「ワクチン接種で子どもを殺された動画」は日本語字幕が本来の言葉と異なる【ファクトチェック】

「ワクチン接種で子どもを殺された動画」は日本語字幕が本来の言葉と異なる【ファクトチェック】

「ワクチンで子どもが殺された」と示唆する動画が拡散しています。字幕では「コロナ」と表示して、新型コロナウイルスのワクチンで子どもが死んだように印象づけていますが、これは誤りです。元動画はデング熱のワクチンに関するもので、かつ、死亡原因をワクチンと結論づけていません。

検証対象

Twitterで「フィリピンでワクチン接種で子供を◯ろされた母親達」などと記した動画付きのツイートが拡散した。動画中の字幕には「コロナ」とあり、新型コロナウイルスのワクチンで子どもが死んだような印象を受ける。

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リプライやリツイートには「もし本当なら、致死性の何かがワクチンに混入したのかも」「新型コロナはワクチン接種を利用した大量殺戮」などの反応がある一方で、「これは新型コロナワクチンではなく、デング熱ワクチンで起きた出来事です」などの指摘もある。

検証過程

Google Chromeの拡張機能InVIDのVideo analysysで調べた。すると、この検証対象のツイートのリプライ欄にリンク付きのツイートが見つかり、それが検証対象の動画の元動画だった。

この元動画は、Al Jazeera Englishが2021年2月5日にYouTubeにアップした「Philippines Vaccine Scandal | 101 East」。フィリピンでワクチン接種率が急激に落ちた背景を取材したドキュメンタリー番組だ。

蚊がウイルスを媒介する感染症「デング熱」のワクチンDengvaxiaを2016年に導入した際、「ワクチンで子どもが死んだ」と訴える親たちと支援団体の訴えで世論の反発が広がり、ワクチンプログラムが中止に。ワクチンへの信頼が落ちて他の病気への対策も遅れ、犠牲が広がったことを紹介している。

検証対象のTwitter上の動画は、この25分間のドキュメンタリー番組を2分間に再編集し、番組内で語られている音声と異なる内容の日本語を字幕として追加している。

例えば、亡くなった子どもたちの検死のシーン。Twitter上の動画(16秒付近)ではフィリピンの支援団体を「コロナに感染しないために立ち上げられた」と紹介しているが、元々の動画(13分20秒付近)に「コロナ」という言葉はなく、支援団体のことは「dengvaxia( デング熱ワクチン)への反対運動をしている」と紹介されている。

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Twitter上の動画

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YouTube上の元動画

また、ワクチンを推進する立場だったジャネット・ガリン元保険大臣のインタビューシーンでも、字幕と英語で話している内容が全く異なる。

Twitterの動画(1分28秒)では「ビデオを見て多くの人達はワクチン接種が間違っていると気が付きました」と日本語の字幕がついているが、元動画(14分30秒)では、元大臣が「この映像は、私たちはそれが間違いだと知っていますが、それを見た母親たちの心に残ってしまったのです(this visual images  though we know that they are wrong remains implanted on the mothers who have seen them)」と指摘している。

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Twitter上の動画
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YouTube上の元動画

そもそも、Al Jazeeraの元々の番組は「子どもがワクチンで死亡した」と訴える人々を取材しているが、ワクチンが死の原因であるとは結論づけておらず、「dengvaxiaが死の原因になったことを裏付ける証拠はない」という医療専門家の言葉を伝え、ワクチンを推進する人達にも取材をして番組にまとめている。Twitter上の動画では、それらに触れていない。

判定

検証対象の動画は、デング熱ワクチンをめぐる動画の一部を切り出したもので、実際の音声とは異なる日本語字幕をつけている。このため、Twitter上の動画は誤り。

あとがき

外国語の動画に実際とは異なる翻訳を付加した誤情報、偽情報は数多く存在します。注意が必要なケースの一つです。

検証:JFCリサーチチーム、古田大輔
編集:野上英文、藤森かもめ

検証手法や判定基準などに関する解説は、JFCサイトのファクトチェック指針をご参照ください。

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