厚生労働省の職員のワクチン接種率が10%?【ファクトチェック】

厚生労働省の職員のワクチン接種率が10%?【ファクトチェック】

「厚労省職員のワクチン接種率が10%」という情報が再拡散していますが、根拠不明です。厚労省は職員のワクチン接種率をそもそも確認しておらず、取材に「事実ではない」と回答しています。

検証対象

「厚労省の職員のワクチン接種率が10%」という情報が再拡散している。同様の言説は2021年からネット上にあったが、「Yahoo!のリアルタイム検索」機能を用いると、2022年11月26日に急増していることが分かる。

11月25日に「子どもへのワクチン接種とワクチン後遺症を考える超党派議員連盟」(会長・川田龍平参院議員=立憲民主党)が開いた勉強会がきっかけとなり、その内容を引用したツイートなどが再拡散している。

画像

検証過程

日本ファクトチェックセンター(JFC)は厚労省人事課に職員のワクチン接種率10%という指摘について問い合わせた。回答は「事実ではないです。どこにも公表していないですし、人事課でも承知していません」。

厚労省職員のワクチン接種方法に関しては「一般の方と同じように接種券を受け取って接種しに行く。職域接種する者もいるが、一人一人が接種したかどうかは人事課としても確認していない」という。

今回、「厚労省の職員のワクチン接種率が10%」という情報の引用元になった「『子どもへのワクチン接種とワクチン後遺症を考える超党派議員連盟』の勉強会」ではどのような発言がされていたのか。

この勉強会にはワクチン被害者遺族会と厚労省、大学教授らが参加した。動画内で「厚労省のスタッフが10%しか打っていないというのは事実なんですか?」(24:40~)、また「厚生労働省の方の接種率は分かっているのでしょうか?」という質問に対して、厚労省側は「本日そういったデータは持ち合わせていない」(30:00〜)と回答する場面がある。

つまり、「『新型コロナワクチン接種と死亡事例の因果関係を考える会』で厚労省職員のワクチン接種率が10%と判明」という投稿が拡散されていたが、そもそもこの勉強会でワクチン接種率が10%と判明した事実はない。

「厚労省職員のワクチン接種率が10%」という情報は2021年から拡散されているもので、毎日新聞が2021年12月27日に「『厚労省の9割がワクチン未接種』は根拠不明 投稿医師の驚きの弁明」というファクトチェック記事を出している。

毎日新聞の記事では、厚労省への取材のほか、この言説の発信源となった医師への取材を通して、「根拠不明」という判定をしている。

判定

厚労省職員のワクチン接種率はそもそも調べられておらず、拡散した言説の中にも接種率を示す根拠は述べられていないため根拠不明と判定した。

あとがき

厚労省人事課は10%の言説に「事実ではない」と明言しています。厚労省の外部の人間が、職員の接種率を包括的に調べることは現実的に極めて難しく、国内全体のワクチン接種率が80%を超える中で厚労省の職員が10%ということは、常識的に考えづらいと思われます。

JFC編集部では「誤り」と判定するべきではないかという意見もありましたが、10%が誤りであるという証拠も見つけられない(記事で書いたように厚労省は調査をしていない)ため「根拠不明」という判定にしました。

「地球は闇の政府に支配されている」というような典型的な陰謀論を検証するには「闇の政府に支配されていない証拠を示す」という難易度の高い作業が必要です。こういったものを一般に「悪魔の証明」と言います。

「根拠不明」という判定は「誤り」「不正確」よりはマシであるという意味ではありません。根拠を示さず拡散しているものであり、気をつけなければ個人や社会に悪影響を及ぼしかねないという点では、「誤り」の情報となんら変わらないことに注意する必要があります。

検証:落合俊
編集:古田大輔

修正

動画リンクを変更し、また、動画内の発言について「厚労省のスタッフが10%しか打っていないというのは事実なんですか?」(24:40~)という部分を追加しました(2022年12月21日)。


判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。

毎週、ファクトチェック情報をまとめて届けるニュースレター登録(無料)は、上のボタンから。また、QRコード(またはこのリンク)からLINEでJFCをフォローし、気になる情報を質問すると、AIが関連性の高いJFC記事をお届けします。詳しくはこちら

もっと見る

高市首相が外国人を大量に国外退去させる省庁を設立? 新省庁も大量退去の情報もない【ファクトチェック】

高市首相が外国人を大量に国外退去させる省庁を設立? 新省庁も大量退去の情報もない【ファクトチェック】

高市早苗新首相が、外国人を大量に国外退去させるための省庁を設立すると表明したかのような投稿が、英語で拡散しましたが、誤りです。高市氏は、一部の外国人による違法行為やルールからの逸脱に毅然と対応すると述べ、外国人政策を担当する大臣を置きましたが、10月27日現在、省庁を新設したり、外国人を大量に国外退去させたりという情報はありません。 検証対象 拡散した言説 2025年10月22日、「日本の新首相が最初の政策として大量国外退去を決定 高市早苗が就任し、即座に大量国外退去のための省庁を設立」という英語の文言付きの動画がXで拡散した。 検証する理由 拡散した投稿は、10月27日現在3.9万回以上リポストされ、表示は945万件を超える。 投稿には「首相の高市氏が『大量国外追放省』を創設したという、信頼できる報道や公式発表は確認できない」という指摘の一方、「反大量移民の動きが高まっている!」や「日本にできるなら、我々もやらねば」など同調する英語のコメントが多数ある。 検証過程 動画は高市首相ではなく小野田経済安保担当相 拡散した動画は18秒。「高市

