刑務所の殺人・傷害の収容者は中国、韓国・朝鮮籍が65%?【ファクトチェック】

刑務所の殺人・傷害の収容者は中国、韓国・朝鮮籍が65%?【ファクトチェック】

日本の刑務所に殺人と傷害の罪で収容されているのは中国人が33%、韓国・朝鮮人が32%で、日本人は3%などとする画像が拡散しています。実際には、こうした罪で収監される人の大半は日本人で、画像の情報は誤りです。このような差別を助長しかねない投稿は、過去にも拡散しています。

検証対象

拡散した投稿は、檻のような画像に「『殺人・傷害』で収監されている日本刑務所の囚人 特亜が65%! 中国人33% 朝鮮韓国人32% 帰化人21% 他外国人11% 日本人3%」という数字を被せて、「移民増加により今後更に治安悪化!」と書いている。「中国人」と「朝鮮韓国人」で合計65%という数字について検証する。

画像

この画像を投稿したTwitterアカウントは「フリーライター」を名乗り、リプライ欄には「恐怖…」「死には死を!」などと、画像に同調するコメントが散見された。一方で、「デマ流すな、恥を知れよ」「日本人3%を信じる人間の頭の悪さよ。人口の比率を考えたら有り得ない事など小学生でもわかる」などの指摘や、不適切な投稿だとして「通報しました」という書き込みもある。

検証過程

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、殺人罪と傷害罪で刑務所・拘置所等に収監されている人のうち、中国、韓国・朝鮮の国籍を持つ人が全体の65%を占めるかどうかについて、法務省の矯正統計統計表を元に検証した。

表38には「新受刑者の罪名 国籍別(総数)」のデータがある。判決が確定し、その年の1〜12月に新たに収監された人などだ。このうち殺人罪と傷害罪について、「日本国籍」「中国、韓国・朝鮮籍」「その他」ごとに示したグラフを作った。赤い部分が「中国、韓国・朝鮮籍」だ。

画像

新たに収監された人のうち中国、韓国・朝鮮籍が占める割合は、過去16年間、2〜4%で推移している。グラフの青い部分、9割以上が日本人だ。

2005年以前に収監された人に、これら3ヵ国の籍を持つ人がもっとずっと多ければ、現在の収監者のうちで65%を占めているという可能性も、理屈上は残る。

ただ、法務省のデータはこの可能性も明確に否定する。

たとえば2021年の表の年末時点の数値は、殺人罪と傷害罪の受刑者が計3335人だ(表4参照)。一方、同じ時期に収監されていた中国、韓国・朝鮮籍の人は1218人(表8参照)。仮に全員が殺人罪と傷害罪だったとしても、全体に占める割合は37%にしかならず、「65%」より遥かに小さい。

判定

以上のデータから、殺人・傷害で収監されている人のうち、中国、韓国・朝鮮の収容者が65%を占めるという主張は誤り。

あとがき

JFCはファクトチェック(事実の検証)をする際に、可能な限り公開されている公的データを参照することで、ユーザー自身も第三者として事実確認を追体験できるようにしています。公的データはどこにあるかわかりにくかったり、必要な要素が欠けていたりすることもあり、公開元への取材も必要となります。

JFCが法務省に問い合わせたところ、統計の担当者はデータの見方を丁寧に説明してくれました。一方、分析結果について矯正局に問い合わせたところ、「一般の方のつぶやきには対応できない」「公開しているデータで確認してほしい」という回答でした。

公的なデータの公開が広がってきたことは、近年の成果です。しかし、「個人のつぶやき」が強い拡散力を持ち、誤った認識が広がる現状に対応するには、公的機関のより積極的な情報発信も必要になっているのではないでしょうか。

修正

当初、「韓国、北朝鮮籍」と表記していた部分を「韓国・朝鮮籍」に修正しました。(2022年10月13日6:57)

検証:藤森かもめ
編集:古田大輔、野上英文


判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。

毎週、ファクトチェック情報をまとめて届けるニュースレター登録(無料)は、上のボタンから。また、QRコード(またはこのリンク)からLINEでJFCをフォローし、気になる情報を質問すると、AIが関連性の高いJFC記事をお届けします。詳しくはこちら

