(画像)日本は農薬使用量が世界一?【ファクトチェック】

(画像)日本は農薬使用量が世界一?【ファクトチェック】

悪い意味で「日本は〇〇が世界一」と政府を批判する画像が拡散されていますが、多くの誤りが含まれています。統計を調べると画像内で列挙された内容の多くが誤り、あるいは根拠が示されていないものです。

検証対象

Twitterで様々な点で日本は世界最悪であると指摘する画像が拡散した。

画像

この画像を添付したツイートの表示回数は7万4000回、リツイート・引用リツイート数は1300回を超えた(4月6日現在)。

リプライ欄には「世界一の内容がクソすぎる」「DS(ディープステート=闇の政府)に操られているからでしょう」といったコメントが寄せられた一方で、「農薬使用量世界一というのは違いますね。最近調べたので」といった誤りを指摘するコメントもあった。

検証過程

日本ファクトチェックセンター(JFC)は公開されているデータをもとに、指摘されている項目を検証していった。

農薬の使用量が世界一=誤り

国際連合食料農業機関(FAO)のウェブサイトによると、2020年の時点で農薬使用量が最も多い国はアメリカで40万7779トン。日本は5万1970トンだった。農地面積あたりの農薬使用量でも、1ヘクタールあたりの農薬使用量が2020年時点で最も多い国はカリブ海のセントルシアで、1ヘクタールあたり20.48kg。日本は1ヘクタールあたり11.89kgだった。

精神科の病床数が世界一=根拠不明

アメリカやヨーロッパ、アジアなどの先進諸国が加盟する国際機関・経済協力開発機構(OECD)によると、2020年時点のOECD加盟国のなかで人口1000人あたりの精神科の病床数が最も多いのは、日本の2.57床だった。OECD加盟国の中では最も大きい数字だが、日本の精神科の病床数が世界一であるかどうかは不明である。WHOによると、2016年の人口10万人あたりの日本の精神科の病床数は66.147床だった。この数字はハンガリーの85.671床、モナコの148.798床より少ない。

若者の自殺率が世界一=誤り

世界保健機構(WHO)は、各年齢層ごとの人口10万人あたりの自殺者数を公表している。日本は15〜24歳が12.44人、25〜34歳は16.15人。一方、ロシアは15〜24歳17.81人、25〜34歳26.86人と、ともに日本より高い。

原発密度世界一=誤り

世界原子力協会のデータ(2023年4月)によると、日本で稼働可能な原子炉の数は33基。国土面積を約37万8000平方kmとして計算すると、原子炉一基あたり約1万1455平方km。25基の原子炉を抱える韓国は約4017平方km。5基のベルギーは約6138平方km。日本の原子炉は経済産業省の資料(3月16日時点)によると、再稼働10基、設置変更許可7基、新規制基準審査中10基、未申請9基で合計36基となるが、それでも一基あたりの面積は約1万500平方kmで、韓国やベルギーより広い。

日本の学費も世界一=誤り

2019年の経済協力開発機構(OECD)のデータによると、OECD加盟国で最も学費が高いのはルクセンブルクで初等教育の学費は約2万2203ドル、中等教育の学費は約2万4736ドル、高等教育の学費は約5万1978ドル。対して日本の学費は初等教育が約9379ドル、中等教育が約1万1493ドル、高等教育が約1万9504ドルだった。

プルトニウムの保有量も世界一=誤り

長崎大学核廃絶研究センターが2019年末時点での主要国の分離プルトニウム保有量を公表している。日本は非軍事用のプルトニウムのみを45.5トン保有している。ロシアは軍事用・非軍事用あわせて191.1トン、イギリスは119.0トン、アメリカは87.7トンだった。

税金の種類と額が世界一=誤り

税金の種類と額を世界中の国で比較するのは難しいが、財務省のウェブサイトによると、2019年の日本の国民所得に対する国民負担率(租税負担と社会保障負担の合計)は44.4%でOECD加盟の36カ国中24位。1位はルクセンブルクで93.4%、2位フランス67.1%。

自然災害死亡者数が世界一=誤り

消防庁の資料によると、2011年の東日本大震災の死者数は2023年3月1日の時点で1万9765人。日本では、地震や台風、豪雪、火山噴火などの自然災害によって、大震災を除けば毎年数十人から数百人の人々が亡くなっている。一方で、2023年2月に発生したトルコ南部を震源とした地震では、トルコ国内だけで死者数は4万人をはるかに超えている。2004年に発生したスマトラ島沖地震では死者21万人以上、インドネシア国内だけでも16万人以上に及ぶ。

根拠不明な項目も

その他の項目についても、根拠が示されておらず、世界一の定義があいまいなものもある。

判定

以上のことから、画像で触れている項目の多くが誤っており、また、すべての項目について根拠も示されていないため、総合的に誤りと判定した。

あとがき

示されている項目が世界一を検証するにあたり、様々な公開データを参照しました。明らかに間違っているものもあれば、そもそも「世界一」の定義が不明確で検証すること自体が難しいものもありました。

