JFCのファクトチェック:記事と動画でプラットフォーム展開

JFCのファクトチェック:記事と動画でプラットフォーム展開

日本ファクトチェックセンター(JFC)の活動の中心は日々のファクトチェック活動です。記事や動画をJFCサイトだけでなく、様々なプラットフォームに配信しており、その数やビュー数は2022年10月の設立以来、右肩上がりで成長しています。

記事数とビューの増加

JFCは設立当初、月に10本のファクトチェック記事をJFCサイトに配信していました。2024年12月現在、配信記事の数は月に30-40本に増えました。

多プラットフォーム展開やSEOによって、PVや動画ビューを合計した総ビュー数も右肩あがりで月間600万ビューを超えています(2024年11月実績)。

検証対象の多様化

検証対象は多岐にわたります。設立当初は新型コロナウイルスとワクチンに関するトピックが多く、総選挙や自民党総裁選では選挙、ロシアとウクライナやイスラエルとパレスチナの戦争やアメリカ大統領に関して国際関係のトピックも対象にしています。

災害が発生すれば、災害関係のトピックが激増する他、女性やLGBTQ+に関する偽・誤情報が拡散しやすいのは世界的に共通しています。

解説やインタビューによる深堀りやプレバンキング

JFCでは偽・誤情報対策への理解と普及を進めるために、個々の検証記事だけでなく、解説やインタビュー記事も配信しています。

世界的に注目を集めた台湾総統選での、影響工作に関する担当大臣へのインタビューや災害の際に拡散しがちな偽・誤情報のまとめなどです。

中国からの偽情報対策、TikTokの不自然なデータ 台湾大臣「選挙に影響」
中国からの情報工作に神経を尖らせる台湾では、ファクトチェック、メディアリテラシー、法的なルール設定など包括的な誤情報/偽情報対策に取り組む。日本ファクトチェックセンター(JFC)は、政府で偽情報対策を包括的に担当する羅秉成(ロウ・ピンチェン)無任所大臣に話を聞いた。 選挙への偽情報の影響「多くは中国から」 ──台湾総統選は世界的な関心を集めました。特に偽情報の拡散と中国からの影響への注目が高かったですが、実際にはどのような影響があったのでしょうか。 「明確な指標を示すのは難しいが、私たちは偽情報が選挙にある程度影響したと分析しています。その多くは中国からです」 ──具体的なデータはありますか。 「様々なデータがありますが、例えば、(民間研究機関の)台湾AIラボがTikTokについて分析したところ、中国に関連して拡散した主なコンテンツの62%が中国に対して好意的で中国による台湾統一を肯定する内容でした。逆に台湾に言及するコンテンツの95%が否定的で、民進党が台湾を破滅させるなどのものでした。次期総統に選ばれた民進党の賴清徳(ライチントー)氏に対しては67%
災害時に広がる偽情報5つの類型 地震や津波に関するデマはどう拡散するのか
地震や津波、洪水など大きな災害が発生すると、偽情報や根拠のない情報が拡散します。事実と異なる投稿や不確かな救助要請は、本当に助けを必要としている人たちへの支援を遅らせたり、妨げたりする恐れがあります。拡散しがちな偽情報・誤情報のパターンを知って、支援を妨げないようにしましょう。 災害時の偽情報の5類型 実際と異なる被害投稿 災害時に最も多く見られるのが、偽の被害報告だ。2024年1月1日の能登半島地震では、2011年の東日本大震災の津波の映像を使って、まるで能登半島地震の被害のように投稿する事例が相次いだ(例1、例2、例3、例4、例5 、例6)。 例2と例3を投稿した2つのアカウントは添付動画は異なるが、投稿文言は同じで「津波到達になった瞬間NHKのアナウンサーがすごい怒鳴ってる!危機感の伝わってくるアナウンスなので北陸新潟能登半島の方逃げてください」と書かれている。投稿内容をコピーしたと見られる。 例5の投稿は「石川県能登に大津波警報逃げろ」という文言に「#東日本大震災」というハッシュタグもついている。映像は東日本大震災のものだと示唆しているように読

拡散するであろう偽・誤情報を想定し、事前に正確な情報を発信する手法をプレバンキング(事前の検証)と呼びます。先に誤った情報を目にしてしまうと、それを事実だと受け止めがちです。JFCが国際大GLOCOMと実施した2万人を対象とした調査では、平均で51.5%が「正しい情報」と受け止められていました。

