ドイツ国内でイスラム法で統治された自治区を求めるデモ、イスラム国の旗も?【ファクトチェック】

ドイツ国内でイスラム法で統治された自治区を求めるデモ、イスラム国の旗も?【ファクトチェック】

ドイツ国内のデモで「イスラム法によって統治する自治区を認めろという要求やイスラム国の旗があった」という言説が拡散しましたが、誤りです。イスラエル・パレスチナでの武力衝突に関連したデモでしたが、そのような要求は動画には映っておらず、デモ参加者の旗などにイスラム国のものは見つかっていないと現地警察は発表しています。

検証対象

2023年11月24日、ドイツ国内のデモで「イスラム国の旗が掲げられていた」というポストが動画とともに拡散した(例1例2例3)。

この投稿に「ドイツ内にイスラム法で統治された自治区を認めろと要求するデモ」「『イスラム国』の旗もみえる」などと日本語訳をつけて引用リポストした投稿も日本のユーザーの間で拡散した。

検証過程

10月7日のイスラム組織ハマスによる奇襲とそれに対するイスラエルによる大規模な攻撃が続く中、イスラエルあるいはパレスチナへの連帯・支持を訴えるデモが世界各地で相次いだ。特にイスラエルの攻撃によって死傷者が急増していることに対し、批判のデモも広がっている。

拡散した投稿は、そういったデモがドイツ国内でイスラム法による自治を求めたり、イスラム国の旗を掲げたりするなど急進化していると主張する内容だ。

ドイツ国内でのデモなのか

拡散した言説・動画は、ドイツ国内でのデモの様子なのか。

例2は、デモはドイツ西部・エッセン市の様子だと投稿に書かれている。動画を確認すると、行進する人たちの後ろにドイツ語で「WASCHSALON(コインランドリー)」の看板が見える。コインランドリーとエッセンという情報を元にGoogleマップで確認すると、エッセン市中心部で撮影されたことが分かる。

拡散したポストの動画の一場面

次に、エッセン市でのデモについて調べると、ドイツ国際公共放送DWが「イスラエルによるガザへの攻撃に抗議するデモに3000人が集まった」と2023年11月3日に報じている

イスラム法に基づく自治区を求めたデモか

拡散した動画ではドイツ語のプラカードがいくつか確認できる。「UNICEF, “CATALIST EIN FRIEOHOF FUR KINDER”(ユニセフ、「子どもたちのための平和の庭の実現を」)」「DAS KALIFAT IST DIE LÖSUNG!(カリフが解決策だ!)」「EINE UMMAH, EINE EINHEIT, EINE LÖSUNG, KHILAFAH(一つのウンマ、一つの統一、一つの解決策、カリフ制)」

拡散したポストの動画の一場面

拡散した動画でデモ参加者が何を叫んでいるのか。アラビア語と思われるスローガンも聞こえたため、日本ファクトチェックセンター(JFC)は、アラブ地域のファクトチェック組織のネットワークArab Fact-Checkers Network(AFCN)を通じて、アラビア語でファクトチェックに取り組む「Tahaqaq360」のIman Barkさんの協力を得た。

Iman Barkさんはデモ参加者の真意を断定はできないとしつつも、「彼らは 『パレスチナを救うカリフはどこにいるのか』と叫んでおり、『ドイツ国内にカリフを求める』という意味ではない」と解説する。

カリフとは、イスラム共同体の最高指導者を指す称号だ。少なくとも動画の中では「(ドイツ国内で)イスラム法によって統治する自治区を認めてほしい」という主張は確認できない。

デモ参加者が掲げていた旗はイスラム国のものか

Iman Barkさんは、動画内で確認できるアラビア語が記された旗について「ISIS(イスラム国)のものではない」とコメントした。

2023年11月3日のエッセン市でのデモの旗については、ドイツ日刊紙ターゲスシュピーゲルやドイツ公共放送の西部ドイツ放送協会(WDR)はじめドイツ国内でもいくつかの報道がある。

WDRの11月6日の記事は、多数の参加者がドイツで禁じられているヒズブ・タフリール(解放党)の旗を掲げていたと報じている。ヒズブ・タフリールとは、1953年にエルサレムで設立されたイスラム組織で、イスラム世界でのカリフ制復活とイスラム国家樹立を目指している。創設者のナブハーニーは、パレスチナのイスラエルからの解放を組織のイデオロギーの中心にしていた。ドイツ国内での活動は2003年から禁止されている(ドイツ連邦政治教育センター)。

ただし、同じWDRの11月8日の記事は、地元警察の調査ではドイツ国内で禁止されている旗やシンボルなどは見つからなかったとも伝えている。この記事の中で地元の警察署長は「イスラム主義者たちは、ISISやタリバンによく似たシンボルを意図的に使用したようだ」と語っている。

ヒズブ・タフリールの旗、11月3日のエッセンのデモ(WDRの記事より)

判定

拡散した動画では「(ドイツ国内で)イスラム法で統治された自治区を認めろ」という要求は確認できない。動画内でデモ参加者がイスラム国の旗を掲げていることも確認できず、現地警察による捜査でも、ISISによく似たシンボルを使っていたというコメントはあるが、旗そのものは見つかっていない。よって、「(動画)ドイツ国内、イスラム法で統治された自治区を認めろと要求するデモ、イスラム国の旗も」は誤りと判定した。

検証:高橋篤史、木山竣策、鈴木刀磨
編集:宮本聖二、古田大輔、藤森かもめ

検証手法や判定基準などに関する解説は、JFCサイトのファクトチェック指針をご参照ください。

「ファクトチェックが役に立った」という方は、シェアやいいねなどで拡散にご協力ください。誤った情報よりも、検証した情報が広がるには、みなさんの力が必要です。

X(Twitter)FacebookYouTubeInstagramなどのフォローもよろしくお願いします。またこちらのQRコード(またはこのリンク)からLINEでJFCをフォローし、真偽が気になる情報について質問すると、AIが関連性の高い過去のJFC記事をお届けします。詳しくはこちらの記事を

