醤油にmRNAが入っている?公式サイトが否定【ファクトチェック】

醤油にmRNAが入っている?公式サイトが否定【ファクトチェック】

ヤマサ醤油とmRNAに関する記事に「醤油もmRNAに」と記したツイートが拡散し、醤油にmRNAが入っているかのような言説が広がりましたが誤りです。ヤマサ醤油は公式サイトでmRNAの構成物質である「シュードウリジン」を製造していると紹介していますが、「醤油やつゆには使われておりません」と強調しています。

検証対象

2023年5月10日に拡散されたツイートでは「醤油もmRNAに。めでたいねw。」という文言とともに、化学工業日報の「ヤマサ醤油、mRNA修飾核酸を増産」という記事の画像が添付されている。

画像

返信欄では、醤油にmRNAが使用されていると誤解したかのような「家では絶対使いませんが、外食が本当に怖くなりますねぇ」「余計な物を醤油に入れないでください。」などの反応があった。一方で、「醤油とは別の製造ラインなのだけど…」などと指摘する声もある。

検証過程

添付されていた化学工業日報の記事(2022年2月22日配信)では、新型コロナワクチンによって増加したメッセンジャーRNA(mRNA)需要に対応するため、mRNAを構成する「シュードウリジン」を増産することが報じられている。

ヤマサ醤油は以前からシュードウリジンを生産しており、またシュードウリジンを醤油に加えているのかという疑問は以前にも寄せられている。公式サイトを見ると、2021年10月21日には「弊社医薬・化成品事業部における新型コロナワクチン原料供給に関する報道につきまして」という記事を公開している。

記事では「シュードウリジンが新型コロナワクチンのmRNAを構成する物質の一つであること」「うま味の研究から発展させ、1970年代から50年以上にわたって、核酸関連物質の研究を続けており、1980年代からは修飾核酸の一つであるシュードウリジンを医薬品原料として海外に輸出もしていたこと」「mRNAワクチンに欠かせない原料として主要な供給元となっていること」を紹介した上で、FAQの中で次のように回答している。

Q:シュードウリジンは醤油やつゆにも使われているんですか?
A:シュードウリジンは醤油やつゆには使われておりません。調味料である醤油の製造会社である弊社が、核酸化合物に特化した事業展開を始めたきっかけが核酸系うまみ調味料の工業製造開始であったということで、この核酸化合物の事業展開の中で、調味料とは関係なく製造販売を開始した品目の一つとしてシュードウリジンが存在します。

判定

ヤマサ醤油が製造しているmRNAの原料「シュードウリジン」は、醤油に使用されていない。「醤油もmRNAに加えられている」という言説は誤り。

あとがき

ヤマサ醬油は2021年にHPで、製造能力の拡張計画と、シュードウリジンが醤油に使われていることを否定する記事を掲載。2022年2月に化学工業日報が、この内容を記事化しました。今回の投稿は2年前にヤマサ醬油が公式サイトで否定した内容を蒸し返した形となっています。

このように誤情報/偽情報は何度も繰り返して拡散する傾向があります。公式サイトやファクトチェックなどですでに検証されていることも多いので、確認を心がけましょう。

検証:本橋瑞紀
編集:古田大輔

修正

本文中、「修飾核酸」を「修飾拡散」と記した部分があったため、修正しました。(2023年5月31日)


判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。

毎週、ファクトチェック情報をまとめて届けるニュースレター登録(無料)は、上のボタンから。また、QRコード(またはこのリンク)からLINEでJFCをフォローし、気になる情報を質問すると、AIが関連性の高いJFC記事をお届けします。詳しくはこちら