プレバンキングは事前に正しい情報を広げることで「情報のワクチン」の効果を狙います。JFCでは福島第一原発からの処理水の海洋放出や選挙の際などに実施しています。

福島第一原発の処理水と汚染水の違いは何?海洋放出は危険?【ファクトチェックまとめ】
日本政府が夏ごろに始める方針を示している福島第一原発の処理水の海洋放出に関して、国内外で不確かな情報が拡散しています。処理水とは何か。環境への影響は。ファクトチェックのポイントをまとめました。 ※新たな誤情報の検証を更新していきます(最終更新2023年12月13日)。 参照資料は、各省庁や東京電力から、また、2023年7月4日に公開された国際原子力機関(IAEA)の「福島第一原子力発電所ALPS処理水の安全審査に関する包括的報告書(以下、IAEA報告書)」などです。 処理水か汚染水か 2011年3月11日の東日本大震災による津波で、福島第一原発ではウラン燃料を冷やすことができなくなる事故が起きました。燃料は格納容器内で溶け、今も温度を下げるための冷却水をかけ続けています。使用された水は放射性物質で汚染され、雨水などと混ざって毎日約90トンずつ増えています。これを「汚染水」と呼びます。 汚染水は原発の施設内に並ぶ1000基を超える巨大タンクに貯められますが、2024年の前半にはタンク容量に限界が来る見込みです。日本政府は、トリチウムを除く62種類の放射性物
総選挙で拡散した/する偽・誤情報への「情報のワクチン」【解説】
総選挙がいよいよ始まります。すでに政党や候補者に関する偽・誤情報が次々と拡散し、日本ファクトチェックセンター(JFC)は連日検証記事を出しています。すでに拡散したものだけでなく、これから拡散が予想される偽・誤情報も事前にまとめて解説します。 「情報のワクチン」を打つプレバンキング 事前に拡散が予想される偽・誤情報について解説し、人が実際にデマや不確かな情報に接した際の抵抗力を高める手法を「プレバンキング」と言う。 ウイルスに感染しないように事前に備える「情報のワクチン」とも言える手法で、事後的に情報を検証するファクトチェックよりも効果が高いという指摘もある。 筆者(古田)が「選挙で拡散する偽・誤情報、AIの影響は? 標的は候補者だけでなく民主主義」で解説したように、選挙に関する偽・誤情報には世界共通とも言える一定のパターンがある。 今回の記事ではこの類型に基づいて、すでに拡散したものやこれから拡散するものを具体的に紹介・検証し、プレバンキング記事とする。 政党・候補者を直接の標的とした情報 自分が支持する政党や候補を有利にするため、逆に対立する陣営

ファクトチェック動画

情報消費の中心はテキストから動画に変化しています。偽・誤情報も動画で拡散するものが非常に多いため、JFCではファクトチェック動画も配信しています。

2024年10月現在、月に4本のショート動画を YouTubeやTikTokなどで配信しています。今後は他国のファクトチェック組織の手法も参考にしながらAI編集を取り入れ、さらに拡大する予定です。

日本ファクトチェックセンター
Japan Fact-check Center(JFC)は、ファクトチェック(事実の検証)を専門とする非営利組織です。民主主義の基盤となるインターネット上の言論空間の健全性を維持、向上させることを目的として活動します。
@fact_check_jp

多様なプラットフォーム展開

偽・誤情報対策で重要なことの一つが、それが拡散するプラットフォームなどを用いて、必要とする人に広くファクトチェック記事や動画を届けることです。

JFCは自社サイトだけでなく、YouTubeやTikTokなどの動画プラットフォーム、XやFacebookやInstagramなどのSNSプラットフォームに記事や動画を配信。また、日本で最もユーザーが多いニュース・アグリゲーターであるYahoo!ニュースにも配信しています。

SEOによる「情報の空白」への対応

「偽・誤情報は事実よりも6倍早く拡散する」という2018年のMITの有名な研究があります。ただし、これはTwitter(現X)上でのことです。実際の情報の拡散や影響の広がりはより複雑です。

JFCが公開するファクトチェック記事の多くは、X上では検証対象の偽・誤情報よりも拡散しません。MITの研究も指摘するように、偽・誤情報の方が新規性や驚きなどの感情を刺激するからです。

しかし、Googleなどの検索結果では、違う状況が見えます。ファクトチェック記事の多くは、SNS上で一時的に広がる言説が書かれたウェブサイトなどよりも上位に表示されます。このことが中長期的に見て、同じような偽・誤情報が繰り返し拡散することを防ぎます。

例えば、2022年10月の発足時にJFCが検証し、根拠がなく誤りだと指摘した「ケムトレイル」という陰謀論があります。空に浮かぶ飛行機雲は実は化学物質(ケミカル)で飛行機雲(コントレイル)を装ったもので、人口削減を狙った毒物だという1990年代からアメリカで広がる陰謀論です。

JFCがこの記事を公開するまで、Googleの検索結果の上位には「ケムトレイルは危険だ」などと説明する個人のブログなどが表示されていました。現在はJFCの記事が常に上位に表示され、Googleからの検索で毎月数千人が読んでいます。

ケムトレイルという突拍子もない陰謀論について、真面目に解説する記事はこれまでほとんどなかった。そのために、Googleで「ケムトレイル」と検索すると、信頼性の低いサイトしか出てこなかった。これが「情報の空白」と呼ばれる現象です。

SNSに飛行機雲の写真とともに「ケムトレイルだ。危ない」という投稿があるのを見て、「ケムトレイルってなんだろう」と検索する。その結果、信頼性の低い情報を目にして陰謀論にハマる。JFCはSNSだけでなく、SEOも活用することで、この情報の空白を埋めることを目指しています。