By 根津 綾子(Ayako Nezu)
ユースファクトチェック選手権2025開催へ 申し込みはこちら

ユースファクトチェック選手権2025開催へ 申し込みはこちら

日本ファクトチェックセンター(JFC)は11~12月、中学生〜大学生を対象に情報を検証するスキルを競うイベント「ユースファクトチェック選手権2025」をオンライン開催します。2〜3人でチームを組み、国内大会を勝ち抜くと世界大会でアジア各国のチームと決勝を争います。 ユースファクトチェック選手権の開催は2024年に続き、2回目。国内では慶應大生らで作るEdtech企業「株式会社Classroom Adventure」、国際大会は台湾、タイ、モンゴル、インドのファクトチェック団体との共催です。 情報の検証力競う「ユースファクトチェック選手権」、日本で初開催 大学生ら5チームが世界大会へ中高生から大学生を対象に、情報検証スキルを競うオンラインイベント「ユースファクトチェック選手権(英語名:Youth Verification Challenge)」が、日本で初開催されました。日本ファクトチェックセンター(JFC)と学生スタートアップClassroom Adventureが共催し、全国から60チーム約150人が参加しました。 ファクトチェックとリテラシーを実践的に学ぶ

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
高市政権でこども家庭庁の肩書きが消滅? 歴代政権から変更なし【ファクトチェック】

高市政権でこども家庭庁の肩書きが消滅? 歴代政権から変更なし【ファクトチェック】

高市新内閣の閣僚名簿、補佐官名簿の画像と共に「子ども家庭庁肩書消滅」という投稿が拡散しましたが誤りです。こども家庭庁の大臣の肩書きは、前政権も内閣府特命担当大臣に含まれていました。 検証対象 拡散した投稿 2025年10月23日、高市新内閣の閣僚名簿、補佐官名簿の画像とともに「キターーー🙌子ども家庭庁肩書消滅 黄川田仁志氏がこども政策兼務」という投稿が拡散した。 投稿は、「高市内閣 閣僚名簿」というタイトルの画像のスクリーンショットを添付している。 名簿には「内閣府特命担当大臣(沖縄及び北方対策 消費者及び食品安全 こども政策 少子化対策 若者活躍 男女共同参画 地方創生 アイヌ施策 共生・共助)女性活躍担当 共生社会担当 地域未来戦略担当 黄川田 仁志(きかわだ ひとし)」と書かれている。 拡散した投稿は、高市内閣の名簿で「こども政策担当相」となる黄川田氏が沖縄・北方担当相などと兼務することについて、こども家庭庁の肩書きが消滅したと主張している。 検証する理由 10月27日現在、この投稿は3800件以上リポストされ、表示回数は111万回を超

By 木山竣策

ファクトチェック講座

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、ファクトチェックやメディア情報リテラシーに関する講師養成講座を月に1度開催しています。講座はオンラインで90分間。修了者には認定バッジと教室や職場などで利用可能な教材を提供します。 次回の開講は11月28日(土)午後5時~6時30分で、お申し込みはこちら。 https://jfcyousei1128.peatix.com/view 受講条件はファクトチェッカー認定試験に合格していること。講師養成講座は1回の受講で修了となります。 受講生には教材を提供 デマや不確かな情報が蔓延する中で、自衛策が求められています。「気をつけて」というだけでは、対策になりません。最初から騙されたい人はいません。誰だって気をつけているのに、誤った情報を信じてしまうところに問題があります。 JFCが国際大学グロコムと協力して実施した「2万人調査」では実に51.5%の人が誤った情報を「正しい」と答えました。一般に思われているよりも、人は騙されやすいという事実は、様々な調査で裏打ちされています。 JFCではこれらの調査をもとに、具体的にど

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、YouTubeで学ぶ「JFCファクトチェック講座」を公開しました。誰でも無料で視聴可能で、広がる偽・誤情報に対して自分で実践できるファクトチェックやメディアリテラシーの知識を学ぶことができます。 理論編と実践編の中身 理論編では、偽・誤情報の日本での影響を調べた2万人調査の紹介や、間違った情報を信じてしまう背景にある人間のバイアス、大規模に拡散するSNSアルゴリズムなどを解説しています。 実践編では、画像や動画や生成AIなど、偽・誤情報をどのように検証したら良いかをJFCが検証してきた事例から具体的に学びます。 JFCファクトチェッカー認定試験を開始 2024年7月29日から、これらの内容について習熟度を確認するJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。誰でもいつでも受験可能です(2024年度中は受験料1000円、2025年度から2000円)。 合格者には様々な技能をデジタル証明するオープンバッジ・ネットワークを活用して、JFCファクトチェッカーの認定証を発行します。 JFCファクトチェッカー認定試験

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
JFCファクトチェッカー認定試験

JFCファクトチェッカー認定試験

日本ファクトチェックセンター(JFC)はJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。YouTubeで公開しているファクトチェック講座から出題し、合格者に認定証を授与します。 拡散する偽・誤情報から身を守るために 偽・誤情報の拡散は増える一方で、皆さんが日常的に使用しているSNSや動画プラットフォームに蔓延しています。偽広告や偽サイトへのリンクなどによる詐欺被害も広がっています。 JFCが国際大学グロコムと実施した2万人を対象とする調査では、実際に拡散した偽・誤情報を51.5%の割合で「正しいと思う」と答え、「誤っている」と気づけたのは14.5%でした。 自分が目にする情報に大量に間違っているものがある。そして、誰もが持つバイアスによって、それが自分の感覚に近ければ「正しい」と受け取る傾向がある。インターネットはその傾向を増幅する。 だからこそ、ファクトチェックやメディアリテラシーに関する知識が誰にとっても必須です。 JFCファクトチェック講座と認定試験 JFCファクトチェック講座(YouTube, 記事)は、2万人調査を元に偽・誤情報の拡散経路や

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)