もっと見る

止まらない政治的な誤情報、選挙が終われば減る検証記事/JFC検証6本、コラムなど/AIポッドキャストを開始【今週のファクトチェック】

止まらない政治的な誤情報、選挙が終われば減る検証記事/JFC検証6本、コラムなど/AIポッドキャストを開始【今週のファクトチェック】

政治関係の誤情報が拡散する傾向は、参院選以降も続いています。8月7日には1日で自民、国民民主、社民の3党にかかわるファクトチェックをそれぞれ公開しました。 以前も解説記事で書きましたが、2024年に東京都知事選、総選挙、兵庫県知事選という注目された3つの選挙でソーシャルメディアで政治系のコンテンツを見る人が増えた影響で、誤情報混じりの情報発信が増え、それを見る人も更に増えるという悪循環となっています。 参院選中に盛り上がったファクトチェックも、選挙期間が終われば、検証記事を出すメディアは激減し、野放し状態です。選挙に影響を与える誤情報は、選挙期間中だけに拡散するわけではありません。むしろ、選挙期間中の世論の風は、選挙が始める前にある程度は形作られています。 誤情報への恒常的な対策が必要です。(古田大輔) ✉️日本ファクトチェックセンター(JFC)がこの1週間に出した記事を中心に、その他のメディアも含めて、ファクトチェックや偽情報関連の情報をまとめました。同じ内容をニュースレターでも配信しています。登録はこちら。 JFCからのお知らせ JFCファクトチ

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
「本人がそう言っている」では足りない:検証が止まる瞬間【ファクトチェックの舞台裏】

「本人がそう言っている」では足りない:検証が止まる瞬間【ファクトチェックの舞台裏】

日本ファクトチェックセンター(JFC)がファクトチェックの舞台裏を語るコラム。第5回は、「組織の発表」や「当事者の説明」は偏っている可能性があるため、ボツになった記事を振り返ります。 立ちはだかる企業秘密→保留 2025年4月、エルメスやルイ・ヴィトンなど、ハイブランドのバッグが「実は中国産だ」と主張する動画が拡散しました。 ブランド側は「従業員の多くはフランスで働いている」「製造業者の95%がイタリアに拠点」などと公表しているため、その言葉を信じれば、拡散した動画の検証結果は「誤り」となります。 欧州のメディアやファクトチェック団体の中には、この動画を検証して「偽造品の可能性が高い」「主張は誤りだ」などと報じたところもありました。 一方で、イギリス公共放送のファクトチェックチームBBCVerifyは、ハイブランドの多くが「製造拠点を欧米諸国においていると公表している」と前置きした上で、「ハイブランド業界はサプライチェーンの透明化に対して非常に消極的で、実際のところを正確に知ることはできない。高級ブランドでも、中国で多くの製造が行われている。ただし、『最

By 藤森かもめ(Kamome Fujimori)
運営・監査両委員会の報告書と2024年度会計を公開

運営・監査両委員会の報告書と2024年度会計を公開

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、運営委員会と監査委員会による最新の報告書と2024年度会計を公開しました。 JFCは独立性を保ってファクトチェックに取り組むため、設置規定に則り、有識者で構成する運営委員会で編集部がファクトチェックガイドラインに則って公正な検証をしているか、また、監査委員会(監査委員会運営規程はこちら)が編集部と運営委員会の全体のガバナンスが適正かを確認し、報告書にまとめています。 運営委員会と監査委員会 運営委員会報告書2025年4月30日 (報告書全文はこちら) 第1 2025年度の運営委員の任命及び委員長、副委員長の互選について 第2 編集部メンバーの採用と構成等 第3 外部機関連携等 第4 プラットフォーマー連携 第5 ファクトチェック記事の公開状況 第6 教育活動 第7 財務報告 第8 監査委員会の開催について 監査委員会報告書2025年7月25日 (報告書全文はこちら)  第1 監査委員会の構成 第2 監査委員会の監査の方法の概要 第3 監査の結果 両委員会の報告書は過去分も含めて「JFCとは」の「運営委員会

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
社民党・ラサール石井氏がガソリン暫定税率廃止に反対? 今国会では審議されていない【ファクトチェック】

