民主党政権時代は世界と国交断絶状態?【ファクトチェック】

民主党政権時代は世界と国交断絶状態?【ファクトチェック】

「民主党政権時代は世界と国交断絶状態」という言説が拡散しましたが、誤りです。特にASEANとの間がひどかったという指摘もありましたが、自民党政権下と比べてほぼ同等の政府要人の往来があり、「世界と国交断絶」した事実はありません。

検証対象

2023年5月2日、「閣僚のGW外遊先と期間」という表の引用と共に「外交をやめ、世界各国と「国交断絶状態」になってしまった」「特にASEANはひどく、日本が空白になった」という内容のツイートが拡散した。5月24日現在、82万件以上の表示回数と3000件以上のリツイートを獲得している。

検証過程

ツイートは、民主党政権下の「日本が世界と国交断絶状態」だったと指摘する。

デジタル大辞泉』によると、国交断絶とは「国家間の平和的関係を、外交・通商・交通などあらゆる面で断絶すること」。ツイートは「国交断絶状態」であるとしている。日本ファクトチェックセンター(JFC)はツイートが「特にひどい」と強調する東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国と日本の当時の外交関係を調べた。

ASEANは「地域の平和と安定や経済成長の促進」を目的として設立された東南アジアの地域共同体だ。現在の加盟国は、インドネシア、カンボジア、シンガポール、タイ、フィリピン、ブルネイ、ベトナム、マレーシア、ミャンマー、ラオスの10か国。

外務省は各国基礎データのウェブページで、日本とその国との間の政府要人の往来記録を公開している。外務省によると政府要人には、各国首脳や元首や国務大臣などが含まれる。民主党政権は、2009年9月16日の鳩山由紀夫内閣の成立から、野田佳彦内閣が衆議院を解散した2012年11月16日までの3年余り続いた。この間の往来件数を見てみる。

民主党政権下の対ASEAN関係

インドネシアのページを見ると、民主党政権下の2009年10月に岡田外務大臣が訪問して以降、2012年11月までに計14回、日本の政府要人がインドネシアを訪問している。インドネシアからは2010年2月以降、同国の政府要人が計15回訪日している。

マレーシアには、日本からの政府要人訪問が4回、マレーシアからは11回。カンボジアとは日本から4回、カンボジアから4回。同様に、その他ASEAN加盟国との間にも、民主党政権下に政府要人の往来があった。

外務省発行のパンフレット「日本とASEAN」によると、日本は1973年からASEANとの協力関係を築き、1997年から日ASEAN首脳会議が毎年開催されてきた。民主党政権下の日本は、2009年から2012年までに計4回ずつ日ASEAN首脳会議日ASEAN外相会議に参加している。

自民党政権下の対ASEAN関係

では、政権交代後の自民党政権下の対ASEAN関係はどうだったか。

政権交代後の期間を2013年から2015年(期間①)、2016年から2018年(期間②)までの3年ごとに分け、先に確認した3か国との要人往来の回数を民主党政権下の3年余りと比較する。コロナ禍を含む2019年から2021年の3年間は検討しない。

インドネシアについては、日本からの訪問が期間①に17回、期間②に9回だった。インドネシアからの訪日回数は、期間①に18回、期間②に31回。

同様にマレーシアには日本から、期間①に6回、期間②に2回。マレーシアからは期間①に10回、期間②に8回だった。カンボジアには、日本からの訪問が期間①に4回、期間②に1回あった。カンボジアからは期間①に8回、期間②に3回の訪日が確認できた。

日本-ASEAN加盟3カ国の要人訪問数
日本とASEAN加盟3か国(インドネシア、マレーシアとカンボジア)の要人訪問数をグラフにまとめると次のようになる。横軸の表記は、たとえば日本からインドネシアに訪問した場合は、「日-インドネシア」とした。

グラフを確認すると、期間②のインドネシアからの訪日回数を除いて、民主党政権下と自民党政権下における政府要人の往来回数に大きな差がないことがわかる。

判定

以上より、「民主党政権時代は世界と国交断絶状態」は誤り。2009年から2012年までの民主党政権下において「世界と国交断絶状態」だった事実はない。ASEAN加盟国との外交関係に限っても、政府要人の往来が確認され、日本とASEANの首脳が集まる国際会議も民主党政権下で4回開催された。

あとがき

国交断絶状態は比喩的な表現で、民主党政権時代には外交関係が自民党政権下よりも不安定だったという指摘だということであれば、それは事実の提示というより、評価や意見を含む言説になるので、より慎重で多角的なファクトチェックが必要となります。今回のファクトチェックは「国交断絶」という言葉をより厳密に捉えて検証しました。

