経産省、トリチウム以外の9核種は測定していないと答弁?【ファクトチェック】(修正あり)

経産省、トリチウム以外の9核種は測定していないと答弁?【ファクトチェック】(修正あり)
「経産省、トリチウム以外の9核種は測定していないと答弁」は不正確【ファクトチェック】

経済産業省の担当者が「トリチウム以外の9つの核種は測定していない」と答弁したとの言説が衆議院環境委員会の動画とともに拡散しましたが、不正確です。担当者はトリチウム以外について総量の「推定は実施していない」と答えていますが、海洋放出前に処理水の放射性物質が基準値を下回っているかの測定はしています。

検証対象

2023年8月22日、2021年4月20日の衆議院環境委員会の動画とともに「トリチウム以外は測ってもいません!という驚愕の答弁!」という投稿がX(旧Twitter)で拡散した。拡散した投稿は2023年11月7日現在、180万回の表示回数と1万回を超えるリポストを獲得している。

画像

検証過程

拡散した動画には「2021年4月20日衆議院環境委員会」とのキャプションがついている。国会会議議事録システムを利用して「2021年4月20日衆議院環境委員会」の会議録を検索したところ、「第204回国会 衆議院 環境委員会会議録 第6号(令和3年4月20日)」が見つかった。

「トリチウム以外の9核種は測定していない」という答弁はあったのか

会議録の発言番号90番から92番の前半までのやり取りが、動画内容と一致した。このうち、90番92番は、川内博史議員(立憲民主党、当時)の発言で、91番は政府参考人として委員会に出席した新川達也・経済産業省大臣官房原子力事故災害対処審議官(当時)の発言だ。

90番川内議員
「タンクにためられているトリチウムの総量というのは今、八百三十とか八百四十兆ベクレルというふうに教えていただいているわけですが、タンクにためられているトリチウム以外の放射能の総量、そしてまた核種の数というものを教えていただけますか」
91番新川審議官
「お尋ねの総量でございますけれども、御指摘のトリチウム以外の放射性核種の一つ一つについては、トリチウムのような推定は実施をしておりません。基本方針では、海洋放出をする際には、放出に先立ちまして、規制基準を確実に下回るまで浄化処理をすることというふうにしております」

つまり、トリチウム以外の放射性核種の総量については、トリチウムのような推定はしていない、という答弁だ。

「総量の推定はしていない」と「測定はしていない」の違い

日本ファクトチェックセンター(JFC)は経産省資源エネルギー庁原子力発電所事故収束対応室に答弁の内容について問い合わせた。

資源エネルギー庁は、議員から質問された「タンクに貯められている水に含まれる放射線の総量」は測っていないことを認めた。一方で、「トリチウム以外の29核種は、ALPS処理水放出前に基準値を下回っているかについての測定は行っている」と答えた。

ALPS処理水タンクにおける放射性物質濃度について、測定している東京電力にも取材した。

東京電力によると、現在タンクに貯留されている水は、①ALPSの出口、②ALPS処理水等が貯蔵されているタンクの2箇所においてサンプリングおよび分析をして、基準値を下回っているかを確認しているという。

①のサンプリング・分析は、ALPSの処理能力の評価などを目的としている。基本的に運転中のALPSで週1回実施し、結果をウェブサイトで公開している。その他のALPS除去対象の核種については年1回を目途にサンプリングと分析をし、結果を公開している。

②では、まずタンク群のうち2基を対象にした測定する。その結果、トリチウム以外の告示濃度比の総和の評価結果が「1」を下回っていれば、タンク群全体で測定(全α測定および全β測定)を実施するという。東京電力はこの結果をウェブサイトで公開している。

環境中に放出できる放射性物質の濃度限度は関係法令(告示)で核種ごとに定められており、「告示濃度」と呼ばれる。複数の放射性物質の影響で規制基準を満たすには、核種ごとの告示濃度比の総和が1を下回っているかをみる。

