動画に飛行機が映っていないので911は捏造?【ファクトチェック】

動画に飛行機が映っていないので911は捏造?【ファクトチェック】

「911の実際のビデオ画像」という動画が拡散しています。この動画では世界貿易センタービルが爆発する際に飛行機が見当たらず、これをもとに「911は捏造」と主張する人もいますが、誤りです。画質がより鮮明な同一の映像では、ビルに突っ込んでいく機体を確認できます。

検証対象

2001年9月11日にアメリカで起きた同時多発テロ(911)に関して、「911の実際のビデオ画像」という言葉とともにビルが爆発する映像が拡散している。ビル爆発の直前、飛行機が衝突した様子が見えないことから、コメント欄では「飛行機なんか無いんですよ」「本当は飛行機が突っ込んだからでは無く、爆弾で破壊したのが真実だからな」といったリプライや、「お米の国の自作自演です」「飛行機突入はCG」といった陰謀論まである。

この動画は「These Are The Real Video Images Of 911」という文言とともに2022年秋頃から世界中で複数の人々が投稿している。2棟のうち1棟は黒煙を上げており、開始から7〜8秒で、もう1棟が突然爆発したようにみえる。

検証過程

検証対象の動画の元動画を調べるため、「9/11 Footage」などの周辺ワードで検索をかけていくと、「9/11 - WNBC Chopper 4 Footage」というYouTube動画が見つかった。Chopper4は報道用ヘリの名前だ。この映像を見ると、2分14秒あたりから画面右上に飛行機らしき影が映り始める。

画像

より鮮明な映像を探すために、YouTubeで「9/11 chopper4」と検索すると、「2nd Plane Hit on 9/11/01, Chopper4」という高画質な動画が出てくる。この動画での見え方は次の通りだ。

① 3秒~:飛行機が画面の右上に映り込む
② 11秒~:飛行機がビルの裏側に隠れる
③ 13秒~:北棟と南棟の隙間から飛行機が一瞬だけ見える
④ 14秒~:ビルが爆発する

WNBC Chopper 4 Reports from 9/11」でも同様の光景が確認できる。ネット上には複数の動画投稿があるが、いずれも検証対象の動画と収録されている音声が一致している。

ただ、検証対象の動画で「突然ビルが爆発する」ようにみえるのは、次の3つの理由だ。

1つ目の理由は、動画の撮影位置の関係。飛行機がビルの裏側に隠れている時間(②11秒目以降)がある。

1機目は世界貿易センターの北棟に突入(現地の午前8時46分)、2機目は1機目とは反対側から南棟に突入した(午前9時3分)。

検証対象の動画のカメラ位置は、動画に映ったビルの位置関係から、北東からだと分かる。このため、1機目が突入した後の北棟の光景を真正面から撮影している。一方、2機目が飛来してくる南西側は、カメラ位置からみると、北棟と南棟の裏側のため、2機目が南棟に突入する直前の様子は、③の一瞬を除いて方角的にほとんど映せていない。

画像
世界貿易センタービルが立っていた場所のGoogle Earthの画像に衝突した飛行機の位置を記した

2つ目の理由は、検証対象の動画は画質が荒かったり、元動画では横型だった構図が縦型になったりしているため、飛行機の飛来を確認できない。

3つ目の理由は、検証対象の動画は、元動画のスタートから7秒目までがカットされ、飛行機の飛来を確認できる①3秒目が存在しないため、再生されて間も無く「南棟が突然爆発する」動画になっている。

判定

検証対象となった動画はアメリカのテレビ局のヘリから撮影したもので、より鮮明な動画を確認したところ、ビルが爆発するよりも前に、飛来する様子やビルの裏側に隠れる飛行機が映っていた。「動画に飛行機が映っていないので911は捏造」は誤り。

検証:杉江隼
編集:古田大輔


判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。

毎週、ファクトチェック情報をまとめて届けるニュースレター登録(無料)は、上のボタンから。また、QRコード(またはこのリンク)からLINEでJFCをフォローし、気になる情報を質問すると、AIが関連性の高いJFC記事をお届けします。詳しくはこちら