検証:高橋篤史
編集:古田大輔


判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。

毎週、ファクトチェック情報をまとめて届けるニュースレター登録(無料)は、上のボタンから。また、QRコード(またはこのリンク)からLINEでJFCをフォローし、気になる情報を質問すると、AIが関連性の高いJFC記事をお届けします。詳しくはこちら

もっと見る

中国人留学生は学費がほぼ無料?  政府奨学金は各国からの留学生の2.8%【ファクトチェック】(修正あり)

中国人留学生は学費がほぼ無料? 政府奨学金は各国からの留学生の2.8%【ファクトチェック】(修正あり)

「日本人が奨学金を借りると、就職後に借金を返さなければならないが、中国人留学生は学費がほぼ無料」という趣旨の投稿が多数拡散していますが、ミスリードで不正確です。日本政府の奨学金をもらって入学金や授業料が免除される国費留学生は留学生全体の2.8%、中国人はそのうち1割弱です。ほとんどの留学生は学費を負担しています。 検証対象 拡散した言説 日本へ来た中国人留学生は学費が免除されて不公平だという趣旨の投稿が多数拡散している(例1,2,3,4)。 例1は2025年9月25日にTikTokへ投稿され、閲覧回数は3.5万回を超えている。42秒間の動画では、若い男女が登場し、「中国人留学生爆増!」「日本に移住すれば大学までほぼ学費が無料」「教育無償化の政策と移民受け入れとの政策とのコンボで合法的に無料にできる」「在留外国人の人数が 400 万人を超えています」などと訴えている。 例2,3,4は「中国人留学生は、生活困窮をでっち上げるだけで学費免除」「中国人留学生に毎月17万円の現金を渡し 学費は免除」「自民党による中国人留学生への援助 凄いことになってる」などと主

By 根津 綾子(Ayako Nezu)
これまでの方法論が通用しない動画の偽・誤情報の急増にどう対応するか/JFC検証など6本【今週のファクトチェック】

これまでの方法論が通用しない動画の偽・誤情報の急増にどう対応するか/JFC検証など6本【今週のファクトチェック】

数年前までは偽・誤情報が拡散するソーシャルメディアと言えば、日本ではTwitter(現在のX)が中心でした。しかし、現在はそうではありません。YouTube、TikTokで大量の真偽不明情報が拡散するようになっています。 動画の検証は厄介です。100字程度の文字情報と違い、ショート動画でも1分程度、長いものなら1時間を超える動画は、全体を見るだけでも苦労します。その中でどこが間違っているかを特定し、検証しないといけない。 もう一つ、難点があります。文字情報であれば、そこには間違っているとしても論拠や論理がある程度は存在します。そうしないと文章として読みにくいものになるからです。 一方で動画は、抽象的な話が続いて、論拠をはっきり示さず、論理もあやふやという事例が数多くあります。「意見」なのか「事実の提示」かもはっきりしない。同じような分析は海外のファクトチェッカーからも聞かれます。 これまでのファクトチェックの方法論が通用しない動画の急増にどう対応するか。喫緊の課題です(古田大輔)。 ✉️日本ファクトチェックセンター(JFC)がこの1週間に出した記事を中心に、その他

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
在留外国人の検挙割合は日本人の約2倍? 元資料の注釈を省略【ファクトチェック】

在留外国人の検挙割合は日本人の約2倍? 元資料の注釈を省略【ファクトチェック】

参政党の神谷宗幣代表が「在留外国人の検挙割合は日本人の約2倍だ」とする画像をXに投稿して拡散しましたが、ミスリードで不正確です。画像は警察庁の資料をもとにしていますが、警察庁は日本ファクトチェックセンター(JFC)の取材に「外国人と日本人を正確に比較できる統計の特定は困難」と説明しています。警察庁は神谷氏から求めがあったため、注釈付きで「統計を便宜的に分母・分子に当てはめて算出した数値を提供した」と話しています。拡散した画像は、そういった注釈を省き、単純に比較できないデータを並べています。 検証対象 拡散した言説 2025年9月20日、神谷氏が「大量の移民の受け入れは治安の維持にも影響します。警察や入管の体制ももっと強化せねば、今のやり方は必ず問題を大きくします」という文言とともに、「外国人の検挙割合は、日本人の約2倍」と書かれた画像を投稿した。 検証する理由 政党代表の投稿であり、2025年10月16日現在、この投稿は1.2万回以上リポストされ、表示回数は238万回を超える。投稿について「ほんとこれ」「移民はいったんストップして欲しい」というコメン

