ブラジャーをつけたままのAED使用は金具で火傷?「可能性は極めて低い」【ファクトチェック】

ブラジャーをつけたままのAED使用は金具で火傷?「可能性は極めて低い」【ファクトチェック】

女性へのAED使用について「服を脱がさないとブラジャーの金具で火傷する」という言説が拡散しましたが、不正確です。AEDの専門家は「火傷をする可能性がなくはないが可能性は極めて低いし、重篤な火傷にはならない。救命を優先してほしい」と呼びかけています。

検証対象

2024年9月8日、女性へのAED使用について「服を脱がさないとブラジャーの金具で火傷or正常に貼れているかわからず専門職者が行ったとしても危険しかない」と主張する言説が拡散した。

この投稿は9月10日時点で2700件以上リポストされ、表示回数は600万回を超える。投稿について「AED講習で教えてもらってなかったな」「金属などは外さなければいけないはず」というコメントの一方で「完全なるデマ」という指摘もある。

検証過程

AEDとは、心臓がけいれんを起こして血液を流すポンプ機能を失った状態(心室細動)になった時、電気ショックを与えて正常なリズムに戻すための医療機器(AEDライフ)。2004年から一般市民も使えるようになり、様々な場所に設置されている。

日本AED財団「必ずしも外す必要はありません」

日本AED財団はウェブサイトの「よくある質問」(FAQ)で、「AED を女性に使用する場合、下着や胸の露出への配慮はどうすればいいですか?」という問いを設け、「AED のパッドを素肌に直接貼り付けることができていれば、ブラジャーは必ずしも外す必要はありません」「重要なことは、電気ショックの時間を遅らせないことです」などと解説している。

東京都多摩府中保健所「下着をずらして貼ることで対応できます」

東京都多摩府中保健所は公式サイトで「女性に配慮したAEDの使用方法について」というページを公開している。

AED使用について「AEDは電源を入れて2枚のパッドを素肌に貼りますが、服をすべて脱がせる必要はなく、下着をずらして貼ることで対応できます」「金属製品(ブラジャーのワイヤー部分、ネックレス等)はパッドにふれさせないようにしてください。パッドに触れていなければ、ネックレスは無理に取り外す必要はありません」などと明記している。

東京都多摩府中保健所のサイトより

日本AED財団専務理事 石見拓教授インタビュー

日本ファクトチェックセンター(JFC)はAED財団専務理事の石見拓京都大大学院医学研究科教授に取材した。

石見教授は「AEDは電流を流すので電極パッドを直接素肌に貼る必要がある。素肌に貼れるのであれば必ずしも服を全て脱がせる必要はない」「下着の金具や、アクセサリーの金属部分がじかに肌に触れている場合、火傷をする可能性がゼロではないが、重篤な火傷を生じる可能性は極めて低い。やけどよりも救命を最優先してほしい」と話した。

判定

AEDは下着をずらしてパッドを貼ることで対応できる。金属が肌にじかに触れている場合、火傷をする可能性がゼロではないが極めて低いため、拡散した言説は不正確と判定した。

あとがき

NHKは番組で、倒れた人が女性の場合、男性よりもAEDが使われにくいという調査結果や、女性を理由に使用が遅れ、重い意識障害を負った人について報じています(NHK「女性にAEDためらわないで」)。

石見教授は「救命は善意の行動です。自分やあなたの大切な人がいつ倒れるかもわかりません。そうした事態に出くわした時にためらわず助けることを称える、感謝する社会になってほしいと願っています」と話しています。

女性へのAED使用をためらわせる言説は他にも拡散しており、JFCは過去に検証して、誤りと判定しています。「消防署が女性へのAED使用に配慮を呼びかけ?【ファクトチェック】

検証:木山竣策、宮本聖二
編集:藤森かもめ、古田大輔、野上英文

判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。

毎週、ファクトチェック情報をまとめて届けるニュースレター登録(無料)は、上のボタンから。また、QRコード(またはこのリンク)からLINEでJFCをフォローし、気になる情報を質問すると、AIが関連性の高いJFC記事をお届けします。詳しくはこちら

ファクトチェックやメディア情報リテラシーについて学びたい方は、こちらの無料講座をご覧ください。ファクトチェッカー認定試験や講師養成講座も提供しています。

理論から実践まで学べるJFCファクチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介
日本ファクトチェックセンター(JFC)は、YouTubeで学ぶ「JFCファクトチェック講座」を公開しました。誰でも無料で視聴可能で、広がる偽・誤情報に対して自分で実践できるファクトチェックやメディアリテラシーの知識を学ぶことができます。 理論編と実践編の中身 理論編では、偽・誤情報の日本での影響を調べた2万人調査の紹介や、間違った情報を信じてしまう背景にある人間のバイアス、大規模に拡散するSNSアルゴリズムなどを解説しています。 実践編では、画像や動画や生成AIなど、偽・誤情報をどのように検証したら良いかをJFCが検証してきた事例から具体的に学びます。 JFCファクトチェッカー認定試験を開始 2024年7月29日から、これらの内容について習熟度を確認するJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。誰でもいつでも受験可能です(2024年度中は受験料1000円、2025年度から2000円)。 合格者には様々な技能をデジタル証明するオープンバッジ・ネットワークを活用して、JFCファクトチェッカーの認定証を発行します。 JFCファクトチェッカー認定試験