画像
環境省「放射性物質を環境へ放出する場合の規制基準」

海洋放出前に処理水を測定・分析

東京電力は海洋放出前のALPS処理水の放射性物質(核種)について、測定・評価対象の29核種、測定・評価対象外の39核種とトリチウムを調査している。測定・評価対象の29核種については、告示濃度比の総和が「1」未満となっていることを確認している。また測定・評価対象外の39核種は、東京電力が自主的に測定をし、検出限界未満であることを確認しているという。

なお、放射性物質濃度は、日常的に測定しており、分析結果をウェブサイトで公開している。

放出前に毎回測定する69核種(29+39+1)(東京電力提供)

判定

衆院環境委員会で答えた経済産業省の担当者は、トリチウム以外の放射性物質について「トリチウムのような総量の推定はしていない」と答え、実際に総量は測定していない。しかし、ALPS処理水の放出前に、放射性物質を測定し、基準値を下回っていることを確認している。そのため「経産省、トリチウム以外の9核種は測定していないと答弁」は不正確と判定した。

検証:高橋篤史、住友千花
編集:古田大輔、野上英文


修正

当初の記事では「環境省資源エネルギー庁原子力発電所事故収束対応室」と書いていましたが、「経産省資源エネルギー庁原子力発電所事故収束対応室」に修正しました。(2025年6月26日)

処理水に関するその他のファクトチェック

福島第一原発の処理水と汚染水の違いは何?海洋放出は危険?【ファクトチェックまとめ】
日本政府が夏ごろに始める方針を示している福島第一原発の処理水の海洋放出に関して、国内外で不確かな情報が拡散しています。処理水とは何か。環境への影響は。ファクトチェックのポイントをまとめました。 ※新たな誤情報の検証を更新していきます(最終更新2023年12月13日)。 参照資料は、各省庁や東京電力から、また、2023年7月4日に公開された国際原子力機関(IAEA)の「福島第一原子力発電所ALPS処理水の安全審査に関する包括的報告書(以下、IAEA報告書)」などです。 処理水か汚染水か 2011年3月11日の東日本大震災による津波で、福島第一原発ではウラン燃料を冷やすことができなくなる事故が起きました。燃料は格納容器内で溶け、今も温度を下げるための冷却水をかけ続けています。使用された水は放射性物質で汚染され、雨水などと混ざって毎日約90トンずつ増えています。これを「汚染水」と呼びます。 汚染水は原発の施設内に並ぶ1000基を超える巨大タンクに貯められますが、2024年の前半にはタンク容量に限界が来る見込みです。日本政府は、トリチウムを除く62種類の放射性物

判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。

毎週、ファクトチェック情報をまとめて届けるニュースレター登録(無料)は、上のボタンから。また、QRコード(またはこのリンク)からLINEでJFCをフォローし、気になる情報を質問すると、AIが関連性の高いJFC記事をお届けします。詳しくはこちら

もっと見る

「陰謀論」と「批判的思考」は紙一重――Z世代が考える楽しくて伝わるリテラシー教育とは【情報インテグリティ】

「陰謀論」と「批判的思考」は紙一重――Z世代が考える楽しくて伝わるリテラシー教育とは【情報インテグリティ】

大量拡散する偽・誤情報にどう対応するか。一人ひとりが抵抗力を身につけるメディア情報リテラシーの普及は遅れています。どこに課題があるのか。Z世代が考えた革新的な手法は。日本ファクトチェックセンター(JFC)と電通総研が4月2日に共催した情報インテグリティシンポジウムで議論しました。 パネル討論「メディアリテラシーを広げるには:革新的な取り組みの現在地」に登壇したのは、ファクトチェック団体、メディア情報リテラシー教育に取り組む学生スタートアップ、新聞社、研究者。話題は教育にとどまらず、メディアの役割や情報の信頼性、必要とされる「批判的思考」が実は「陰謀論」と紙一重という話題にも広がりました。 ※シンポの議論を文字起こししたものですが、読みやすさを考慮して一部修正を加えています。 登壇者 モデレーター:古田 大輔 今井 善太郎氏(株式会社Classroom Adventure 代表取締役) 坂本 旬氏(法政大学総合情報センター 所長) 仲村 和代氏(朝日新聞東京本社 ゼネラルエディター補佐) Z世代が考えるゲーム形式のリテラシー教育 今井:株式会社Clas

