「木下先生が『(ワクチンは)命の危険があるけど、うまくいけば感染予防』と発言」という画像は誤り【ファクトチェック】

「木下先生が『(ワクチンは)命の危険があるけど、うまくいけば感染予防』と発言」という画像は誤り【ファクトチェック】

新型コロナウイルスやワクチンの情報を届けるプロジェクト「こびナビ」副代表の木下喬弘医師が「(新型コロナウイルスのワクチンは)命の危険があるけど、うまくいけば感染予防」と言っている、という画像が拡散しています。検証対象の画像は、元動画の一部を切り貼りして意味合いを変えており、誤りです。

検証対象

モデルで動画クリエイターのねお氏の「先生はワクチンってどう考えてる?」という質問に対し、木下医師が「命の危険がある。うまくいけば感染予防ですね」と答えているようにみえる画像が拡散している。以下のツイートは、およそ3200件いいね、1100件リツイートされている。

画像

検証対象のリプライや引用リツイートには、「命をかけた博打だな」「うまくいかなかったときどうなるの?」というコメントがある。一方で、切り取られたコラ画像であることを指摘するコメントも多くある。木下医師も自身のツイートで反論している。

検証過程

元動画は、内閣府政府広報室が運営する「政府インターネットテレビ」で2022年11月1日に公開された「ねお×木下先生『新しいコロナワクチンのこと聞いてみた』」という動画だ。オミクロン株に対応した新しいワクチンに関して、モデルで動画クリエイターのねお氏が木下医師に質問する形式になっている。

検証対象画像の上部は、動画の2分17秒付近を切り取ったものだ。

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「専門家はワクチン接種についてどう思っているか」という質問に対して、木下医師は元動画ではこう答えている。

コロナにかかった時の症状を軽く済ませるために受けてもらった方がいいかなと思います。よくテレビとかで『若い人は重症化しない!』と言う人がいる。重症化しにくいことは事実なんですけど、重症化しないわけではなくて、一度重症化してしまうと集中治療室で治療を受けないといけなかったりとか。要するに、すごくしんどいというだけじゃなくて、命の危険があるという状況になってしまうことがある。というのが、この病気の怖いところ

「ねお×木下先生『新しいコロナワクチンのこと聞いてみた』」より

検証対象の画像は、この「命の危険がある」という部分だけを切り取り、ワクチン接種の質問に結びつけている。

検証対象画像の下部は、動画の4分56秒付近を切り取ったものだ。

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「いままでのワクチンと比べてどのようなメリットがあるのか」という質問に対して、木下医師の回答はこうだ。

研究をした結果、(中略)抗体の働きが今までのワクチンを打っているよりも、新しいワクチンを打っている方が高いという風なことはわかっているんですね。重症化を予防する効果というのはもちろんのこと、発症、つまり症状が出て熱とか咳とかが出てしんどい思いをする確率も下げられるし。うまくいくと感染予防ですね。そもそもコロナに罹るということそのものを予防する効果も期待されている

「ねお×木下先生『新しいコロナワクチンのこと聞いてみた』」より

判定

検証対象の画像は、元動画の木下医師の発言を切り取った改変画像で、元の発言の文脈とはまったく違う内容にしているため、誤り。

あとがき

木下医師は、日本ファクトチェックセンター(JFC)の取材に、次のようにコメントしています。

今回の動画は、若い世代にコロナ感染やワクチンについて正しく知っていただくことが目的でした。若年者でも感染すると稀に重症化することがあり、『命の危険』があります。

ワクチンを接種すると、重症化リスクを減らすだけでなく、発症予防効果や感染予防効果が期待されます。当然、『ワクチン接種には命の危険がある』という意味ではなく、元の動画には誤解を生む余地は全くないと感じます。
このような誤ったツイートが拡散されたことは非常に残念です

動画が切り取られ、文脈が読み取れない画像は多数拡散しています。発言者の意図はどういうものだったのか、慎重に見極める必要があります。

検証:金子祥子
編集:藤森かもめ、古田大輔

検証手法や判定基準などに関する解説は、JFCサイトのファクトチェック指針をご参照ください。

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