ファクトチェックと教育 デジタル時代のリテラシー教育と総合的な対策【JFC講座 実践編10】

ファクトチェックと教育 デジタル時代のリテラシー教育と総合的な対策【JFC講座 実践編10】

日本ファクトチェックセンター(JFC)のファクトチェック講座です。

実践編第9回は、世界のファクトチェックの事例や新たな手法についてでした。JFCファクトチェック講座実践編の最終回となる第10回はファクトチェックから広がる総合的な偽情報対策について解説します。

(本編は動画でご覧ください。この記事は概要をまとめています)

ファクトチェックの限界

ファクトチェックには限界があります。検証には時間がかかるけれど、嘘は一瞬でつけるし、地味な事実よりも派手なデマの方が拡散力があり、広がります。理論編6でも説明した通りです。

表現の自由や言論の自由に関わる情報はファクトチェックの対象外ですし、検証をしても個々人のバイアスによって偽・誤情報を信じ続ける人もいます。

さらに、生成AIの進化により、このままでは人の目では検証できないレベルのコンテンツが大量に広がっていくでしょう。地道なファクトチェックだけで、この大きな問題に対応することは不可能です。

ファクトチェック団体によるリテラシー教育

ファクトチェックだけでは偽・誤情報に対抗できないため、世界中の多くのファクトチェック団体がメディア情報リテラシーの教育に取り組んでいます。

アメリカのMediaWiseは、デジタルメディアリテラシーの教育啓発に取り組んでおり、YouTubeで10代のメンバーがファクトチェッカーとして情報を検証する動画を公開しています。検証過程も説明し、同世代に関心を持ってもらおうという企画です。

台湾ファクトチェックセンターは、Google.orgから100万ドルの支援を受け、オンラインとオフラインの両方で メディアリテラシー教育を実践しています。

JFCファクトチェック講座と認定試験

JFCがYouTubeでJFCファクトチェック講座を公開しているのも同じ狙いです。

理論編ではファクトチェックだけでなく、偽・誤情報が拡散する背景にある人間のバイアスやデジタル社会のプラットフォームとアルゴリズムの役割なども解説し、メディア情報リテラシーに踏み込む内容となっています。

20本の動画全てを公開すると同時にJFCファクトチェッカー認定試験も開始します。JFCファクトチェック講座の内容に基づき、試験に合格した人にJFCファクトチェッカー認定バッジを付与いたします。

JFCファクトチェッカー認定試験 申し込みはこちら
日本ファクトチェックセンター(JFC)はJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。YouTubeで公開しているファクトチェック講座から出題し、合格者に認定証を授与します。 拡散する偽・誤情報から身を守るために 偽・誤情報の拡散は増える一方で、皆さんが日常的に使用しているSNSや動画プラットフォームに蔓延しています。偽広告や偽サイトへのリンクなどによる詐欺被害も広がっています。 JFCが国際大学グロコムと実施した2万人を対象とする調査では、実際に拡散した偽・誤情報を51.5%の割合で「正しいと思う」と答え、「誤っている」と気づけたのは14.5%でした。 自分が目にする情報に大量に間違っているものがある。そして、誰もが持つバイアスによって、それが自分の感覚に近ければ「正しい」と受け取る傾向がある。インターネットはその傾向を増幅する。 だからこそ、ファクトチェックやメディアリテラシーに関する知識が誰にとっても必須です。 JFCファクトチェック講座と認定試験 JFCファクトチェック講座(YouTube, 記事)は、2万人調査を元に偽・誤情報の拡散経路や

多岐にわたる偽・誤情報対策

偽・誤情報は広く社会に広がり、個々人の生活や民主主義社会そのものを揺るがします。その対策も、社会を挙げて取り組む必要があります。

「ファクトチェック」「メディアリテラシー教育」「信頼性の高い情報発信」「ルールの作成」「ツールの開発」「研究」「資金援助」

これらの対策を全てのステークホルダーが連携しつつ、強化する必要があります。

「ファクトチェック団体」「メディア」「政府」「研究機関」「有識者」「教育機関」「プラットフォーム」「ビジネス業界」「市民社会」

特にファクトチェック団体は、対策の多くの分野に直接・間接に関わることができる能力と知見を持っていますし、さらに成長していく必要があります。

ファクトチェックの未来

偽・誤情報の問題は何もしなければ間違いなく悪化していきます。ファクトチェックもJFCのような団体にとどまらず、この社会に生きる一人一人がその知見を身につけ、自衛していく必要があります。

技術が進化すれば、それを活用する偽・誤情報も広がり、ファクトチェックも進化していく必要があります。JFCでは日々の検証とともに、新たなファクトチェックやメディアリテラシーに関する情報発信を続けていきます。

アンケートにご協力を

動画を見た方は、ぜひ簡単なアンケートにご協力ください。 https://forms.gle/QdVa9A5v3RDnfBW59

検証手法や判定基準については、JFCファクトチェック指針をご参照ください。検証記事を広げるため、SNSでの拡散にご協力ください。XFacebookYouTubeInstagramのフォローもお願いします。毎週、ファクトチェック情報をまとめて届けるニュースレター登録はこちらからどうぞ。

