フェイクニュースと情報源 国の隠蔽やメディアの誤報もある中で信頼できるのは【JFCファクトチェック講座 理論編7】

フェイクニュースと情報源 国の隠蔽やメディアの誤報もある中で信頼できるのは【JFCファクトチェック講座 理論編7】

日本ファクトチェックセンター(JFC)のファクトチェック講座です。

理論編第6回は国際的なファクトチェックのルールや偽・誤情報が拡散する背景にもある「ナラティブ」についてでした。第7回は信頼できる情報源について説明します。

(本編は動画でご覧ください。この記事は概要をまとめています)

インターネット情報の信頼性と判断

ファクトチェックや偽・誤情報に関して大学などで講義をしていると、必ず質問されるのが「絶対に間違えない信頼できる情報源はどこですか?」

残念ながら、絶対に間違えず、中立・客観・公平で、あなたに必要なものが全て揃っているような情報源は存在しません。

情報発信のプロである新聞やテレビなどのマスメディアも誤報を流します。国が情報を隠蔽したり、改ざんしたりした事例もあります。

全ての意思決定は情報から

しかし、国も報道機関も何もかも信用できないとなると、日々の生活に困ります。

明日の天気、事件や災害時の対応、家をどこに買うか、何に投資するか、ワクチンを打つか、どうすれば健康になれるか、将来のために何を勉強しようか、誰に投票しようか...。

政治経済から日々の生活に至るまで、全ての意思決定はあなたがこれまでに接してきた情報をもとに判断しています。全ての情報源を信用できずに見なくなるとすると、見知らぬ街を勘だけで歩くようなものです。

だからこそ、クリティカルシンキング

完璧で万能な情報源はない。

だからこそ、確らしさが比較的ありそうな情報源を複数比較し、自分のバイアスを意識し、自分はなぜこの情報が正しいと感じたのかと自問を繰り返す。

これこそがクリティカルシンキングです。

一般的に信頼されている情報は?

JFCと国際大グロコムの2万人調査で、様々な媒体への信頼度を6点満点で聞いてみました。

最も得点が高かったのは「家族・友人・知人との直接の会話」3.78点、次が「(ネット版含む)テレビ・新聞」3.77点、3位が「(ネット版含む)テレビ・新聞以外のマスメディア」3.36点でした。

一方で、「(コメント欄含む)ネットニュース」3.16点、「(コメント欄含む)動画共有サービス」2.76点、「メッセージアプリ」2.73点、「(コメント欄含む)個人のウェブサイトやブログ」2.70点、「SNS」2.68点と、ネット・デジタル系の媒体やサービスは低い点数でした。

これはその他の調査でも同様の傾向が見て取れます。

最も信頼されている情報経路で偽・誤情報が拡散

ここで理論編1を思い出してください。

偽・誤情報を見聞きした後の拡散手段として、最も多かったのが「家族・友人・知人との直接の会話」48.1%です。「SNSでの共有」27.0%を大きく上回っていました。

最も偽・誤情報を共有しがちな口コミが、最も信頼されているということです。

近しい人を信じたい気持ちは理解できますが、又聞きや思い込みや言い間違いやうろ覚えかもしれません。関係が近いかどうかは情報の確らしさを保証しません。信頼と情報の精度は別に考える必要があります。

素性を知るだけでわかる事例も

情報元ではなく、情報そのものの確からしさを確認するのが基本的な考え方ですが、発信者の素性を調べるだけで情報が間違っているとわかることもあります。

3つのポイントがあります。「誰が発信したか」「いつの情報か」「目的は何か」。

例えば、能登半島地震の時に偽の被害報告や救助要請が拡散しました。そのアカウントの前後の投稿を確認すると、直前まで日本語以外で投稿しているのに、突然日本語で「能登半島にいます。家の中で閉じ込められています」と投稿している人がいました。これは怪しいです。

また、投稿画像を検索してみたら、東日本大震災の画像だった。これもすぐにわかります。しかし、実際にはそういった簡単にわかる投稿すら、何千、何万とシェアされていました。

政治的な利益を得たい、経済的な利益を得たい、目立ちたいなどの理由でデタラメを流す人たちがいる。素性不明のアカウントが流している情報については、常に「誰?」「いつ?」「なぜ?」を考えましょう。

