ファイザー社長「私は健康だから(ワクチンを)絶対に打たない」と発言した?【ファクトチェック】

ファイザー社長「私は健康だから(ワクチンを)絶対に打たない」と発言した?【ファクトチェック】

「ファイザー社長、『私は健康だから(ワクチンを)絶対に打たない』と言っている」という動画を共有するツイートが拡散しています。これは不正確な情報です。発言が切り取られ、違う意味になっています。

検証対象

米製薬大手ファイザーのアルバート・ブーラ最高経営責任者(CEO)が「私は健康だから、ワクチンを絶対に打たない」と言っている、とする動画がTwitterで拡散している。動画を共有している検証対象ツイートはおよそ6600件いいね、約3200件リツイートされている。検証対象の動画には「私は打ちたくない」との発言がある。

画像
拡散したツイートと動画

リプライ欄や引用ツイートには、「へぇ、接種を推奨しないんですね」「だからワクチンは怪しいんだよ」というコメントがある。一方で、「そんなこと言っていない」などの指摘もあった。

検証過程

動画は、右下のクレジットからアメリカの放送局・CNBCの映像であることがわかる。Youtubeで「CNBC PfizerCEO」と検索をかけたところ、元動画が見つかった。

元動画は、CNBCの公式チャンネルが2020年12月14日にアップしたもの。ワクチン接種が一部の国で医療関係者やリスクの高い人達に先行的に始まった時期だ。タイトルは「Pfizer CEO Albert Bourla on vaccine hesitancy: 'Trust science'」で、ブーラCEOへのインタビューを3分に収めた動画だ。

検証対象のTwitter上の動画は、テレビキャスターから「ワクチンはいつ打つ予定か」と質問を受けてブーラCEOが回答する31秒間に字幕を載せたものだ。元動画ではブーラCEOはこう答えている(元動画1分41秒-2分12秒)。

できるだけ早く打つ。

私は割り込みをする例になりたくありません。健康な59歳で、最前線で働いているわけでもないからです。現時点で、私のような人にはワクチン接種が勧められていません。

Pfizer CEO Albert Bourla on vaccine hesitancy: 'Trust science'

検証対象の動画は、「割り込み(cut in line)」という言葉を訳さずに「私はしたくないんです、、」とだけ字幕にしている。音声にはこの言葉が残っている。

画像
検証対象の動画

画像
元動画

ブーラCEOはさらに以下のように語っている(元動画2分14秒-3分)。この部分は再編集された検証対象の動画にはない。

一方、人々がワクチンを信用するために必要なことについて、私達はたくさんの世論調査をしています。信頼を獲得する方法として最も上位に来るものの一つは会社のCEOが接種することで、ジョー・バイデンや各国大統領が接種するよりも信頼獲得に効果的という結果が出ています。

このデータを念頭において、順番的には私のようなタイプの人間がワクチンを接種する時期ではないけれど、ワクチンに対する自信を示すために、ワクチン接種をする道筋を見つけようとしています。しかし、他の経営幹部たちが割り込みをしてワクチン接種をするようなことはありません。

Pfizer CEO Albert Bourla on vaccine hesitancy: 'Trust science'

以上のことから、ブーラCEOはワクチンを「健康なので絶対に打たない」とは言っておらず、「割り込みをして接種する」と見られることを気にしつつも、ワクチンへの信頼度を高めるために、早めに打つ方針を示していることがわかる。

また、検証対象ツイートは2022年9月2日に動画を投稿したが、元動画はワクチン接種が開始された2020年のものだ。時期が異なり、ミスリードを誘うものとなっている。

判定

以上の内容から検証対象の投稿動画はミスリードで、不正確なものだ。

あとがき

動画が切り取られ、文脈が読み取れない動画は多数拡散しています。発言者の意図はどういうものだったのか、慎重に見極める必要があります。

検証:金子祥子
編集:古田大輔、藤森かもめ


判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。

毎週、ファクトチェック情報をまとめて届けるニュースレター登録(無料)は、上のボタンから。また、QRコード(またはこのリンク)からLINEでJFCをフォローし、気になる情報を質問すると、AIが関連性の高いJFC記事をお届けします。詳しくはこちら

