AI、処理水、陰謀論...、JFCが検証した2023年10大フェイクニュース 史上最大の選挙の年に備えを
2023年も大量のフェイクニュース(誤情報/偽情報)が拡散し、日本ファクトチェックセンター(JFC)は1年間で173件の検証記事や動画を公開しました。中でも影響が大きく、注目を集めた「10大フェイクニュース」をまとめました。
選考基準は読まれた回数だけでなく、SNSやnoteでの反応、社会的な影響の大きさなども加味しました。誤った情報は繰り返し拡散します。間違いだと知りつつ故意に発信する人もいれば、正しいと信じて拡散する人もいます。まとめ記事で傾向を知ることは、2024年に同様のフェイクニュースが拡散することを防ぐことにも役立ちます。良いお年を!
2023年の10大フェイクニュース
福島第一原発からの処理水の放出
世界で注目を集めたのが福島第一原発の処理水の海洋放出でした。JFCは誤解を生みやすい「処理水」とは何かについて、国際原子力機関(IAEA)の報告書など国内外の資料に基づいて解説し、「放射性物質の6割が除去されない」「魚が大量死している」(いずれも誤りと判定)など個別に拡散した情報も検証しました。
処理水に関する誤情報や偽情報は、中国語で拡散した後に、日本語や英語などに翻訳される事例が目立ちます。偽情報対策に取り組む英テック企業Logicallyは「中国の組織的なキャンペーンが日本の原発から排出される処理水を狙う」と題したレポートで、中国の国営メディアや中国のSNSが処理水に関するネガティブな言説を拡散させている状況を指摘しました。
JFCは中国語での誤/偽情報対策に優れた台湾ファクトチェックセンター(TFC)や台湾情報環境研究センター(IORG)などの協力を得て検証に取り組んでいます。
関東大震災から100年
地震などの災害は誤/偽情報が拡散しやすいテーマです。今年は関東大震災から100年で、これまでに何度も拡散してきた誤/偽情報が再拡散しました。JFCでは内閣府が2009年に公表した専門調査会報告書などに基づいて「朝鮮人の大規模な暴動があった」「虐殺はなかった」(いずれも誤りと判定)などのファクトチェック記事を配信しました。
朝鮮人の虐殺については、松野博一官房長官(当時)が2023年8月30日、「政府内において事実関係を把握する記録は見当たらない」と発言。この発言に関しても、多数の記録が存在していることなどを根拠に、ミスリードで不正確だと判定する記事を出しました。
イスラエル・パレスチナでの武力衝突
戦争や紛争では、双方の陣営が大量の「フェイクニュース」を発信します。自分の陣営を有利にし、相手を貶めようとする情報戦です。2023年10月にイスラム組織ハマスによる奇襲で始まり、イスラエルが苛烈に反撃している今回の武力衝突では、一般市民の犠牲が増え続けています。戦闘開始から3ヶ月が経とうとする現在も、誤/偽情報は拡散しています。JFCはアラブ地域で検証に取り組むアラブ・ファクトチェッカーズ・ネットワークの協力も得て、ファクトチェックを続けています。
フェイクニュースの種類は様々で、画像を改変して事実を捻じ曲げたり、撮影された日時や場所が違う映像を使ったり、リアルなゲームの映像を本物の戦闘のように偽ったり、AIを使って画像を捏造するなどの手法があります。手口を知れば騙されにくくなります。ぜひ、まとめ記事を読んでください。
SNSの偽広告
SNS上で増えているのが、著名人の名前や映像を使った偽広告です。「日銀、柳井正を提訴 生放送の発言で」(誤りと判定)などセンセーショナルな見出しとネット上の画像の流用で偽記事を作り、SNSの広告機能を使って拡散させる手口が蔓延しています。
この偽広告にはgooニュースや読売新聞オンラインのロゴが使われていました。イスラエルとパレスチナをめぐる偽動画でもBBCのロゴが使われました。実在するニュースサイトを装って偽情報を拡散させるのは常套手段です。記事本文を見ると、日本語の使い方や内容に不自然さが目立ちます。注意しましょう。
著名人の訃報デマ