SNS上には数多くの「わかりやすい画像」が存在しますが、その多くが何を根拠にしているか、誰が作ったのか、不明瞭なものです。このような画像をシェアする前に自分でも確認してみたり、発信元を確かめたりする必要があります。

検証:リサーチチーム
編集:古田大輔、宮本聖二


判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。

毎週、ファクトチェック情報をまとめて届けるニュースレター登録(無料)は、上のボタンから。また、QRコード(またはこのリンク)からLINEでJFCをフォローし、気になる情報を質問すると、AIが関連性の高いJFC記事をお届けします。詳しくはこちら

もっと見る

高市首相の偽広告、警察庁などが注意喚起 投資を促す典型的なオンライン詐欺

高市首相の偽広告、警察庁などが注意喚起 投資を促す典型的なオンライン詐欺

高市早苗首相が投資を促す偽広告がインターネット上で拡散していると、自民党や警察庁が注意喚起をしています。ソーシャルメディア上の広告機能を使った典型的なオンライン詐欺の手口です。 YouTubeに高市首相の偽広告 X、Facebook、YouTubeなど、インターネットのプラットフォーム上にはこれまでも多数の偽広告が広がっている。その多くは著名人や実在するニュースサイトを偽装して投資を呼びかけたり、個人情報を取得したりしようとする。 今回拡散したのは、高市氏が投資を呼びかけるという内容だ。実際には高市氏は関係がない。 上記のリンクは現在、「孫正義氏と日本の主要機関が新たな投資プラットフォームを発表」という偽の記事につながっている。偽記事を掲載しているサイトにはNHK WORLDのロゴが付いているが、偽物だ。 自民党広報や警察庁もSNSで注意喚起 自民党広報は、10月24日に公式Xアカウントで「これらの広告は高市総裁および自由民主党とは一切関係がありません」「広告を見かけても、👉 絶対にアクセスしないで下さい」などと注意を呼び掛けている(自民党広報@j

By 根津 綾子(Ayako Nezu)
ビル・ゲイツ氏が気候変動対策から撤退? 撤退ではなく新たな方法論を提言【ファクトチェック】

ビル・ゲイツ氏が気候変動対策から撤退? 撤退ではなく新たな方法論を提言【ファクトチェック】

マイクロソフト社の共同創業者ビル・ゲイツ氏が、気候変動対策から撤退するかのような投稿が拡散しましたが、ミスリードで不正確です。ゲイツ氏は「気候変動は重要な問題だが、気温上昇の抑制を最優先にするのではなく、人類の福祉を向上する施策の一環と位置付けるべき」と述べており、気候変動対策からの撤退を表明したという事実はありません。 検証対象 拡散した言説 2025年10月30日、「ビル・ゲイツ、気候変動活動(気候変動デマとも言う)撤退を宣言」などの文言とともに、ゲイツ氏のインタビュー動画が拡散した。 検証する理由 11月4日現在、投稿は4300回以上リポストされ、表示は184.3万件を超える。 投稿には「気候変動対策を最優先すべきではない、という位置づけを表明した事が撤退にはならないだろ」などの指摘もあるが、「気候変動ビジネスが思いのほか金にならんかったんやね」「ビル・ゲイツは、二酸化炭素を減らすには牛のゲップをやめさせる必要があると言って、代替肉の培養を進めようとまでしたヤツだ。この急旋回はかなり不自然だ」など同調するコメントも多い。 検証過程 添

By 根津 綾子(Ayako Nezu)
自治体レベルで拡散する局地的な偽・誤情報にどう対応するか 鍵を握る地元メディア/JFC検証など10本【今週のファクトチェック】

自治体レベルで拡散する局地的な偽・誤情報にどう対応するか 鍵を握る地元メディア/JFC検証など10本【今週のファクトチェック】

宮城県知事選(10月26日投開票)でも、誤情報や真偽不明の情報が拡散しました。その多くは現職の知事で再選された村井嘉浩氏を攻撃する内容でした。 本人が反対を表明していたメガソーラーを「大歓迎している」。撤回すると明言していた土葬可能な墓地の検討も「推進している」。こういった投稿がX、TikTok、YouTube、Instagramなど、複数のプラットフォームで引用を繰り返す形で広がっていきました。 日本ファクトチェックセンターでも、特に拡散していた情報を2つ検証し、「不正確」「根拠不明」と判定しました。新聞社やテレビ局なども、真偽不明情報の拡散を報じましたが、特に目立ったのは地元の河北新報の報道です。 ネット情報の真偽を調べる「かほQチェック」のコーナーで、選挙戦中盤の10月18〜19日に以下の3つの記事を公開しています。 宮城県知事選挙の期日前投票が開始3日間で前回の31倍 なぜ急増? 宮城県知事選挙で再び争点「水道みやぎ」導入の経緯って? 宮城県知事選挙で話題「土葬墓地」検討撤回の経緯って? いずれも「誤り」「不正確」などと判定を下す形ではなく、真偽不明の情報