さらに、知人の情報もそういった、氏素性のわからない人が情報元である可能性があります。

情報を確認するポイント「だいじかな」

アメリカ図書館協会が提唱したCRAAPテストというものがあります。情報を確認するポイントを示したものです。

日本語では「誰?」「いつ?」「事実」「関係性は?」「なぜ?」の頭文字で「だいじかな」という風に紹介されています。

このように確認ポイントを押さえておくのは重要ですが、弱点もあります。

 国や公的機関の情報の信頼性

国や公的機関の情報は民主主義国家の基礎として、信頼性が高いことが期待されており、実際にGoogle検索などでも上位に表示されます。

ただし、全てが公平中立で正確であるとは限りません。一党独裁国家の発信のようなものもありますし、国に利害関係のある情報もあります。

だからこそ、個別に情報の正しさを確認する必要があります。報道機関の発信でも同様です。

ニュースガードの信頼性評価

アメリカにはニュースサイトの信頼性を評価するNewsGuardというサービスがあります。

「誤報やミスリードを繰り返し報じていないか」「ニュースとオピニオンを明確に区別しているか」「連絡先やプロフィールも含めてコンテンツ制作者の名前を出している」など9つの項目で採点しています。

ニューヨーク・タイムズやBBCなどの世界的に有名なメディアでも満点ではありません(2024年7月15日現在)。信頼度の高いメディアでも間違いや偏りが全くないわけではありません。

複数の情報源を比較して確認することが重要です。

次回はニュースリテラシーについて

比較的信頼性が高い情報源と言っても、読み方を知らなければ誤解する可能性もあります。次回はニュースの成り立ちや読み方など、ニュースリテラシーについて解説します。

アンケートにご協力を

動画を見た方は、ぜひ簡単なアンケートにご協力ください。 https://forms.gle/QdVa9A5v3RDnfBW59

検証手法や判定基準については、JFCファクトチェック指針をご参照ください。検証記事を広げるため、SNSでの拡散にご協力ください。XFacebookYouTubeInstagramのフォローもお願いします。毎週、ファクトチェック情報をまとめて届けるニュースレター登録はこちらからどうぞ。

また、こちらのQRコード(またはこのリンク)からLINEでJFCをフォローし、真偽が気になる情報について質問すると、AIが関連性の高い過去のJFC記事をお届けします。詳しくはこちらの記事を

もっと見る

立花氏の投稿削除と新聞のファクトチェック/コロナワクチン ロットによって接種者全員死亡?/拡散続く兵庫県知事選の偽情報【今週のファクトチェック】

立花氏の投稿削除と新聞のファクトチェック/コロナワクチン ロットによって接種者全員死亡?/拡散続く兵庫県知事選の偽情報【今週のファクトチェック】

元兵庫県議の急死をめぐる自らの投稿を立花孝志氏が投稿を削除しましたが、その背景に新聞によるファクトチェックがありました。去年11月の兵庫県知事選挙で、県警内部で斎藤氏以外の候補を応援するよう通達が出たという誤った情報を姫路市議が拡散させました。川田参院議員の発言で拡散したコロナワクチンの特定のロットで接種者全員が死んでいるという情報を検証しました。官民共同で偽・誤情報対策のためのリテラシー向上の啓発活動が始まることになりました。 ✉️日本ファクトチェックセンター(JFC)がこの1週間に出した記事を中心に、その他のメディアも含めて、ファクトチェックや偽情報関連の情報をまとめました。同じ内容をニュースレターでも配信しています。登録はこちら。 JFCからのお知らせ セミナー「新たなテクノロジーと偽情報 -AIの脅威と活用-」中止 1月30日に予定していたセミナー「新たなテクノロジーと偽情報 -AIの脅威と活用-」(共催:日本ファクトチェックセンター(JFC)、Code for Japan、早稲田大次世代ジャーナリズム・メディア研究所、協力:アメリカ大使館)は、

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
トランプ米大統領「まず潰すべき国はメキシコ、カナダ、中国、そして日本だ」と発言? まとめサイトによるもの【ファクトチェック】