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
AIディープフェイク氾濫の年、真実を守るテクノロジーとコラボの現状【情報インテグリティ】

AIディープフェイク氾濫の年、真実を守るテクノロジーとコラボの現状【情報インテグリティ】

偽・誤情報の拡散は選挙にも影響を与えています。対策としてのファクトチェックやテクノロジー活用はどこまで広がっているのか。日本ファクトチェックセンター(JFC)と電通総研が4月2日に共催した情報インテグリティシンポジウムで議論しました。 パネル討論「選挙とAIとファクトチェック:ディープフェイクへの対抗策」に登壇したのは、ファクトチェック団体、新聞社、研究者、シビックテックという異なる業界で偽情報対策に取り組む担当者。情報環境の現状から今後まで、それぞれの立場で語っています。 ※シンポの議論を文字起こししたものですが、読みやすさを考慮して一部修正を加えています。 登壇者 モデレーター:古田 大輔(日本ファクトチェックセンター編集長) 工藤 淳氏(読売新聞 政治部デスク) 陣内 一樹氏(一般社団法人コード・フォー・ジャパン 副代表理事) 越前 功氏(国立情報学研究所 情報社会相関研究系 研究主幹・教授) 読売新聞が始めたファクトチェックのコラボ 工藤:昨年8月からファクトチェックの担当をしています。 新聞社やテレビ局としてもSNSの大きな影響を無視でき

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
京都・男児不明事件で「犯人逮捕」とYahoo!ニュースを装った詐欺投稿 別リンクへの誘導に注意を

京都・男児不明事件で「犯人逮捕」とYahoo!ニュースを装った詐欺投稿 別リンクへの誘導に注意を

2026年3月に京都府南丹市で男児が行方不明になった事件に関連して、Xで「犯人が逮捕された」などと、Yahoo!ニュースの記事を装ったリンクを埋め込み、全く別のウェブサイトへ誘導する投稿が確認されています。クリックすると全く関係ないサイトに誘導されるため、注意が必要です。 Yahoo!ニュースを装った投稿 4月14日、「京都男児行方不明事件の犯人逮捕される!!陳 宇軒 (チェン・ユーシュエン )容疑者を死体遺棄容疑で逮捕」という投稿がXに投稿された。 投稿には、Yahoo!ニュースのリンクを投稿に添付した場合に表示される「Yahoo!ニュース」と書かれたプレビュー画像と共に「momentary.link」と書かれたリンクが添付されている。 容疑者逮捕の情報は4月14日時点でなし 3月下旬、京都府南丹市の市立園部小学校に通う安達結希さん(11)が行方不明になった。4月13日、園部小から約2キロ離れた山中で子どもとみられる遺体があおむけに倒れている状態で見つかった(時事通信.”司法解剖し、身元特定へ 発見の遺体、京都男児不明―府警”)。 拡散している

