10年前、ユニクロの柳井氏は若者に「年収100万円で働け」と言っていた?【ファクトチェック】

10年前、ユニクロの柳井氏は若者に「年収100万円で働け」と言っていた?【ファクトチェック】

「10年前、ユニクロの柳井氏は『年収100万円で働け』と言っていた」という言説が拡散されましたが、不正確です。発言の趣旨は、グローバル化が進む中で付加価値のある働き方が重要という内容で、同じ記事の中で「日本で賃下げをするのは考えていない」とも発言しています。

検証対象

2023年1月21日、衣料品店「ユニクロ」を運営するファーストリテイリングの柳井正・会長兼社長のインタビュー記事の画像を付けたツイートが拡散した。「日本人最後の少子化対策可能だった10年前のタイミングで若者に何やってたかというと、お前らの代わりはいくらでもいる!年収100万円で働け!とか言ってた」と書かれている。

画像

1月25日時点で142万回以上の表示と1.7万件以上のいいねを獲得した。返信欄を見ると「この考えが通ってしまうなら、人口が減るどころか優秀な人たちは皆海外に行ってしまいますよ。」や「そもそもやる気がなかったからこんな事に・・・」といった反応があった。

検証過程

添付されている新聞の画像は、朝日新聞(2013年4月23日朝刊)の記事。発言内容を確認すると「離職率が高いのはどう考えているか」という質問に対して柳井氏は「それはグローバル化の問題だ」と反論した上で、以下のように発言している。

「将来は、年収1億円か100万円に分かれて、中間層が減っていく。仕事を通じて付加価値がつけられないと、低賃金で働く途上国の人の賃金にフラット化するので、年収100万円の方になっていくのは仕方がない」

別の箇所では以下のように述べている。

「途上国から海外に出稼ぎにでている人がいる、それも下働きの仕事で。グローバル競争のもとで、他国の人ができない付加価値を作り出せなかったら、日本人もそうやって働くしかなくなる」

付加価値をつけた働き方の重要性を述べたもので、「年収100万円で働け」という趣旨ではない。付加価値を作り出せない場合は「仕方がない」と述べており、見出しでも「年収100万円も仕方ない」となっているのは事実だ。ただ、この記事内で「日本は中国などに比べて賃金が高いので引き下げるのか」という趣旨の質問に「日本で賃下げをするのは考えていない」とも答えている。

判定

柳井氏のインタビュー記事は、若者に対して「年収100万円で働け」という趣旨ではない。ただ、仕事を通じて付加価値がつけられない場合は「仕方がない」とも述べているため判定を不正確とした。

あとがき

ファーストリテイリングは2023年1月11日、3月から国内の正社員の賃金を最大40%ほど引き上げると発表しました。その理由について「成長意欲と能力ある従業員一人ひとりにフェアに報い、企業としての世界水準での競争力と成長力を強化するため」としています。

記事や動画を添付しつつ、そこには書かれていないことや内容を曲解したコメントをつけたツイートやまとめ記事などは大量に拡散しています。本文や動画の内容を確認することが重要です。

検証:本橋瑞紀
編集:藤森かもめ

検証手法や判定基準などに関する解説は、JFCサイトのファクトチェック指針をご参照ください。

「ファクトチェックが役に立った」という方は、シェアやいいねなどで拡散にご協力ください。誤った情報よりも、検証した情報が広がるには、みなさんの力が必要です。

X(Twitter)FacebookYouTubeInstagramなどのフォローもよろしくお願いします。またこちらのQRコード(またはこのリンク)からLINEでJFCをフォローし、真偽が気になる情報について質問すると、AIが関連性の高い過去のJFC記事をお届けします。詳しくはこちらの記事を

もっと見る

国民民主党は強制的親子別姓を推奨? 公約は選択的夫婦別姓【ファクトチェック】

国民民主党は強制的親子別姓を推奨? 公約は選択的夫婦別姓【ファクトチェック】

2024年の衆議院選挙をめぐり、国民民主党が「強制的親子別姓を推奨」というような言説が拡散していますが、誤りです。国民民主党の公約は選択的夫婦別姓の導入で、「強制的親子別姓」とは異なります。 検証対象 2024年10月15日、「玉木さんの国民(民主党)は強制的親子別姓を推奨よね?」という言説が投稿された。 2024年10月17日現在、この投稿は80件以上リポストされ、表示回数は1.5万件を超える。投稿について「個人的には反対してほしい」「その一件で国民民主党 の選択肢はなくなりました」というコメントの一方で、「デマ」という指摘もある。 「強制的親子別姓」というような言説は、選択的夫婦別姓を批判するものとして、これ以外にも多数拡散している(例1、例2)。 検証過程 選択的夫婦別姓制度は「強制」ではない 一般に「選択的夫婦別姓制度」と呼ばれるが、民法等の法律では、「姓」や「名字」のことを「氏(うじ)」と呼んでいることから、法務省は「選択的夫婦別氏制度」と呼んでいる。選択的夫婦別氏制度とは、

