2017年に聖書のコオロギについての記述が書き換えられた? 【ファクトチェック】

2017年に聖書のコオロギについての記述が書き換えられた? 【ファクトチェック】

「聖書には『イナゴ以外の虫は食べては駄目』と書いてあったが、2017年の聖書改訂で『イナゴとコオロギ以外は食べてはならない』に書き換えられた」という言説が拡散していますが、誤りです。2017年に改訂された聖書にこのような書き換えはありません。

検証対象

「聖書にはイナゴ以外の虫は食べては駄目だと書いてあったが、2017年から聖書の記載内容が変更されて『イナゴとコオロギ以外は食べてはならない』に書き換えられた」というツイートが拡散した。表示回数は18万回を超え、リツイート・引用リツイート数は1500件を超えている。(3月27日現在)

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リプライには、「これは笑えない話だね」「つまりはバチカンの中にもレプテリアンが巣食っているということですね。聖書を書き換えるとは重大です」というコメントが寄せられている一方、「それは新改訳2017年のことだと思いますが、新改訳はそれまでもコオロギとかいてありました」と指摘するコメントもあった。

検証過程

日本語版の聖書は複数存在する。その中の一つを出版している新日本聖書刊行会によると、「コオロギ」の記述があるのは同会による聖書のみだという。同会が2017年に改訂した「聖書 新改訳」の旧約聖書レビ記11章22節には以下の記述がある。

それらのうち、あなたがたが食べてもよいものは次のとおりである。いなごの類、毛のないいなごの類、コオロギの類、バッタの類

橋本氏が指摘しているように「イナゴ以外の虫は食べては駄目」という記載が「イナゴとコオロギ以外は食べてはならない」に変更されたようには読めない。日本ファクトチェックセンター(JFC)は同会に問い合わせた。

同会によると、2017年以前に使用されていた聖書新改訳第三版にも、同じ箇所で以下の記述があったという。

それらのうち、あなたがたが食べてもよいものは次のとおりである。いなごの類、毛のないいなごの類、こおろぎの類、ばったの類である

ひらがながカタカナに変わっただけだ。担当者は次のように説明する。

「当該箇所について、新日本聖書刊行会から刊行されている『聖書 新改訳』については、平仮名表記をカタカナ表記に改めたことと句末表現を変更した以外、改訂は行われていません」

検証対象のツイートについては、こう指摘した。

「『聖書 新改訳』以外の邦訳聖書では、2017年より前であれ後であれ、『こおろぎ/コオロギ』という言葉は使用されていません。検証対象の言説は、これらの別の翻訳聖書と『聖書 新改訳2017』を比較した結果ではないでしょうか」

新日本聖書刊行会と同様に聖書の翻訳・発行をしている日本聖書協会のホームページには、2018年に発行された「聖書 聖書協会共同訳」について、訳語が「いなご」から「ばった」になったと説明している。最新の聖書考古学、植物学、動物学の成果を反映した結果だという。

記述変更は昆虫食に関する議論に影響を受けたものか。JFCが日本聖書協会に問い合わせたところ、以下の回答があった。

「出エジプト記10章、ヨハネの黙示録9章などに出てくるヘブライ語『アルべ』、ギリシア語『アクリス』という語はアフリカや中東では『サバクトビバッタ』を指しますが、日本では蝗害の昆虫として馴染みのある『いなご』と伝統的に訳されてきました。しかし、『いなご』では正確ではないため、2018年弊教会発行の『聖書 聖書協会共同訳』では、『ばった』と訳語を変更しました」

記述内容の変更は、昆虫食の話題とは無関係だという。

出典:聖書 新改訳 ©1970,1978,2003 新日本聖書刊行会・聖書 新改訳2017 ©2017 新日本聖書刊行会

判定

2017年から聖書の記載内容が変更されて「イナゴ以外の虫は食べては駄目」が「イナゴとコオロギ以外は食べてはならない」に書き換えられたという言説は誤り。

あとがき

聖書内の記述は聖書研究の進歩にともない、より原典に忠実な訳となるように定期的な改訂がされます。また、時代の変化にともなう日本語の使い方の変化も聖書の改訂における重要な要素となっています。

検証対象の投稿は、昨今、世界で話題となっている昆虫食をめぐる議論から出てきたものです。昆虫食などの社会情勢の変化が聖書の翻訳作業に影響を及ぼした事例の有無について新日本聖書刊行会と日本聖書協会はそれぞれ以下のように回答しています。

新日本聖書刊行会
「新日本聖書刊行会で行われている聖書翻訳事業は、原典聖書を忠実に翻訳することを目的としています。日本語の変化(たとえば差別用語など)を意識しつつも、社会情勢の変化が翻訳作業に影響を及ぼすことはありません」

日本聖書協会
「今回の訳語変更は、考古学、言語学の研究成果を反映したもので、昆虫食は関係ありません。昆虫食の議論が翻訳作業に影響を与えることがあるのかはわかりません。ユダヤ教に見られるように、むしろ聖書の内容が食のタブーや食文化に影響を与えることがあるのではないでしょうか」

検証:リサーチチーム
編集:古田大輔

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