リテラシー

JFCリテラシー講座5:ファクトチェックとリテラシーは両輪

講座

JFCリテラシー講座5:ファクトチェックとリテラシーは両輪

日本ファクトチェックセンター(JFC)は2023年5月に国際ファクトチェックネットワーク(IFCN)に加盟し、6月に韓国ソウルで開催された年に1度の会合「Global Fact」に参加しました。 世界中から500人を超えるファクトチェッカーや研究者らが集まり、3日間で60 を超えるセッションで最新の事例や課題について議論しました。そのうち4つは直接的にメディアリテラシーに関するもので、リテラシー教育の重要性に一部でも触れたセッションを入れるとかなりの数になります。 ファクトチェッカーはリテラシー教育の重要性に気づき、リテラシー教育者はファクトチェックの技術を取り入れていく。相互の乗り入れと協力が進んでいます。 JFCリテラシー講座の最終回はオンラインですぐに学ぶことができるサイトや、日本や海外の取り組みなどを紹介します(この記事では今後も新しい事例をアップデートしていく予定です)。 国内での取り組み 専門家による具体的な解説 Yahoo!ニュースでは、フェイクニュースや選挙に関する誤情報について学ぶ「フェイクニュースへの備え~デマや不確かな情報に惑わ

By 宮本聖二, 古田大輔(Daisuke Furuta)
JFCリテラシー講座4: 健全な吟味に活用するためのリテラシー教育

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JFCリテラシー講座4: 健全な吟味に活用するためのリテラシー教育

前回のJFCリテラシー講座3で解説したように、私達はみな、バイアスがあります。情報を発信する側にも受信する側にも。そのため、客観的で正確な情報発信も、内容の客観的・正確な理解も簡単ではありません。 結果として、すべての情報に疑心暗鬼になる人もいます。しかし、「何も信じない。外部からの情報は受け取らない」という姿勢では生きていけません。情報を健全に吟味し、真偽を見極めるにはどうしたらよいでしょうか。 すべての情報は再構成されている JFCリテラシー講座2では、山脇岳志スマートニュースメディア研究所長が「すべてのメディアメッセージは再構成されていると意識する」ことを指摘していました。 「マスゴミは情報を切り取る」という批判がありますが、切り取るのはマスコミだけではありません。人は何かを他者に伝えようとするとき、情報を切り取って伝えます。自分が見聞きした事柄を、そのまま100%人に伝えることは不可能に近いからです。 自分が読んだ本、旅行で目にした風景、人から聞いた話...。それが何であれ、他者に伝えるときは、印象的な部分を切り取り、まとめ、再構成して伝えます。

By 宮本聖二, 古田大輔(Daisuke Furuta)
JFCリテラシー講座3:情報の発信者にも受信者にもバイアスはある

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JFCリテラシー講座3:情報の発信者にも受信者にもバイアスはある

日本ファクトチェックセンター(JFC)では、リテラシー講座に先立ち、情報の真偽を検証するファクトチェック講座を公開しました。即効性がありますが、情報氾濫時代をより広い観点から見るには、リテラシーに関係する幅広い知識が不可欠です。 3回目に紹介するのはバイアス(偏り)について。誤情報/偽情報を問題視する前に、そもそも私達自身が情報を間違って理解しがちだという点について解説します。 私達は認知バイアスで間違い続ける この図を見たことがある人は多いでしょう。同じ長さの線分なのに、向きの異なる矢印がつくと、下の線分の方が短く感じてしまいます。「ミュラー・リヤーの錯視」と呼ばれる現象です。 私たちの認知は正確ではありません。線分の長さですら間違えます。私たちのものの見方や判断は、偏りから自由ではありません。こうした偏りを「認知バイアス」と呼びます。 60の認知バイアスを紹介した「認知バイアス事典」(情報文化研究所)では、認知バイアスについて「偏見や先入観、固執断定や歪んだデータ、一方的な思い込みや誤解などを幅広く指す言葉」と説明しています。 都合の良い情報に着目

By 宮本聖二, 古田大輔(Daisuke Furuta)
JFCリテラシー講座2:クリティカルシンキングで自分自身も吟味する

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JFCリテラシー講座2:クリティカルシンキングで自分自身も吟味する