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
石破首相「物価高に政府も苦しいんです」と発言? まとめサイトによるもの【ファクトチェック】

石破首相「物価高に政府も苦しいんです」と発言? まとめサイトによるもの【ファクトチェック】

石破茂首相が「物価高に国民は苦しんでいるが、政府も苦しいんです」と発言したかのような言説が拡散しましたが、誤りです。まとめサイトによるもので、本人の発言ではありません。 検証対象 2024年10月14日、石破首相が「物価高に国民は苦しんでいるが、政府も苦しいんです」と発言したかのような言説が拡散した。 10月17日現在、この投稿は6700件以上リポストされ、表示回数は390万回を超える。投稿について「その苦しいはずの政府が国民を締めつけ外人や外国に金をばらまくのはどういうことなんでしょうね?」「岸田が良い顔して外国に金をばら撒いた結果だろ?そう思いますね」などのコメントがついている。 検証過程 まとめサイトの引用 検証対象の投稿に添付されたリンクはまとめサイト「Tweeter Breaking News-ツイッ速!」の記事だ。引用元は産経新聞「石破茂首相、消費増税は「当面は考えない」 NHK番組で説明、定額減税も」になっている。 この10月13日配信の産経の記事は、与野党の9党首が出演した10月13日のNHKの番組「日曜討論」について報じている。

By 宮本聖二
ファクトチェックスキルを競うユース国際大会を開催 申し込みはこちら

ファクトチェックスキルを競うユース国際大会を開催 申し込みはこちら

日本ファクトチェックセンター(JFC)は11月、中学生〜大学生を対象に情報を検証するスキルを競う国際大会「Youth Verification Challenge 2024(YVC、日本語名はユースファクトチェック選手権)」をオンライン開催します。日本国内の大会を勝ち抜いたチームは、世界大会でアジアの代表チームと決勝を争います。 ユースファクトチェック選手権2024 -「検索力」を競うファクトチェック世界大会ユース・ファクトチェック選手権(Youth Verification Challenge)は次世代を担う若者たちを対象に、どれだけ正確に、早くインターネットを駆使して情報を収集し検証できるかを競う3ステージに分けて行われる大会です。参加者はチームに分かれ、誤った情報を特定し、真実を立証することに焦点を当てた一連のミッションに取り組みます。最終ステージの世界大会では、日本、台湾、インドネシア、タイを含めた4カ国でそれぞれ勝ち残った上位3チームで、決勝大会を行います。 大会の概要 国内では2024年11月23日(土)にキックオフイベントを開催。11月30日(

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
石破首相が最初に訪問した外国は中国?ASEAN首脳会議でラオスを訪問【ファクトチェック】

石破首相が最初に訪問した外国は中国?ASEAN首脳会議でラオスを訪問【ファクトチェック】

「石破は総理になり、最初に訪問したのは中国」という言説が拡散しましたが、誤りです。石破茂首相が就任後に初めて訪れた海外は、中国ではなくラオスです。東南アジア諸国連合(ASEAN)関連の首脳会議に出席しました。 検証対象 2024年10月12日、「石破は総理になり、最初に訪問したのは中国、慣例として、総理となり第一に訪問する国は、総理が一番親密にしたい国。あり得ない訪問国であり、訪中しても鬼畜習近平にも会えず、適当に待遇され、帰国」というX(旧Twitter)の投稿が拡散した。 この投稿は、10月15日現在18万を超える閲覧数と2300以上のリポストがある。「石破の外交センスの無さが炸裂してしまったようです」「親中、親韓総裁だから驚きはないけど、同盟国である米国から見たら面白くないと思った」といったコメントのほか「ラオスで李強首相と首脳会談したんでしょう」と中国訪問を誤りだと指摘する書き込みがついている。 検証過程 石破首相は10月10日、就任後初の外遊でラオスを訪問し、午前11時40分(日本時間午後1時40分)から約1時間、首都ビエンチャンで開催された

By 宮本聖二