偽動画をファクトチェック InVIDやYouTube検索のコツ【JFC講座 実践編4】

偽動画をファクトチェック InVIDやYouTube検索のコツ【JFC講座 実践編4】

日本ファクトチェックセンター(JFC)のファクトチェック講座です。

実践編第3回は、偽・誤情報でよく見かける画像の検証についてでした。第4回は増加傾向にある偽動画の検証について解説します。

(本編は動画でご覧ください。この記事は概要をまとめています)

動画の検証もオリジナル探しが鍵

動画は画像と並んで画像と並んで偽・誤情報に用いられやすい形式です。過去の災害動画を現在のものとして使ったり、オリジナルを改変したり、生成AIで捏造したりと、手法も偽画像と共通しています。

検証の手法も動画と画像と同様にオリジナルを探すことが鍵となりますが、Google画像検索のようなシンプルな検索ツールが動画にはありません。

ここでのポイントは動画も、タイトルなどのテキストや、サムネイルなどの画像で管理されているということです。これを利用してオリジナルを探します。

動画の検証 Googleレンズ

実際の事例を元に解説します。

(能登半島地震)過去の津波映像や人工地震説など【ファクトチェック】
2024年1月1日午後4時10分ごろ、石川県能登地方を震源とする最大震度7の地震が発生し、石川県を中心に大きな被害が出ました。この地震について、漁港や街中に津波が押し寄せる様子として過去の動画がアップされたり、人工地震だとの誤った主張が多数拡散したりしました。 検証対象 2024年1月1日に発生した能登半島地震に関して、SNS上で過去の映像や無関係な映像を能登半島地震と結びつける投稿が多数拡散した。 発生から約1時間後の1月1日午後5時には、「石川県で震度5強の地震発生 津波こわい」というコメントと共に漁港に押し寄せる津波の映像がX(旧Twitter)に投稿され、閲覧数は7万3千件を超えた。1月3日時点で、この映像は削除されている。 この地震発生から約2時間後の午後6時には、「地震による津波の映像 堤防超えてます逃げて」というコメントとともに、街中に津波が押し寄せる映像の投稿があった。 3時間後の午後7時過ぎには、「人工地震動画:能登半島沖地震」というコメントと、海面から衝撃音と共に水が噴き上がる映像が投稿された。閲覧数は1月3日午前10時現在で91万を

能登半島地震の時に拡散した津波動画の多くは、東日本大震災の映像を使ったものでした。オリジナル動画を探してみます。画像の検証と同じく、ここでも使うのはGoogleレンズです。

しかし、X(旧Twitter)で画像の検証と同じように動画の上で右クリックをすると「動画のアドレスをコピー」という選択肢が出てきてGoogleレンズが使えません。

ここでの工夫として、動画以外の場所で右クリックをしてみましょう。そうすると、「Googleレンズを使用して検索する範囲を選択します」という案内が出てきます。これで動画の部分を選択して検索することが可能になります。

あとは画像と同じです。同じようなシーンがある動画が検索結果に並ぶので、探していくとこれが東日本大震災の映像であることがわかります。

InVID WeVerifyを使う

実践編3「画像の検証で学んだInVID WeVerifyも動画の検証に利用可能です。便利な機能がたくさんあるので、Chromeに追加しておきましょう。

YouTubeやFacebookの動画であれば「Tools」にある「Video analysis」で分析してくれます。便利な機能として、動画の印象的なシーンを画像として切り出してくれるので、その画像を画像検索することで、オリジナル動画を特定できます。

YouTubeを活用したオリジナル動画の探し方

こちらも実例で説明します。

(動画)ビル・ゲイツが予防接種は間違いと認めた?【ファクトチェック】
「ビル・ゲイツが予防接種は間違いと認めた」という書き込み付きの動画が拡散しましたが、誤りです。動画につけられた日本語訳が間違っており、彼の実際の発言と内容が異なっています。 検証対象 「ビル・ゲイツが予防接種は間違いと認めた」という内容の動画はTwitterやTikTokなどで拡散している(例1、例2)。 再生回数が35万件、引用含むリツイートが5000回を超えているものもある。リプライ欄を見ても、この情報を信じている投稿が多数見られる。 検証過程 動画の中でビル・ゲイツ氏の後ろに映っているボードの文字から「92Y Bill Gates」と検索すると元動画「Bill Gates with Fareed Zakaria: How to Prevent the Next Pandemic」が見つかる。2022年5月4日に配信された配信された動画で、ゲイツ氏が新著に関連してパンデミックやワクチンについて、CNNのファリード・ザカリア氏の質問に答えている。 検証対象の動画は、元動画の計23分40秒から約40秒間を切り取ったものだ。 この約40秒間の発言の前

