「ファウチ氏『ワクチンは、時が経つと逆効果になる』」は不正確【ファクトチェック】

「ファウチ氏『ワクチンは、時が経つと逆効果になる』」は不正確【ファクトチェック】

アメリカ政府の新型コロナ対策を指揮してきたファウチ氏が「ワクチンは時が経つと逆効果になる」と発言したとする動画付きツイートが拡散していますが、ワクチン普及前の動画の一部を切り取っており、不正確(ミスリード)です。

検証対象

「ファウチ『当初は良さそうにみえたワクチンが、時が経つと逆効果になることがある』」という動画付きのツイートが拡散している。動画では、Facebook創設者でMeta PlatformsのCEOマーク・ザッカーバーグ氏と、アメリカ国立アレルギー感染症研究所(NIAID)所長やバイデン政権の首席医療顧問を2022年12月に退任したアンソニー・ファウチ氏が対談をしている。

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リプライや引用リツイートでは、「開き直りにも程がある」「さんざん打たせておいて、こんな事言って皆さん納得するの?」など、新型コロナウイルスワクチンの信用性を疑うコメントがみられた。

検証過程

Youtubeで「Zuckerberg Fauci」と検索したところ、ザッカーバーグ氏とパートナーのプリシラ・チャン氏が立ち上げた団体「Chan Zuckerberg Initiative」のチャンネルに2020年3月27日に投稿された「Q&A マーク・ザッカーバーグとNIAID所長のアンソニー・ファウチ博士」という元動画を見つけた。動画は2020年3月19日にザッカーバーグ氏がファウチ氏にインタビューをしたFacebookLiveを録画したもの。

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検証ツイートにある動画は、元動画の25分47秒付近から始まる。切り取られているのはそこから27秒間で、その部分ではファウチ氏は次のように発言している。

初期の安全性では良さそうに見えたワクチンが、実は人々の症状を悪化させていたということは、起こったとしても初めてのことではないでしょう。Respiratoryウイルスワクチンを子どもに接種したところ、逆説的に子どもの症状が悪化したという歴史があります。数年前に私たちがテストしたHIVワクチンの1つは、実際には感染する可能性を高くしました。

しかし、元動画を見てみると、この発言の前後の文脈がある。この発言に至る前に、ザッカーバーグ氏がワクチンの安全性と有効性について試験をする意味について、「どれほど効果的か正確にはわからなくても、なぜより積極的に推し進めないのでしょうか」と質問をしている。それに対してファウチ氏は、安全性試験に時間をかける必要性を説明し、さらに上記の発言に続いてこう述べている。

ですから、現場で感染者が出たときに、ワクチンを接種することで悪化することはないと確信できない限り、ワクチンを接種するわけにはいきません。そのため、試験を行う必要があるのです。

つまり、ファウチ氏はワクチンの安全性を確認するために試験が不可欠だと説明する文脈で上記の発言をしていることがわかる。この動画が投稿されたのは2020年3月であり、アメリカでワクチン接種が始まる2020年12月の9カ月前だ。

検証対象のツイートは、ワクチンが一般に普及する前の試験段階におけるファウチ氏の発言を不正確に翻訳・引用し、ワクチン普及後の今になって安全性に問題があったと発言しているかのように誤認させる恐れがある。

判定

以上のことから、動画の一部分の切り取りに「ファウチ氏『ワクチンは、時が経つと逆効果になる』」とするツイートは、不正確(ミスリード)。

あとがき

動画の一部分を切り取り、発言の意図が歪められた投稿は多数拡散しています。元動画を辿ってみることが重要です。

日本ファクトチェックセンターでは引き続き、新型コロナウイルスに関する誤情報を積極的に検証していきます。

検証:金子祥子
編集:古田大輔


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