総裁選で、党内対立を煽る投稿が中国から発信されていたとの報道があります(日経新聞朝日新聞)。

選挙をめぐる誤/偽情報には、特定の陣営を貶めるものや選挙自体の信頼性を壊すものなどがあります。いずれも民主主義の根幹を揺るがすものです。JFCからは編集長の私が1月に台湾に行き、現地の偽情報対策を取材し、学んでくる予定です。

JFCは2024年もファクトチェックの実践やメディアリテラシー普及に取り組みます。多くの人が誤/偽情報にまつわる様々な手口を知り、備える。この記事もその役に立つことを願っています。JFCファクトチェック講座JFCリテラシー講座もご活用ください。


判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。

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仏政府「第三次世界大戦が来る」と国民に食料備蓄指示? まとめサイトによるもの【ファクトチェック】

仏政府「第三次世界大戦が来る」と国民に食料備蓄指示? まとめサイトによるもの【ファクトチェック】

フランス政府が「第三次世界大戦が来る」として国民に食料備蓄を指示したとする投稿が拡散しましたが、誤りです。拡散した投稿はまとめサイトのXアカウントで、見出しは掲示板サイトのスレッドタイトルを引用しているのみです。 検証対象 2025年3月25日、「フランス政府、国民に食糧備蓄を指示「今年第三次世界大戦が来る」」という投稿が拡散した。この投稿は2025年3月31日までに296万回以上の閲覧回数と4500件以上のリポストを獲得している。 検証過程 検証対象のリンクは、まとめサイト「ツイッター速報〜BreakingNews」の記事だ。タイトルは掲示板サイト5ちゃんねるのスレッド「フランス政府、国民に食糧備蓄を指示『今年第三次世界大戦が来る』」で、The People’s Voice(TPV)が2025年3月20日に配信した記事「France Orders Citizens to Stockpile Food: “World War 3 Is Coming This Year”」を引用元にしている。 TPVは「大手メディアの扱わないニュースを扱うことで読者に真

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
運営委員会報告書及び監査委員会報告書を公開

運営委員会報告書及び監査委員会報告書を公開

運営委員会報告書及び監査委員会報告書を公開しましたのでお知らせいたします。JFCでは運営委員会を設置し、編集部がファクトチェックガイドラインに則って検証を実施しているかなど評価しています。運営委員会の内容は、運営委員会報告書として掲載されます。 また運営委員会と編集部全体のガバナンスが適正か確認する監査委員会を設置し、運営委員会報告書を閲覧するなどして監査を行っています。監査委員会の内容は監査委員会報告書として掲載されます。  なおこれらの適切な運用を図るためにルールを制定しており、「日本ファクトチェックセンター設置規程」(規程全文はこちら)及び「日本ファクトチェックセンター監査委員会運営規程」(規程全文はこちら)を公開しています。 これからもJFCは透明性確保のため、情報公開に努めて参ります。 運営委員会報告書2024年12月12日(報告書全文はこちら) 第1 運営委員の任命並びに委員長及び副委員長等の任命プロセス 第2 編集部メンバーの採用等編集に関わる人員 第3 外部機関との連携 第4 プラットフォーマー連携 第5 ファクトチェック記事の公開状況 第6 財務報告 第7 国

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
ファクトチェック業界の資金難と広がるコラボ IFCN報告書から見える世界の現状とは

ファクトチェック業界の資金難と広がるコラボ IFCN報告書から見える世界の現状とは

世界のファクトチェックをリードする国際ファクトチェックネットワーク(IFCN)が、業界の現状をまとめた「ファクトチェッカー実態レポート」2024年版を公開しました。 IFCNの認証を受けた世界182のファクトチェック団体を対象に2025年1-2月にアンケートを実施。67カ国141団体から回答を得ました。4月2日の国際ファクトチェックデーを前にした毎年恒例の公開で、過去分はこちら(2018, 2019, 2020, 2021, 2022, 2023)。 30ページの英文レポートからは、Metaのファクトチェックプログラムの廃止などで資金難がさらに厳しくなっている現状と、収入の多様化や業界を超えたコラボレーションの広がりが見て取れます。 日本ファクトチェックセンター(JFC)はこれらの状況も踏まえ、日本での偽・誤情報、ファクトチェック、メディアリテラシーなどに関して、調和のとれた情報生態系を目指す「情報インテグリティシンポジウム」を4月2日に開催します。 会場とオンラインのハイブリッド開催です。参加や視聴のお申し込みなどはこちらからどうぞ。レポートに関する解説もあります