マイクロソフト創設者のビル・ゲイツ氏が「予防接種は間違いと認めた」という投稿が日本語字幕付きの動画とともに拡散しました。

ゲイツ氏は世界でワクチン普及を積極的に推進してきた人物として知られます。彼が本当にそういう発言をしたのか、オリジナル動画を探しました。

Googleレンズでは見つからなかったために、JFCは世界最大の動画プラットフォーム「YouTube」の検索機能でオリジナル動画を探しました。

探し方はシンプルです。ゲイツ氏の背景にある「92Y」という文字に着目しました。投稿されていた動画は画質が荒いですが、ゲイツ氏が講演しているように見えます。講演会場だとしたら、背景に映っている文字は、講演会の主催団体かイベント名の可能性があります。

YouTubeで「Bill Gates 92Y」と検索したところ、元動画「Bill Gates with Fareed Zakaria: How to Prevent the Next Pandemic」が見つかりました。確認すると、ゲイツ氏はワクチンについて肯定的に話しており、拡散された情報が誤りであることがわかりました。

しつこく、クリエイティブに検索する

偽・誤情報の検証方法は一つではありません。いろんな方法があります。オリジナル動画を見つける方法も様々です。

1回の検索で見つからなくても、検索語句を変えたり、サーチオペレーターを使ったり。あるツールが機能しなければ、別の手法を使う。2,3回の検索で見つからないからといって、オリジナルが存在しないとは限りません。あなたの検索能力に限界があっただけかもしれない。

だからこそ、様々な手法を学び続けましょう。便利なツールは数ヶ月単位で機能が改善されていきます。InVID WeVerifyには偽音声の検証機能も付加されました。そちらも別の機会に解説します。

次回はAIと偽情報

次回は、近年話題の生成AIで作られる偽情報の検証について解説します。

アンケートにご協力を

動画を見た方は、ぜひ簡単なアンケートにご協力ください。 https://forms.gle/QdVa9A5v3RDnfBW59


判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。

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ヒカキン氏「サリンは撒かれてよかったと思う」と発言? 捏造した画像【ファクトチェック】

ヒカキン氏「サリンは撒かれてよかったと思う」と発言? 捏造した画像【ファクトチェック】

YouTuberのヒカキン氏が「サリンは撒かれてよかったと思う」と発言したという情報が拡散しましたが、誤りです。ヒカキン氏は過去にそのような投稿をしていません。投稿したアカウントは過去にもヒカキン氏の誤情報を拡散しています。 検証対象 2025年4月22日、「麻原大好きなHIKAKINマジでエグい」という文言と共に、ヒカキン氏のXアカウントが「サリンは撒かれて良かったと思う 今の政治は日本の魚介ぐらい終わってるからな みんなも今は亡き真の聖人麻原様に敬意を払おう」と発言しているかのような画像付き投稿が拡散した。 2025年4月24日現在、この投稿は1000件以上リポストされ、表示回数は615万回を超える。投稿について「ヒカキンさんを見る目が変わったわ」「これガチならエグすぎる」というコメントの一方で「HIKAKINの名を使ってこの記事はやり過ぎ」という指摘もある。 検証過程 投稿主は過去にも誤情報を拡散 今回拡散した投稿を発信した「麻原彰晃名言bot」は、オウム真理教の元代表麻原彰晃(本名・松本智津夫)元死刑囚の名言を紹介するbotを名乗っている。

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
日本は車の安全試験でボンネットにボウリング球を落とす?  過去に否定された誤情報【ファクトチェック】

日本は車の安全試験でボンネットにボウリング球を落とす? 過去に否定された誤情報【ファクトチェック】

アメリカのトランプ大統領が各国との関税交渉に関連して、非関税障壁の一例として日本ではボウリング球を車に落とす安全試験があると主張しましたが、誤りです。過去にも検証された誤情報です。 検証対象 4月20日、トランプ氏は自らが設立したソーシャルメディアTruth Socialで各国の非関税障壁の例を8つ記して投稿した。6番目に「Protective Technical Standards(保護技術基準)」として「Japan’s bowling ball test(日本のボウリング球テスト)」を挙げている。 検証過程 トランプ氏は、大統領1期目の2018年に同様の発言をしていた。ワシントンポストの当時の記事によると、日本では車体の耐久性を確認するために「ボーリング球テスト」があり、「車のボンネットに20フィート(約6メートル)の高さからボウリング球を落としてへこんだら不合格になる」と演説したという。 ボウリングボールを落とすテストはない 国土交通省によると、日本の自動車の製造・販売業者は、国が定める安全や環境の基準について、43項目の審査に合格したうえで

By 宮本聖二
大阪万博のリング、木材の大半は海外産? 7割が国産【ファクトチェック】

大阪万博のリング、木材の大半は海外産? 7割が国産【ファクトチェック】

前名古屋市長の河村たかし衆院議員が「万博の目玉リング、木の大半は海外産」と投稿しましたが、誤りです。同様の情報はこれまでにも拡散し、設計者自らが否定。公式サイトにも「国産7割、外国産3割」と記されています。 検証対象 2025年4月21日、前名古屋市長の河村たかし氏の「万博の目玉リング、木の大半は海外産だそうで、名古屋城は違います!」という投稿が拡散した。 投稿には河村氏自身のYouTubeアカウントに投稿された動画が添付されている。2025年4月23日現在、動画の視聴回数は6000回超。投稿は1500件以上リポストされ、表示回数は110万件を超える。 検証過程 動画の中で河村氏は、名古屋城の復元について解説。万博の名物となっているリング状の建造物について「全部国産材の名古屋城の木材と全然違いますね」などと発言している。 日本ファクトチェックセンター(JFC)が、大阪・関西万博公式Webサイトを確認したところ、大屋根リングについて「使用木材:(国産)スギ、ヒノキ(外国産)オウシュウアカマツ ※国産が約7割、外国産が約3割」という記載がある。 リング

