コーヒー用の粉末状クリームには可燃性の有毒物質が含まれている?【ファクトチェック】

コーヒー用の粉末状クリームには可燃性の有毒物質が含まれている?【ファクトチェック】

「コーヒー用の粉末状クリームには、可燃性の有毒物質が含まれている」という言説が拡散していますが、誤りです。粉末を発火源に近づけると燃えることがありますが、有毒物質が含まれているわけではありません。

検証対象

コーヒー用の粉末状クリームには可燃性があり、有毒な成分が含まれているという言説が拡散した(例1例2)。コーヒーに入れる粉末らしきものが燃え上がる動画が話題を呼び、表示回数が2000万回を超えるものもある。

この情報に対して、動画の現象は「粉塵爆発」であるという指摘が多い。

検証過程

動画は粉塵爆発か
日本ファクトチェックセンター(JFC)は、動画中の現象について消防庁に問い合わせた。

消防庁総務課は「動画を拝見したところ、小規模な粉塵爆発と言えます」と説明する。また、「火の元で小麦粉や片栗粉などを使用する場合、誤って火の元に粉をまき散らせば粉塵火災が発生する可能性があり、動画のような行為は危険ですので、避けていただきたく存じます」と強調した。

厚生労働省のホームページによると、粉塵爆発とは、以下の3要素を満たして発生する火災や爆発音。急な発熱や急速な空気の膨張によって大きな被害をもたらすことがある。

1.空気中に一定濃度の粉塵(固体微粒子)が浮遊し、
2.発火源があり、
3.空気中に十分な酸素がある

イギリス安全衛生庁(HSE)は、粉塵爆発を引き起こす食品例として、乾燥ミルクやインスタントコーヒーなどを挙げる。また、引火して爆発を起こす濃度の限界「爆発下限濃度」はそこまで高くはないとも指摘する。

また消防庁の「粉塵火災の広報啓発用映像」によると、「穀物の粉や砂糖など、細かい粉末状のものであれば、この(粉塵爆発の)状況は起こりうる」という。動画ではコーンスターチを例に、粉塵爆発を実験する様子が紹介されており、粉塵となることで、可燃性が格段に増すことがわかる。

他の粉末状の食品一般と同様に、粉末状コーヒークリームには、粉塵火災や爆発を引き起こすという点で可燃性はある。

有毒物質は含まれているのか
では、粉末状のコーヒークリームには言説の主張のように「有毒物質が含まれている」のか。

今回の検証対象が名指しする製品の一つ、ネスレ社のCoffee mate(日本では製造・販売されていない)の原材料は次の通りだ。

“コーンシロップ固形分、水素添加植物油(ココナッツ、パーム核、大豆)、カゼインナトリウム(乳由来)、リン酸二カリウム2%以下、アルミノケイ酸ナトリウム、モノグリセリド、ジグリセリド、香料、アナトー色素”

食品衛生法によって日本では人体への健康上の問題がないと認められた食品添加物のみが使用を認められている。指定添加物と天然添加物(既存添加物、天然香料、一般飲食物添加物)があり、いずれも「有毒物質」には該当しない。

Coffee mateの場合は食品添加物として、カゼインナトリウム(乳由来)、リン酸二カリウム、モノグリセリドとジグリセリドは乳化剤(グリセリン脂肪酸エステル)が指定添加物、アナト―色素が既存添加物にあたる。いずれも、指定添加物リスト既存添加物名簿から確認できる。

アルミノケイ酸ナトリウムについては、国際的な「アルミニウム摂取量の低減」の取り組みの進展と申請の必要性がなくなったことを理由に、厚生労働省は食品添加物としての指定申請を2019年1月8日に取り下げた。

指定申請が取り下げられたアルミノケイ酸ナトリウムは、輸入品も含めて食品添加物としての使用が認められていない。ただし、企業からの要請があれば、指定に向けた手続きが行われる可能性があるという。

JFCがネスレ日本社に問い合わせたところ、Coffee mateは「海外のネスレにて製造・販売を行っている製品」であって、食品衛生法の規制から、日本国内での製造・販売はしていないという。

アルミノケイ酸ナトリウムについては「指定添加物の指定に向けた要請をしたことや、その予定はございません」との回答だった。なお、ネスレ日本社ではコーヒー用の粉末状のクリームとして「ブライト」を商品展開しているが、アルミノケイ酸ナトリウムは使われていない。

判定

以上により、「コーヒー用の粉末状クリームには、可燃性の有毒物質が含まれている」という言説は、誤りと判定した。

検証:高橋篤史
編集:古田大輔、藤森かもめ

修正

「個体微粒子」は「固体微粒子」の誤り。修正しました。(2023年4月24日)