講座1で見たように、情報氾濫によって不可避的にフィルターバブルやエコーチェンバー、極性化や偽情報/誤情報などの課題が大きくなっていきました。日本ファクトチェックセンター(JFC)ではその対策として、日々の検証と同時に「リテラシー」の普及に取り組んでいます。 リテラシー(literacy)とは、英語で「読み書きする能力」という意味で、インターネット上だけでなく、日常で接するあらゆる情報や言説を適切に理解、解釈、分析して、活用する能力のことです。 まずは、様々なリテラシーを紹介します。 ニュース/情報/デジタル/メディアリテラシー 「リテラシー」は様々な言葉を組み合わせて、それを理解し、活用する能力という意味に使われます。例えば、ニュースリテラシー、情報リテラシー、デジタルリテラシー、メディアリテラシーなどです。 大雑把に言えば、ニュースリテラシーはニュースを、情報リテラシーは情報を、デジタルリテラシーはデジタルを、メディアリテラシーはメディアを、理解・活用する能力という意味になります。 それぞれの「リテラシー」の領域は重なっています。これは「ニュース」な

By 宮本聖二, 古田大輔(Daisuke Furuta)
JFCリテラシー講座1:情報氾濫の時代に検証より重要な能力

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JFCリテラシー講座1:情報氾濫の時代に検証より重要な能力

玉石混交の情報が大量に氾濫する時代には、情報の真偽を検証する「ファクトチェック」の能力だけではなく、より広く現代のメディア環境を理解し、活用する「リテラシー」が欠かせません。 リテラシーは「読み書き能力」を意味する言葉ですが、現在は、様々な言葉と結びついて「その分野について理解し、活用する能力」という使われ方をしています。「メディアリテラシー」「情報リテラシー」「ニュースリテラシー」「デジタルリテラシー」などです。 日本ファクトチェックセンター(JFC)はファクトチェックの実践や普及だけでなく、リテラシー教育にも取り組もうとしています。今回の連載講座では、そもそも現代におけるリテラシーとは何かという基礎から解説します。 キーワードは太字にし、最後に一覧にまとめています。そちらもご参照ください。  激増する情報とプラットフォーム 不確かな情報やデマや誹謗中傷などは、昔から存在しました。それが瞬時に大量に拡散し、民主主義社会への脅威とまで認識されるようになったのは、近年のことです。 背景にあるのがテクノロジーの発達による社会の変化です。インターネット、スマ

By 宮本聖二, 古田大輔(Daisuke Furuta)
JFCファクトチェック講座9:国際的な標準ルール 信頼性を確保する

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JFCファクトチェック講座9:国際的な標準ルール 信頼性を確保する

「ファクトチェック」を名乗りながら相手の意見をチェックしたり、自論の正当性を補強するための道具にしたりする例もあります。信頼されるファクトチェックとはどうあるべきか。国際ファクトチェックネットワーク(IFCN)は守るべき原則を公開しています。 IFCNが公開するの5つの原則 アメリカに本拠を置くIFCNは、世界中のファクトチェック組織のハブになっている組織です。ファクトチェックを実践する上で守るべき原則(Code of Principles)を公開し、遵守している組織が加盟できます。 IFCNに加盟しているかどうかが、国際的に認められる団体かどうかの試金石ともなっています。認証は毎年更新する必要があり、2023年5月21日現在、114の加盟団体が活動中です。 欧米だけでなく、アジア、アフリカなど世界中の団体が加盟していますが、残念ながら、日本からはいまだゼロです。半年以上の活動実績がある団体が申し込み可能で、日本ファクトチェックセンター(JFC)は現在、審査を受けているところです。 それでは、加盟団体が遵守を求められるIFCN5原則を一つずつ見ていきまし

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
JFCファクトチェック講座8:公開情報こそ重要 OSINT技術を使いこなす

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JFCファクトチェック講座8:公開情報こそ重要 OSINT技術を使いこなす

