偽画像をファクトチェック GoogleレンズやTinEyeの使い方【JFC講座 実践編3】

偽画像をファクトチェック GoogleレンズやTinEyeの使い方【JFC講座 実践編3】

日本ファクトチェックセンター(JFC)のファクトチェック講座です。

実践編第2回は、検証の最大の武器である「検索」についてでした。第3回は偽・誤情報でよく見かける画像の検証についてです。

(本編は動画でご覧ください。この記事は概要をまとめています)

画像検証で重要なのはオリジナル探し

画像を使った偽・誤情報で多いのは、例えば、過去の画像を現在のものとして使ったり、オリジナルを改変したりする事例です。

そこで重要になるのが、検証したい画像と似ている画像を探す「画像検索」です。簡単なツールを知っているだけで、オリジナル画像を効率的に探すことができます。

JFCとGLOCOMが実施した2万人調査では、画像検索をする人は偽情報に気づきやすく、拡散しにくいことがわかりましたが、実践している人はわずか6.7%。画像検索を知らない人が多いのが現状です。

Google画像検索の使い方

まずは最も手軽に使えて強力なGoogle画像検索を説明します。実際の検証記事をもとに説明します。

反原発デモの空撮、報道されなかった?別のデモの写真【ファクトチェック】
「反原発デモの空撮」とされる写真が「当時メディアが報じず、国民は知らなかった」などという文言とともに拡散しました。これは誤りです。写真は2015年の安保関連法案に反対する集会を共同通信など国内メディアが撮影した光景で、多数のメディアが報じています。 検証対象 拡散したツイートには、国会正門前がデモ参加者で埋め尽くされている様子を空撮した写真が添付されている。ツイートには以下の文言がある 安倍政権時代は少なくとも3回以上、この規模のデモはあった。 でも、ほとんどの国民は知らなかった。 mediaが報じなかったから。 また、「この画像が世界中に流れてから、警察は民間のヘリによる空撮を禁止した」とも書かれている。 投稿は4月11日時点で240万回以上表示され、1万2000RTを超えている。返信欄には報道を見たという意見もある一方、「こんなのあったの知らなかった」などの反応もあった。 検証過程 この画像を右クリックし、Googleレンズで検索してみると、ほぼ同じ構図の写真を掲載した記事が複数見つかる(例1、例2、例3、例4)。記事や写真のキャプションによる

Google画像検索の使い方は簡単です。最も利用されているブラウザの「Chrome」であれば、調べたい画像を右クリックして「Googleで画像検索」を選ぶだけです。

画面の右側に「Googleレンズ」が表示され、画像検索の結果が出てきます。

この他にも「Google画像検索」と検索して、そのページからカメラのアイコンをクリックして画像をアップロードする方法もあります。

岸田首相の画像を検証

看護師が完全防護服を着ている横で岸田首相がマスクだけをしている画像が拡散しました。この画像の真偽を調べるためにGoogle画像検索を使っています。

看護師さんが完全防護服で岸田首相が形だけマスク する画像?【ファクトチェック】
新型コロナウイルスに関連し、「看護師さんが完全防護服でやってる横で(岸田文雄首相が)形だけマスクをつけて佇んでる コロナは茶番」という言説が画像とともに拡散しましたが誤りです。画像は岸田首相が治験の実演を視察する様子です。 検証対象 2024年2月11日、「看護師さんが完全防護服でやってる横で形だけマスクをつけて佇んでるどこがのバカ まさしくコロナは茶番🤣」という画像付き言説が拡散した。画像にはベッドに横になる男性に防護服で対応する女性と、マスクをつけた岸田首相が写っている。 2024年2月19日現在、このポストは1000回以上リポストされ、表示回数は29万回を超える。投稿について「完全なパフォーマンス」というコメントの一方で「訓練じゃない?」と指摘する声もある。 検証過程 添付された画像はいつ、どこで撮影されたものなのか。Google画像検索をすると、首相官邸のサイトで同一の画像が見つかった。 この画像は2021年10月10日、岸田首相が神奈川県の宿泊療養施設を視察している様子を撮影したものだ。サイトには「総理は、宿泊療養等の説明を受けた後、治験

検証対象の画像をGoogle画像検索で探してみます。画像の上で右クリックです。

右側のGoogleレンズの欄には、X(旧Twitter)の文言の部分も含んだ画像が出てきてしまっているので、画像の検索範囲を写真の部分だけに指定して「この画像を検索」をクリックします。

検索結果の中から関係がありそうなコンテンツのリンクを開いてみましょう。

例えば、2021年10月10日付の産経新聞の記事を開いてみると、検証対象の画像と少しだけ角度が違う写真が掲載されています。

そこには「10日午前9時59分、横浜市内」と撮影場所と日時が書かれており、「治験デモンストレーション」を見守っているとキャプションがついています。

実践編2「検索」で学んだ手法を活用して「site:go.jp 岸田 コロナ デモンストレーション after:2021-10-01 before:2021-10-20」などと検索してみましょう。首相官邸サイトに同じ写真があることがわかります。