もっと見る

石破新首相めぐる偽・誤情報/斎藤前知事の支持率39%?/選挙で気をつけるべきこととAIの影響【今週のファクトチェック】

石破新首相めぐる偽・誤情報/斎藤前知事の支持率39%?/選挙で気をつけるべきこととAIの影響【今週のファクトチェック】

自民党総裁選挙に勝利して首相に就任した石破茂氏、失職した兵庫県の前知事斎藤氏に関して偽・誤情報が拡散しました。近づく選挙に備えて拡散しがちな偽・誤情報の類型やAIの影響の実態について国内外の事例をもとに解説します。 ✉️日本ファクトチェックセンター(JFC)がこの1週間に出した記事を中心に、その他のメディアも含めて、ファクトチェックや偽情報関連の情報をまとめました。同じ内容をニュースレターでも配信しています。登録はこちら。 今週のファクトチェック解説 選挙で拡散する偽・誤情報とは 標的は候補者だけでなく民主主義 石破茂首相は2024年10月に解散総選挙を実施すると宣言しました。選挙は偽・誤情報の標的になります。2024年は世界中で国政選挙が実施され、生成AIによる混乱も指摘されてきました。実際にどのようなデマや噂が拡散するのでしょうか。国内外の状況について解説します 選挙で拡散する偽・誤情報、AIの影響は? 標的は候補者だけでなく民主主義【解説】石破茂首相は2024年10月に解散総選挙を実施すると宣言しました。選挙は偽・誤情報の標的になります。2024

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
選挙で拡散する偽・誤情報、AIの影響は? 標的は候補者だけでなく民主主義【解説】

選挙で拡散する偽・誤情報、AIの影響は? 標的は候補者だけでなく民主主義【解説】

石破茂首相は2024年10月に解散総選挙を実施すると宣言しました。選挙は偽・誤情報の標的になります。2024年は世界中で国政選挙が実施され、生成AIによる混乱も指摘されてきました。実際にどのようなデマや噂が拡散するのでしょうか。国内外の状況について解説します。 選挙で拡散しがちな偽・誤情報の種類 選挙で拡散する偽・誤情報には世界的に共通する傾向がある。以下の表に日本で実際に拡散し、日本ファクトチェックセンター(JFC)で検証をしたものを中心に分類した。 拡散する時期を「投開票日前」「投開票日」「選挙後」に、標的となる対象を「政党・候補者」「選挙制度」「メディア」に分けた。標的と時期ごとに、これまでにJFCが実際に検証した情報をまとめている。 政党・候補者に関する偽・誤情報 候補者や政党を貶めたり、持ち上げたりする偽・誤情報が拡散する理由の一つは、自分が支持する陣営を有利にしたいという明確な意図だ。間違った情報を意図的に流して政治的な利益を得ようとする「故意犯」と言える。 ただ、これだけが拡散の理由ではない。 自分が嫌いな候補にとって不利な情報であれ

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
石破首相「中国の領空侵犯は即射撃を検討」などと発言? 表現を改変【ファクトチェック】

石破首相「中国の領空侵犯は即射撃を検討」などと発言? 表現を改変【ファクトチェック】

2024年10月1日に首相となった石破茂氏が「中国の領空侵犯は即射撃を検討。今できないから中国が調子乗ってる」と発言したとする投稿が拡散しましたが、不正確です。引用元の記事にある発言を改変しています。 検証対象 2024年9月28日、「石破茂、さっそく終わる。『中国の領空侵犯は即射撃を検討。今できないから中国が調子乗ってる』」という言説が拡散した。 2024年10月4日現在、この投稿は1800件以上リポストされ、表示回数は70万件を超える。投稿について「本当にやるなら、評価する」「対中国強硬発言」というコメントの一方で、「デマ」という指摘もある。 検証過程 投稿はまとめサイト「ツイッター速報」による投稿だ。リンク先を確認すると時事通信が9月22日にYahoo! ニュースに投稿した「領空侵犯に『危害射撃』検討を 自民・石破氏が提起」という記事を引用している。 記事によると、石破氏は9月22日、フジテレビの番組で「警察権で対応しているので、(正当防衛や緊急避難の場合でなければ)危害射撃ができない。中国は知っているから抑止力が効かない」と発言。相手を標的に

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
オバマ元大統領は「小児性愛者」? 姪と撮影した公式写真【ファクトチェック】

オバマ元大統領は「小児性愛者」? 姪と撮影した公式写真【ファクトチェック】

アメリカのバラク・オバマ元大統領が膝の上に少女を乗せた画像とともに「小児性愛者」などと指摘する投稿が拡散しましたが、誤りです。写真はオバマ氏と姪で、ホワイトハウスが2015年に公開したものです。 検証対象 2024年9月22日、「やばすぎるだろ」という文言と共にオバマ氏が膝の上に黒髪の少女を乗せた画像が拡散した。 2024年10月4日現在、この投稿は3100回以上リポストされ、表示回数は644万件を超える。投稿について、画像から「小児性愛者」「幼児虐待」と指摘するコメントがついている。また「AI画像ではないか」「合成」という指摘もある。 検証過程 画像をGoogleレンズで検索すると、写真や動画の投稿及び共有サービスを提供するコミュニティサイト「Flickr」に「Obama White House Archived」が投稿した画像がヒットする。拡散した画像とまったく同じだ。 写真説明には「妹一家が大統領執務室に立ち寄った際、姪に寄り添う大統領」と書かれている。投稿したのはホワイトハウスの公式アカウントだ。 オバマ氏と姪の写真は、その他にもFlick

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)