トランプ米大統領「まず潰すべき国はメキシコ、カナダ、中国、そして日本だ」と発言? まとめサイトによるもの【ファクトチェック】

トランプ米大統領が「まず潰すべき国はメキシコ、カナダ、中国、そして日本だ」と発言したとする投稿が拡散しましたが、誤りです。トランプ大統領の実際の発言ではありません。掲示板サイトのスレッドタイトルを引用しているだけです。 検証対象 2025年1月21日、「🚨トランプ「まず潰すべき国はメキシコ、カナダ、中国、そして日本だ」/🔥🔥🔥日本🇯🇵ランクイン🔥🔥🔥」というポストがX上で拡散した。このポストは2025年1月24日現在、405.9万回以上の表示回数と3100件以上のリポストを獲得している。 検証過程 日本ファクトチェックセンター(JFC)が「トランプ氏の発言」として拡散した「まず潰すべき国はメキシコ、カナダ、中国、そして日本だ」をGoogle検索で調べたところ、掲示板サイト5ちゃんねるのスレッドのタイトル「トランプ『まず潰すべき国はメキシコ、カナダ、中国、そして日本だ』」と完全に一致した。 拡散した投稿とこのスレッドはともに2025年1月21日に投稿されている。このスレッドには以下のスクリーンショットが添付されている。 「トランプ氏の

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
厚労省審議会の委員に年間1845万円の報酬?常勤の特別職と混同(修正あり)【ファクトチェック】

厚労省審議会の委員に年間1845万円の報酬?常勤の特別職と混同(修正あり)【ファクトチェック】

厚生労働省の社会保障審議会の委員の報酬が年間で1845万円だという情報が拡散しましたが、誤りです。この審議会の委員は非常勤で会議開催ごとに謝金が支払われ、その額は1日最大1万9700円です。 検証対象 2025年1月20日、厚労省の社会保障審議会年金部会の委員一覧表と国家公務員特別職の給与一覧とともに「本当に日本政府はクソだな なんで社会保障を審議する委員が年に1845万ももらえるんだ?都合の良い事をいってもらう為だろ?」という情報が拡散した。 この投稿は、59万以上のインプレッションのほか、1500以上のリポストがあり「こいつらの報酬だけで4億円かかってるってこと? こんなのが無数にあるんだからいくら税金あってもたりないよな」「一般市民でこんなに年収もらえる人、どんなに真面目に働いても極々僅かですわ…」といったコメントがついていたが、22日夜この投稿は削除された。 この投稿に対して、委員一覧の中で赤い線が引かれていた委員の1人たかまつなな氏は、Xに誤りだとして、削除と訂正を求める投稿をした。 検証過程 日本ファクトチェックセンター(JFC)が拡散し

By 宮本聖二
立憲民主・野田代表「弱い人を助けるための政治はもう終わり」と発言? 切り取りでミスリード【ファクトチェック】

立憲民主・野田代表「弱い人を助けるための政治はもう終わり」と発言? 切り取りでミスリード【ファクトチェック】

立憲民主党の野田佳彦代表が「弱い人を助けるための政治はもう終わり」と話したかのような情報が拡散しましたが、ミスリードで不正確です。発言の一部を切り取って原文と異なる印象を与えています。 検証対象 2025年1月22日、「もう政治家やめてくれ」という文言と共に、立憲民主党の野田代表が「弱い人を助けるための政治はもう終わり」と発言しているような画像が拡散した。 2025年1月24日現在、この投稿は1.3万回以上リポストされ、表示回数は270万回を超える。投稿について「弱い人を助けるのが、政治の役目だろ」「こんな奴を代表にするな」というコメントの一方で「切り取りだね、これ」という指摘もある。 検証過程 画像の左上には「MBS NEWS」、右上には「立憲野田新代表選出『政権をとりにいく』」という文言がある。 毎日放送報道情報局が運営するYouTubeチャンネル「MBS NEWS」を確認すると、文言が一致する動画「『打倒自民党。戦いの準備を進めていきます』立憲新代表の野田佳彦氏 27日には自民党総裁選(2024年9月23日)」が見つかる。 2024年9月に投

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)