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
TikTokで拡散するAI生成によるクマ被害の偽動画に注意【ファクトチェック】

TikTokで拡散するAI生成によるクマ被害の偽動画に注意【ファクトチェック】

日本のクマ被害が深刻化していることをうけ、熊による被害を映した動画がTikTokで多数拡散しています。しかし、その中にはAIで生成された現実のものではない映像が多数混じっています。 熊が人を襲う動画が多数拡散 2025年10月、TikTokで「クマが柴犬くわえ逃走 どう対策」という動画が拡散した。 TikTokには、ほかにも「熊vsアルファード」などクマによる被害を撮影したような動画が複数拡散している(例1、例2、例3)。 動画には「熊射殺すべき」「怖い」というコメントの一方で「いくらAIでもやっていいことと悪いことがある」という指摘もある。 クマ被害の増加 近年、日本各地で深刻なクマ被害が相次いでいる。2025年度、クマに襲われて死亡した人は2025年10月30日現在で全国で12人にのぼり、過去最多の被害となっている(時事通信.”相次ぐクマ被害、対応限界も 市街地出没急増で苦慮―自治体”、環境省”クマに関する各種情報・取組”)。 被害の拡大に伴って、ソーシャルメディアにクマ関連の動画をアップする人が増えている。 AI生成のウォーターマーク

By 木山竣策

ファクトチェック講座

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、ファクトチェックやメディア情報リテラシーに関する講師養成講座を月に1度開催しています。講座はオンラインで90分間。修了者には認定バッジと教室や職場などで利用可能な教材を提供します。 次回の開講は11月28日(土)午後5時~6時30分で、お申し込みはこちら。 https://jfcyousei1128.peatix.com/view 受講条件はファクトチェッカー認定試験に合格していること。講師養成講座は1回の受講で修了となります。 受講生には教材を提供 デマや不確かな情報が蔓延する中で、自衛策が求められています。「気をつけて」というだけでは、対策になりません。最初から騙されたい人はいません。誰だって気をつけているのに、誤った情報を信じてしまうところに問題があります。 JFCが国際大学グロコムと協力して実施した「2万人調査」では実に51.5%の人が誤った情報を「正しい」と答えました。一般に思われているよりも、人は騙されやすいという事実は、様々な調査で裏打ちされています。 JFCではこれらの調査をもとに、具体的にど

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、YouTubeで学ぶ「JFCファクトチェック講座」を公開しました。誰でも無料で視聴可能で、広がる偽・誤情報に対して自分で実践できるファクトチェックやメディアリテラシーの知識を学ぶことができます。 理論編と実践編の中身 理論編では、偽・誤情報の日本での影響を調べた2万人調査の紹介や、間違った情報を信じてしまう背景にある人間のバイアス、大規模に拡散するSNSアルゴリズムなどを解説しています。 実践編では、画像や動画や生成AIなど、偽・誤情報をどのように検証したら良いかをJFCが検証してきた事例から具体的に学びます。 JFCファクトチェッカー認定試験を開始 2024年7月29日から、これらの内容について習熟度を確認するJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。誰でもいつでも受験可能です(2024年度中は受験料1000円、2025年度から2000円)。 合格者には様々な技能をデジタル証明するオープンバッジ・ネットワークを活用して、JFCファクトチェッカーの認定証を発行します。 JFCファクトチェッカー認定試験

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
JFCファクトチェッカー認定試験

JFCファクトチェッカー認定試験

日本ファクトチェックセンター(JFC)はJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。YouTubeで公開しているファクトチェック講座から出題し、合格者に認定証を授与します。 拡散する偽・誤情報から身を守るために 偽・誤情報の拡散は増える一方で、皆さんが日常的に使用しているSNSや動画プラットフォームに蔓延しています。偽広告や偽サイトへのリンクなどによる詐欺被害も広がっています。 JFCが国際大学グロコムと実施した2万人を対象とする調査では、実際に拡散した偽・誤情報を51.5%の割合で「正しいと思う」と答え、「誤っている」と気づけたのは14.5%でした。 自分が目にする情報に大量に間違っているものがある。そして、誰もが持つバイアスによって、それが自分の感覚に近ければ「正しい」と受け取る傾向がある。インターネットはその傾向を増幅する。 だからこそ、ファクトチェックやメディアリテラシーに関する知識が誰にとっても必須です。 JFCファクトチェック講座と認定試験 JFCファクトチェック講座(YouTube, 記事)は、2万人調査を元に偽・誤情報の拡散経路や

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)