味の素は神経毒?うま味調味料の安全性は確認されている【ファクトチェック】

味の素は神経毒?うま味調味料の安全性は確認されている【ファクトチェック】

「味の素は神経毒」という情報が拡散しましたが、誤りです。味の素は「うま味調味料」として国に使用が認められている食品添加物で、一般的な使用量で健康を損なうことはありません。過去には、味の素に含まれるグルタミン酸ナトリウムの危険性が指摘されたことがありますが、現在の研究ではグルタミン酸ナトリウムは安全とされています。

検証対象

味の素の商品や漫画の画像と共に、「味の素には有害物質が含まれており、人体に悪影響がある」という言説(例1例2)が拡散した。リツイート・引用リツイート数が2800回、表示回数が41万回を超えたものもある。

画像

リプライ欄には味の素について不安を訴えるコメントが多く寄せられている。

検証過程

検証対象のツイートで述べられている「味の素」は、味の素株式会社が製造する「うま味調味料」だ。そもそも、うま味調味料とは何か。

日本うま味調味料協会のホームページによると、うま味調味料はさとうきびの糖蜜やキャッサバ、とうもろこしなどのでんぷんから得た糖をを発酵させてできるグルタミン酸ナトリウムの結晶でつくる。L−グルタミン酸ナトリウム(うま味調味料として用いられているグルタミン酸ナトリウム)は指定添加物として、厚生労働省から食品に使うことを許可されている。

味の素はホームページで、安全性について「味の素が体に入ると、グルタミン酸、イノシン酸、グアニル酸、ナトリウムとに分かれ、肝臓や腸管などで代謝されてしまいますので、体に蓄積されることはありません」と表示している。また、東京都福祉保健局もホームページ上の「東京都食品安全FAQ」の中で、うま味調味料について、「調味料として通常の量を使用する場合は健康への影響を心配する必要はありません」と記している。

次に、ツイートの指摘のうち、検証可能な以下の2点を検証した。

1.化学調味料(味の素)入りのワンタンメンなどを食べると、しびれや頭痛・圧迫感などを感じる場合が有り、これは「中華料理店症候群」と呼ばれる急性中毒症状である。
2.テレビでは味の素の危険性を隠すために「化学調味料」という言葉を使うことは禁句となっている

1.化学調味料(味の素)入りのワンタンメンなどを食べると、しびれや頭痛・圧迫感などを感じる場合が有り、これは「中華料理店症候群」と呼ばれる急性中毒症状である
検証対象のツイートにでてくる「味の素に含まれるグルタミン酸ナトリウムが中華料理店症候群の原因」という言説は、現在では否定されている。

BuzzFeedによると、「中華料理店症候群」という言葉は1968年に中華料理店での食事の後に頭痛や顔のほてりが出たということが雑誌「New England Journal of Medicine」で報告されたことがきっかけで生まれた言葉だ。

1969年には、「グルタミン酸ナトリウムが中華料理店症候群の原因だ」とする論文がScience誌から発表された。しかし、1986年の「Food and Chemical Toxicology」の論文では、グルタミン酸ナトリウムと中華料理店症候群の因果関係を裏付けるものは確認できなかったとされた。1987年にはFAO・WHO合同食品添加物会議がグルタミン酸ナトリウムは安全だと認め、FDA(アメリカ食品医薬品局)などの機関も同様の判断をした。

2.テレビでは、味の素の危険性を隠すために「化学調味料」という言葉を使うことは禁句となっている
テレビなどのメディアで「化学調味料」という呼称が使われなくなった理由について、日本うま味調味料協会はホームページで、以下のように書いている。

「化学調味料という名称は、1960年代半ばに公共放送の料理番組で、特定の商品名と区別するために使われ始めましたが、料理にうま味を付与するという特性や、原料・製法について正しく表現する名称ではなかったので、1985年以降うま味調味料の名称に変更されています。行政資料でも1993年改定の計量法で名称がうま味調味料に変更され、現在では各種法令、行政統計資料、記者ハンドブック等でもうま味調味料に統一されています」