「著名人が亡くなった」という投稿も世界中で繰り返されるフェイクニュースの一つです。海外のメディアでは著名人の訃報デマに関する特集があるほどです(ロサンゼルス・タイムズ、Snopes)。JFCは12月に研ナオコさんが亡くなったという偽情報をファクトチェックしました。
この情報を流したYouTubeアカウントは、研ナオコさん以外にも多数の著名人の訃報を捏造していました。驚いたファンたちが思わずクリックすることでビュー数を稼ぐことを狙ったのでしょう。
こういった情報は、SNSでのシェアや大手プラットフォームのレコメンドによって広がることがあります。著名人の訃報であれば、大手メディアも一斉に報じるはずです。怪しいと思ったら、シェアせずに他メディアの情報と比べてみましょう。
反ワクチン言説
医療・健康は昔から誤/偽情報が多いテーマとして知られています。特に新型コロナウイルスとワクチンをめぐっては、2020年から大量の誤った情報が拡散し、多くの医療専門家や公的機関、メディアが検証や正確な情報の発信に取り組みました。2022年10月発足のJFCも、当初はワクチン関連の検証が重要テーマの一つでした。
新型コロナが下火となり、日常生活が戻るにつれて公的機関やメディアの発信は減りました。その一方で、誤/偽情報の発信は続いており、JFCは2023年にも新型コロナやワクチン関連の記事を16本配信しました。
JFCはワクチンを推進するためにファクトチェックをしている訳ではありません。ワクチン接種後には発熱や倦怠感などの副反応が出る可能性があることが知られています(厚労省)。また、非常に稀ですが、愛知県で発生したように強いアレルギー反応であるアナフィラキシーを発症して死亡した可能性が高いと見られる事例も存在します(愛西市医療事故調査委員会 )。
ワクチンのリスクに関する正確な情報発信が重要なことは明白です。一方で、今も拡散する誤/偽情報の中には「安倍元首相はワクチンを否定してイベルメクチンの利用を推進したから殺された」(誤りと判定)などのような陰謀論も存在します。
ワクチンの功罪を評価するためには、科学的な事実の確認が不可欠です。世界保健機構(WHO)は2021年だけで新型コロナワクチンによって世界で推計1440万人の命が助かったと評価しています。また、緊急事態を脱した現在においても、重症化の防止や新たな亜種の出現可能性を減らすために、ワクチンを打つようにアドバイスしています(WHO, 2023年12月5日)。
生成AIによる捏造の増加
イスラエル・パレスチナでの武力衝突をめぐって拡散した偽情報の中にはAIで作られたものも多数ありました。日本でも生成AIを活用した偽情報が増えつつあり、首相や著名人の発言をAIで捏造する事例もあります。
AIによる偽情報の脅威が本格化するのは2024年でしょう。対抗するにはファクトチェックをしたり、偽情報を規制したりする側もAIを活用するしかありません。JFCではこれまでに発表した約200本のファクトチェック記事データベースとAIツールを繋いで、LINEユーザーからのフェイクニュースに関する質問に、JFCの記事で答えるAIボットを運営しています。LINEユーザーの方はぜひ、下のQRコードかこちらのリンクからJFCアカウントをフォローし、気になる情報について質問してみてください。
気候変動否定論
国連による気候変動対策の会議「COP28」が開催された2023年は、気候変動に関する誤/偽情報も多く拡散しました。「温暖化ではなく沸騰化の時代」とアントニオ・グテーレス国連事務総長が危機を訴えるほど状況が悪化していく中で「温暖化は嘘」「人間活動が原因ではない」などの言説は今も絶えません。
人間活動による地球温暖化については、科学的に決着がついている議論とも言えます。コーネル大学が2021年に発表した報告書によると、8万8125件の気候関連の研究を対象とした調査で、査読を受けた科学論文の99.9%以上が気候変動は主に人間によって引き起こされるという説で同意しています。気象庁の地球温暖化ポータルサイトには、日本語で読める信頼性の高い資料が多数あります。参考にしてみてください。
陰謀論