もっと見る

宮城県知事選でも大量の真偽不明な情報/JFC検証など8本【今週のファクトチェック】

宮城県知事選でも大量の真偽不明な情報/JFC検証など8本【今週のファクトチェック】

10月26日が投開票の宮城県知事選でも、真偽不明の情報がX、Instagram、YouTube、TikTokなどソーシャルメディアで大量に拡散しています。その情報がたとえ自分の考えに近いとしても、事実に基づいているとは限りません。信頼性を見極めるには、発信源・根拠・関連情報の確認が不可欠です。 偽・誤情報を作る動機には「故意犯」「確信犯」「愉快犯」があります。選挙に関して具体的に言えば、以下のようなものです。 故意犯:選挙に受かりたい/あいつを落としたいなどの意図に基づいて、誤った情報を拡散させる。 確信犯:あの候補者はおかしい/ 正しいなどの確信に基づいて、自分では正しいと思っているが間違った情報を拡散させる。 愉快犯:状況を楽しみ、注目を集めたいという意図で誤った情報を拡散させる。 自分で積極的に偽・誤情報を作るわけではないですが、情報を他の人と共有してしまう人もいます。偽・誤情報の発信者を信じてしまっていたり、「あの候補者が悪人だったとは。他の人にも知ってもらわないと」と誤解して広げたりします。 偽・誤情報が作られるのは悪意からかもしれませんが、広がってい

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
宮城県の村井知事は「メガソーラー大歓迎」など14の悪行? 根拠不明、誤り、ミスリードなど【ファクトチェック】

宮城県の村井知事は「メガソーラー大歓迎」など14の悪行? 根拠不明、誤り、ミスリードなど【ファクトチェック】

2025年10月26日に投開票される宮城県知事選で、立候補している現職の村井嘉浩氏の「悪行14選」として「メガソーラー大歓迎」「選挙のために土葬撤回」などと主張する画像が拡散しましたが、根拠が示されておらず、誤りやミスリードな内容を含みます。 検証対象 検証する投稿 宮城県知事選をめぐり、2025年10月ごろから現職の村井嘉浩知事の悪行として「メガソーラー大歓迎!!」「選挙のために土葬撤回」など、村井知事が売国をしていると主張する画像が拡散した(例1、例2)。 検証する理由 画像を作成したと自称していたアカウントは現在非公開になっているが、この画像に記された主張は、XやInstagramなどで引き続き拡散している。 検証過程 「メガソーラー大歓迎!!」? 拡散した画像には「メガソーラー大歓迎」とある。村井氏は10月20日に「メガソーラー建設計画を断固反対・阻止」と表明している(AIむらいYouTubeライブ.”秋保メガソーラー断固反対”.)。 宮城県知事選前の9月3日にも「個人的に大反対だ」という見解を示していた(朝日新聞.”温泉地の太陽

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
宮城県・村井知事が土葬を肯定? 「完全に断念した」と発言【ファクトチェック】

宮城県・村井知事が土葬を肯定? 「完全に断念した」と発言【ファクトチェック】

2025年10月26日に投開票される宮城県知事選で、立候補している現職の村井嘉浩氏が「東日本大震災後に火葬場が足りず一時的に土に埋葬されたことを引き合いに出し、土葬を肯定している」という趣旨の投稿が拡散しましたが、ミスリードで不正確です。村井氏はYouTubeの討論番組で震災時の土葬について発言していますが、県内での土葬については「完全に断念した」と述べています。 検証対象 拡散した言説 2025年10月22日、「東北で被災されて火葬場足りなくて…なくなく、しかも一時的に埋葬されたことを村井現知事は引き合いに出して、それで土葬を肯定するってふざけてんの?」という投稿がXで拡散した。 検証する理由 10月24日現在、投稿は7500回以上リポストされ、表示は232万件を超える。投稿には「ちょっと待て それのソースは?」などの指摘の一方、「嫌悪感しかないわ😡🔥」「村井知事のヤバい面が次々に明るみに出てきましたね😆」など同調するコメントが多数ある。 投稿に添付されているのは、宮城県知事選に立候補している前参院議員の和田政宗氏の街頭演説だ。和田氏の動画