判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。

毎週、ファクトチェック情報をまとめて届けるニュースレター登録(無料)は、上のボタンから。また、QRコード(またはこのリンク)からLINEでJFCをフォローし、気になる情報を質問すると、AIが関連性の高いJFC記事をお届けします。詳しくはこちら

もっと見る

止まらない政治的な誤情報、選挙が終われば減る検証記事/JFC検証6本、コラムなど/AIポッドキャストを開始【今週のファクトチェック】

止まらない政治的な誤情報、選挙が終われば減る検証記事/JFC検証6本、コラムなど/AIポッドキャストを開始【今週のファクトチェック】

政治関係の誤情報が拡散する傾向は、参院選以降も続いています。8月7日には1日で自民、国民民主、社民の3党にかかわるファクトチェックをそれぞれ公開しました。 以前も解説記事で書きましたが、2024年に東京都知事選、総選挙、兵庫県知事選という注目された3つの選挙でソーシャルメディアで政治系のコンテンツを見る人が増えた影響で、誤情報混じりの情報発信が増え、それを見る人も更に増えるという悪循環となっています。 参院選中に盛り上がったファクトチェックも、選挙期間が終われば、検証記事を出すメディアは激減し、野放し状態です。選挙に影響を与える誤情報は、選挙期間中だけに拡散するわけではありません。むしろ、選挙期間中の世論の風は、選挙が始める前にある程度は形作られています。 誤情報への恒常的な対策が必要です。(古田大輔) ✉️日本ファクトチェックセンター(JFC)がこの1週間に出した記事を中心に、その他のメディアも含めて、ファクトチェックや偽情報関連の情報をまとめました。同じ内容をニュースレターでも配信しています。登録はこちら。 JFCからのお知らせ JFCファクトチ

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
「本人がそう言っている」では足りない:検証が止まる瞬間【ファクトチェックの舞台裏】

「本人がそう言っている」では足りない:検証が止まる瞬間【ファクトチェックの舞台裏】

日本ファクトチェックセンター(JFC)がファクトチェックの舞台裏を語るコラム。第5回は、「組織の発表」や「当事者の説明」は偏っている可能性があるため、ボツになった記事を振り返ります。 立ちはだかる企業秘密→保留 2025年4月、エルメスやルイ・ヴィトンなど、ハイブランドのバッグが「実は中国産だ」と主張する動画が拡散しました。 ブランド側は「従業員の多くはフランスで働いている」「製造業者の95%がイタリアに拠点」などと公表しているため、その言葉を信じれば、拡散した動画の検証結果は「誤り」となります。 欧州のメディアやファクトチェック団体の中には、この動画を検証して「偽造品の可能性が高い」「主張は誤りだ」などと報じたところもありました。 一方で、イギリス公共放送のファクトチェックチームBBCVerifyは、ハイブランドの多くが「製造拠点を欧米諸国においていると公表している」と前置きした上で、「ハイブランド業界はサプライチェーンの透明化に対して非常に消極的で、実際のところを正確に知ることはできない。高級ブランドでも、中国で多くの製造が行われている。ただし、『最

By 藤森かもめ(Kamome Fujimori)
運営・監査両委員会の報告書と2024年度会計を公開

運営・監査両委員会の報告書と2024年度会計を公開

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、運営委員会と監査委員会による最新の報告書と2024年度会計を公開しました。 JFCは独立性を保ってファクトチェックに取り組むため、設置規定に則り、有識者で構成する運営委員会で編集部がファクトチェックガイドラインに則って公正な検証をしているか、また、監査委員会(監査委員会運営規程はこちら)が編集部と運営委員会の全体のガバナンスが適正かを確認し、報告書にまとめています。 運営委員会と監査委員会 運営委員会報告書2025年4月30日 (報告書全文はこちら) 第1 2025年度の運営委員の任命及び委員長、副委員長の互選について 第2 編集部メンバーの採用と構成等 第3 外部機関連携等 第4 プラットフォーマー連携 第5 ファクトチェック記事の公開状況 第6 教育活動 第7 財務報告 第8 監査委員会の開催について 監査委員会報告書2025年7月25日 (報告書全文はこちら)  第1 監査委員会の構成 第2 監査委員会の監査の方法の概要 第3 監査の結果 両委員会の報告書は過去分も含めて「JFCとは」の「運営委員会

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
社民党・ラサール石井氏がガソリン暫定税率廃止に反対? 今国会では審議されていない【ファクトチェック】