オープンソース・インテリジェンス(OSINT)とは、一般公開されている情報を収集・分析し、活用する手法です。デジタル技術を用いて多くの情報がネットで公開されるようになり、取材だけでなくあらゆる調査にとって重要な技術であり、ファクトチェックでも多用します。解説します。 正しいものを正しいと検証するには 日本ファクトチェックセンター(JFC)の記事を例に見ていきます。これは「なぜニュースにならないの?」 静岡県内の水害画像は本物、というJFCのファクトチェック記事です。 2022年9月の静岡県の水害では、前回の講座7で紹介したようにAIで作成した画像が「ドローンで撮影した静岡の様子」として拡散しました。JFCなどのファクトチェックもあり、本物の災害画像ではないという検証はできました。しかし、AI画像が出回ることで、「正しい画像」までも「これはAIによるフェイクでは」という疑心暗鬼が広がりました。 JFCでは、AIではないかという疑問が出ていた画像を検証し、それが実際の災害画像であることを証明しました。検証に活用したのは、誰でも無料で使えるGoogleマップです

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
JFCファクトチェック講座7:AIコンテンツの検証 細部を見る

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JFCファクトチェック講座7:AIコンテンツの検証 細部を見る

AIで生成されたテキストや画像などのコンテンツが激増しています。その中から偽情報/誤情報をどう検証するかは、ファクトチェックにとって大きな課題です。現状では、自動で完璧に検知する万能ツールはまだ存在しません。では、人の目でどのように検証できるのか。解説します。 AIによる偽情報の実例 日本ファクトチェックセンター(JFC)の記事を例に、解説していきます。これは「 ドローンで撮影された静岡県の災害」はAI作成の偽画像というJFCのファクトチェック記事です。 2022年9月に静岡県を襲った台風15号による水害をめぐって、「ドローンで撮影した画像」とされる3枚の写真がツイッター上で拡散しました。建物や木々が茶色い水に屋根近くまで浸かり、大規模な浸水被害が出ているように見えます。 結論から言うと、この3枚の画像はすべてAIで作成したもので、静岡県の水害とはまったく関係がないものでした。どうやって検証していったかを見ていきます。 拡大して細部を確認する 1枚目の写真を拡大してみます。右側と奥に山並み。手前に住宅地と木々の茂みが広がり、大規模に浸水している写真で

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
JFCファクトチェック講座6:動画の検証 InVIDとYouTube検索

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JFCファクトチェック講座6:動画の検証 InVIDとYouTube検索

近年、特に増えているのが動画での偽情報/誤情報です。動画プラットフォームのYouTubeやTikTokを中心に、他のソーシャルメディアへも拡散していきます。画像と同じく、改変や文脈を変えてミスリードする事例が目立ちます。オリジナルを探すという対策も共通です。見ていきましょう。 その要約や翻訳は正しいのか 動画の誤情報/偽情報というと、最近話題のAIによるフェイク動画を想像する人が多いでしょう。しかし、多くは高度な技術など使われず、オリジナル動画の一部を切り抜き、違う文脈で使ってミスリードする単純なものです。 今回も日本ファクトチェックセンター(JFC)の記事を例に、解説していきます。これはファイザー社長「私は健康だから(ワクチンを)絶対に打たない」と発言したというのは不正確というJFCのファクトチェック記事です。 米製薬大手ファイザーのアルバート・ブーラ最高経営責任者(CEO)がワクチンに関するインタビューに答えた動画の一部を切り出して編集し、内容を捻じ曲げて翻訳したものです。まるで本人が「私は健康だからぜったい打たない」と言ったかのように読めます。 し

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
JFCファクトチェック講座5:画像の検証 GoogleレンズとTinEye

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JFCファクトチェック講座5:画像の検証 GoogleレンズとTinEye

偽情報/誤情報で多いのが写真や動画を使ったものです。ツールの活用により、改変や捏造が簡単になったことや、もともとの意味とは異なる翻訳をつけてミスリードするものもあります。まずは画像を検証するために知っておくべき手法と便利なツールの利用法を解説します。 画像で騙す2つの手法 対策はオリジナル探し 「画像があるから事実だ」などということはありません。画像は簡単に改変ができるし、違った文脈で使えばミスリードするからです。 改変やミスリードへの対策として有効なのが、オリジナル画像を発見して比較することです。改変部分が見つかったり、全く違う文脈で利用されていることがわかったりします。 ここでも重要なのは検索の技術です。画像に映り込んでいる人物や背景から検索キーワードを想像し、期間を狭めて検索していくことでオリジナルの画像にたどり着くことができます。 ここでは、それよりも簡単にオリジナル画像を見つけられるツールを、日本ファクトチェックセンター(JFC)の記事を例にして紹介します。 Googleレンズを利用する これはJFCが2023年4月に配信した「反原発デモ