日本うま味調味料協会のホームページでは「化学調味料」という呼称について、
・「『化学調味料にあてはまるものは何か』という認識が人によって異なる
・「天然に存在しない人工的な物質という不正確なイメージを想起させる
といった問題点をあげている。これらは、2020年度「化学調味料無添加」表示関連消費者調査のデータに基づいたものだ。

また、消費者庁が2022年3月に公開した食品添加物の不使用表示に関するガイドラインの4ページでは、「化学調味料」という表記について、「食品表示基準に規定されていない用語を使用した表示」として注意を呼びかけている。

これらのことからわかるように、「化学調味料」が「うま味調味料」という表記になったのは、製品の性質を正確に伝えるためで、味の素の安全性とは関係ない。

日本ファクトチェックセンター(JFC)は味の素に取材した。味の素の担当者は、味の素が危険であるという言説について、以下のように回答した。

「うま味調味料の主成分はアミノ酸の一種であるグルタミン酸です。グルタミン酸は、生物が生きるために必要なアミノ酸です。全ての生き物は体内でグルタミン酸を作っており、そのため野菜・肉・魚といったあらゆる食材に含まれています。私たちの体重の約20%を構成するたんぱく質はグルタミン酸をはじめとするアミノ酸でできており、その中でもグルタミン酸は私たち人間の体の中に体重の2%ほど存在しています。つまり、グルタミン酸はもっとも身近なアミノ酸で、安全なものです。食品の組み合わせで、味の素に『危険性』が生じることもありません」

判定

味の素などの「うま味調味料」は適切な量を使用する場合、健康上の問題はない。味の素を構成するグルタミン酸ナトリウムは肉や魚、野菜といった食品にも含まれている身近な物質で、中華料理店症候群についても現在の研究ではグルタミン酸ナトリウムとの因果関係は否定されている。FAO・WHO合同食品添加物会議でも安全だと認められているため、「味の素は神経毒」という言説は誤り。

あとがき

食品と健康をめぐっては、さまざまな情報が発信されています。それらが正確とは限らないため、注意が必要です。

「味の素は危険」というような言説は、これまで繰り返し流れてきた誤情報の一つです。味の素株式会社はグルタミン酸ナトリウムの安全性について「今回お問い合わせいただいたような誤情報への対処としては、現在、味の素社のみならず業界団体の日本うま味調味料協会や日本食品添加物協会とも連携して、誤解の払拭に努めています」と話しています。また、「健康被害の報告は来ていない」とのことです。

検証:リサーチチーム
編集:古田大輔


判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。

毎週、ファクトチェック情報をまとめて届けるニュースレター登録(無料)は、上のボタンから。また、QRコード(またはこのリンク)からLINEでJFCをフォローし、気になる情報を質問すると、AIが関連性の高いJFC記事をお届けします。詳しくはこちら

もっと見る

高市氏を「褒める」偽・誤情報、今後どう変わるか/JFC検証など7本【今週のファクトチェック】

高市氏を「褒める」偽・誤情報、今後どう変わるか/JFC検証など7本【今週のファクトチェック】

政治に関する偽・誤情報には、対象となっている政党や政治家にとってプラスになるものもあれば、マイナスになるものもあります。単純に言えば、「褒める」か「貶す」のどちらかです。 自民党の高市早苗新総裁は、ネット上でも人気が高かった安倍晋三元首相の路線の継承者を辞任し、高市氏自身もネットで人気の高い保守系政治家です。総裁に選ばれて注目度がさらに上がったことで、当然、偽・誤情報が流れています。 現在のところ、「褒める」傾向の拡散が多いのが特徴です。日本ファクトチェックセンター(JFC)が検証したまとめサイトからの偽・誤情報の見出しの冒頭に「朗報」とついているところが象徴的です。「貶す」方向性であれば、これが「悲報」になりがちです。 公明党が連立離脱を発表し、高市氏はいきなり厳しい立場に立たされています。少数与党で政権運営に苦労すれば、支持率が伸び悩み、批判も増えてくるでしょう。そうすると、偽・誤情報は「貶す」方向に転じていきます。その方が拡散するからです。 褒める内容であれ、貶す内容であれ、間違っているものは間違っています。まずは、事実関係の確認が不可欠です。(古田大輔)