もっと見る

まとめサイトの問題を知る/JFC検証6本、コラムなど【今週のファクトチェック】

まとめサイトの問題を知る/JFC検証6本、コラムなど【今週のファクトチェック】

日本ファクトチェックセンター(JFC)の記事は「まとめサイト」をきっかけに拡散した情報を検証しているものが多く、今週も2本あります。 「まとめサイト」とは、新聞やテレビなどの記事をネタにして、「ネット上の反応」としてソーシャルメディアやネット掲示板の投稿などをまとめ、刺激的な見出しをつけた記事を公開するメディアです。 問題は、その内容の信頼性が著しく低いことです。まとめサイトは、ネタにしている記事の内容を捻じ曲げ、著名な政治家が発言していないことを捏造したり改変したりし、しかも、それを見出しにすることで注目を集めています。 恐ろしいのは、こんな単純な手法のまとめサイトの記事が、大量に拡散し、多くの人がいいねやシェアをしていることです。ソーシャルメディア上の拡散量を調べるツールで計測すると、新聞やテレビなどの報道機関の記事よりも人気のものが少なくありません。 まとめサイトが運用するソーシャルメディアアカウントは、これらの問題ある記事を投稿し続けています。信頼性が著しく低いことを知っておく必要がありますし、いいねやシェアはその拡散を助けていると知っておくべきです。(古田

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
横浜市長会見の過去映像は1年分しか保存しないように改悪された? 3か月→1年に延長【ファクトチェック】

横浜市長会見の過去映像は1年分しか保存しないように改悪された? 3か月→1年に延長【ファクトチェック】

「横浜市長の定例記者会見の過去映像が1年分しか視聴できないように改悪された」という情報が拡散しましたが、不正確です。以前は3か月分しか視聴できませんでしたが、2022年4月から過去1年分に期間を延長しています。 検証対象 7月28日、「横浜市長記者会見の過去映像が『直近1年』しか視聴できないように改悪されている」という投稿がXで拡散した。 8月1日現在、投稿は400回以上リポストされ、表示は2.7万件を超える。 投稿には「え!なんの告知もなく⁉️また隠蔽か」「スゲーな (褒めてませんよ)」というコメントや「最近ではなく、だいぶ前からアーカイブ残らない仕様です」「隠蔽なのか容量の問題なのか…」という指摘が寄せられている。 検証過程 公開されている記者会見映像は1年前まで 横浜市は月2回のペースで市長会見を開き、映像は公式サイトで開示している。サイトには「録画中継は、おおむね1年前の会見まで掲載しています。それ以前の会見の模様は『会見記録』をご覧ください」と書かれている(横浜市”市長記者会見インターネット中継”)。 「録画中継を視聴」をクリックする

By 根津 綾子(Ayako Nezu)
カムチャツカ地震による日本の津波の映像? 2017年南アフリカで撮影【ファクトチェック】

カムチャツカ地震による日本の津波の映像? 2017年南アフリカで撮影【ファクトチェック】

2025年7月30日にロシアのカムチャツカ半島沖で発生した地震に関連し、「日本の津波だ」という動画が拡散しましたが、誤りです。この動画は2017年、南アフリカ共和国で撮影されたものです。 検証対象 7月30日、「Tsunami in Japan(日本の津波)」という動画がThreadsで拡散した。 投稿には海岸に波が押し寄せ、人が避難する様子が映っている。7月31日現在、この投稿は6000件以上のいいねを獲得し、表示回数は71万回を超える。 検証過程 7月30日午前8時25分ごろ、ロシアのカムチャツカ半島付近を震源とするマグニチュード8.7の巨大地震が発生した。気象庁は北海道から和歌山県にかけての太平洋沿岸に津波警報を発表した(気象庁. “令和7年7月30日08時25分頃のカムチャツカ半島付近の地震について”)。 動画は2017年に南アフリカで撮影 拡散した動画をGoogleレンズで検索すると、2017年に南アフリカ共和国のダーバンで発生した津波の映像が見つかる。建物の位置、木の位置などが拡散した動画と一致している。 この動画は、2023年にも