もっと見る

高市首相が外国人を大量に国外退去させる省庁を設立? 新省庁も大量退去の情報もない【ファクトチェック】

高市首相が外国人を大量に国外退去させる省庁を設立? 新省庁も大量退去の情報もない【ファクトチェック】

高市早苗新首相が、外国人を大量に国外退去させるための省庁を設立すると表明したかのような投稿が、英語で拡散しましたが、誤りです。高市氏は、一部の外国人による違法行為やルールからの逸脱に毅然と対応すると述べ、外国人政策を担当する大臣を置きましたが、10月27日現在、省庁を新設したり、外国人を大量に国外退去させたりという情報はありません。 検証対象 拡散した言説 2025年10月22日、「日本の新首相が最初の政策として大量国外退去を決定 高市早苗が就任し、即座に大量国外退去のための省庁を設立」という英語の文言付きの動画がXで拡散した。 検証する理由 拡散した投稿は、10月27日現在3.9万回以上リポストされ、表示は945万件を超える。 投稿には「首相の高市氏が『大量国外追放省』を創設したという、信頼できる報道や公式発表は確認できない」という指摘の一方、「反大量移民の動きが高まっている!」や「日本にできるなら、我々もやらねば」など同調する英語のコメントが多数ある。 検証過程 動画は高市首相ではなく小野田経済安保担当相 拡散した動画は18秒。「高市

By 根津 綾子(Ayako Nezu)
ユースファクトチェック選手権2025開催へ 申し込みはこちら

ユースファクトチェック選手権2025開催へ 申し込みはこちら

日本ファクトチェックセンター(JFC)は11~12月、中学生〜大学生を対象に情報を検証するスキルを競うイベント「ユースファクトチェック選手権2025」をオンライン開催します。2〜3人でチームを組み、国内大会を勝ち抜くと世界大会でアジア各国のチームと決勝を争います。 ユースファクトチェック選手権の開催は2024年に続き、2回目。国内では慶應大生らで作るEdtech企業「株式会社Classroom Adventure」、国際大会は台湾、タイ、モンゴル、インドのファクトチェック団体との共催です。 参加資格は12-24歳(小学生は除く)で、2~3人のチーム単位で申し込み、クイズに挑みます。回答にはネットを駆使して正確に早く情報を収集・検証するファクトチェック能力が必要です。事前学習をキックオフイベントで実施します。 国内大会の上位3チームが進む最終ステージの世界大会では、日本、台湾、タイ、モンゴル、インドから勝ち残ったチームで優勝を争います。国際大会で3位までに入ったチームには合計で約25万円の賞金が授与されます。 大会の日程(日本) キックオフイベント(オンラ

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
高市政権でこども家庭庁の肩書きが消滅? 歴代政権から変更なし【ファクトチェック】

高市政権でこども家庭庁の肩書きが消滅? 歴代政権から変更なし【ファクトチェック】

高市新内閣の閣僚名簿、補佐官名簿の画像と共に「子ども家庭庁肩書消滅」という投稿が拡散しましたが誤りです。こども家庭庁の大臣の肩書きは、前政権も内閣府特命担当大臣に含まれていました。 検証対象 拡散した投稿 2025年10月23日、高市新内閣の閣僚名簿、補佐官名簿の画像とともに「キターーー🙌子ども家庭庁肩書消滅 黄川田仁志氏がこども政策兼務」という投稿が拡散した。 投稿は、「高市内閣 閣僚名簿」というタイトルの画像のスクリーンショットを添付している。 名簿には「内閣府特命担当大臣(沖縄及び北方対策 消費者及び食品安全 こども政策 少子化対策 若者活躍 男女共同参画 地方創生 アイヌ施策 共生・共助)女性活躍担当 共生社会担当 地域未来戦略担当 黄川田 仁志(きかわだ ひとし)」と書かれている。 拡散した投稿は、高市内閣の名簿で「こども政策担当相」となる黄川田氏が沖縄・北方担当相などと兼務することについて、こども家庭庁の肩書きが消滅したと主張している。 検証する理由 10月27日現在、この投稿は3800件以上リポストされ、表示回数は111万回を超