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
総理大臣が高市氏に代わるからトランプ政権が態度を変えた? 軽減措置など総裁選前から報道【ファクトチェック】

総理大臣が高市氏に代わるからトランプ政権が態度を変えた? 軽減措置など総裁選前から報道【ファクトチェック】

自民党総裁選で高市早苗氏が選ばれたことを受けて、米トランプ政権が関税の軽減措置を決めたという主張が拡散しましたが、誤りです。トランプ政権が軽減措置を検討していることは総裁選の前から報じられており、高市氏の選出とは無関係です。 検証対象 2025年10月5日、「あれだけ苦労した関税交渉。総理が高市早苗氏に代わるだけで軽減措置決定」「おまけにトランプ大統領自らが来日」という投稿がXで拡散した。 10月10日現在、投稿は1.3万回以上リポストされ、表示は718万件を超える。 投稿には「すごい👍すでに高市早苗効果が現れる✌️」などの反応の一方で、「最初にロイターが報じたのは日本時間早朝5:51です 総裁選の前です」などの指摘もある。 検証過程 日本ファクトチェックセンター(JFC)は時系列を確認した。下記の通りだ。 関税軽減措置は総裁選投開票前に報じられた 拡散した投稿は、毎日新聞が10月4日午後0時34分に配信した「トランプ政権、トヨタ・ホンダなどへの関税軽減措置を決定へ 米報道」という記事を引用している。 記事は、ロイター通信が10月3日に、ト

By 根津 綾子(Ayako Nezu)
欧州で移民が暴れる動画? ネパールの宮殿【ファクトチェック】

欧州で移民が暴れる動画? ネパールの宮殿【ファクトチェック】

欧州で移民による暴動が起きているかのような動画が拡散しましたが、誤りです。動画はネパールの宮殿で撮影されたもので、2025年9月の政府に対する抗議行動と見られます。 検証対象 2025年10月6日、「他国の文化への不寛容が止まらない 果たして、いつ日本は欧州のようになるのか」という文言付きの動画がXで拡散した。動画には、シャンデリアや大きな鏡のある洋風の広間のような部屋で、若者達が暴れている様子が映っている。 10月9日現在、投稿は940回以上リポストされ、表示は37.6万件を超える。 投稿には「欧州の人は何故怒らないの?」「えっどこ、パリ?ベルサイユ宮殿じゃないよね。噓でしょ。もうこんな奴らのその国のモスク全部破壊すべき」など、移民が建物を壊す様子だととらえた反応がある。 一方で、「ネパール旧首相官邸らしいです。2025年9月の抗議デモでの破壊映像。他国の文化に対してじゃなくて自国の政府に対して抗議してるようです」などのコメントもある。 日本保守党・北村晴男参議院議員が、この投稿を引用して「今ならギリギリ間に合います」と投稿したことで、動画はさらに拡