By 木山竣策
Mrs. GREEN APPLEのライブ音漏れ映像? 音声が加工された動画【ファクトチェック】

Mrs. GREEN APPLEのライブ音漏れ映像? 音声が加工された動画【ファクトチェック】

バンド「Mrs. GREEN APPLE」のライブ騒音問題に関連して、「ミセスの音漏れが想像を超えてくる」という動画が拡散しましたが、実際の映像ではなく、誤りです。音漏れがあったことは事実ですが、音声が加工された動画が実際の映像のように拡散しています。 検証対象 2025年7月29日、「ミセスの音漏れめっちゃ聞こえた」という動画付き投稿が拡散した。 動画には会場は映っていないが、夜景の中で大音量の曲が響いている。2025年7月29日現在、この投稿は300件以上リポストされ、表示回数は144万回を超える。 投稿について「そりぁ問題になるわ」「いくら何でもやばすぎじゃない?」というコメントの一方で「違う動画見たけどこんなに聴こえてない」という指摘もある。 検証過程 Mrs. GREEN APPLEのライブと騒音 2025年7月26、27日に横浜市の横浜山下ふ頭特設会場でバンド「Mrs. GREEN APPLE」のライブが開催され、会場から漏れた音が問題視された。 所属事務所は28日に「当日の風向きにより想定以上に広範囲に音が拡散し、周辺にお住まいの

By 木山竣策

ファクトチェック講座

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、ファクトチェックやメディア情報リテラシーに関する講師養成講座を月に1度開催しています。講座はオンラインで90分間。修了者には認定バッジと教室や職場などで利用可能な教材を提供します。 次回の開講は8月23日(土)午後2時~3時15分で、お申し込みはこちら。 https://jfckoushiyousei0823.peatix.com 受講条件はファクトチェッカー認定試験に合格していること。講師養成講座は1回の受講で修了となります。 受講生には教材を提供 デマや不確かな情報が蔓延する中で、自衛策が求められています。「気をつけて」というだけでは、対策になりません。最初から騙されたい人はいません。誰だって気をつけているのに、誤った情報を信じてしまうところに問題があります。 JFCが国際大学グロコムと協力して実施した「2万人調査」では実に51.5%の人が誤った情報を「正しい」と答えました。一般に思われているよりも、人は騙されやすいという事実は、様々な調査で裏打ちされています。 JFCではこれらの調査をもとに、具体的にど

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、YouTubeで学ぶ「JFCファクトチェック講座」を公開しました。誰でも無料で視聴可能で、広がる偽・誤情報に対して自分で実践できるファクトチェックやメディアリテラシーの知識を学ぶことができます。 理論編と実践編の中身 理論編では、偽・誤情報の日本での影響を調べた2万人調査の紹介や、間違った情報を信じてしまう背景にある人間のバイアス、大規模に拡散するSNSアルゴリズムなどを解説しています。 実践編では、画像や動画や生成AIなど、偽・誤情報をどのように検証したら良いかをJFCが検証してきた事例から具体的に学びます。 JFCファクトチェッカー認定試験を開始 2024年7月29日から、これらの内容について習熟度を確認するJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。誰でもいつでも受験可能です(2024年度中は受験料1000円、2025年度から2000円)。 合格者には様々な技能をデジタル証明するオープンバッジ・ネットワークを活用して、JFCファクトチェッカーの認定証を発行します。 JFCファクトチェッカー認定試験

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
JFCファクトチェッカー認定試験  教材と申し込みはこちら

JFCファクトチェッカー認定試験  教材と申し込みはこちら

日本ファクトチェックセンター(JFC)はJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。YouTubeで公開しているファクトチェック講座から出題し、合格者に認定証を授与します。 拡散する偽・誤情報から身を守るために 偽・誤情報の拡散は増える一方で、皆さんが日常的に使用しているSNSや動画プラットフォームに蔓延しています。偽広告や偽サイトへのリンクなどによる詐欺被害も広がっています。 JFCが国際大学グロコムと実施した2万人を対象とする調査では、実際に拡散した偽・誤情報を51.5%の割合で「正しいと思う」と答え、「誤っている」と気づけたのは14.5%でした。 自分が目にする情報に大量に間違っているものがある。そして、誰もが持つバイアスによって、それが自分の感覚に近ければ「正しい」と受け取る傾向がある。インターネットはその傾向を増幅する。 だからこそ、ファクトチェックやメディアリテラシーに関する知識が誰にとっても必須です。 JFCファクトチェック講座と認定試験 JFCファクトチェック講座(YouTube, 記事)は、2万人調査を元に偽・誤情報の拡散経路や

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)