もっと見る

斎藤知事は「全国知事会議」の出席率36%? 2つの会議を混同【ファクトチェック】

斎藤知事は「全国知事会議」の出席率36%? 2つの会議を混同【ファクトチェック】

兵庫県の斎藤元彦知事が、百条委員会の尋問を欠席して政府主催の全国知事会議に出席すると報じられました。この件について「斎藤知事のこれまでの全国知事会議出席率=36%」という主張が拡散しましたが、誤りです。全国の知事が集まる会議には、斎藤知事が今回出席する政府主催の「全国都道府県知事会議」と、全国知事会が主催する「全国知事会議」があり、拡散した表は全国知事会主催の出欠です。斎藤知事1期目の全国都道府県知事会議への出席率は約7割です。 検証対象 2024年11月19日、「斎藤知事のこれまでの全国知事会議出席率=36%」という投稿が拡散した。投稿には「全国知事会議 知事出席状況」という表が添付され、斎藤知事は1期目の2021年8月30日から2024年8月2日までの11回中4回出席(出席率36%)したことになっている。 投稿は2024年11月22日時点で約6000件のリポストと約230万件のインプレッションを獲得している。 「今まで通り休むべき。百条委員会の方が大切だ」「2期目当選して最初の知事会、最優先に決まってるやろ」と賛否のコメントが付く一方で、「今回は政府主

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
「(斎藤知事の)パワハラはなかった」と百条委の委員長が発言? 前後の文脈を無視した切り取り動画【ファクトチェック】

「(斎藤知事の)パワハラはなかった」と百条委の委員長が発言? 前後の文脈を無視した切り取り動画【ファクトチェック】

兵庫県知事選で再選した斎藤元彦知事をめぐって、百条委員会(調査特別委員会)の奥谷謙一委員長が「パワハラはなかった」と発言したという動画付きの言説が拡散しましたが、不正確です。拡散した動画は発言の一部を切り取ったもの。奥谷委員長は拡散した動画の発言後、「厳しい叱責を受けたという人はいたか?」と問われて「整理できていないが、『厳しい叱責を受けたことがある』と答えた人は結構おられたと思う」と説明。パワハラに当たるかどうか評価したいと答えています。 検証対象 2024年11月19日、「奥谷委員長が発言してます。パワハラはなかったと」という言説が拡散した。 添付された25秒間の動画では、奥谷委員長が記者から、この日の証人尋問に呼ばれた6人について「パワハラを受けたという人は何人いるのか」という質問を受け、「私の認識では明確に知事の方からパワハラを受けたという方はいらっしゃらなかった」と答えている。 2024年11月20日現在、この投稿は180件以上リポストされ、表示回数は32万回を超える。投稿について「これが正解」「まだ言うかね」というコメントがつく一方で、「そんな

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
アメリカでは帰化して三世代おかないと政治家になれない? 大統領や連邦議会議員に親の国籍は関係ない【ファクトチェック】

アメリカでは帰化して三世代おかないと政治家になれない? 大統領や連邦議会議員に親の国籍は関係ない【ファクトチェック】

「アメリカでは帰化して三代、間におかないと政治家になれない」という言説が拡散しましたが、誤りです。大統領や連邦議会上下院議員になるために、年齢や在住期間の規定はありますが、親の国籍は関係ありません。また、添付画像は日本に関する「帰化した国会議員」のリストですが、実際に帰化した人物はわずかで、ほとんどが誤ったものです。 検証対象 2024年11月3日、X(旧Twitter)で「米国では帰化してから3代間にないと選挙に出られない、つまり政治家になれない」という言説が拡散した。11月19日現在、230万以上の閲覧と1万件を超えるコメントがついている。 コメントには「日本も規制した方がいいですね」「日本も帰化3世までは立候補出ないようにする必要がある」などと同調する意見が続く一方で、「米国で、流石に三世代はないです。」という指摘もある。 検証過程 大統領と連邦議会上下院議員の資格要件を調べると、合衆国憲法に規定がある。 米国大統領の資格要件 合衆国憲法では、大統領は年齢35歳以上であること、生まれながらのアメリカ国民であること、最低14年間アメリカに居住

By 宮本聖二
潜在的な国民負担率は62.9%? 過去のデータで現在は改善【ファクトチェック】

潜在的な国民負担率は62.9%? 過去のデータで現在は改善【ファクトチェック】

「財務省『潜在的国民負担率、62.9%に達しちゃった』」という言説が拡散しましたが、ミスリードで不正確です。2020年にはそのレベルに達していますが、現在は改善傾向で50%台です。 検証対象 2024年11月12日、「財務省『潜在的国民負担率、62.9%に達しちゃった』」「1日8時間働いて5時間分は国に取られる。五公五民どころじゃねーな」という言説が拡散した。投稿にはまとめサイトのリンクが添付されている。 2024年11月12日現在、この投稿は1.1万件以上リポストされ、表示回数は185万回を超える。投稿について「財務省が全国民の敵」「働くの馬鹿みたい」というコメントが付く一方で「公式の報道機関やニュースサイトではありません」というコミュニティノートも付いている。 検証過程 国民負担率と潜在的国民負担率 国民負担率とは、国民の所得に占める税金や年金、社会保険料などの負担の割合だ。租税負担率と社会保障負担率を合計したものを国民負担率、これに財政赤字を加えたものを潜在的な国民負担率という(財務省)。 2023年投稿のまとめサイト記事を引用 検証対

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)