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
山火事は兵器によって起こされている? 大規模火災のたび拡散する陰謀論 【ファクトチェック】

山火事は兵器によって起こされている? 大規模火災のたび拡散する陰謀論 【ファクトチェック】

全国各地で相次ぐ山火事をめぐって、兵器によって起こされているからだなどといった情報が拡散しましたが、誤りです。日本では、山火事は例年1〜5月に集中して発生しています。大規模な火災のたびに国内外でこうした陰謀論が拡散します。 検証対象 2025年3月24日、「やっぱり直線状に燃えてますね。通常の山火事で、こんな燃え方は絶対しません。明らかにDEW(指向性兵器)で焼き払っていますね」という情報が拡散した。 投稿は愛媛県今治市で撮影された山火事が燃え広がる動画を引用している。 各地で相次いだ山火事に関連して「#スマートシティ火災」「#DEW火災」などのハッシュタグが付いた投稿や「誰かが放火してるんじゃないの?」「DEWで焼き払ってるとしか思えない」という情報も拡散している(例1、例2、例3)。 検証過程 相次いで発生した山火事 2025年2月から3月にかけて大規模な山火事が日本各地で発生している。2月26日、岩手県大船渡市では市の面積の9%にあたるおよそ2900ヘクタールが焼失する山火事が発生し1人が死亡した。3月31日現在消防は警戒を続けている(NH

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)

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日本ファクトチェックセンター(JFC)は、ファクトチェックやメディア情報リテラシーに関する講師養成講座を月に1度開催しています。講座はオンラインで90分間。修了者には認定バッジと教室や職場などで利用可能な教材を提供します。 次回の開講は4月19日(土)午後2時~3時半で、お申し込みはこちら。 https://jfcyousei0419.peatix.com/ 受講条件はファクトチェッカー認定試験に合格していること。講師養成講座は1回の受講で修了となります。 受講生には教材を提供 デマや不確かな情報が蔓延する中で、自衛策が求められています。「気をつけて」というだけでは、対策になりません。最初から騙されたい人はいません。誰だって気をつけているのに、誤った情報を信じてしまうところに問題があります。 JFCが国際大学グロコムと協力して実施した「2万人調査」では実に51.5%の人が誤った情報を「正しい」と答えました。一般に思われているよりも、人は騙されやすいという事実は、様々な調査で裏打ちされています。 JFCではこれらの調査をもとに、具体的にどのような知識と

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、YouTubeで学ぶ「JFCファクトチェック講座」を公開しました。誰でも無料で視聴可能で、広がる偽・誤情報に対して自分で実践できるファクトチェックやメディアリテラシーの知識を学ぶことができます。 理論編と実践編の中身 理論編では、偽・誤情報の日本での影響を調べた2万人調査の紹介や、間違った情報を信じてしまう背景にある人間のバイアス、大規模に拡散するSNSアルゴリズムなどを解説しています。 実践編では、画像や動画や生成AIなど、偽・誤情報をどのように検証したら良いかをJFCが検証してきた事例から具体的に学びます。 JFCファクトチェッカー認定試験を開始 2024年7月29日から、これらの内容について習熟度を確認するJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。誰でもいつでも受験可能です(2024年度中は受験料1000円、2025年度から2000円)。 合格者には様々な技能をデジタル証明するオープンバッジ・ネットワークを活用して、JFCファクトチェッカーの認定証を発行します。 JFCファクトチェッカー認定試験

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
JFCファクトチェッカー認定試験  教材と申し込みはこちら

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日本ファクトチェックセンター(JFC)はJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。YouTubeで公開しているファクトチェック講座から出題し、合格者に認定証を授与します。 拡散する偽・誤情報から身を守るために 偽・誤情報の拡散は増える一方で、皆さんが日常的に使用しているSNSや動画プラットフォームに蔓延しています。偽広告や偽サイトへのリンクなどによる詐欺被害も広がっています。 JFCが国際大学グロコムと実施した2万人を対象とする調査では、実際に拡散した偽・誤情報を51.5%の割合で「正しいと思う」と答え、「誤っている」と気づけたのは14.5%でした。 自分が目にする情報に大量に間違っているものがある。そして、誰もが持つバイアスによって、それが自分の感覚に近ければ「正しい」と受け取る傾向がある。インターネットはその傾向を増幅する。 だからこそ、ファクトチェックやメディアリテラシーに関する知識が誰にとっても必須です。 JFCファクトチェック講座と認定試験 JFCファクトチェック講座(YouTube, 記事)は、2万人調査を元に偽・誤情報の拡散経路や

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)