2023年、Google検索経由で最も読まれたJFCの記事は2022年に公開した「『(ケムトレイル)政府が飛行機雲で有害物質を空から散布している』は誤り」でした。意外に思う人も多いでしょう。「飛行機雲は人口減少を狙う闇の政府が人々を殺そうと空からばら撒いている危険な化学物質である」というケムトレイル論は、昔からある典型的な陰謀論。JFCには「バカバカしい話題をわざわざ検証するな」という批判が寄せられました。
しかし、実際には多くの人がSNSで「ケムトレイルは危険だ」と主張する飛行機雲の写真つきの投稿を見て、これはなんだろうと検索しています。検索結果にも「ケムトレイルは危ない」と主張するサイトが出てくる中で、ファクトチェック記事がそこにあることが非常に大きな意味を持ちます。
陰謀論はこれに限りません。大地震は殺戮兵器だという「人工地震説」、ワクチン普及はビル・ゲイツなどの策略だという「ワクチン陰謀論」、同時多発テロは捏造だという「911陰謀論」など、何年も前から続いている陰謀論が繰り返し拡散されています。
JFCは時間が経ったものでも、繰り返し拡散することを防ぐために検証します。また、記事のデータベース化だけでなく、メディアリテラシーの教材にも活用しています。2024年は、教育者向けと一般向けのYouTube講座の開講も予定しているので、ぜひご利用ください。
ヘイトスピーチとフェイクニュース
誤/偽情報を広げる人は、政治的な対立や「私たちとは違う誰か」への誤解や反感を煽ることがあります。政権や野党、女性、性的マイノリティなど様々な属性が標的となります。
日本では憲法19条が思想及び良心の自由を、憲法21条が言論や表現の自由を保障しています。だからこそ、他国で事例があるような誤/偽情報の法的規制よりも民間のファクトチェックが重視されています(総務省プラットフォームサービスに関する研究会最終報告書)。
一方で、国連は「言論、文書、行動におけるあらゆる種類のコミュニケーションにおいて、その人が誰であるか、つまり、その人の宗教、民族性、国籍、人種、肌の色、家系、性別、その他のアイデンティティに基づいて、その人や集団を攻撃したり、侮蔑的・差別的な言葉を使ったりするもの」をヘイトスピーチと定義し、「社会平和を脅かす」と警告しています。日本でもヘイトスピーチ対策として「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律」が存在します。
国連は「ヘイトスピーチは偽情報と相まって、人や集団に汚名を着せたり、差別をしたり、そして大規模な暴力に至る危険性を持つ」とも指摘しています。「その情報は正しいのか」と考えると同時に「敵意を煽る情報ではないか」にも注意をする必要があります。
2024年は選挙のビッグイヤー 手口の予習を
2024年は1月の台湾総統選を皮切りに、アメリカやロシアなど世界70カ国以上、合計30億人を越す有権者が国政を決める選挙に臨む「史上最大の選挙イヤー」と言われます(日経新聞)。
台湾総統選の争点の一つは中国への対応で、対中国で強硬的な与党と融和的な野党が競る構図になっています。台湾のファクトチェック組織は中国が野党候補を有利にする情報戦を仕掛けると警戒を強めています。日本でも2021年の自民党総裁選で、党内対立を煽る投稿が中国から発信されていたとの報道があります(日経新聞、朝日新聞)。
選挙をめぐる誤/偽情報には、特定の陣営を貶めるものや選挙自体の信頼性を壊すものなどがあります。いずれも民主主義の根幹を揺るがすものです。JFCからは編集長の私が1月に台湾に行き、現地の偽情報対策を取材し、学んでくる予定です。
JFCは2024年もファクトチェックの実践やメディアリテラシー普及に取り組みます。多くの人が誤/偽情報にまつわる様々な手口を知り、備える。この記事もその役に立つことを願っています。JFCファクトチェック講座やJFCリテラシー講座もご活用ください。
検証手法や判定基準などに関する解説は、JFCサイトのファクトチェック指針をご参照ください。
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