台風の進路をコントロールする海上移動式HAARP? 画像はミサイル防衛用レーダー【ファクトチェック】

台風の進路をコントロールする海上移動式HAARP? 画像はミサイル防衛用レーダー【ファクトチェック】

台風の針路をコントロールする「海上移動式HAARP」という画像が拡散しましたが、誤りです。画像は米軍が開発した弾道ミサイル防衛用の海上レーダーです。

検証対象

2024年8月25日、台風10号の針路について「台風の針路をコントロールする海上移動式HAARP」「人口台風の異常な直角の正体」と書かれた画像付き投稿が拡散した。

2024年8月29日時点で、この投稿は1000件以上リポストされ、表示回数は118万件を超える。投稿について「気象兵器」「なんじゃ!コリャ!」というコメントがつく一方で「ただの警戒レーダー」という指摘もある。

検証過程

HAARPとは

HAARPとは高周波活性オーロラ調査プログラム (High Frequency Active Auroral Research Program)の略称。2015年に米空軍からアラスカ大学フェアバンクス校に研究施設の運営が移管され、大気の上層にある「電離層」の研究をしている(University Of Alaska)。2022年には一般公開も開催している(HAARP to hold public open house Saturday)。

University Of Alaskaより

画像は海上配備Xバンドレーダー

今回拡散した言説に添付された画像をGoogle画像検索すると、Wikimedia Commonsに登録された海上配備Xバンドレーダーの画像がみつかる。Wikimediaの画像はアメリカ海軍ウェブサイトの海上配備Xバンドレーダーの画像と特徴が一致する。

アメリカ海軍フォトギャラリーより

海上配備Xバンドレーダー(SBX 1)とは、弾道ミサイル防衛システム(BMDS)の一部であり、弾道ミサイルの正確な追跡情報を検出するレーダーだ(Missile Defense Advocacy Alliance)。

このレーダーは、海洋で石油や天然ガスを掘削する「半潜水式石油プラットフォーム」に載せて移動できるものだ(米海軍海上輸送司令部フォトギャラリー)。

このレーダー画像を「HAARP」と主張する誤った言説は国内外で繰り返し拡散している。例えば、国際ファクトチェックネットワークに加盟しているトルコのファクトチェック組織Teyit.orgは同様の画像をもとに「これがHAAPRで地震を引き起こした」という言説を検証し、誤りと結論づけている。

天候を変える可能性があるという科学的証拠はない

HAARPは「地震を引き起こす」以外にも今回のように台風を操作する気象兵器」など、様々な陰謀論に紐づけられている。その度に多くの検証記事によって科学的な根拠がないと否定されてきた

AFPが2023年に公開したファクトチェック記事では、米国ペンシルベニア州立大学の大気科学・地球鉱物科学教授のビル・ブリストー氏が「これが何らかの形で天候を変える可能性があるという科学的証拠はありません。同じことが地球の気候への影響にも当てはまります」と回答している。

台風の進路

ネット上では「台風が直角に曲がるのは不自然」というような指摘が多数見られる。しかし、台風が日本周辺でほぼ直角に曲がるのはこれまでにも何度も観測されている。

過去の台風経路については気象庁のサイトで公開されている

判定

拡散した画像は海上に配備されたアメリカの弾道ミサイル防衛システムの一部であり、オーロラ研究のHAARP設備ではない。また、台風の進路に影響を与えるような装置でもない。よって誤りと判定した。

検証:木山竣策
編集:古田大輔、宮本聖二、藤森かもめ、野上英文


判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。

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石破茂首相は7月2日の党首討論で、2万円給付にともなう事務経費について「マイナポータルの活用で大幅に減らせる」と発言しましたが、根拠不明です。給付金事業の実施主体である自治体は「負担感は変わらない」と述べています。また、マイナポータルを使うことで、どのぐらい経費が削減できるかという見積もりは、総務省もデジタル庁も出していません。 検証対象 7月2日、参院選を控え、日本記者クラブで党首討論が行われた。与党公約の2万円給付について、国民民主党の玉木雄一郎代表は、自民党の石破茂首相に次のように質問した。 「ばらまき2万円、これはいつ配られるのか。そして配るための事務経費をどれぐらいかかると考えているのか。税収の上振れを使うとおっしゃったが、去年の補正から比べると1.9兆円しか上振れありませんが、2万円全員に配るだけでも2兆円 以上かかる。財源は足りていますか」 これに対し、石破氏は次のように回答した。 「マイナンバーを持っていらっしゃる方が8割、口座と紐づけていらっしゃる方が5割、これ紐づけはマイポータルで簡単にできますから、そうすると経費というのがガタンと減

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参政党の神谷宗幣代表が「給付金を配るのは自治体の負担」「減税が一番スピーディー」などと発言しましたが、不正確です。政府が2020年、全国民を対象に給付した新型コロナウイルス感染症緊急経済対策の特別定額給付金は、早いところで閣議決定から11日後に給付されています。一方、減税には法改正やシステム改修が必要で、少なくとも数ヶ月以上はかかると見られています。 検証対象 TBS「news23」で7月1日に実施された党首討論で、物価高対策は減税と給付どちらによるべきかという質問に、参政党の神谷代表が次のように発言した。 「われわれもですね、集めて配るよりまず『減税』というキャッチコピーでやっています。集めて配ると、それだけで手間も費用もかかるし、自治体の負担がかかったこともありますので、まず『減税』が一番スピーディーで公平だろうと考えている」(TBS NEWS DIG”【選挙の日、そのまえに】news23で党首討論 物価高対策などめぐり論戦 7月3日公示・参議院議員選挙” ) 検証過程 「集めて配ると手間も費用もかかるし自治体の負担」? 給付金事業が自治体にと

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