By 木山竣策
自民・高市早苗総裁の支持率が80%? 「女性首相誕生」に関する設問【ファクトチェック】

自民・高市早苗総裁の支持率が80%? 「女性首相誕生」に関する設問【ファクトチェック】

自民・高市早苗総裁の支持率が80%であるかのような投稿が拡散しましたが、ミスリードで不正確です。10月4-6日の共同通信による世論調査で、高市氏が首相に就けば史上初となる女性首相の誕生は「望ましい」が「どちらかといえば」を合わせて86.5%でしたが、これは「女性首相の誕生」に関する設問です。公明党連立離脱後の10日に実施された各社の世論調査は、高市氏が首相になった場合の支持率が40-50%ほどでした。 検証対象 拡散した言説 2025年10月14日、「【報道しない自由】高市さん支持率、脅威の80%」という投稿がXで拡散した。 検証する理由 10月16日現在、投稿は1.5万回以上リポストされ、表示は379.6万件を超える。 投稿には「ないない・80もあったら議員会館に引きこもりはしません」「私も高市さん支持してるけど、この数字の妥当性は低そう」などの指摘の一方で、「メディアが叩けば叩くほど、国民は高市さんが国民側の人間だという事の証明となる」「民意が反映されない おかしい日本」など同調するコメントが多数ある。 検証過程 投稿はまとめサイトによ

By 根津 綾子(Ayako Nezu)

ファクトチェック講座

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、ファクトチェックやメディア情報リテラシーに関する講師養成講座を月に1度開催しています。講座はオンラインで90分間。修了者には認定バッジと教室や職場などで利用可能な教材を提供します。 次回の開講は11月28日(土)午後5時~6時30分で、お申し込みはこちら。 https://jfcyousei1128.peatix.com/view 受講条件はファクトチェッカー認定試験に合格していること。講師養成講座は1回の受講で修了となります。 受講生には教材を提供 デマや不確かな情報が蔓延する中で、自衛策が求められています。「気をつけて」というだけでは、対策になりません。最初から騙されたい人はいません。誰だって気をつけているのに、誤った情報を信じてしまうところに問題があります。 JFCが国際大学グロコムと協力して実施した「2万人調査」では実に51.5%の人が誤った情報を「正しい」と答えました。一般に思われているよりも、人は騙されやすいという事実は、様々な調査で裏打ちされています。 JFCではこれらの調査をもとに、具体的にど

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、YouTubeで学ぶ「JFCファクトチェック講座」を公開しました。誰でも無料で視聴可能で、広がる偽・誤情報に対して自分で実践できるファクトチェックやメディアリテラシーの知識を学ぶことができます。 理論編と実践編の中身 理論編では、偽・誤情報の日本での影響を調べた2万人調査の紹介や、間違った情報を信じてしまう背景にある人間のバイアス、大規模に拡散するSNSアルゴリズムなどを解説しています。 実践編では、画像や動画や生成AIなど、偽・誤情報をどのように検証したら良いかをJFCが検証してきた事例から具体的に学びます。 JFCファクトチェッカー認定試験を開始 2024年7月29日から、これらの内容について習熟度を確認するJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。誰でもいつでも受験可能です(2024年度中は受験料1000円、2025年度から2000円)。 合格者には様々な技能をデジタル証明するオープンバッジ・ネットワークを活用して、JFCファクトチェッカーの認定証を発行します。 JFCファクトチェッカー認定試験

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
JFCファクトチェッカー認定試験

JFCファクトチェッカー認定試験

日本ファクトチェックセンター(JFC)はJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。YouTubeで公開しているファクトチェック講座から出題し、合格者に認定証を授与します。 拡散する偽・誤情報から身を守るために 偽・誤情報の拡散は増える一方で、皆さんが日常的に使用しているSNSや動画プラットフォームに蔓延しています。偽広告や偽サイトへのリンクなどによる詐欺被害も広がっています。 JFCが国際大学グロコムと実施した2万人を対象とする調査では、実際に拡散した偽・誤情報を51.5%の割合で「正しいと思う」と答え、「誤っている」と気づけたのは14.5%でした。 自分が目にする情報に大量に間違っているものがある。そして、誰もが持つバイアスによって、それが自分の感覚に近ければ「正しい」と受け取る傾向がある。インターネットはその傾向を増幅する。 だからこそ、ファクトチェックやメディアリテラシーに関する知識が誰にとっても必須です。 JFCファクトチェック講座と認定試験 JFCファクトチェック講座(YouTube, 記事)は、2万人調査を元に偽・誤情報の拡散経路や

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)