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
新型コロナのレプリコンワクチンは死亡率がファイザー製の75倍? 元資料の誤読【ファクトチェック】

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新型コロナのワクチンについて、レプリコンはファイザー製に比べて死亡率が75倍だという情報が拡散しましたが、誤りです。厚労省の資料をもとに主張していますが、これは副反応疑いの件数で因果関係が立証されたものではなく、また、死亡報告2件は、のちに製造元が「ワクチンとの因果関係を医師が否定した」という理由で報告を取り下げています。 検証対象 2025年4月17日、「レプリコンはファイザー製の75倍の死亡率」という投稿が拡散した。投稿には表も添付され、製薬会社ごとに接種者の「重篤」と「死亡」の報告数の比率を比べている。 4月21日現在、8万2000を超える閲覧と1200のリポストがついている。「こんなもん国民に打たせるな」「ワクチンじゃない、殺人兵器だ!!」などの他「真面目に副作用報告を収集しているから副作用発現率が高く見えてる可能性がありますね」という指摘もある。 検証過程 レプリコンワクチンとは レプリコンワクチンは、日本の製薬企業Meiji Seikaファルマが開発製造しているmRNAワクチン。mRNAが体内で複製されて増えるため、従来のmRNAワクチ

By 宮本聖二

ファクトチェック講座

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

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日本ファクトチェックセンター(JFC)は、ファクトチェックやメディア情報リテラシーに関する講師養成講座を月に1度開催しています。講座はオンラインで90分間。修了者には認定バッジと教室や職場などで利用可能な教材を提供します。 次回の開講は5月28日(日)午後2時~3時半で、お申し込みはこちら。 https://jfcyousei0518.peatix.com/view 受講条件はファクトチェッカー認定試験に合格していること。講師養成講座は1回の受講で修了となります。 受講生には教材を提供 デマや不確かな情報が蔓延する中で、自衛策が求められています。「気をつけて」というだけでは、対策になりません。最初から騙されたい人はいません。誰だって気をつけているのに、誤った情報を信じてしまうところに問題があります。 JFCが国際大学グロコムと協力して実施した「2万人調査」では実に51.5%の人が誤った情報を「正しい」と答えました。一般に思われているよりも、人は騙されやすいという事実は、様々な調査で裏打ちされています。 JFCではこれらの調査をもとに、具体的にどのよう

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理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

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日本ファクトチェックセンター(JFC)は、YouTubeで学ぶ「JFCファクトチェック講座」を公開しました。誰でも無料で視聴可能で、広がる偽・誤情報に対して自分で実践できるファクトチェックやメディアリテラシーの知識を学ぶことができます。 理論編と実践編の中身 理論編では、偽・誤情報の日本での影響を調べた2万人調査の紹介や、間違った情報を信じてしまう背景にある人間のバイアス、大規模に拡散するSNSアルゴリズムなどを解説しています。 実践編では、画像や動画や生成AIなど、偽・誤情報をどのように検証したら良いかをJFCが検証してきた事例から具体的に学びます。 JFCファクトチェッカー認定試験を開始 2024年7月29日から、これらの内容について習熟度を確認するJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。誰でもいつでも受験可能です(2024年度中は受験料1000円、2025年度から2000円)。 合格者には様々な技能をデジタル証明するオープンバッジ・ネットワークを活用して、JFCファクトチェッカーの認定証を発行します。 JFCファクトチェッカー認定試験

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JFCファクトチェッカー認定試験  教材と申し込みはこちら

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日本ファクトチェックセンター(JFC)はJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。YouTubeで公開しているファクトチェック講座から出題し、合格者に認定証を授与します。 拡散する偽・誤情報から身を守るために 偽・誤情報の拡散は増える一方で、皆さんが日常的に使用しているSNSや動画プラットフォームに蔓延しています。偽広告や偽サイトへのリンクなどによる詐欺被害も広がっています。 JFCが国際大学グロコムと実施した2万人を対象とする調査では、実際に拡散した偽・誤情報を51.5%の割合で「正しいと思う」と答え、「誤っている」と気づけたのは14.5%でした。 自分が目にする情報に大量に間違っているものがある。そして、誰もが持つバイアスによって、それが自分の感覚に近ければ「正しい」と受け取る傾向がある。インターネットはその傾向を増幅する。 だからこそ、ファクトチェックやメディアリテラシーに関する知識が誰にとっても必須です。 JFCファクトチェック講座と認定試験 JFCファクトチェック講座(YouTube, 記事)は、2万人調査を元に偽・誤情報の拡散経路や

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