By 根津 綾子(Ayako Nezu)
自民新総裁・高市氏と立民・辻元氏が総裁室で握手? AIによる偽画像【ファクトチェック】

自民新総裁・高市氏と立民・辻元氏が総裁室で握手? AIによる偽画像【ファクトチェック】

自民党・高市早苗新総裁と立憲民主党・辻元清美参議院議員が総裁室で握手する画像が拡散しましたが、AI生成による偽画像です。辻元氏自身が画像をフェイクと指摘しています。拡散した画像の元画像にはAI生成を示す印があり、AI生成検出ツールもAIの可能性が高いと判定しました。 検証対象 2025年10月6日、「お祝いを言えないフェミさん達が多い中、これは辻元さん、素晴らしい、素直にありがとうございます✨」という文言付きの画像がXで拡散した。 10月7日現在、投稿は1000回以上リポストされ、表示は221.3万件を超える。 投稿には「本当に素敵な写真ですね✨」「パフォーマンスであっても祝意をちゃんと伝える辻元清美は偉いと思います」や「AIじゃないの?🙄」などの指摘がある。 検証過程 辻元氏本人が否定 10月6日、辻元清美氏は自身のXアカウントで次のように投稿している。 「総裁席に座る高市さんと私(?)のツーショット合成写真が出回っているようで、新聞社からも問い合わせが来てしまいました! もちろんフェイク。拡大すると全然似ていないのですが、、、もしAIがも

By 根津 綾子(Ayako Nezu)

ファクトチェック講座

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、ファクトチェックやメディア情報リテラシーに関する講師養成講座を月に1度開催しています。講座はオンラインで90分間。修了者には認定バッジと教室や職場などで利用可能な教材を提供します。 次回の開講は10月18日(土)午後2時~3時15分で、お申し込みはこちら。 https://jfcyousei1018.peatix.com/view 受講条件はファクトチェッカー認定試験に合格していること。講師養成講座は1回の受講で修了となります。 受講生には教材を提供 デマや不確かな情報が蔓延する中で、自衛策が求められています。「気をつけて」というだけでは、対策になりません。最初から騙されたい人はいません。誰だって気をつけているのに、誤った情報を信じてしまうところに問題があります。 JFCが国際大学グロコムと協力して実施した「2万人調査」では実に51.5%の人が誤った情報を「正しい」と答えました。一般に思われているよりも、人は騙されやすいという事実は、様々な調査で裏打ちされています。 JFCではこれらの調査をもとに、具体的にど

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、YouTubeで学ぶ「JFCファクトチェック講座」を公開しました。誰でも無料で視聴可能で、広がる偽・誤情報に対して自分で実践できるファクトチェックやメディアリテラシーの知識を学ぶことができます。 理論編と実践編の中身 理論編では、偽・誤情報の日本での影響を調べた2万人調査の紹介や、間違った情報を信じてしまう背景にある人間のバイアス、大規模に拡散するSNSアルゴリズムなどを解説しています。 実践編では、画像や動画や生成AIなど、偽・誤情報をどのように検証したら良いかをJFCが検証してきた事例から具体的に学びます。 JFCファクトチェッカー認定試験を開始 2024年7月29日から、これらの内容について習熟度を確認するJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。誰でもいつでも受験可能です(2024年度中は受験料1000円、2025年度から2000円)。 合格者には様々な技能をデジタル証明するオープンバッジ・ネットワークを活用して、JFCファクトチェッカーの認定証を発行します。 JFCファクトチェッカー認定試験

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
JFCファクトチェッカー認定試験  教材と申し込みはこちら

JFCファクトチェッカー認定試験  教材と申し込みはこちら

日本ファクトチェックセンター(JFC)はJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。YouTubeで公開しているファクトチェック講座から出題し、合格者に認定証を授与します。 拡散する偽・誤情報から身を守るために 偽・誤情報の拡散は増える一方で、皆さんが日常的に使用しているSNSや動画プラットフォームに蔓延しています。偽広告や偽サイトへのリンクなどによる詐欺被害も広がっています。 JFCが国際大学グロコムと実施した2万人を対象とする調査では、実際に拡散した偽・誤情報を51.5%の割合で「正しいと思う」と答え、「誤っている」と気づけたのは14.5%でした。 自分が目にする情報に大量に間違っているものがある。そして、誰もが持つバイアスによって、それが自分の感覚に近ければ「正しい」と受け取る傾向がある。インターネットはその傾向を増幅する。 だからこそ、ファクトチェックやメディアリテラシーに関する知識が誰にとっても必須です。 JFCファクトチェック講座と認定試験 JFCファクトチェック講座(YouTube, 記事)は、2万人調査を元に偽・誤情報の拡散経路や

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)