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小泉進次郎氏「無理して大学行くな。例えば田舎の旅館の従業員とかになればいい」と発言? まとめサイトによる歪曲【ファクトチェック】

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自民党総裁選に立候補している小泉進次郎氏が「無理して大学行くな。例えば田舎の旅館の従業員とかになればいい」と発言したかのような言説が拡散しましたが、不正確です。2024年9月16日の討論会での小泉氏の「大学に行くのが全てじゃない」という発言を歪曲しています。 検証対象 2024年9月18日、自民党総裁選に立候補している小泉氏が「無理して大学行くな。求められているところはいっぱいある。例えば田舎の旅館の従業員とかになればいい」と発言して炎上したとする言説が拡散した。投稿には、まとめサイト「NewsSharing」のリンクがある。 9月19日現在、この投稿は1.7万件以上リポストされ、表示回数は854万件を超える。投稿について「悪気なく本気で思ってそう」「国民を馬鹿にしすぎ」というコメントの一方で「全文読むとだいぶ印象が違います」という指摘もある。 検証過程 まとめサイトの記事は、2024年9月16日にスポニチがYahoo!ニュースで公開した記事を参照元にしている。 このスポニチの記事は、自民党総裁選の立候補者9人による9月16日の金沢市での討論会を報じ

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
イワシやクジラの漂着は地震の影響?関連づける根拠やデータはない【ファクトチェック】

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イワシが大量に海岸に漂着しているニュースとともに「地震の影響」といった言説が拡散していますが、根拠不明です。イワシやクジラ、イルカの海岸の漂着と地震を結びつけるデータはありません。 検証対象 北海道函館市の海岸に大量のイワシの群れが漂着した過去のニュース映像とともに「地震とかにお気をつけて下さい」「人工地震発生装置」「地震の前に打ち上げられる」などという投稿がXで拡散した(例1、例2、例3)。 検証過程 投稿に添付されていたのは、2023年12月7日に北海道函館市の海岸に大量のイワシの群れが漂着したことを伝えたANNニュースだ。 日本ファクトチェックセンター(JFC)は、大きな地震と魚やイルカ、クジラの海岸への漂着と関連性があるのかを調べた。 イワシの漂着と地震との関連 JFCは、この投稿にも使われている2023年12月のイワシ漂着に関して、福島第一原発事故の処理水放出を関連づけて拡散した言説を検証したことがある。 その際にJFCが取材した道立総合研究機構 函館水産試験場調査研究部の鈴木祐太郎主査はイワシが大量に漂着する事例は「北海道や青森県で

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トランプ前大統領「ハイチ移民がペットを食べている」? 当局の否定相次ぐ【ファクトチェック】

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2024年9月10日の米大統領選テレビ討論会で、共和党候補ドナルド・トランプ前大統領が「オハイオ州に流入してきた連中が(州内のスプリングフィールド市で)犬や猫などのペットを食べている」と発言しました。トランプ氏の発言は誤りです。市の担当者は「移民コミュニティがペットを傷つけた情報はない」と否定。市警も「ペットが盗まれたり食べられたりしたという報告はない」としています。 検証対象 2024年9月10日の大統領選テレビ討論会で、共和党候補のトランプ氏は次のように発言した(発言部分は動画1や動画2)。 「スプリングフィールドにやってくる連中(ハイチ系の移民)は犬や猫を食べている。そこに住む人たちのペットを食べている」 その情報を即座に否定した討論会の司会者に対し、「テレビに映った人々が『私の犬が盗まれて食料にされた』と話していた」とも発言した。 トランプ氏の発言は波紋を広げ、オハイオ州の市庁舎に爆破予告が届くという事態にまで発展した。日本ファクトチェックセンター(JFC)は、トランプ氏の発言を検証した。 この発言は米メディアを中心にABC、BBC、CNN、米

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小泉進次郎氏「年金受給は80歳から」? 開始年齢の選択肢を広げる発言【ファクトチェック】

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自民党総裁選に立候補している小泉進次郎氏が「年金受給年齢は80歳からでいい」と発言したかのような言説が拡散しましたが、不正確です。現在の制度では、原則65歳受給開始で、60歳から75歳までの繰り上げ・繰り下げが選択できますが、小泉氏の発言は80歳まで選択肢を増やすものです。 検証対象 2024年9月の自民党総裁選に合わせて小泉進次郎氏が「65歳以上は『高齢者』なんてナンセンス』」「年金の受給開始年齢は『80歳でもいいのでは』」などと発言したという言説が拡散した(例1、例2、例3)。多いものは800万超の閲覧がある。 「いいわけねーだろ 親父は73で死んだわ」「国民の半数は一生年金を払って1円も認められないまま死んでいくんですね」と言った批判も広がっており、その多くは小泉氏が年金受給開始年齢を80歳まで遅らせるような発言をしたと受け止めている。 一方で、「進次郎は『年金80歳から』なんて言っていない」「あくまで個人の選択肢を広げるかどうか、という提案」などと拡散した投稿を否定する投稿や引用リポストもある。 この言説をめぐっては、InFactが検証して「不正

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