TinEyeで古い画像を探す

もう一つ便利なツールとしてTinEyeを紹介します。これも実際の記事に基づいて解説します。

稲田議員と皇室がチマチョゴリを着ている?【ファクトチェック】
Twitter上で、稲田朋美衆院議員と皇室が朝鮮の伝統衣装であるチマチョゴリを着ている画像が拡散していますが、これは合成画像です。 検証対象 2023年1月2日に「このファッション上級国民の間で流行ってるの??(^∇^)」という文言とともに下の画像がTwitter上で拡散された。 稲田議員がチマチョゴリを着ている画像と、皇后さま・長女愛子さまがチマチョゴリを着ている画像がそれぞれ添付されている。ツイートに対しては「合成ですね」というコメントが多くついている。 検証過程 稲田議員の画像を、画像検索ツールTinEyeで調べてみると、最も古い類似画像でabc newsの2016年8月5日付けの記事「Japan’s New Defense Minister Courts Controversy, Refuses to Acknowledge War Atrocities」が見つかる。画像はAPのもので写真説明には「日本の稲田朋美・新防衛大臣が就任初日に防衛省で儀仗兵を視察(2016年8月4日)」とある。稲田氏がチマチョゴリを着ている画像は、これを元に合成して作

Google画像検索でオリジナル画像を探そうとすると、検索結果にチマチョゴリの商品画像がたくさん出てきて、稲田議員の画像がなかなか見つかりません。

Google画像検索は非常に強力なツールのため、似ている画像を大量に集めてくれます。その分、オリジナル以外の画像が集まりすぎて、逆に探すのが難しいという事例がよくあります。

そういうときに役立つのがTinEyeです。検索するとすぐに出てきます。画面はGoogle画像検索と似ています。

検証したい画像をダウンロードしたり、スクリーンショットを撮ったり(手法は機材によって変わるので検索してみてください)して、アップロードすることで利用できます。


TinEyeが優れているのは「Sort(並べ替え)機能」があることです。

古い順番に並べる「Sort by oldest」を選ぶことで、似ている画像の中で最も古くネットにアップされた画像が見つかります。それがオリジナルの可能性が高い画像です。

Chrome拡張機能を使う

毎回、画像をダウンロードしたり、スクショを撮ったりするのはめんどくさいですね。

そういうときに便利なのが、Chromeの拡張機能です。Chromeに追加することで、様々な機能をChrome上で簡単に使えるようになる機能で、これが便利なので、世界中のファクトチェッカーの多くはChromeを使っています。

TinEyeを簡単に使う拡張機能は「InVID-WeVerify」です。検索すると「chromeウェブストア」からChoromeに追加するページが見つかります。

これを追加しておくことで、Google画像検索と同じように、画像の上で右クリックをするだけで、Google画像検索、TinEyeなどの主要な画像検索ツールを一気に使うことが可能になります。

次回は動画の検証

次回は、動画の検証方法について説明します。こちらも画像と同様に、ツールやコツを覚えるだけで効果的に検証できます。

アンケートにご協力を

動画を見た方は、ぜひ簡単なアンケートにご協力ください。 https://forms.gle/QdVa9A5v3RDnfBW59


判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。

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自民党・小泉進次郎氏が「消費税15%待った無し」と発言? 誤情報の再拡散【ファクトチェック】

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自民党総裁選に立候補を表明した小泉進次郎農林水産相が「消費税から逃げるな」「15%待った無し」などと発言したかのような動画が拡散しましたが、誤りです。2017年の記者会見の映像を恣意的に切り貼りしたもので、繰り返し拡散しています。元動画で、小泉氏はそのような発言をしていません。 検証対象 2025年9月8日、小泉氏が「原口さんにお願いしたいのは、消費税から逃げるなと。15%待った無しです」と発言したかのような動画がXで拡散した。 投稿は9月16日現在、371件のリポストと、9.6万回の表示を獲得している。 投稿には「やはり、馬鹿だ。何言っているか理解不能」「本当に『自民党なんていらない』」や「切り取りに決まってるだろ」などの指摘もある。 検証過程 誤情報の再拡散 日本ファクトチェックセンター(JFC)は2025年5月にも「小泉進次郎氏が消費増税を主張?」という同様の投稿を検証し、「誤り」と判定している(JFC.”小泉進次郎氏が消費増税を主張?恣意的な切り張り【ファクトチェック】”)。 動画は短いカットの切り貼り 拡散した動画は計45秒で、短

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メガソーラーにまつわる情報、すべて「誤り」とは言えない理由/JFC検証など11本【今週のファクトチェック】