社民党・ラサール石井氏がガソリン暫定税率廃止に反対? 今国会では審議されていない【ファクトチェック】

参議院議員・ラサール石井氏(社民党)が、国会でガソリン暫定税率廃止に反対した、という投稿が拡散しましたが、誤りです。8月1~5日開催の第218回国会(臨時会)では、ガソリン暫定税率に関する法案は審議されていません。社民党も否定しています。 検証対象 8月4日、国会でラサール氏が起立している画像に「ラサール石井。ガソリン暫定税率廃止に反対に起立する」と書いた投稿がXで拡散した。 投稿は、8月6日時点までに削除されている。同様の投稿は多数拡散し、表示回数が1300万回を超えるものもある(例1、例2)。 拡散した投稿には「減税に反対してる議員って日本人じゃないよね」「いきなり裏切り。投票した人は反省して」といったコメントや「まだ審議にすら入ってない」「デマです」などの指摘もある。 検証過程 ガソリン暫定税率廃止法案とは ガソリン税の暫定税率を廃止する法案は、ガソリン1リットルあたり25.1円が上乗せされている暫定税率を、11月1日から廃止する内容だ。 8月1日に、立憲民主、日本維新の会、国民民主など野党7党が、法案を衆議院に共同提出した(以上、読売新

By 根津 綾子(Ayako Nezu)

ファクトチェック講座

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、ファクトチェックやメディア情報リテラシーに関する講師養成講座を月に1度開催しています。講座はオンラインで90分間。修了者には認定バッジと教室や職場などで利用可能な教材を提供します。 次回の開講は8月23日(土)午後2時~3時15分で、お申し込みはこちら。 https://jfckoushiyousei0823.peatix.com 受講条件はファクトチェッカー認定試験に合格していること。講師養成講座は1回の受講で修了となります。 受講生には教材を提供 デマや不確かな情報が蔓延する中で、自衛策が求められています。「気をつけて」というだけでは、対策になりません。最初から騙されたい人はいません。誰だって気をつけているのに、誤った情報を信じてしまうところに問題があります。 JFCが国際大学グロコムと協力して実施した「2万人調査」では実に51.5%の人が誤った情報を「正しい」と答えました。一般に思われているよりも、人は騙されやすいという事実は、様々な調査で裏打ちされています。 JFCではこれらの調査をもとに、具体的にど

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、YouTubeで学ぶ「JFCファクトチェック講座」を公開しました。誰でも無料で視聴可能で、広がる偽・誤情報に対して自分で実践できるファクトチェックやメディアリテラシーの知識を学ぶことができます。 理論編と実践編の中身 理論編では、偽・誤情報の日本での影響を調べた2万人調査の紹介や、間違った情報を信じてしまう背景にある人間のバイアス、大規模に拡散するSNSアルゴリズムなどを解説しています。 実践編では、画像や動画や生成AIなど、偽・誤情報をどのように検証したら良いかをJFCが検証してきた事例から具体的に学びます。 JFCファクトチェッカー認定試験を開始 2024年7月29日から、これらの内容について習熟度を確認するJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。誰でもいつでも受験可能です(2024年度中は受験料1000円、2025年度から2000円)。 合格者には様々な技能をデジタル証明するオープンバッジ・ネットワークを活用して、JFCファクトチェッカーの認定証を発行します。 JFCファクトチェッカー認定試験

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
JFCファクトチェッカー認定試験  教材と申し込みはこちら

JFCファクトチェッカー認定試験  教材と申し込みはこちら

日本ファクトチェックセンター(JFC)はJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。YouTubeで公開しているファクトチェック講座から出題し、合格者に認定証を授与します。 拡散する偽・誤情報から身を守るために 偽・誤情報の拡散は増える一方で、皆さんが日常的に使用しているSNSや動画プラットフォームに蔓延しています。偽広告や偽サイトへのリンクなどによる詐欺被害も広がっています。 JFCが国際大学グロコムと実施した2万人を対象とする調査では、実際に拡散した偽・誤情報を51.5%の割合で「正しいと思う」と答え、「誤っている」と気づけたのは14.5%でした。 自分が目にする情報に大量に間違っているものがある。そして、誰もが持つバイアスによって、それが自分の感覚に近ければ「正しい」と受け取る傾向がある。インターネットはその傾向を増幅する。 だからこそ、ファクトチェックやメディアリテラシーに関する知識が誰にとっても必須です。 JFCファクトチェック講座と認定試験 JFCファクトチェック講座(YouTube, 記事)は、2万人調査を元に偽・誤情報の拡散経路や

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)