岸田首相がアメリカの大学に500億円に寄付した?【ファクトチェック】
「岸田首相がアメリカの大学に500億円の寄付」という投稿が拡散していますが、誤りです。実際には、国際的な研究に取り組む日本の研究者を支援する基金です。
検証対象
「岸田首相がアメリカの大学に500億円の寄付」という投稿が拡散している。
リプライ欄には「日本の大学には寄付しない」「意図が解らん」などのコメントが見られた。一方で、「寄付ではなく基金ではないか」という指摘の声もある。
検証過程
検証対象の保守速報サイトで元情報になっているのは、2023年1月14日にYahoo!ニュースで配信された産経新聞の記事「国際研究に500億円基金 首相、ワシントンの講演で表明」。記事のタイトルは「寄付」ではなく「基金」となっている。内容は「岸田文雄首相が2023年1月13日にワシントンのジョンズ・ホプキンズ大学高等国際関係大学院で講演し、米国などとの国際共同研究や若手研究者の育成強化を目的とした500億円規模の基金を創設する方針を表明した」というもの。
首相官邸は1月13日に「ジョンズ・ホプキンス大学高等国際関係大学院における岸田総理スピーチ」というタイトルで、この記事が取り上げた岸田首相の講演の動画とその文字起こしを掲載している。内容は、ロシアやウクライナの戦争、日米同盟の強化、外交課題など多岐にわたる。
その中でアメリカとの基金に触れたのは、日米同盟に触れたときだった。
我々が直面する難しい課題を乗り越え、これからの世界の趨勢(すうせい)を方向付けていく最大の鍵となるのが科学技術です。今後、米国を始めとする同志国との連携として、国際共同研究及び若手研究者の人材育成を強化するための約500億円に及ぶ大型基金の創設、国際頭脳循環の中核的な拠点となる「グローバル・スタートアップ・キャンパス構想」の設立に取り組んでいきます。両国のすばらしい科学技術人材の相互交流と研究協力を通じて、次代のフロンティア開拓、新たな市場創出、そして時代を先導する価値創造につなげていきたいと思います。
「500億円」は、「米国やその他の国と協力し、国際共同研究や若手研究者の人材育成を強化するための基金」として説明されている。
この「500億円の基金」について、日本ファクトチェックセンター(JFC)は、文部科学省科学技術・学術政策局に取材をした。
「基金なのか寄付なのか」という質問への回答は以下の通り。
「(岸田首相が話した『500億円の基金』は)寄付ではありません。この基金の支援対象になるのは、日本の研究者チームです。アメリカにお金をあげるわけではありません。日本が他国と国際共同研究するために必要な支援を、日本人の研究者たちにするという目的のものです」
基金の背景としては、日本が研究分野において世界のネットワークの中で取り残されているという現状があるという。
「海外からも日本と研究をしたいという声は多くありましたが、なかなか大きな予算で研究することができていませんでした。今回、補正予算で計上し、大きな予算規模の共同研究を各国と共にできるようにしようということになりました」
この政策は、文部科学省「令和4年度文部科学省第2次補正予算事業別資料」16ページ目に「先端国際共同研究推進事業/プログラム」として挙げられている。
501億円の予算の背景・課題として「国際共著論文数が諸外国と比べて相対的に低下、研究者交流の停滞など、現在、世界の国際頭脳循環のネットワークの中に入っていない」ことを挙げており、支援対象は「日本側研究者チーム」となっている。
判定
以上のことから、「岸田首相がアメリカの大学に500億円の寄付」は誤り。
あとがき
今回、JFCの取材に対し、文部科学省科学技術・学術政策局の担当者は「流石に、日本にとって何のメリットもないことにお金を使うことはしません」と述べた上で、次のように説明しました。
「この事業を作ることによって日本にどのような成果やメリットが得られるかということを財務省とも話し合いました。海外の研究に日本人研究者が入りづらくなっている現状の中で、この大型基金を通じて入れるようにしていく。そこで存在感を発揮してくれる研究者の先生がいれば、そこに若手が入りやすくなっていく。そういう風に海外経験を増やしていく日本人研究者が増えれば、日本にとってプラスになりますよね」
500億円という予算の使い道や規模に関して、様々な意見があることは当然です。ですが、「アメリカに寄付するのはおかしい。日本を優先しろ」というような批判は、事実を踏まえていません。
検証:金子祥子
編集:古田大輔
検証手法や判定基準などに関する解説は、JFCサイトのファクトチェック指針をご参照ください。
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