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猛暑が続いた今年の夏は、太陽光発電に関わる誤情報が大量に拡散しました。「メガソーラーが温暖化の原因だ」というような投稿です。日本ファクトチェックセンター(JFC)は専門家らに取材して、すでにこれらの投稿が誤りであると検証しています。 一方で難しいのが「水害の原因だ」というような投稿です。被害の発生地と明らかに異なっている場合は「誤り」と言えますが、災害発生直後で、原因がはっきりしないことも多く、そのような場合は「根拠不明」、または、さらなる調査を待つ必要があります。 こういった情報は、太陽光発電など再生可能エネルギーに否定的な人たちの間で拡散する傾向がありますが、生態系の破壊を懸念する人たちの間でも広がります。メガソーラーが環境に与える影響については、慎重な検討が必要でしょう。 今週の解説記事は、ファクトチェックにとどまらず、メガソーラーが抱えるそういった課題も紹介しています。(古田大輔) ✉️日本ファクトチェックセンター(JFC)がこの1週間に出した記事を中心に、その他のメディアも含めて、ファクトチェックや偽情報関連の情報をまとめました。同じ内容をニュースレターで

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日本国籍じゃないと党員になれないと明記しているのは参政党だけ? 他政党にも同様の規定【ファクトチェック】

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党員や構成員が「日本国籍を有する者のみ」と明記している日本の政党は参政党だけという投稿が拡散しましたが、誤りです。他政党にも同様の規定があり、公式サイトに掲載されています。 検証対象 2025年9月9日、「日本の政党で党員や構成メンバーが『日本国籍を有する者のみ』と明記している政党は『参政党のみ』」という投稿がXで拡散した。 9月12日現在、投稿は3800回以上リポストされ、表示は17.3万件を超える。 投稿には「それが1番大事です」「他の党は候補者が帰化一世でも平気で国会議員にしてしまう」や「帰化人も日本国籍を有します」という指摘もある。 検証過程 参政党公式サイトの「入党資格」の欄には、「日本国籍を有する方」という記載がある。これは拡散した投稿が指摘している通りだ(参政党”党員規約および利用規約”)。 他の政党はどうか。日本ファクトチェックセンター(JFC)は、他の政党の党員資格を調べた。 自民党公式サイトの「入党」ページには入党資格として「満18歳以上で日本国籍を有する方」と書いてある(自民党”入党”)。 立憲民主党公式サイトの党員申し込

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自民・茂木氏「日本を韓国のような多様性のある多民族社会に変える事が必要!外国人に地方参政権を与える」と発言? 過去の発言を改変【ファクトチェック】

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自民党総裁選に立候補を表明している茂木敏充衆院議員が「日本を韓国のような多様性のある多民族社会に変える事が必要!外国人に地方参政権を与える」と発言したという情報が拡散しましたが、不正確です。2000年に「定住外国人に地方参政権を与える意見には賛成」と発信していますが「韓国のような多様性のある多民族社会」という発言はありません。 検証対象 2025年9月9日、「自民党総裁選へ出馬表明した茂木敏充『日本を韓国のような多様性のある多民族社会に変える事が必要!外国人に地方参政権を与える!』←なんで自民党ってこんなカスしかいないの?」という投稿が拡散した。 9月12日現在、この投稿は9980件以上リポストされ、表示回数は171万回を超える。投稿について「茂木終了」「国会議員の帰化人6割ってのもデマじゃないかも」というコメントの一方で「ハム速の付け足し」という指摘もある。 検証過程 引用されている発言は 検証対象のアカウントは、まとめサイト「ハムスター速報」の記事だ。記事は2000年7月13日に茂木氏の公式サイトに掲載された「e-デモクラシー ~若手政治家の気

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日本ファクトチェックセンター(JFC)は、ファクトチェックやメディア情報リテラシーに関する講師養成講座を月に1度開催しています。講座はオンラインで90分間。修了者には認定バッジと教室や職場などで利用可能な教材を提供します。 次回の開講は9月20日(土)午後2時~3時15分で、お申し込みはこちら。 https://jfcyousei0920.peatix.com/view 受講条件はファクトチェッカー認定試験に合格していること。講師養成講座は1回の受講で修了となります。 受講生には教材を提供 デマや不確かな情報が蔓延する中で、自衛策が求められています。「気をつけて」というだけでは、対策になりません。最初から騙されたい人はいません。誰だって気をつけているのに、誤った情報を信じてしまうところに問題があります。 JFCが国際大学グロコムと協力して実施した「2万人調査」では実に51.5%の人が誤った情報を「正しい」と答えました。一般に思われているよりも、人は騙されやすいという事実は、様々な調査で裏打ちされています。 JFCではこれらの調査をもとに、具体的にどの

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