2018年に内閣府食品安全委員会がコオロギ食の危険性を記載した?【ファクトチェック】

2018年に内閣府食品安全委員会がコオロギ食の危険性を記載した?【ファクトチェック】

昆虫食の是非をめぐって、「2018年に内閣府食品安全委員会はコオロギ食の危険性を記載していた」というツイートが拡散されていますが、不正確です。委員会は欧州食品安全機関(EFSA)の文書を紹介する形で2018年時点での昆虫食についての懸念事項を掲載していますが、これは現在の日本でのコオロギ食への危険性を伝えるものではなく、ツイートはミスリードです。

検証対象

高校の授業の一環でコオロギの試食をし、クレームが殺到したという記事を引用する形で、「2018年に内閣府食品安全委員会がコオロギ食の危険性を記載していた」という須藤元気・参院議員(無所属)のツイートが拡散した。表示回数は3月14日現在、130万回、リツイート・引用リツイートは9500回を超えている。

画像

このツイートのリプライ欄には、「コオロギ食べる前にフードロスをなくそう!」「内閣府の矛盾を無視せず、きちんとコオロギ食の危険性を国会で指摘してほしいです」といったコメントが寄せられている。

なお、リトマスも3月7日にファクトチェックをしており、食品安全委員会のホームページに記載されていた資料を精査した内容をもとに「不正確」と判定している。

検証過程

検証対象のツイートの根拠になっているのは、内閣府食品安全委員会のホームページに2018年9月に掲載された欧州食品安全機関(EFSA)による新食品としてのヨーロッパイエコオロギのリスクを紹介する記事である。記事内では、以下のように記載している。

(1)総計して、好気性細菌数が高い。
(2)加熱処理後も芽胞形成菌の生存が確認される。
(3)昆虫及び昆虫由来製品のアレルギー源性の問題がある。
(4)重金属類(カドミウム等)が生物濃縮される問題がある。

日本ファクトチェックセンター(JFC)は記載内容について食品安全委員会に問い合わせた。

委員会の情報・勧告広報課の担当者はこう説明する。

「記事は欧州食品安全機関(EFSA)が発表した情報を食品安全委員会において翻訳し、当委員会HP上の『食品安全関係情報データベース』に掲載したものであり、当委員会の見解を示したものではありません。その後、2022年2月、欧州委員会は、申請企業が提出した用途の下で当該昆虫の摂取が安全であると結論付けたEFSAの評価の結果を受けて、アレルギーの可能性に関する適切な表示をすることを前提として、当該昆虫を新食品としてEU域内に市場投入することを認可したとの情報を得ており、当該情報についても上述のデータベースに掲載しています」

昆虫食の安全性については次のようにコメントした。

「食品安全委員会は厚労省等から依頼を受けて食品のリスク評価を行う機関であり、個別の商品や事業者の安全性の審査・許可等は行っていません。国内における食品の安全性の確保については、第一義的には食品衛生法を所管している厚生労働省並びに各地域の保健所の判断によるものと理解しています。また、アレルギー等の健康被害の情報については厚生労働省や消費者庁にお問い合わせください」

食品安全委員会はHP上で、2021年8月、新食品としてのヨーロッパイエコオロギについて「規格制限に準拠している場合、当該新食品の安定性に関して安全上の懸念はない」とするEFSAの見解を紹介。2022年2月には「欧州委員会(EC)が2月11日、欧州連合(EU)市場向けの食品成分として三番目の昆虫となるヨーロッパ・イエコオロギの認可を公表した」とするECの情報を公表している。

判定

内閣府食品安全委員会は、2018年にホームページ上でヨーロッパイエコオロギが抱えるリスクについて、欧州食品安全機関の見解を紹介していたが、これは食品安全委員会の見解ではない。また、該当記事は現在の日本におけるコオロギ食の危険性について記述したものではなく、2021年8月には「安全上の懸念はない」というEFSAの見解も紹介している。以上のことから、食品安全委員会が2018年にコオロギ食の危険性について記載していたという言説はミスリードで不正確。