By 根津 綾子(Ayako Nezu)
広島県尾道市に猫の石畳? 画像はAI生成か【ファクトチェック】

広島県尾道市に猫の石畳? 画像はAI生成か【ファクトチェック】

広島県尾道市に猫模様の石畳があるという動画がTikTokやInstagramで拡散しましたが、誤りです。Googleで検索しても尾道市にあると表示されますが、画像はAIで生成された可能性が高く、尾道市は「把握しておりません」と否定しています。 検証対象 拡散した言説 2024年ごろから「広島県尾道市に猫の石畳がある」という動画がTikTokやInstagramのリールなどで拡散している(例1、例2)。 動画では猫の顔の形をした石畳が映り、尾道市の「猫の石畳」として紹介されている。 検証する理由 動画について「かわいい」「絶対行きたい」というコメントがつく一方で「これは本当にある道ですか?」という指摘もある。 実際に猫の石畳目当てで来る旅行客もおり、Xでは、尾道市のカフェが「それを目的で尾道来られたお客様がいらっしゃいまして、残念に思っておられました」と投稿し、拡散している。 検証過程 画像はAI生成か Googleレンズで検索すると、同様の画像が多数表示される。 この画像をダウンロードしてAI生成検出ツールHIVE MODERATIO

By 木山竣策

ファクトチェック講座

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、ファクトチェックやメディア情報リテラシーに関する講師養成講座を月に1度開催しています。講座はオンラインで90分間。修了者には認定バッジと教室や職場などで利用可能な教材を提供します。 次回の開講は11月28日(土)午後5時~6時30分で、お申し込みはこちら。 https://jfcyousei1128.peatix.com/view 受講条件はファクトチェッカー認定試験に合格していること。講師養成講座は1回の受講で修了となります。 受講生には教材を提供 デマや不確かな情報が蔓延する中で、自衛策が求められています。「気をつけて」というだけでは、対策になりません。最初から騙されたい人はいません。誰だって気をつけているのに、誤った情報を信じてしまうところに問題があります。 JFCが国際大学グロコムと協力して実施した「2万人調査」では実に51.5%の人が誤った情報を「正しい」と答えました。一般に思われているよりも、人は騙されやすいという事実は、様々な調査で裏打ちされています。 JFCではこれらの調査をもとに、具体的にど

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、YouTubeで学ぶ「JFCファクトチェック講座」を公開しました。誰でも無料で視聴可能で、広がる偽・誤情報に対して自分で実践できるファクトチェックやメディアリテラシーの知識を学ぶことができます。 理論編と実践編の中身 理論編では、偽・誤情報の日本での影響を調べた2万人調査の紹介や、間違った情報を信じてしまう背景にある人間のバイアス、大規模に拡散するSNSアルゴリズムなどを解説しています。 実践編では、画像や動画や生成AIなど、偽・誤情報をどのように検証したら良いかをJFCが検証してきた事例から具体的に学びます。 JFCファクトチェッカー認定試験を開始 2024年7月29日から、これらの内容について習熟度を確認するJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。誰でもいつでも受験可能です(2024年度中は受験料1000円、2025年度から2000円)。 合格者には様々な技能をデジタル証明するオープンバッジ・ネットワークを活用して、JFCファクトチェッカーの認定証を発行します。 JFCファクトチェッカー認定試験

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
JFCファクトチェッカー認定試験

JFCファクトチェッカー認定試験

日本ファクトチェックセンター(JFC)はJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。YouTubeで公開しているファクトチェック講座から出題し、合格者に認定証を授与します。 拡散する偽・誤情報から身を守るために 偽・誤情報の拡散は増える一方で、皆さんが日常的に使用しているSNSや動画プラットフォームに蔓延しています。偽広告や偽サイトへのリンクなどによる詐欺被害も広がっています。 JFCが国際大学グロコムと実施した2万人を対象とする調査では、実際に拡散した偽・誤情報を51.5%の割合で「正しいと思う」と答え、「誤っている」と気づけたのは14.5%でした。 自分が目にする情報に大量に間違っているものがある。そして、誰もが持つバイアスによって、それが自分の感覚に近ければ「正しい」と受け取る傾向がある。インターネットはその傾向を増幅する。 だからこそ、ファクトチェックやメディアリテラシーに関する知識が誰にとっても必須です。 JFCファクトチェック講座と認定試験 JFCファクトチェック講座(YouTube, 記事)は、2万人調査を元に偽・誤情報の拡散経路や

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)