社民党・ラサール石井氏がガソリン暫定税率廃止に反対? 今国会では審議されていない【ファクトチェック】

参議院議員・ラサール石井氏(社民党)が、国会でガソリン暫定税率廃止に反対した、という投稿が拡散しましたが、誤りです。8月1~5日開催の第218回国会(臨時会)では、ガソリン暫定税率に関する法案は審議されていません。社民党も否定しています。 検証対象 8月4日、国会でラサール氏が起立している画像に「ラサール石井。ガソリン暫定税率廃止に反対に起立する」と書いた投稿がXで拡散した。 投稿は、8月6日時点までに削除されている。同様の投稿は多数拡散し、表示回数が1300万回を超えるものもある(例1、例2)。 拡散した投稿には「減税に反対してる議員って日本人じゃないよね」「いきなり裏切り。投票した人は反省して」といったコメントや「まだ審議にすら入ってない」「デマです」などの指摘もある。 検証過程 ガソリン暫定税率廃止法案とは ガソリン税の暫定税率を廃止する法案は、ガソリン1リットルあたり25.1円が上乗せされている暫定税率を、11月1日から廃止する内容だ。 8月1日に、立憲民主、日本維新の会、国民民主など野党7党が、法案を衆議院に共同提出した(以上、読売新

By 根津 綾子(Ayako Nezu)

ファクトチェック講座

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、ファクトチェックやメディア情報リテラシーに関する講師養成講座を月に1度開催しています。講座はオンラインで90分間。修了者には認定バッジと教室や職場などで利用可能な教材を提供します。 次回の開講は8月23日(土)午後2時~3時15分で、お申し込みはこちら。 https://jfckoushiyousei0823.peatix.com 受講条件はファクトチェッカー認定試験に合格していること。講師養成講座は1回の受講で修了となります。 受講生には教材を提供 デマや不確かな情報が蔓延する中で、自衛策が求められています。「気をつけて」というだけでは、対策になりません。最初から騙されたい人はいません。誰だって気をつけているのに、誤った情報を信じてしまうところに問題があります。 JFCが国際大学グロコムと協力して実施した「2万人調査」では実に51.5%の人が誤った情報を「正しい」と答えました。一般に思われているよりも、人は騙されやすいという事実は、様々な調査で裏打ちされています。 JFCではこれらの調査をもとに、具体的にど

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、YouTubeで学ぶ「JFCファクトチェック講座」を公開しました。誰でも無料で視聴可能で、広がる偽・誤情報に対して自分で実践できるファクトチェックやメディアリテラシーの知識を学ぶことができます。 理論編と実践編の中身 理論編では、偽・誤情報の日本での影響を調べた2万人調査の紹介や、間違った情報を信じてしまう背景にある人間のバイアス、大規模に拡散するSNSアルゴリズムなどを解説しています。 実践編では、画像や動画や生成AIなど、偽・誤情報をどのように検証したら良いかをJFCが検証してきた事例から具体的に学びます。 JFCファクトチェッカー認定試験を開始 2024年7月29日から、これらの内容について習熟度を確認するJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。誰でもいつでも受験可能です(2024年度中は受験料1000円、2025年度から2000円)。 合格者には様々な技能をデジタル証明するオープンバッジ・ネットワークを活用して、JFCファクトチェッカーの認定証を発行します。 JFCファクトチェッカー認定試験

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
JFCファクトチェッカー認定試験  教材と申し込みはこちら

JFCファクトチェッカー認定試験  教材と申し込みはこちら

日本ファクトチェックセンター(JFC)はJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。YouTubeで公開しているファクトチェック講座から出題し、合格者に認定証を授与します。 拡散する偽・誤情報から身を守るために 偽・誤情報の拡散は増える一方で、皆さんが日常的に使用しているSNSや動画プラットフォームに蔓延しています。偽広告や偽サイトへのリンクなどによる詐欺被害も広がっています。 JFCが国際大学グロコムと実施した2万人を対象とする調査では、実際に拡散した偽・誤情報を51.5%の割合で「正しいと思う」と答え、「誤っている」と気づけたのは14.5%でした。 自分が目にする情報に大量に間違っているものがある。そして、誰もが持つバイアスによって、それが自分の感覚に近ければ「正しい」と受け取る傾向がある。インターネットはその傾向を増幅する。 だからこそ、ファクトチェックやメディアリテラシーに関する知識が誰にとっても必須です。 JFCファクトチェック講座と認定試験 JFCファクトチェック講座(YouTube, 記事)は、2万人調査を元に偽・誤情報の拡散経路や

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)