検証:リサーチチーム
編集:古田大輔、藤森かもめ


判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。

毎週、ファクトチェック情報をまとめて届けるニュースレター登録(無料)は、上のボタンから。また、QRコード(またはこのリンク)からLINEでJFCをフォローし、気になる情報を質問すると、AIが関連性の高いJFC記事をお届けします。詳しくはこちら

もっと見る

日本ファクトチェックセンター エディター募集【JFC採用】

日本ファクトチェックセンター エディター募集【JFC採用】

日本ファクトチェックセンター(JFC)では、ファクトチェックやメディアリテラシー教育などの活動を強化するため、エディターを募集しています! インターネットやソーシャルメディアは、私たちの世界を大きく広げてくれました。一方で、拡散する不確かな情報や、悪意ある偽・誤情報によって、社会の分断や混乱が生まれているのも事実です。 「インターネット上の情報を、誰もが安心して活用できる社会にしたい」 そんな思いを共有し、日本ファクトチェックセンター(JFC)の活動をさらに加速させてくれる新しい仲間(エディター)を募集します! 明るく、前向きに、デジタル空間の健全化に取り組んでくれる方を待っています。 検証とリテラシー教育の「両輪」を強化する 総務省の情報通信白書などのデータを見るまでもなく、私たちが日々接する情報量は爆発的に増え続けています。 JFCは、日々拡散する疑わしい言説を検証する「ファクトチェック」とともに、情報の受け手が自分自身で情報の真偽を見極める力を養う「メディアリテラシー教育」の強化にも務めています。 検証と教育。この「両輪」を回すことで、情報の

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
ロシアではイスラム教は禁止? 法律で伝統的な宗教の一つと認定【ファクトチェック】

ロシアではイスラム教は禁止? 法律で伝統的な宗教の一つと認定【ファクトチェック】

ロシアでイスラム教が禁止されているという投稿が拡散しましたが、誤りです。ロシアは憲法で宗教の自由を認めています。連邦法でもイスラム教がキリスト教などと並ぶ4つの伝統的な宗教の一つだとしており、イスラム教徒が多数暮らしています。 検証対象 拡散した言説 2025年11月21日、「ロシアではイスラム教が禁止されている」という投稿がXで拡散した。 検証する理由 12月2日現在、投稿は1900回以上リポストされ、表示は20万件を超える。投稿には「ロシアで禁止されているのは,イスラム原理主義。イスラム教自体は禁止されていない」「デマ流すなよ。ロシア国民の15~20%はイスラム教徒だよ」などの指摘もあるが、「正しい対応。イスラム教は普通の宗教とは違う」「プーチンさんさすが👍それに比べて日本人は?」など同調するコメントも多い。 検証過程 ロシアは法律で宗教の自由とイスラム教を尊重 ロシア憲法は、ロシア語、英語、フランス語、ドイツ語で公開されている。第28条に以下のような条文がある。 「すべての人は、良心の自由および宗教の自由を保障される。これには、個

By 根津 綾子(Ayako Nezu)
北九州市が50万人のインド人を受け入れ? 全国規模の双方向交流【ファクトチェック】

北九州市が50万人のインド人を受け入れ? 全国規模の双方向交流【ファクトチェック】

「北九州市で 50万人のインド人受け入れが進められてる」という言説が拡散しましたが、誤りです。5年間かけて日本とインドが進める全国規模の双方向交流と混同したものです。北九州市にも交流プログラムはありますが「具体的に何人という話ではない」と説明しています。 検証対象 拡散した言説 「北九州市がインド人50万人を受け入れる」という情報は、遅くとも2025年9月ごろから何度も拡散している(例1、例2、例3)。 2025年11月29日の動画付き投稿では「北九州市で50万人のインド人受け入れが進められている」「インド政府と懇談して交流促進を確認した」「10兆円投資する」などと語られている。 検証する理由 2025年12月1日現在、この投稿だけでも3800件以上リポストされ、表示回数は25万回を超える。同様の投稿は遅くとも9月頃から複数のプラットフォームで何度も拡散している。 投稿について「マズい話が進められてますよ」「インド人が50万人も受け入れたらヤバいことに」というコメントの一方で「国の相互交流として50万人」という指摘もある。 検証過程 イン