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
JFCファクトチェック講座3:検証の4ステップ 「横読み」で効率的に

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JFCファクトチェック講座3:検証の4ステップ 「横読み」で効率的に

今回は、情報の検証をする上で必要な行動を4段階に分けてお伝えします。これだけ情報が氾濫する中で、全てについて4つを実践するのは不可能だ、と感じる人もいるでしょう。ステップ1だけで十分なこともありますし、効率的に実践するための「ラテラル・リーディング(横読み)」も紹介します。 では、「検証の4ステップ」の解説から始めます。まずはこちらを御覧ください。 1.発信元を見る 「その発信元は信頼がおけるか」。あらゆる情報について発信元を確認しましょう。匿名でも信頼のおける情報源は存在しますが、まったく知らない匿名の情報源を信頼するのは危険です。 「その情報を知りうる立場か」というのは、一つの目安になります。事件や災害について、直接的な関係がない人、調査や取材に携わらない人が重要な情報を知っている可能性は低いでしょう。情報を知りうる立場でも、利害関係者の場合は自分に都合が良いように発信している可能性があります(客観的な情報発信をしている場合もあります)。 2.疑義の指摘を確認する 「リプライやコメント欄を確認」しましょう。改変された画像や動画などは、何度も拡散し

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
JFCファクトチェック講座2 :検証は効果あり 検索やAIにも反映される

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JFCファクトチェック講座2 :検証は効果あり 検索やAIにも反映される

ファクトチェックは、どんな情報でも検証できるわけではありません。初回に説明したように、意見や憶測ではなく「提示された事実」だけが対象ですし、数量的なデータや信頼性の高い証拠がなければ検証は困難です。 それだけ限定された手法ながらも必須と言えるのはなぜか。検証可能なはずの偽情報/誤情報が蔓延し、信じてしまう人たちがいるからです。インフォデミック(情報汚染)とも呼ばれる現状について、ファクトチェックが役立つことを示すデータとともに解説します。 多くの人が偽情報/誤情報に接している 国際大学GLOCOMによる調査「Innovation Nippon 2022: わが国における偽・誤情報実態の把握と社会的対処の検討」は、2021年1~10月にファクトチェックされた偽情報/誤情報12件(コロナワクチン関連6件、政治関連6件)について、それぞれ、どれだけの人がそれらを目にし、正しい情報と信じたかを調べています。 「コロナワクチンを打つと不妊になる」「選挙機材大手『ムサシ』の大株主が安倍晋三元首相であり、不正が行われやすくなっている」など、保守・リベラルのバランスにも配

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
JFCファクトチェック講座1:意見や推測ではなく事実を検証する

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JFCファクトチェック講座1:意見や推測ではなく事実を検証する

フェイクニュース、デマ、嘘、誤情報/偽情報...。呼び方は様々ですが、世の中には不正確な情報が溢れています。間違った情報を信じたり、拡散したりしないためには、基本的なファクトチェック(情報の検証)技術を学んでおく必要があります。 日本ファクトチェックセンター(JFC)の「ファクトチェック講座」では9回にわたって、ファクトチェックの基本的な考え方や便利なツールの紹介、新たな脅威として注目されるAIコンテンツへの対策まで解説します。 2016年のアメリカ大統領選が節目に まず、講師を勤める私とファクトチェックの関わりから紹介します。 ファクトチェックが世界的に注目されたきっかけの一つは、2016年のアメリカ大統領選です。「ローマ法王がトランプ候補を支持」「ヒラリー・クリントンはドナルド・トランプの立候補を望んでいた」など全く根拠のない偽情報が、CNNやNew York Timesなどの主流メディアの記事よりもFacebook上で拡散していた、とBuzzFeed Newsがスクープしました。 当時、BuzzFeed Japan創刊編集長だった私は、日本で

By 古田大輔(Daisuke Furuta)