By 木山竣策
宮城県知事選でも大量の真偽不明な情報/JFC検証など8本【今週のファクトチェック】

宮城県知事選でも大量の真偽不明な情報/JFC検証など8本【今週のファクトチェック】

10月26日が投開票の宮城県知事選でも、真偽不明の情報がX、Instagram、YouTube、TikTokなどソーシャルメディアで大量に拡散しています。その情報がたとえ自分の考えに近いとしても、事実に基づいているとは限りません。信頼性を見極めるには、発信源・根拠・関連情報の確認が不可欠です。 偽・誤情報を作る動機には「故意犯」「確信犯」「愉快犯」があります。選挙に関して具体的に言えば、以下のようなものです。 故意犯:選挙に受かりたい/あいつを落としたいなどの意図に基づいて、誤った情報を拡散させる。 確信犯:あの候補者はおかしい/ 正しいなどの確信に基づいて、自分では正しいと思っているが間違った情報を拡散させる。 愉快犯:状況を楽しみ、注目を集めたいという意図で誤った情報を拡散させる。 自分で積極的に偽・誤情報を作るわけではないですが、情報を他の人と共有してしまう人もいます。偽・誤情報の発信者を信じてしまっていたり、「あの候補者が悪人だったとは。他の人にも知ってもらわないと」と誤解して広げたりします。 偽・誤情報が作られるのは悪意からかもしれませんが、広がってい

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)

ファクトチェック講座

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、ファクトチェックやメディア情報リテラシーに関する講師養成講座を月に1度開催しています。講座はオンラインで90分間。修了者には認定バッジと教室や職場などで利用可能な教材を提供します。 次回の開講は11月28日(土)午後5時~6時30分で、お申し込みはこちら。 https://jfcyousei1128.peatix.com/view 受講条件はファクトチェッカー認定試験に合格していること。講師養成講座は1回の受講で修了となります。 受講生には教材を提供 デマや不確かな情報が蔓延する中で、自衛策が求められています。「気をつけて」というだけでは、対策になりません。最初から騙されたい人はいません。誰だって気をつけているのに、誤った情報を信じてしまうところに問題があります。 JFCが国際大学グロコムと協力して実施した「2万人調査」では実に51.5%の人が誤った情報を「正しい」と答えました。一般に思われているよりも、人は騙されやすいという事実は、様々な調査で裏打ちされています。 JFCではこれらの調査をもとに、具体的にど

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、YouTubeで学ぶ「JFCファクトチェック講座」を公開しました。誰でも無料で視聴可能で、広がる偽・誤情報に対して自分で実践できるファクトチェックやメディアリテラシーの知識を学ぶことができます。 理論編と実践編の中身 理論編では、偽・誤情報の日本での影響を調べた2万人調査の紹介や、間違った情報を信じてしまう背景にある人間のバイアス、大規模に拡散するSNSアルゴリズムなどを解説しています。 実践編では、画像や動画や生成AIなど、偽・誤情報をどのように検証したら良いかをJFCが検証してきた事例から具体的に学びます。 JFCファクトチェッカー認定試験を開始 2024年7月29日から、これらの内容について習熟度を確認するJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。誰でもいつでも受験可能です(2024年度中は受験料1000円、2025年度から2000円)。 合格者には様々な技能をデジタル証明するオープンバッジ・ネットワークを活用して、JFCファクトチェッカーの認定証を発行します。 JFCファクトチェッカー認定試験

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
JFCファクトチェッカー認定試験

JFCファクトチェッカー認定試験

日本ファクトチェックセンター(JFC)はJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。YouTubeで公開しているファクトチェック講座から出題し、合格者に認定証を授与します。 拡散する偽・誤情報から身を守るために 偽・誤情報の拡散は増える一方で、皆さんが日常的に使用しているSNSや動画プラットフォームに蔓延しています。偽広告や偽サイトへのリンクなどによる詐欺被害も広がっています。 JFCが国際大学グロコムと実施した2万人を対象とする調査では、実際に拡散した偽・誤情報を51.5%の割合で「正しいと思う」と答え、「誤っている」と気づけたのは14.5%でした。 自分が目にする情報に大量に間違っているものがある。そして、誰もが持つバイアスによって、それが自分の感覚に近ければ「正しい」と受け取る傾向がある。インターネットはその傾向を増幅する。 だからこそ、ファクトチェックやメディアリテラシーに関する知識が誰にとっても必須です。 JFCファクトチェック講座と認定試験 JFCファクトチェック講座(YouTube, 記事)は、2万人調査を元に偽・誤情報の拡散経路や

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)