By 木山竣策(Shunsaku Kiyama)
イラン戦争の偽・誤情報まとめ:知っておけば対策できる典型的な6つの手口と確認のポイント

イラン戦争の偽・誤情報まとめ:知っておけば対策できる典型的な6つの手口と確認のポイント

アメリカ・イスラエルによる攻撃で始まったイラン戦争では、これまで以上に大量の偽・誤情報が氾濫しています。中でもショート動画は生成AIの発達と普及で現実と見分けがつかない「ディープフェイク(AI製の偽画像・動画)」が無数に拡散し、検証が追いつかない状況です。 日本ファクトチェックセンター(JFC)は個別の検証をしていますが、それだけでは偽・誤情報の拡散を止められません。一人ひとりが、予備知識を持ち、耐性をつけることが大切です。偽・誤情報の典型的な手口と、簡単に実践できる確認のポイントについて解説します。 情報開示:世界中で拡散する膨大な偽・誤情報の分類と分析には、AI「Claude」を活用しました。記事にする際には、実際の検証事例を集め、その内容は全て人間のファクトチェッカーが確認しています。 手口① 生成AIによるディープフェイク画像・動画 生成AIツールを使い、現実ではない画像や動画=ディープフェイクを作る手口です。かつては「指が6本ある」「背景が歪んでいる」といった画像の不自然さで見分けがつきましたが、今や専門家でも、目視での判別が難しいレベルに達して

By 根津 綾子(Ayako Nezu)

ファクトチェック講座

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、ファクトチェックやメディア情報リテラシーに関する講師養成講座を月に1度開催しています。講座はオンラインで90分間。修了者には認定バッジと教室や職場などで利用可能な教材を提供します。 次回の開講は4月25日(土)午前10時~11時30分で、お申し込みはこちら。 https://jfcyousei0425.peatix.com 受講条件はファクトチェッカー認定試験に合格していること。講師養成講座は1回の受講で修了となります。 受講生には教材を提供 デマや不確かな情報が蔓延する中で、自衛策が求められています。「気をつけて」というだけでは、対策になりません。最初から騙されたい人はいません。誰だって気をつけているのに、誤った情報を信じてしまうところに問題があります。 JFCが国際大学グロコムと協力して実施した「2万人調査」では実に51.5%の人が誤った情報を「正しい」と答えました。一般に思われているよりも、人は騙されやすいという事実は、様々な調査で裏打ちされています。 JFCではこれらの調査をもとに、具体的にどのような

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、YouTubeで学ぶ「JFCファクトチェック講座」を公開しました。誰でも無料で視聴可能で、広がる偽・誤情報に対して自分で実践できるファクトチェックやメディアリテラシーの知識を学ぶことができます。 理論編と実践編の中身 理論編では、偽・誤情報の日本での影響を調べた2万人調査の紹介や、間違った情報を信じてしまう背景にある人間のバイアス、大規模に拡散するSNSアルゴリズムなどを解説しています。 実践編では、画像や動画や生成AIなど、偽・誤情報をどのように検証したら良いかをJFCが検証してきた事例から具体的に学びます。 JFCファクトチェッカー認定試験を開始 2024年7月29日から、これらの内容について習熟度を確認するJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。誰でもいつでも受験可能です(2024年度中は受験料1000円、2025年度から2000円)。 合格者には様々な技能をデジタル証明するオープンバッジ・ネットワークを活用して、JFCファクトチェッカーの認定証を発行します。 JFCファクトチェッカー認定試験

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
JFCファクトチェッカー認定試験

JFCファクトチェッカー認定試験

日本ファクトチェックセンター(JFC)はJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。YouTubeで公開しているファクトチェック講座から出題し、合格者に認定証を授与します。 拡散する偽・誤情報から身を守るために 偽・誤情報の拡散は増える一方で、皆さんが日常的に使用しているSNSや動画プラットフォームに蔓延しています。偽広告や偽サイトへのリンクなどによる詐欺被害も広がっています。 JFCが国際大学グロコムと実施した2万人を対象とする調査では、実際に拡散した偽・誤情報を51.5%の割合で「正しいと思う」と答え、「誤っている」と気づけたのは14.5%でした。 自分が目にする情報に大量に間違っているものがある。そして、誰もが持つバイアスによって、それが自分の感覚に近ければ「正しい」と受け取る傾向がある。インターネットはその傾向を増幅する。 だからこそ、ファクトチェックやメディアリテラシーに関する知識が誰にとっても必須です。 JFCファクトチェック講座と認定試験 JFCファクトチェック講座(YouTube, 記事)は、2万人調査を元に偽・誤情報の拡散経路や

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)