By 木山竣策
フィルターバブルとは【JFC用語解説】

フィルターバブルとは【JFC用語解説】

フィルターバブルとは、フィルター(膜)がバブル(泡)のように周りをつつみ、そのフィルターを通ってきたコンテンツ(記事や動画など)ばかりを目にする状態を意味します。 ここでフィルターとなっているのが、YouTubeやXなどインターネットの情報プラットフォームのアルゴリズムです。 例えば、あなたが料理動画、それも日本の食べ歩きが好きで、YouTubeでそういった動画をよく見ているとします。 そうすると、YouTubeのアルゴリズムは、あなたがそういった動画チャンネルを登録し、何度も長い時間見ているデータを分析し、同じような食べ歩き動画をどんどん届けるようになります。結果、あなたはそれ以外の動画を見る時間が減る。これがフィルターバブルです。 アルゴリズムとはコンピューターが効率よく仕事を処理するための手順書のようなもので、別途、「アルゴリズム」の用語解説を御覧ください。

By 古田大輔(Daisuke Furuta)

ファクトチェック講座

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、ファクトチェックやメディア情報リテラシーに関する講師養成講座を月に1度開催しています。講座はオンラインで90分間。修了者には認定バッジと教室や職場などで利用可能な教材を提供します。 次回の開講は12月20日(土)午後2時~3時30分で、お申し込みはこちら。 https://jfcyousei1220.peatix.com 受講条件はファクトチェッカー認定試験に合格していること。講師養成講座は1回の受講で修了となります。 受講生には教材を提供 デマや不確かな情報が蔓延する中で、自衛策が求められています。「気をつけて」というだけでは、対策になりません。最初から騙されたい人はいません。誰だって気をつけているのに、誤った情報を信じてしまうところに問題があります。 JFCが国際大学グロコムと協力して実施した「2万人調査」では実に51.5%の人が誤った情報を「正しい」と答えました。一般に思われているよりも、人は騙されやすいという事実は、様々な調査で裏打ちされています。 JFCではこれらの調査をもとに、具体的にどのような知

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、YouTubeで学ぶ「JFCファクトチェック講座」を公開しました。誰でも無料で視聴可能で、広がる偽・誤情報に対して自分で実践できるファクトチェックやメディアリテラシーの知識を学ぶことができます。 理論編と実践編の中身 理論編では、偽・誤情報の日本での影響を調べた2万人調査の紹介や、間違った情報を信じてしまう背景にある人間のバイアス、大規模に拡散するSNSアルゴリズムなどを解説しています。 実践編では、画像や動画や生成AIなど、偽・誤情報をどのように検証したら良いかをJFCが検証してきた事例から具体的に学びます。 JFCファクトチェッカー認定試験を開始 2024年7月29日から、これらの内容について習熟度を確認するJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。誰でもいつでも受験可能です(2024年度中は受験料1000円、2025年度から2000円)。 合格者には様々な技能をデジタル証明するオープンバッジ・ネットワークを活用して、JFCファクトチェッカーの認定証を発行します。 JFCファクトチェッカー認定試験

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
JFCファクトチェッカー認定試験

JFCファクトチェッカー認定試験

日本ファクトチェックセンター(JFC)はJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。YouTubeで公開しているファクトチェック講座から出題し、合格者に認定証を授与します。 拡散する偽・誤情報から身を守るために 偽・誤情報の拡散は増える一方で、皆さんが日常的に使用しているSNSや動画プラットフォームに蔓延しています。偽広告や偽サイトへのリンクなどによる詐欺被害も広がっています。 JFCが国際大学グロコムと実施した2万人を対象とする調査では、実際に拡散した偽・誤情報を51.5%の割合で「正しいと思う」と答え、「誤っている」と気づけたのは14.5%でした。 自分が目にする情報に大量に間違っているものがある。そして、誰もが持つバイアスによって、それが自分の感覚に近ければ「正しい」と受け取る傾向がある。インターネットはその傾向を増幅する。 だからこそ、ファクトチェックやメディアリテラシーに関する知識が誰にとっても必須です。 JFCファクトチェック講座と認定試験 JFCファクトチェック講座(YouTube, 記事)は、2万人調査を元に偽・誤情報の拡散経路や

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)